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勇者ですがハーレムがアホの子ばかりで辛いです  作者: 鹿角フェフ
第四章

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78/90

閑話:『奈落迸沸』

 豪勢な調度品に彩られた一室。

 華やかさばかりが目立つその部屋で、ベッドの上で一人膝を抱えながら悲嘆にくれる少女が居た。


「もう嫌だよぅ……」


 止めどなく溢れる涙も拭おうとせずに、嗚咽混じりに泣き崩れるのは三月恭子と呼ばれるバレスティア黄金帝国の勇者だ。

 勇者カタリがかの国の控え室にて偶然出会った少女で、カタリ達の誘いを断った少女でもある。


「なんで私がこんな目に……」


 彼女の本心からの想いはつぶやきとなって漏れる。

 恭子は強い人間ではなかった。元の世界であってもどちらかと言えば敗者に属する人間だ。

 それは社会的な地位や容姿、頭脳や財力と言った意味ではなく。なにより心のあり方が弱かった。

 高校二年生になる彼女は学校でいじめを受ける立場にあり、かと言ってそれらに対向する勇気や行動力も無く陰鬱な毎日を過ごしていた。

 このままであればそう日が経たない内に新聞の一欄をその悲報によって埋めるであろう少女。

 だが、気がつけば見知らぬ場所で見知らぬ人々に囲まれていた。


「家に帰りたい」


 勇者として呼び出されたと知っても、彼女の本質は変わらなかった。

 良く言えば心優しい、悪く言えば気弱な彼女は、その使命をバレスティアより告げられた後もその役割に相応しい行動を取ることがなかった。

 結果として、他の勇者から馬鹿にされ、疎んじられ、強力な力を手に入れたにもかかわらず元の世界と変わらぬ状況に置かれている。


 結局、三月恭子と言う人間が変わるには、勇者としての力では足りなかったのだ。



 遠くで爆音が聴こえる中、その音すらも彼女に取っては興味をかきたてる物ではないのか、か細い声で泣き続ける恭子。

 何時もの様に自ら行動に移すこと無く、変化する状況に流されるままになるのであろうと思われたその時。


『ねぇ、ねぇ……キョウコ!』


 不思議な声は唐突に彼女に語りかけてきた。


『ねぇ! キョウコ!』

「えっ!? だ、だれ!?」


 一度目は勘違いかと判断した。だが二度となるとそれは幻聴や聞き間違いではなく現実に起こった物だ。

 恭子は慌てて伏せた顔を上げると、涙でグシャグシャになった顔で辺りを見回す。


『ここだよ、僕だよ! ここにいるんだよ!』


 声の元が分からずに怯えと驚きを隠すこと無く浮かべながら、オドオドと声が聞こえるであろう辺りを探し始めた恭子。

 やがてその声が出ている場所らしきものを特定した彼女は「あっ……」と小さく驚きの声を上げる。

 それは先程フローレシアの勇者達、その中の一人、愛らしい少女より譲り受けた物だった。


「えっ……これは。ペンダント」


 独特の装飾が施された、中心に何やら不思議な雰囲気を放つ黒色の石がはめ込まれたペンダント。

 自室に帰ってから放り投げるようにテーブルの上に置いたものだったが、先よりの声はまさしくそのペンダントから聞こえていた。


『そうだよ! はじめましてキョウコ。今日はね、君と友達になりに来たんだよ!』

「と、友達?」


 恭子は思わず聞き返す。声音は幼く、無邪気さが溢れでている。

 まるで童子を思わせるその天真爛漫な言葉は、彼女を酷く困惑させた。


『そうだよ、友達! 友達になろうよキョウコ!』


 先程から聞こえていた爆音は更にその頻度を増している。

 恐らく何か良からぬ事が起きているのは確実だ。

