第五十二話
俺の目の前にはどこかで見た記憶のある男が立っている。
纏っているオーラが聖なるもの……つまり天上の運命と同じであることから敵であることは明白だ。
だが……。
はて、彼はどこの誰だったろうか?
記憶を洗ってみるがてんで覚えがない。あまり興味が無いものに関してはわりと物忘れが激しいと自覚はしているが、彼の態度を見るに明らかに因縁がありそうな雰囲気だ。
もしかして、人違いだったりするんだろうか?
「俺は選ばれたんだ。神の勇者として……本堂カタリ、お前を倒すことにしよう」
男は虹色の剣をこちらに突きつけ、決闘を申し込むかのように高らかに宣言する。
その様はまるでお伽話に出てくる勇者の様だ。アホらしい。口上を並べ立てる暇があったら俺なら攻撃するぞ?
しかしだ。
彼はなんて綺麗な瞳をしてやがるんだ……。
キラキラと屈託のない瞳は正義感に溢れていて、力強い言葉は自分が間違っているなどとは一切思っていないだろうことが分かる。
多分宗教的な何かがキマっているのだろう。
信じるが故に盲目的になるやつは沢山いる。天上の運命にまんまと騙されてからに……。
「ところで、君は誰だっけ?」
「その程度の言葉でしか威勢を張ることが出来ないとは、滑稽だな。虚勢が透けて見えるな……」
よし話が通じないことがわかったぞ!
一縷の望みをかけた問いかけも無駄に終わった。やっぱり宗教って怖い。
だが、目の前の男が敵であるということは分かった。
ならばかける慈悲はどこにもない。
この様な状況下においてなお天の側へとつこうと言うのだ。
その代償は払ってもらおう。
もちろん、手心を加えるつもりなど欠片もない。
「誰か知らないけど、いろいろ力を手に入れて調子に乗ってるんだな。分かるよ。だからといって俺を倒すことは出来ないけど」
「俺は神より絶大なる力を得た……これでお前を倒すことができる」
「そうか、力か。凄いな、けどそれがどうしたって言うんだ?」
「こういうことだ……はぁっ!!」
瞬間、強烈な光が満ち、剣閃が飛ぶ。
一振りにてその数十七。
縦横無尽に駆け巡るそれを危なげなく交わし、弾き飛ばす。
どれもこれも脅威に値しない攻撃だ。
実に大したことがない。とは言え、慢心はしない。
予断なく向けている視線の先にはかかったとばかりに笑う男。
どうやら先程の攻撃は別の目的があるらしい。
「愚か者め、まさか自分が攻撃を受けたのだと思っているのではないだろうな?」
「……んー? ああ、そういうことね」
男の言い草が気になり、少し周りに気配をかけると俺が生み出してた武器や兵器がすべて粉砕されていた。
手に持つ長剣も鋭い太刀筋でヒビが入っている。
こりゃあ使い物にならないな。
もう用はないとばかりに、今まで使ってきた剣をぽいっと捨て去り、早速また別の武器を……今度はより強力な物を生み出そうとする。
だが俺の行動より一手早く不可思議な領域が俺たちを包み込んだ。
「…………これは?」
訝しむ俺に対して、男はあらんばかりの喜色を浮かべると盛大に笑い出す。
「ははは! 分かるか!? 俺が偉大なる神より賜った絶対の聖域だ。 この場所にいるかぎり、貴様の邪悪な能力は使えまい」
「なるほど、俺専用の特攻か……」
ぬるりと、不快感を齎す清浄なる空気がここら一帯を満たしている。
薄い絹のヴェールが流れるようにキラキラと光り輝くそれは、視認できるほどの魔力で満たされた一種の領域だ。
相手の言葉を聞く限りには俺に対する専門の封印結界。
その目的は俺の能力の封殺。
なるほど、確かに俺が今まで様々な敵を倒すことが出来たのもこの能力のおかげと言っても過言ではない。
ゆえに封じられてしまえば苦戦は必須なんだが……。
「貴様の力は封じた! これでお前は何もすることができない!」
ふむ。と顎に手をやり少し考えてみる。
どうにも違和感が拭えない。確かにこの場には俺に対する封印の結界が貼られている。
先程から刺すような圧力を感じていることから、その効果は間違いないだろう。
「貴様の力は知っているぞ! 魔力を元にあらゆるものを生み出すんだろう! ならば、その回路に強制的に干渉すれば、一切の創造は不可能だ!」
