閑話:「突戦法」
暗闇の中、天井より吊り下がる巨大な電子ディスプレイの光が室内を薄暗く照らす。
薄暗がりの中確認できるのは畳敷きの床、滝を登る龍が描かれた掛け軸、美しい花を咲かせる活け花。
そして部屋の中央で姿勢美しく正座でディスプレイが映し出すニュースを眺める一人の少女だった。
少女は短く切りそろえた黒髪にクリクリとした愛らしい瞳が特徴だ。
桜の図柄を誂えた愛らしさを感じるピンクの和服に身を包んでおり、美しいというよりはまだまだ可愛らしいと表現する方が適切な風貌であった。
彼女は小さな口を難しげに結びじぃっとディスプレイより流れるニュースを眺めている。
その表情は異世界でフローレシア王国に召喚された勇者カタリが時折見せるそれに何処か似通った物がある。
そう、彼女こそ本堂カタリの妹。
その名を――本堂 叶といった。
およそ古風な和室には似合わぬ巨大ディスプレイでは現在行われている国会の様子が生中継されており、内閣総理大臣である祠堂龍三郎が何やら熱弁を振るっている。
画面の端に映るニューステロップには「突戦法強行採択! 国民の意志を無視した暴挙に国会騒然!?」等と視聴者の興味を掻き立てる文言がこれでもかと散りばめられている。
『国民の皆様は困惑されるでしょうが、現在我が国日本を取り巻く状況は日に日に悪化の一途を辿っており、離島防衛問題やPKO維持活動における自衛隊の活動はもはや既存の法案では対処できなく――』
総理大臣である龍三郎の熱弁により国会内は静まり返っている。
いつもならば野党のみならず与党までもが野次を飛ばす事すらある国会であったが、この日だけは皆が言葉を発する事なくただ龍三郎の言葉に耳を傾けている。
中継の内容にも飽きたのだろうか、叶が手元のリモコンをその小さな手で操作すると今度は別のニュース番組に切り替わる。
そこではコメンテーターが必死に今回の法案成立に関する問題点を図説を用いて説明しており様々な識者――と言ってもどれも怪しげな肩書の者達だが、彼らに意見を求めている。
もちろん彼らと番組の主張は一貫している。
それは「この法案は悪である」と言う一点のみで他の番組でもその内容はおおよそ変わらない。
「うむむむむ! これはいよいよあれだよ! 地球がマッハでやばいよ!」
底抜けに明るい声色で独り言を呟きながら叶は先ほど同じく何度か番組を切り替える。
やがて国会中継も終わり、コメンテーターはおろか政治にさほど興味はないであろう芸能人までもが白痴の様に同じ主張を繰り返す中、叶は静かにリモコンの電源ボタンを押してディスプレイのスイッチを切った。
瞬間、闇の中に光が灯り室内に明かりが戻る。
どの様な仕組みになっているか分からないが、吊り下げられた巨大ディスプレイが天井へと収納されていく。
その様子を一瞥もせずになにやら頷きながら「うーん」だの「ふむー」等と可愛らしく悩んでいた叶であったが、突然何かを閃いたのかバッと顔を上げ自らの右手の薬指に付けた指輪に触れる。
次の瞬間、小さな電子音と共に青みがかった立体映像が目の前に現れる。
現代日本の科学技術は既に古典SFの世界と遜色が無いほどに卓越している。
VRMMOを始めとして様々な技術が官民両方で利用され人々の生活とは切っては切れない物となっているのだ。
叶の目の前に映しだされた立体映像もその一つ。
かつて日本において人々が一人一台は持っている程普及していると言われた携帯電話。その進化系スマートフォン。そしてその次の段階となるリングステーション。
指輪型の端末にスマートフォン数十台分の処理能力を持ったコンピューターを内蔵し、電話から買い物、健康診断や、各種手続きまで人々の生活に深く係るそれこそ科学技術の繁栄と進化を体現したかの様な代物であった。
リングステーションより映しだされた立体映像。
卓越した科学技術にあってもやはり年頃の少女と言った所であろうか?