 その様な状況下にあって、まるで平和な休日の一コマの様なセリフを発するそのペンダントの声に恭子は途端に不信感を覚える。


『……どうして? あの人達に言われたから?』


 ペンダントを眺めながら、どこか突き放す様な意志を感じさせる言葉で尋ねる恭子。

 彼女は今まで多くの裏切りを受けてきた。

 あれほど仲の良かった友人がいつの間にか自分を陰で笑う側に回っていた事や、そもそも自分を陥れる為に近づいてきた経験など数多くしている。

 その記憶が、声の誘いに酷い嫌悪を感じさせたのだ。


『うーん。それは否定しないよキョウコ。けど僕はね、どうしても君の助けになりたかったんだ!』


「助けはいらないよ……」


 そう、助けはいらない。

 否――恭子を助けてくれる人間などこの世には存在しないのだ。

 彼女は今まで何人かの人に対して助けを求めている。だが教師や知人はおろか、家族ですら彼女の訴えを勘違い・悪ふざけしているだけと一方的に切り捨てた。

 教師や知人は面倒事を避けるが故の、家族はまさか自分の娘がと言う根拠の無い楽観視が故の、悲劇だった。

 結局、彼女の心を真に理解しているのは彼女だけであり、だからこそ彼女は無にも等しい孤独の中で絶望から逃げ続けなければいけなかった。


『どうして? 助けが欲しいんでしょ? 助けてあげるよ!』

「同情で私に声をかけたのなら放っておいて、私はもう、嫌なの……」

『そんな事言わずにさ~!』


 相変わらずしつこく言い寄って来るその声に彼女は苛立ちを募らせる。

 もう完全にその声と会話する気がなくなった恭子は、興味がなくなったとばかりに踵を返すとまた同じようにベッドの上で膝を抱え込んでしまう。


『ねぇ、ねぇ、ちょっとだけだからさ。友達になろうよ! お友達料も取らないよ!』

「――ッ!」

『ねぇ、ねぇー』

「黙ってて! いらないって言ってるでしょ!」


 無邪気な声は辛辣だった。

 それは知って言われたのか、それとも気が付かずに言われたものか。

 ともかく、過去を思い出させてしまう言葉は圧倒的なストレス下に置かれた恭子を瞬間的に爆発させるには十分たる物だった。


『…………』

「ご、ごめんなさい! で、でも本当に友達とか、そういうのいいから……」


 だが、幾ら激昂したところで恭子の性格がそう変わるわけではない。

 相手が年端もいかぬ幼児の様な声色だった事もあったのだろう。

 慌てたように謝罪の言葉を述べると、つらつらと聞かれていもいないのに言い訳の言葉を並べ始める。


『――お家に帰りたいんでしょ? 家族が待つ、あの場所へ』

「えっ!?」


 だが、声の主はそれすらも気にしていないと言った様子で彼女の心に深く入り込んでくる。


『ずっとずっと思っていたんだよね。お家に帰りたいって。辛いけど、けど優しい家族が居たあの世界に帰りたいって……』

「貴方は何者なの? えっと、ペンダントの精霊か何かなの?」


 彼女の願いを代弁するかの様な物言いに、恭子も怯えを見せ始める。

 異世界にて不思議な経験は数多くした。

 その為ペンダントも何らかの精霊か妖精でも宿っているものだろうと判断していたのだが……。

 その存在――ペンダントの声の主は奇妙な点が多すぎた。


『僕は僕だよ! ペンダントに住んでいるのはちょっと違うかな? これはあくまで媒介で、僕は別の所にいるんだよ。でもなんでも知ってるよ!』

「そう、なんでもね……」

『日本の事も知ってるよ! ふじやーま! てんぷーら! げいーしゃ!』

「詳しいのね」

『えへへへー!』


 不可思議な存在に怯えを見せていた恭子だったが、久方ぶりに日本の言葉を聞くと不意に暖かい物が流れてきたかのように安堵を覚えてしまう。

 同時に酷い望郷の念に駆られる。

 自分ははたして元の世界に帰られるのだろうか、帰ったとしても何があるのだろうか?