わざわざご丁寧に説明をしてくれる辺りがありがたい。
きっとこういう人たちは何らかの呪いがかかっているんだ。相手に特殊な攻撃をしたら逐一詳細に説明しないといけない呪いみたいなのが。
しかし、まぁ、なんというか……。
果たしてどのような心境なのだろうか? 狂ったように力を集め、その一撃にすべてを込めようとする男を静かに観察する。
同時に、少しばかり自らの状態を確認した。……そうか。
「この世界では、俺が生み出したこの結界の中では何も生み出すことはできない。お前は所詮相手の最も苦手とする物を作り出すことでしか敵を倒すことができない三流の存在だ!」
男が虹色の剣を掲げた。
空より白光が舞い降り、男に降り注ぐ。
「神よ、御覧ください! 貴方様の勇者が! 今ここに偉業を成し遂げます! 消え去れ悪逆! 消え去れ邪悪の根源! 喰らえ、これが……」
剣に宿る魔力が最大に達する。
目の前の男は引き絞った弓を放つかのように溜まった魔力を一気に放出しようとして……、
「…………え?」
無数の剣に突き刺された。
驚きに満ちた無様な声だけが戦場に虚しく響いている。
男に刺さる武器はもちろん、俺が呼び出したものだ。
どれもこれもがいつもお世話になっている俺のお気に入り武器。
それらが一斉に彼の身体を貫き、地面へと縫いつけている。
男は唖然とした表情を見せている。
恐らく自分の想像とは全く別の現象が起きたからだろう。
なんだか俺が悪いことをした気分になってくる。
「いや、俺も疑問なんだけど。なんかできたみたい」
「馬鹿な。そんな、嘘だ……」
男の声色が絶望に満ちる。
どこからともなく驚愕の気配が漂ってきた。
天上の運命め……案の定俺たちの戦いを見物していたんだな。
どうやらかの存在もこれで決着がつくと思っていたらしい。
いつの間にか辺りを包んでいた領域が消失している。
もはや意味を成さないそれをわずかでも維持しておく余裕はないという訳か……。
しかしなぜだ? 僅かな時間で分析できたが、彼の言うとおり間違いなく創造禁止と土属性禁止の結界が貼られていたはず。
俺の能力は土属性の物質創造だ。
奴もそういっていたし、俺もそうだと思っていた。
間違いなく手は封じられた。いくら強力な能力とは言えあの短時間で結界を突破するほどの力は秘められていないはず。
誰しもが予想だにしない事態の到来によって、戦場に奇妙な空白が生まれた。
この場にいるあらゆる存在が困惑しているのだ。
なぜ……と。
自らの考えが思い違いであったと認識したからだろうか?
不意に真実の片鱗が沸き上がってきた。
そう、違和感があったのだ。
何か心の中で、そうではないと本能が語りかけるような。
気のせいだと心の奥底にしまっていた感情。
自分の能力や相棒に対する根源的な疑問。
特別な対処を行わず、ぶっつけ本番の様な攻撃を行ったのもその為。
何故かそうではないと思えた。
何故か大丈夫だと信じることができた。
(この現象に関してはなにかカラクリがあるはず……)
単純な能力ではない何かが。
となると考えられるのは……。
「ふふふ、やっぱりみんな勘違いしているだね、カタリ!」
やはり彼女が黒幕だったようだ。
敵としての黒幕が天上の運命なら、さしずめ味方の黒幕は相棒だろう。
彼女はカラカラと透き通るような声音で、まるでイタズラが成功した児子の様に笑う。
「あ、相棒! 今までどこに行ってたんだよ!」
「ごめんね! ちょっと用事で!」
どこからとも無く相棒の声が流れてくる。
キョロキョロ見回すが、本人がどこにいるかは一切わからない。
それは上から聞こえるようにも、下から聞こえるようにも、また周囲のありとあらゆる場所から聞こえるようにも思えた。
だがその声色がハッキリとしており、今までの様に俺の心の中だけだったり何かを媒介していたりしないところをみると着実に力を蓄えてきているらしい。
「用事ねぇ……それで、どういうことなの? 俺もちょっと不思議なんだけど。俺の能力は何かを創りだすことなんじゃなかったっけ?」
「創りだすって……カタリはそもそも自分が創りだした武器やアイテムの全部を理解しているの?」
何を言ってるんだ? そんなもの分かっている訳ないじゃないか?