可愛らしいクマや兎でデフォルメされた複雑な機能表示をまるで指揮者がオーケストラを奏でる様に指を動かし軽快に操作した叶はとある電話番号を選択し通話を開始する。
―――電話発信中―――
相手:A343453
回線:重秘匿回線
―――――――――――
いくら科学技術が進化した所で基本的な所は変わる事はないのだろうか?
昔ながらの電子音がプルルルルと相手へ通話を発信する音がなり、しばらくしてピッという短めの電子音と共に立体ディスプレイに一人の男性が映し出される。
表示されたのは老齢の厳しい顔をした一人の男であった。
彼は映像の向こうで何やら周りを気にする仕草を見せたかと思うと、ふぅ……と小さなため息を尽き叶をじぃっと見つめる。
「こんにちわ! 篠嵜先生! おかげ様で突戦法が無事通過したみたいだねー!」
「……そうじゃな叶殿。お主の言った通りにしておいたぞ。国会中継は見たかな? いくらワシが野党を抑えたとは言え、あの有り様は薄ら寒いものを感じたわ」
その厳しい顔に不機嫌をありありと見せながら篠嵜は現在進行形で国会にて行われている総理大臣の演説について切り出す。
彼こそが篠嵜剛三。現在の日本における野党第一党である"民栄党"の重鎮であり影で政界を支配する老獪なる権力者の一人だ。
政界における西の雄が祠堂龍三郎であるなら東のそれはこの篠嵜剛三である。
その男、政界の最重要人物とさえ言える剛三に対して叶はごくごく自然に、まるで古くから知った友人に語るかのように応える。
「ちょーじょー! ちょーじょー! あれで良いんだよ! 下手にヤブをつついて蟒蛇を出しちゃダメだからね! この件は基本的にあの人達に任せて置いていいんだよ!」
「ふむぅ。奴らも焦っておるのか? 最近は秘密裏に消される者も多い。もっとも、近隣諸国と仲良しこよしの売国奴ばかりだから痛くも痒くもないがの」
「それだけ時期が迫っていると言うことなんだよねー篠嵜先生! きっと今頃"護国院"はてんやわんやだと思うよ! さてさて、何が起こるのかな? 楽しみだなー!」
篠嵜剛三は齢十四になろうかと言う程度の少女に馴れ馴れしく話しかけられる様な男ではない。
今でこそ一線を引いているが現役の時はその政治手腕と政敵に対する過激なまでの妨害活動によって多くの政治家に恐れられた男だ。
だが、この場に置いては彼らの会話は何故か対等の物を感じさせる。
いや、むしろ叶の方が優位に立っている素振りすらあった。
「そう言えば……叶殿のお兄さんの事はわかったのか?」
その言葉に叶は一瞬眉を顰める。それは剛三の言葉に不快感を感じたと言うよりも、自らの兄に会えない寂しさを思い出したといった兄離れが出来ない少女特有の感情による物だ。
「相変わらず……お母様は何が起こっているのか一切を教えてくれないんだよねー。これでも一応本堂家の時期巫女なんだけど……うー、お兄ちゃんに会いたいー!!」
「叶殿の力を持ってしても難しいのか? ワシもいろいろと調べておるが流石に"護国院"を敵にまわす事は出来んからな……」
「無理をしちゃダメだよ篠嵜先生! 私も全力でハッキングしたんだけど"護国院"のコンピューターはスタンドアローン――つまり外部との接触を一切閉じた環境で構築されているらしくてねー。情報が抜き出せなかったんだよ!」
「……相変わらず無理をする子だ」
「お兄ちゃんの為ならなんのその! だよ!」
本堂カタリが行方不明になってから多くの月日が経っている。
その間、叶はありとあらゆる手をつくしてカタリの行方を探したがついに見つける事が出来なかった。
ただ一つだけ。
カタリが消息不明となった日、消息不明となった場所。それに関する監視カメラやリングステーションのサーバー記録等ありとあらゆる痕跡が削除されている事だけが判明した。