 様々な思いが彼女の心をグルグルと支配する中、恭子はなんでもいいから日本の事を話題にしたくなる。


「日本の事は誰かに聞いたの?」

『うーん? それはちょっと違うよキョウコ。でも、そんなことはなんだっていいじゃないか! 大切なのは僕はキョウコと友達になりたいって事なんだよ!』

「ごめんね、やっぱり信じられないよ……。私はもう誰かを信じて裏切られるのは嫌なの、もう、そっとしておいて欲しいの……」


 最後の言葉だった。

 恭子はそれで終わりにしようと思っていた。

 彼女はもう何もかもが嫌で、何もかもが信じられなかった。

 このまま誰にも知られずに、朽ちてゆこうと、そう決意した。

 ……はずだった。


『裏切られる事に怯えてたら、未来のダチが逃げてっちまうぜ!! だよ!』

「…………」


 驚きのあまり、声にもならない。

 男性の声色を真似るかのようにわざとらしい低音で語られた言葉は、恭子が好きなフレーズだった。

 だが、その言葉をペンダントの主が知っているのはおかしすぎる。

 何故なら、その言葉は恭子位しか知っていないようなマイナーな漫画の、取るに足らないシーンの一コマに小さく記された物だったからだ……。


「……誰かから聞いたの? その人も日本から来たの? さっきのあの人達、本堂君……だっけ? 彼にそう伝えろって言われたの?」

『これってトゥルーフレンズの二巻でルーニーが主人公のジェシーに向かって呟いた言葉だよね。小さいコマだから読みづらいんだあれ!』


 疑念は不安となって恭子を苛む。

 何故、と疑問に思うよりも不気味さと恐怖があった。

 それはまるで自分の事を全て見透かされている様な、ヘドロの様に絡みつく恐怖だった。


『ねぇ、キョウコ。君は東京の出身だよね? 平日は学校で真面目に勉強し、休日ともなれば街に出て書店めぐり。最近のマイブームは食べ歩き! 好みは吉田屋のフルーツクレープ! 好きな作家は吉岡亮先生!』


「な、なんで……?」


 鼓動が早くなり、嫌な汗が全身からにじみ出てくる。

 誰も知らないはずだ、誰にも言っていないはずだ。

 恭子が自らの記憶を漁るまでもなく、その事実は確定している。

 彼女には友人と呼ばれる者は一人もいなかったから、今まで自分の話をする事など無かったから……。


『大丈夫。僕はなんでも知ってるよ。君の苦しみも、君の悲しみも、君の絶望も全部全部僕のものだ』

「う、うそ……誰かから聞いたんだ」

『夢は"友達と一緒に書店めぐりをする事"……もかな?』

「どうして、誰にも、誰にも言ってないのに……」


 恐怖に染まった瞳でペンダントを眺める恭子。

 もはやそこには先程の激昂は無く、ただただ自分の心を見透かされた怯えだけがある。

 ガタガタと震える彼女をペンダントの主はどの様に感じ取っているのだろうか?

 ただ、その声音は依然として小さな幼児のものであり、故にその無邪気さが致命的なものを感じさせた。


『安心してキョウコ。僕が、僕達が君を導こう。君が望む全てを与えよう。友達が欲しかったんだよね?』


 まるで謳うように紡がれるその言葉。

 瞬間、恭子は闇に包まれる。

 自室にいたはずのそこは、見渡すかぎりの黒で、どこまで行っても何もない。

 だが、目の前のペンダント、その声だけが暖かな光を発していた。


『大丈夫、友達なら出来るよ。まず僕が君の友だちになろう! もちろん、君が高校で受けたような仕打ちはどこにもない。僕はちゃんと友達で、ちゃんと君の事を想っている!』

「わ、わたしは……」


 恭子は、この場所が自分の心の内を表したものだと判断した。

 一寸先も分からぬ闇。

 自らが抱える不安と、置かれた状況がこの闇を生み出しているのだと判断してしまった。

 だからこそ彼女は救いを求める。

 この闇が永遠に続くなど、到底彼女には耐えられなかったから……。


『本当はカタリ達が差し伸べた手を取りたかったんだろう? あの時助けてと叫びたかったんだろう? 大丈夫、まだ間に合うよ。まだまだ君はやり直せる』


 あの日取れなかった手を取ろうと、もう決して間違わないように、最後にもう一度だけ信じてみようと。

 ソレが致命的な間違いであると理解していても、もう一人ぼっちは嫌だった。


『だからさ、友達になろうキョウコ。僕と君は、マブダチだ!!』


 ……気がつけば、恭子の意識は見慣れた自室に戻っていた。

 手にはペンダント。彼女の大切な友達だ。

 まるで愛おしいものを愛でるように、柔らかな微笑みを浮かべた彼女はそっと静かにペンダントを首にかける。

 バレスティアの勇者達に殴られたはずの傷も、彼女の涙も、不思議な事にその儚げな顔からは全て消え去っていた。


『本屋に行こう! 僕は何でも読むよ! ミステリーも好きだけど、最近は歴史物にはまってるんだ! クレープはチョコバナナが鉄板かな! 友達も沢山造るんだ! なぁに、僕とキョウコが力を合わせれば出来ない事なんてなんにもないよ!』

「ありがとう。けど、マブダチはちょっと古いかな?」

『あれ~? そうだっけ!』


 カラカラと楽しそうに語るペンダント。

 つられて笑ってしまった恭子だったが、ふと自分がまだ大切な友人の名を聞いていない事に思い当たる。


「えっと、貴方の名前を教えてくれるかな? 友達なんだよね?」

『もちろんだよ! けど僕の名前か……』

「どうかしたの?」


 初めての友達はどの様な名前なのだろうか?