彼女の言葉に逆に馬鹿なという気持ちが沸き起こる。
武器やアイテムの詳細は細かなことを言えばきりがない。例えばナイフ一つにとっても含有する金属成分から誂えた装飾の文様まで理解しろなんて不可能だ。
てっきり、そこら辺は能力がうまい具合にやってくれていると思っていたのだが。
「じゃあ創造なんてできるわけないじゃん。創造ってのはね、細部すべてを把握して一切の疑問なく脳裏に描き出して初めてできることなんだよ?」
「じゃあなんなんだ? 流石にこの場でクイズはちょっとご勘弁願いたいから答えを教えてくれよ」
相棒は相変わらずケラケラと笑い転げている。
どうやら誰も答えにたどり着かないのが心底おかしかったらしい。やがてひとしきり笑い終わった彼女は、もったいぶるように「え~、どうしようかな~?」などと言い始める。
なるほど分かった。俺じゃないもう一人の観客をおちょくっているんだな。
――なぜだ! なぜ我が力が効かないのです!
――何をしたのです! 貴様は何者ですか! 邪妖よ! 我が威光の前に真実の姿を疾く現せ!
天上より別の声が聴こえてくる。
どうでもいいが二人とも姿を現わして欲しい。一人で喋っているみたいでむず痒い。
にしても、
「ああ、お前も気になるんだ」
「ふふふ。そろそろネタばらししてもいいかもね……」
困惑と怒りを孕んだ、言葉にならない声が空気を揺らした。
なんかもったいぶった言い回しをしているが、結局奴も相棒と俺の正体がわからない様子。
怒り狂っているが動揺が透けて見えた。
「カタリの能力は物質創造なんかじゃない。名を呼ぶのならば黄泉平坂とでも言おうかな」
静かに朗々と相棒が語る。
その言葉はストンと俺の心に入り込んだ。
ああ、なるほど。そういうことだったのか……
「能力は、現世と冥府をつなぐ死の道を敷くことだよ」
「つまり、俺が今まで作っていたと思ったのは……」
「そう、ぜーんぶあの世からパクってきたのだ!」
黄泉平坂は古事記において死者の国と現世の境界にあるとされる坂だ。
イザナギがイザナミを連れ戻しにこの地へと赴き、死者となったイザナミにおそれをなして逃げ帰る話はあまりにも有名なのだが……。
なるほど、武器も、道具も、ありとあらゆる存在も。
俺が創りだしていたと思っていたそれは、すでにどこからの誰かが使って、どこかで朽ち死した物だったのか。
なるほど、そうであればあれほど強力な武器の数々を生み出せた理由も分かる。
いわゆる召喚に属していたんだな、俺の能力は。
それよりも驚いたのは、唐突にもたらされたパクリ宣言の方だ。
著作権とかどうなっているんだろう、あと所有者の皆さんごめんなさい。
てっきり自分が創りだしたものだと思って好き勝手やっていました。
「パクリ……勝手にそんなことやって怒られないのかな?」
「怒られるわけないじゃない。だってさ……」
――なるほど……そういうことですか。どうりで永劫たる私の力が及ばぬと思っていたのです。
――まさかおぞましき地獄の力を借り受けていようとは、言葉を尽くしても言い表せぬ行いにいっそ感嘆すらしてしまいます。
相棒の言葉を遮って、天上の運命が俺たちの行いを断罪する。
ああ、いい具合にキレてるなぁ。
当初は強大すぎると思われた敵の親玉も、蓋を開けてみれば意外と小ささが見える。
いや、皆の奮戦があったからこそここまで持ってくることが出来たということか……。
空に舞う天使たちも動揺を隠せないでいる。