故に叶は推測する。
何か巨大な陰謀が自分の知らない所で蠢いている……と。
只の行方不明事件では無いということを。
最近母が忙しなく様々な政界人と会談を行っている事が気になった。
"護国院"と呼ばれる形骸化したはずの天皇直属祭事機関が活発化しているのも気になった。
自衛隊が不思議な程戦闘訓練を行っている事も気になる。
そして国中の蔵書が掘り返され古文書が一箇所に集められている。
それは彼女の兄が行方不明になってから特に顕著となっている。
自らの兄、本堂一族の次期党首である本堂カタリがそれらに強く関係している事は明らかであった。
彼女はそれを座して見ている気はさらさらない。
故に行動に移した。
彼女はその才覚を持って、古くから受け継がれた本堂家の人間としての性質を存分に発揮するかの様に暗躍を開始したのだ。
「とりあえずは突戦法が可決された事で良しするよー!」
「突戦法か……しかし何故今頃こんな法律を無理やり通す必要性があったのだろうか?」
嬉しそうに両手をパタパタと上げ下げする叶とは裏腹に剛三は納得がいかない様子であった。
『国交を有しない非友好的国家による突発的戦闘発生に関する法案』略して突戦法。
建前としては近年緊迫化する周辺国家との戦闘行動を踏まえて自衛隊の活動範囲を広げる為の物であったが、そんな事を信じている者など政治家の中には一人とていない。
そもそも現状の法案でも十分に対処は可能であるし、近隣諸国との戦闘において自衛隊の力を存分に発揮したいのであればこの様に迂遠な法案を通す必要性もない。
何より、内閣総理大臣である祠堂龍三郎が異常な執着をこの法案に見せている事だ。
そして裏で動く存在。
"護国院"はこの国の真たる支配者だ。
今まではたとえ過去の大震災の時でさえ我関せずと動かなかったこの国の秘奥中の秘奥が積極的に活動を開始している。
その様な存在に逆らう等考える事すら恐ろしい。
天に弓引く行為がどの様な結果を齎すか、知らぬのは野心と熱意に溢れる新米議員位であろう。
法や憲法等関係ない。この国はいまだに神の子孫が治める国なのだ。
そう自分達が疑念を向ける組織の巨大さに薄ら寒いものを感じながら、剛三が今後の方針を思案していると、叶がまるでとびっきりの秘密をこっそりと教えてくれる幼子の様に無邪気に隠された事実を語る。
「この法案は近隣の無法国家による侵略なんかを対象にしたものじゃないよ! "護国院"は既に敵を見据えているんだね! だからこそ有事の際に円滑な軍事活動が可能なこの法案を通した! 叶ちゃんEYEはそれを見逃さないのだ!」
「待て。お主何を言っておる?」
叶より齎された突然の言葉に剛三は驚愕に目を開く。
本堂叶は無能ではない。この才覚あふれた少女は本堂一族の一人である事を証明するかの様に頭の回転が早く、様々な知識を有し、神がかっているとさえ言える勘を持ち、そして何より罪悪感というものが致命的に欠如していた。
「篠嵜先生……。お孫さんの経過はどうかな?」
叶は打って変わって静かに尋ねる。
剛三に緊張が走った。
立体ディスプレイ越しに伝わる視線は背筋に冷水を浴びたかの様にゾクゾクとした物を感じさせ、まるでこちらの考えを全て見通すかの様に不気味に絡みついてくる。
だがその様な視線を受けても剛三は平然と叶に返事をする事ができた。
「ん? ん……そうだな。お陰様で快方に向かっておる。叶殿には礼を言っても言い尽くせないわ」
「それは重畳。大切な大切なお孫さんだからね! 元気が一番ー!」
「安心せい。この篠嵜剛三、老いて権力に囚われた身とは言え最後の一線を越えるような事はないわ」
「その言葉を聞いて安心したよー! 私もこんな所で篠嵜先生と喧嘩したくないからね!」
