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17 「どーせそんなこったろーとおもったよ!」

 見えてきたのは白い邸宅だった。

 いくつも並んだ窓を横目に停車する。

 門構えも立派だった。どっしりとした太い柱が両わきにそそり立ち、アーチをつくって芸術的にでむかえてくれる。ひろい庭園には見ばえする彫像が配置され、獅子をもした像からこぼれ落ちる滝が小さな湖にたまっての光を反射し、盛大にマイナスイオンを散布している。


 これが金持ちの家ってヤツか。

 緊張する日和。

 失礼のないようにカッターシャツを第一ボタンまでめると、息苦しくなって咳きこむ。


「大丈夫ですか?」

 心配してくれた香月に「ノープロブレム」と返事しつつ、第二ボタンまでで妥協する。

 まさかいきなりご両親への顔見せとは、大胆すぎるぜ香月ちゃん。オレにもこころの準備というものが。


 車から降り、さきに門をくぐる香月。つづいて日和も、両手両足を右と右、左と左で揃えてだしては、ギクシャクとぎこちなく進む。重厚な扉の前まで辿りつくと、これまたみごとな獅子の口にぶらさがる輪っかに手をかけ、コンコン、と来訪を告げた。

 しばらくあと、ガチャガチャと何度もカギがはずされる音がきこえ、重厚な扉は見かけよりずっと軽く内側から開かれた。


 そろりと首をだしたのは、香月とさほど変わらない年の少女だった。けれどその目のしたには黒くくすんだくまがあり、視線はおちつかなげに周囲をうかがっている。

 ……妹?


「――かぐや様!」


 少女の瞳が明るくかがやいた。

 香月はほほえむと、ポケットから一枚の封筒をとりだす。

「この依頼は、あなたで間違いないかしら?」

「はい! 真希マキにおねがいして、届けてって――本当にきていただけるなんて……!!」

 少女は感きわまったように両手をあわせ、声をふるわせた。


「あの~……」


 状況についていけず、日和が声をかけた。

 愛想わらいをうかべる日和を目にした少女は、「ひっ」と短く声をだし、扉をはなれた。


「だれか!! 110番!」


「落ちついて」

 香月は玄関扉をくぐると、恐慌状態におちいりかけた少女の肩を抱いた。

「このかたは、わたくしをお手伝いしてくださるの」

「お手伝い??」

 言われた日和はちんぷんかんぷんである。

「かぐや様の――手下なの?」

「そうよ」

「そうなの??」

 ショックをうける日和。

 許嫁いいなずけじゃなくて??


「ここって、香月さんのおウチじゃないの?」

「見ればおわかりでしょう?」

 見てもわからなかったから聞いたんですが。


「香月様、助けてください! 毎日毎日、おかしな事が起きて――わたし、もう耐えられない!!」


 しがみつき、人目もはばからず泣きはじめた少女をなだめる香月。

「安心なさい。この場に満ちる悪意はわたくしがはらいましょう」

「祓うって――」

 なんだろうこのデジャブ。

 祓うっていったらやっぱりアレなの?


「出てきなさい!」


 式符をかざし、香月は屋敷全体にとどくような声をあげた。


 物音ひとつしない。


 どんよりとしたいやな気配が建物中を覆っている。へばりついてくる濃密な悪意に息苦しくなる。

 こりゃいるな、と直感する。

 濃密な気配が次第に圧縮し、玄関先の自分たちの前に異変が生じた。

 気配は二重三重に濃くなり、黒いもやのようなものがあらわれたかと思うと、グニャグニャと絵の具を混ぜあわせたように色彩を変え、ひとつの形となって目の前にあらわれた。

 少女がひとしきり金切り声を上げ、くたりと香月の腕のなかで気を失った。

 日和も気を失いたかった。


 醜面。


 人を恐慌状態へとおとしいれるための表情。

 みにくくただれた皮膚。穴という穴からあふれだす虫とうじ。生きもののようにうねる髪のなかにはムカデやへびがまじって威嚇いかくしていた。したたり落ちた液体は、地におちてしゅうしゅうと鼻につく臭気を上げた。


 逃げだしたい気持ち十割増しだった。

 足がすくんで動けないのはご愛敬あいきょう


 素早く式符が投げつけられた。

 札が中央にはりつくと、化けものは身の毛もよだつ奇声をあげ、フッ、とかき消えた。

 はがれ落ちた札は役目を終え、蒼い炎をあげて消失する。


 日和はペタンと尻餅をついた。

 涙と鼻水で視界が染まる。

 聞いてないんですけど。


「まずは顔見せでしょう」

 香月は冷静に言うと、無様な顔の日和をみて告げた。

「彼女を運んでください。これからが本番ですから」

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