 まるで楽しみにしていたプレゼントを開ける子供のような心境で、彼女は内心の期待を隠しながら問う。

 だが、件の主から返される言葉はやや戸惑いを含めた物だった。

 何かあるのだろうか? 恭子もキョトンとしながら首を傾げる。


『実はね、僕には名前がないんだ! だからなんて言おうかちょっと迷っていてね!』

「名前がないの? じゃあ他の人は貴方の事をなんて呼んでいたのかしら?」

『カタリは僕の事を"相棒"と呼んでいたけど、これからはそうもいかないだろうしね。うーん、そうだねー』

「えっと、どういうのがいいのかしら? 苗字とかもも無いの?」


 気心の知れた間柄の様に語り合う恭子とペンダント。

 端から見ればまるで一人表情を変える不審人物であるが、そこには明確な友情があった。


『苗字もないね。そこは……カタリの物を名乗ろうかな? まぁ間違ってはいないしね!』

「……そうなの?」

『うん、そうだよー! けど名前かー』


 ウンウンと可愛らしく悩むペンダント、恭子も一緒になってウンウンと悩んでいたが、友人の名前を決めるなどと言った経験は今までした事は愚か考えたことも無かったので良い案が一つも出てこない。


『よし、決まった僕の名前は――』


 やがて何かを思いついたかの様にペンダントの主が声を上げる。

 知恵熱が出そうな程考え込んでいた恭子は意識を切り替え、早速自らの友人の名前に期待感を寄せる。

 やがて、この世界では誰も知らなかったであろう、本堂カタリに住み着いたその存在は自らの名を宣言する。



本堂(ほんどう)地獄(じごく)……、これからはそう呼んで欲しいな!』



 自らを地獄と名乗る存在。

 恭子はその言葉を聞いた瞬間、少しだけギョッとする。

 だがしかし、今の彼女にとって不吉な名前などもはや関係なく、だた自分にとって大切な誰かが存在している事の方が重要だった。


 友情とは最も大切にすべき尊いものである。

 自らにとって真に友人と呼ぶべき者が存在するのであれば、それは決して失ってはいけない至高の宝物であり、同時に絶対的に正しいものだ。

 であればこそ、自分と友人が間違っているはずは無く。

 間違っているとすれば、それは彼女を蔑み、蔑ろにしてきた世界そのものである。

 ――三月恭子と言う人間は、誰にも知られず、既に壊れていた。


「素敵な名前だと思うわ。これから宜しくね」

『ありがとうキョウコ! 宜しく!』

「どういたしまして」


 恭子は本堂地獄と名乗ったその存在の全てを肯定する。

 自然と力が溢れてくるようで、今まであれほど不安に思っていた自らの境遇やあれほど恐怖に思っていたバレスティアの全てが路傍の石程度の存在に思えた。

 体中に気が漲り、強い魔力が身を包む。

 彼女はまるで自分が生まれ変わったかのような高揚した気分になり、事実彼女は知らないが全く別物へと生まれ変わっていた。

 恐らく、もう二度と体を休める事はないであろうベッドから身を起こす。

 しっかりと床を踏みしめ立ち上がる。

 弱くみすぼらしい少女は死に、代わりに一人の反勇者が生まれる。


 祝福するかの様にまとわり付く魔力は、地獄にも似た色をたたえている。

 彼女が感じる幸福と共にその勢いは増し、やがて暴風の如き荒々しさを持って部屋中を駆けずり回る。


「さぁ、キョウコ! 友達を造ろう! 君をいじめなくて、君を守ってくれて、君だけを見てくれて、君の為だけに存在する友達を! 大丈夫、ボクに任せて! やり方はいくらでも、そしてお友達候補は沢山だ! 笑ってキョウコ! 君には笑顔がとっても似合うよ!!」


 静かに部屋のテラスへと出る恭子。

 彼女はペンダントをきゅっと握り、恍惚と狂気を孕んだ瞳で眼下に広がるバレスティアの国を見下ろした。

 この日から、バレスティア黄金帝国はまさしく地獄の日々を送る事となる……。

 肥え太った黄金の帝国は、自らの懐で正真正銘の化け物が生まれてしまった事を知ることなく、ゆっくりと破滅の道を突き進んでいた。

ここまでお読み頂きありがとうございました。

並びに更新が遅れに遅れて申し訳ございません。

コレにて四章は終わりです。続きまして5章に入ります。

一応予定では6章辺りで完結する予定です。場合によっては5章になるかも?

いろいろと有言実行できていない身分なので更新の確約は出来ませんが、これからも頑張りますのでどうぞ宜しくお願い致します!!

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