カラカラと嬉しそうに嗤う叶。
先ほどと同じようにニコニコと屈託の無い笑顔を見せるとまたパタパタと両手を上下させている。
剛三が叶の視線に動じなかったのは偏に彼女に対する恩義がある為だ。
篠嵜剛三には生まれ持っての不治の病を患った孫がいる……いや、居たと言った方がいいだろう。
何故ならそれは叶の尽力によって既に治療されているからだ。
彼女はある日剛三の元にやって来ると病に侵される彼の孫の治療法をあっという間に発見したのだ。
アフリカ奥地に外界との交流を断ったとある部族に伝統的に言い伝えられる症状と治療法からヒントを得た――とは彼女の言であるが、剛三にはどの様にしてこの少女がその情報を手に入れたのかはおおよそ理解が出来なかった。
ただ、余命1年と言われた孫が今も元気に家の邸宅を走り回っている事実が彼を本堂叶の協力者とさせている。
最も、それ以外にも理由はあった。
篠嵜剛三は本堂叶を裏切る事が出来ない。
"護国院"にも逆らってはいけないが、潜在的な恐ろしさでは目の前の立体ディスプレイの中で嬉しそうに踊る本堂一族――つまり本堂叶もそうだからだ。
むしろその残忍さと冷酷さで歴史の表舞台に度々現れる事もある本堂一族の方が数倍も恐ろしい。
彼は本堂の人間に助けられ、そして返し尽くせぬ恩義を受けた。
ならば本堂を裏切る事は死すら生ぬるい地獄に突き落とされる事を意味する。
裏切り等と言う愚かな言葉が浮かぶはずも無かった。
「それで、お主は何を掴んでおるのだ? はよぅ説明せい」
剛三は恐ろしい想像を振り払うかのように苛立ち混じりで叶を急かす。
その言葉に叶は年頃の少女らしくプクーっとむくれながらも応える。
「篠嵜先生はせっかちだね! んー、実はねー。"護国院"……いや、違うかな? 日本はね。何かと戦おうとしている」
「戦争か? 馬鹿な。 国民が許すはずはないし何より我が国にメリットがないだろう」
「別にメリットが無くたって戦争が起こることは篠嵜先生だって知ってると思う!」
「向こうが仕掛けるのか? ……安保理がある。アメリカが黙っていないぞ」
「それは絶対なの? それを覆す状況が起こると予測できないかなー?」
「どうやってその推測に至った?」
剛三の質問に叶は嬉しそうに語った。
よくよく調べるといろいろな所でそれを匂わせる動きがあると。
彼女はその卓越した技術力を用いて日本中――否、世界中より公開非公開を問わず情報を収集。その結果を分析する事によって一つの事実を導き出したのだ。
国立図書館での古文書貸出記録。神社仏閣の要人、その移動記録。軍事関係企業の電子公告。自治体の防災計画の見直し。諸外国からの資源輸入量の増加。
そして巧妙に隠された自衛隊各方面の動き。
それらを統合する事は叶にとってさほど難しい事では無かった。
電子の数学の申し子とも言える叶はその才能を存分に発揮して世界各地に様々な企業を秘密裏に有している。そこから吸い上げられる資金はもはや小さな国の国家予算すら凌駕する程だ。
彼女の母親、本堂楔すら知らぬ叶の裏の顔。
才能、金、権力。その全てを用いた叶に分からぬ事など無かった。
合法非合法を巧みに使いこなす彼女の前に真実が暴けだされるのは当然であった。
「何時だ?」
鼓動が早くなる音を自らの内に聞きながら、努めて冷静を装い剛三は尋ねた。
剛三は叶の言葉を疑ってはいない。
彼女程の人物が断言するのであればそれは事実なのだろう。
戦争が起こる。第二次大戦以降、また日本が戦火に巻き込まれる。
その現実が重くのしかかってくる。
彼とて日本の国民だ。日本を愛してやまない。
むしろ腐敗した国を変えようと政治家を志した時よりその思い人一倍強い事は理解している。
だからこそ、日本に待ち受ける困難に目の前が真っ暗になる思いであった。
