表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/77

9 はじめてのおつかい!

「本日はこれまで」


「有り難うございました!」


 修練の結びの言葉を口にした日和は、あれ? と首をかしげた。

 終わるのがはやい。

 いつもなら、しごかれて息も絶え絶えに帰路につくはずが、今日はめずらしく無難に歩けるだけの体力が残っている。


「春日君」

 と、あえかに呼び止められる。


「なんスカ?」

「このあと、予定はありますか?」

 師匠がオレに予定をたずねる。

 はやめに切り上げられた修練。

 つまりそういうことだ!

「デートですね! こころの準備はできてますとも! サァ、はやくこの腕のなかにマイハニーCome On(カマン)ッ!!」


「おつかいを頼まれてくれますか?」

 にこやかに無視し、道着姿のあえかは言葉をかさねた。


「……おつかい?」

 空っぽの手のひらをニギニギ。むなしく動かす。

「ええ。”一刻堂いっこくどう”から、ある品物を受けとってきてほしいのです。連絡はしておきますから」

「げっ。一人でですか!?」

 おおげさに身をひく日和。


「なにか?」

「あそこ、なんか出そうでこわいんスけど」

 ”一刻堂”は古美術店である。いかにもいわくありげに並んだ品の数々は、見かけどれもたんなる置物であるが、人一倍霊感のつよい日和にはそれ以上のなにかに見えてしまう。

「今日中に受けとって欲しいといわれているのですが、私もこのあと別の用事で出かけなければなりません」

「そっちについていきます!」

「それでは意味がないでしょう」

 あきれるあえか。


「そうだ。大沢木くん」

 といってあえかは、床に大の字になってノビている少年に声をかけた。


「くっそ、勝てねー」

 くやしそうにつぶやく。

「なんでもいうことを聞くと言ってましたね」

「……男に二言はねーよ」

 むくりと身を起こすと、道場のすみにほうり投げた学ランをとりにいく。


 あえかは容赦がなかった。道場へくるたび毎度のように組手を申しこむ大沢木を、ことごとくかえり討ちにしてしまう。

 勝てばなんでもいうことを聞く、という言葉は、もはや恒例の挑戦文句だ。

 今日もまた全敗記録更新である。


「そりゃ、いっちゃんがきてくれれば心強いけど」

 内心納得いかない日和。

「おれじゃ不満かよ」

 剣呑けんのんな様子の大沢木。何度負けてもくやしいことは変わらないらしい。

 やつあたりされそうだったので、あわててブルンブルンと首をふる。


「不満なわけねーじゃん!」

「なら決まりだろ」


 大沢木だって弱くはない。なぎなた相手に対等に立ち回るレベルだ。だが、ことあえか相手となると、てんでいいところはなかった。

 ヒラリヒラリと攻撃をかわされ、気づけば体は宙を舞っている。それからおきまりのように、どしーん! と派手な音が響く。

 さすがというべきか、受け身は完璧に決めるがそれでも何度も投げられると体力が続かない。ギブアップして倒れこむのがせきの山だった。


 なぜケンカ百般ともあろうものが、自分と同レベルなのか。

 息も乱れず美しい表情も崩さないあえかはやはりただものではない。


「場所は覚えていますか?」

 ぼーっとした顔に不安になるあえか。

「ふぇ?」

「一刻堂の場所です。何度か行ったでしょう」

「あー……バッチリッス! オレにまかせてください!」

「そうですか、それではお願いします」

 笑顔を向けられ、日和のやる気は百倍増した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