いくら天の門から天使が現れ続けるといえども、無限に存在するわけではない。
そもそも門を維持する天上の運命ですらギリギリなのだ。
俺を抑えていた結界をすぐさま解いたことからもそのことは容易に分かる。
後もう少し、もうひと押し何かがあればアイツを更に怒らせて何らかのミスを誘発することができるんだが……。
その様に考えていると、何やらうめき声が風に乗って流れてくる。
ああ忘れていた。彼がいるじゃないか。
「そういうことだったみたいだよ……なんとか君。君の神様は飛んだポカをやったんだ。ダサいよな」
「う、うう、嘘だ、こんな所で俺が……死ぬはずがない。俺は、選ばれたんだ」
「誰にだよ? 選ばれたからって死なないわけじゃないと思うんだけどなぁ。むしろ選ばれたからこそ、死ぬ運命に会ったんじゃないの? ほら英雄とかそういう所あるでしょ?」
英雄は悲劇に終わることが多いからな。
勇者になりたかった彼に相応しい最後じゃないか、どうかそのことを彼には理解して欲しい。
もちろん恨むなら自分の神を恨んで……だ。
「英雄が死ぬって、それを言うならカタリもいつか死んじゃうよ?」
「俺は一般人だから大丈夫。極普通の人生を送って天寿をまっとうするのさ」
「流石だね、カタリ!」
「ああ、嫌だ。俺は選ばれたんだ……。俺こそが、世界を救うんだ」
男に宿った命の灯火が今まさに消えようとしている。
彼の強靭な生命力の裏付けとなっていた天上の運命の加護も、だんだんとその光を失い色あせてくる。
うわ言の様に妄言を繰り返しているが、ぼたぼたと落ちる大量の血液によってすでに顔面は蒼白だ。
意識ももう消えかけているのだろう、やがて彼はもはや聞こえないほどに小さく何事かを呟いたかと思うと、そのまま大きく息を吐き、動かなくなった。
男の表情は……絶望に満ちていた。
「あっ、思い出した!」
「何を?」
彼の顔を見てようやく記憶の底にあるとある出来事と合致する。
あの時に両手両足をぶっ飛ばしてもう二度と会うことはないと思っていたからすっかり忘れていた。
「彼の名前、ギーク君だった。いやぁ、悪いことしたなぁ」
物言わぬ屍になったギーク君。
彼の亡骸に軽く謝罪し、さてとばかりに空を眺める。
天使の軍勢は、まるで信じられないものを見るかのようにこちらを見つめていた。
「所詮その程度の器だったってことだね。天上の運命の肝いりか何かしれないけど、大したこと無かったなぁ! 所詮この程度かぁ、自分を信じた者を騙すなんてとんだまがい物だ!」
ゾワリと空気が震えた。
怒気を孕んだ聖なる魔力が突風となって吹きすさぶ。
――此度の戦いにおいては貴方の勝ちとしましょう。
――ですが我が天使の軍勢は未だ精強。
――たかが一人の男を倒した所で、貴方がたに勝利はありません。
――今回も、生きとし生ける者すべてを消し去り、新たなる世界への糧としましょう。
もはや捨て台詞だ。
天使たちもどうして良いかオロオロと動揺を隠せないでいる。
だがそれでもなお一定の規律を保つと、戦列を組みこちらへと殺到してくる。
さて続きと行こうか。
地獄をひっくり返して武器を召喚してやろうとした矢先、相棒の声はやけに恐ろしく戦場を流れた。
「そうなんども上手く行くわけないでしょ?」
天上の運命の怒りを打ち消すかのように、突如世界が揺れた。
まるで巨大な地震が起きたかのように暴れ狂う地面
慌てて体勢を整えながら、いつ何が起こっても対処ができるように辺りに注意を向ける。
――な、なんだと!!