ここ最近で一番の険しい表情を作りながら、剛三は叶の言葉をまつ。
「戦争が起こる日にち? そう近くない内にかな? きっとお兄ちゃんも関係している! だからお母様は私に何も教えてくれないんだね…………」
「……む?」
「――腹が立つ事に」
ギリッ……と歯ぎしりをする音がやけに煩く鳴る。
その音を聞いた瞬間、剛三は慌てて話題を変えようとする。
相手はまだ年端もいかぬ少女とは言え本堂一族だ。機嫌を損ねた彼女に余計な事を言い出されてはたまったものではない。
最もそれは明かされた未来に神経質になった剛三の杞憂に過ぎなかったらしく叶はすぐにその表情を明るく愛らしい物に帰ると剛三に今後の政界での方針について相談を始める。
時間にして十数分、密度にして数時間。
長い会談は終わりを迎える。
終盤は特に取り留めもない話となり、幾らか日常の下らないあれこれを話し合いやがて通話は終わる。
叶との通話が終了し、回線が切断され相手を映さぬ立体映像を見つめながら……剛三は大きくため息をついて精魂尽き果てたかの様に自らが座るソファーにもたれかかるのだった。
同時に、回線が切れた向こう側。本堂叶まるでイタズラに成功した子供の様にクスクスと嗤う。
剛三は気づかなかった。
彼はどこか別の国の侵略であると理解していたが、叶は日本が戦う相手を"何か"と表したのだ。
それはこれから巻き起こる戦争が国対国のわかりやすい構造では無いことを意味している。
もっとも、その事実を知った所で剛三がそれを理解できるかはまた別の話だ。
故に叶も訂正する事はしなかった。
「さてさて、日本は"何"と戦う事になるのかなー?」
叶は静かな和室より立ち上がる。
彼女が手につけた指輪をなにやら操作すると、地面、天井、壁、ありとあらゆる物にジジジとまるで番組を放送していないテレビの様な波が発生する。
「地球外生命体? 地底人? 悪の秘密結社? それとも――」
叶の周りより様々な機器がせり出してくる。
それはディスプレイであったり、キーボードであったり、何らかの表示装置であったりしたが、おおよそ少女が扱うには分不相応ないかめしさがあった。
「異世界人かな?」
バリッっと一際大きな音がなり、景色が変わる。
和風と思われたそれ――映像による擬似空間は一瞬で消え去り代わりに無骨な機械類がひしめく巨大な空間へと変貌する。
「さーてっ、かき集めにかき集めた自立兵器群! お兄ちゃん奪還用に用意したものだけどどうやら足りないかもしれないね! まだまだ頑張らないと!」
自らが立つ機械の頂上。
まるで屍の山の様にうず高く積み上げられた用途不明の機器の上で、叶は眼下を見下ろす。
そこには一目見て分かる、人を殺すための兵器がこれでもかと並べられていた。
多脚式戦車、亜音速立体機動戦闘機、そして義人型戦闘ロボット。
それは現代科学技術の粋を集めた人殺しの道具だ。
次世代自立思考型戦闘兵器。
AIの発達によって可能となった人の搭乗を必要としない兵器は戦争を一変させた。
科学技術と資金力が物を言うこの兵器を扱える国はそう多くはない。
人材の消耗を強要しないこの戦闘兵器は持たざる国との間に隔絶した戦力差を巻き起こす事になったのだ。
もちろん、その様な兵器だ。個人で有する等夢物語である。
そしてその夢物語の体現こそが、本堂叶だ。
彼女の才能は、夢物語を実現させるに十分なものだったのだ。
「私は頑張るよー! 応援していてねお兄ちゃん!!」
林立する心を持たぬ兵器達の森。
その中で叶は一人拳を握り上げ「えいえいおーっ」と声を上げる。
どこともしれぬ場所。どこともしれぬ深い深い地下の奥底。
本堂叶がその才能の全てを注ぎ込んで用意した兵器群は伏して自ら造られた使命を果たす時を待ちわびるのであった。