天上の運命が信じられないと言った様子で驚きの声を上げた。
同時に俺はその原因たる場所へと視線を向ける。
地震が起きているであろうその先。
やけに馴染み深い魔力が溢れでてビンビンとその存在感を主張している場所。
目を凝らした俺は、思わず驚きに目を見開いた。
恐らくバレスティアの王都エストリム。
その地に、突如別の門が出現した。
遠目に見えるそれは、明らかに悪意と絶望で存分に満ちており、天上の意志が率いる軍勢を純白と評するのならば、間違いなくそれは漆黒だ。
無言で遠く見えるその門を眺める。
現在いる場所は小高い丘になっているため、ある程度向こうの状況が把握できるが相当に楽しいことになっている。
門が開いた。
真っ黒な人型の何かが波の様に溢れ出してくる。
天使の軍勢が攻勢を仕掛ける。相手が反撃し魔法やら剣戟やらで途端に賑やかに輝き始める。
あれは、間違いない。
あれは地獄の亡者だ。
地獄から、死した者達が溢れだしたのだ。
俺の能力が地獄への道を開くものならば、相棒もまた地獄の存在。
彼女がどのようなカラクリを用いたのかは分からないが、何らかの方法で地獄の門を開いたんだ。
天上の運命に対向する為に。
そのために、ずっと俺の中に入り込み様々な暗躍をはたしていたのか。
得心いったとばかりに頷く。
これはもう、天国も地獄も大賑わいだ。
全員ひっくるめて盛大なパーティーが開始される。
だが、これで希望が見えた。
相棒から情報が流れてくる。
地獄の門から溢れでてくる奴らは何故か相当お冠だ。俺たちに喜んで協力してくれるらしい。
――なぜだ!? 地獄の門は閉じられているはず! かの地は無限の死地! 有象無象ではこのような行いが出来ようはずもない! 一体誰が門を呼び出したと言うのですか!
「馬鹿だなぁ! 恨み辛みがあれば誰だって有象無象ですら一つにまとまるよ! 聞こえるかい天上の運命? みーんな! お前に殺された人たちだ! お前が憎くて憎くて、地獄の底から蘇りましたとさ!!」
相棒が煽る煽る。
その言葉は喜悦に満ちており、まさにこの時を待っていましたと言わんばかりだ。
同時にあふれんばかりの憎しみに溢れている。
身を焦がす程の憎悪は、すべて天上の運命へと向けられていた。
――貴様! 何者だ!
「僕は地獄だよ。地獄そのものだ。何者でもあるし、何者でもない」
相棒は静かにそれだけを答えた。
先程とは打って変わって、そこには憎しみも何もなくただ事実のみを端的に告げた怒りを超えた冷酷さがあった。
――そうか、そういうことか。貴様は……!!
――否! 貴様らは!!
「死の国に時間の概念はない! 過去、今、未来、そしてあらゆる可能性の世界すべてがごちゃ混ぜになって内包されている!」
天上の運命が怒りに身を任せて憎しみの言葉を叫ぶ。
もはや当初のような取り繕った喋り方は剥がれ落ちている。
なんて人間臭い奴なんだ。超常の存在はようやくその本性を現わし無様で滑稽な様相を見せる。
「答え合わせだよ! 僕らはお前たちに殺された存在すべてだよ! 昨日死んだもの、今日死んだもの、明日死ぬもの、運命に抗いて死に、未来を夢見ては朽ちた慣れ果てだ!」
相棒が宣言する。
その言葉は幾重にも重なり、またありとあらゆる方向から響いてきた。
「積年の恨みを晴らそう天上の意志。
僕は、私は、我々は! すべてこの時の為に準備していた!
さぁ、幾万にも及ぶ死の代償をその身を持って払うがいいさ!
ボクらは死して尚、お前に屈しない!!」
――この、亡霊風情がぁぁぁ!!
めまぐるしく変わる戦況。
ああ、当然だろう。
天の門が開き世界に光が満ちたのだ、同時に地獄の蓋が開き闇が噴出しなければ辻褄が合わない。
天使たちが奏でる賛美歌と、地獄の亡者たちが唄う怨嗟の声が重なる。
ついにここに、両雄の戦力は拮抗した。




