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第十九話(下)

 俺とエリ先輩が元気よくサバイバルを宣言する。

 底抜けに明るい声が森に木霊した。

 日は既に中ほどまで登っている。これでは今日中に帰るなどとても無理だろう。

 俄然ピンチなこの状況。俺とエリ先輩はテンションマックスで沈痛な面持ちの皆へ檄を飛ばす。


「そうと決まればガンガン行こうぜ! なんだかテンション上がってくるな!」

「パパの兵に狙われていないサバイバルとかピクニックだねカタリちん!」


 そして、命をかけた探検が始まる。

 道無き道をひたすら歩く。すでに獣道は無くなっており、いつの間にか荷物持ちのおっちゃんが先導する形で歩んでいる。

 今までに魔物の襲撃は何度かあった。だが、どれもこれもがフォレストウルフやジャイアントスネークといった弱い部類の魔物ばかりで、危険は殆ど無いに等しい。

 旅路は順調だ。ただ、終わりがいつになるのか分からないだけだった。


「ふんふふふーん。ふふんふーん」

「その、カタリ君。あまりこういう事は言いたくないんだけど……」

「ん? どうしたセイヤ? なんかあった?」


 鼻歌交じりに悠々と歩く俺。

 いつの間にか横に来たセイヤが、控えめに話しかけてくる。

 ……何かあるのだろうか? 休憩の為か、いつの間にか他の皆も止まっていた。

 俺は真剣な表情でセイヤの言葉に耳を傾ける。


「僕達は遭難してるんだよ? もう少し真剣に考えて欲しいんだ。それに聞いた所だとこの森には人を襲う魔物や危険な昆虫とかも生息しているらしい。君がどう思っているかは知らないけど、状況は想像以上に逼迫しているんだ。気を抜かないで欲しい」


「うーむ。例えば――こんなのとか?」

「なっ!?」


 魔力を込めたナイフをセイヤに向かって投げる。

 彼の頬を掠めるように飛び、背後にある巨木に突き刺さったナイフ。そこにはガサガサと不気味に動く、卵程の胴体を持つ蜘蛛が縫い付けられていた。


「グーロン蜘蛛だね! 噛まれると全身に痺れが回って丸一日は動けなくなる強力な毒を持ってる虫だよ! セイヤ君を刺そうとしていたんだよ、セーフだったね!」

「あ、ありがとう。助かったよ」


 驚きながらもきちんと礼を言うセイヤ。

 あんまり気を抜かないでほしい、こんな小さな生き物が致命的な毒を持っていることもあるのだ。

 縫い付けられた蜘蛛をおっかなびっくり観察するセイヤを他所に、俺は木に刺さったナイフを蜘蛛ごと抜く。

 いまだガサガサと動き、キーキーと不気味な鳴き声を放つ蜘蛛に、遠目で観察していたエルフさんや猫ちゃんが露骨に嫌そうな顔をした。


「それにしてもコイツがいるのかー、意外と嫌いじゃないんだよなー。あ、エリ先輩ちょっと火をくれる?」

「ほいさっさ!」


 ガサガサと動く手足をもぎ取り、首をブチリと引きちぎる。

 胴体だけが刺さったナイフをエリ先輩の方へ向けると、彼女は掌より魔法で火をおこし、炙ってくれる。

 苦味と酸味を混ぜあわせたような、鼻をつく刺激臭があたりに立ち込める。

 皆が嫌そうに顔を顰めるのを無視しながら、ほどよい焼き加減になったその蜘蛛を……。


「――うん、旨い」


 無造作に口に放り込んだ。


「ひぃっ!!」


 エミリー嬢が情けない声を上げる。

 口をモグモグさせながら、試しに視線を向けてみる。エミリー嬢は顔を青ざめさせながらセイヤに抱きついてしまった。

 ……面白いな。

 なんとも言えない食感とえぐ味を口の中で味わいながら、ゴクリと飲み込む。


「やっぱ、サバイバルって言うよりピクニックだなー。火も気にせず使えるし温ゲーだわ」

「か、か、カタリ君!? い、いま君何を!?」

「何って、食っただけだけど? 食料無いんだから食える時に食っとかないと動けないぞ?」


 グーロン蜘蛛は比較的食べることができる部類の生き物だ。

 あまり素人にはおすすめできない物ではあるが、食料の備蓄がないサバイバル状況においては貴重なタンパク源となる。

 食べておいて損は無い。


「は? え? ……は!?」

「と言っても食料豊富で食べたい放題だけどねー! じゃーん!」

「「きゃ、きゃあ!!」」


 嬉しそうに手を上げて何かを自慢するように見せつけるエリ先輩。

 彼女の方に視線を向けた女性陣から悲鳴があがる。

 何事かと俺もエリ先輩を見る。するとその手には、小さな子供の腕ほどもある、乳白色の幼虫がウゾウゾと身体を揺らしていた。

 こ、これは!!


「ってエリ先輩それ蛇毒大蛾の幼虫じゃん! いつの間に!?」

「さっき腐ったコリンの木を見つけてねー! もしやと思ったらビンゴだったよ!」

「ちょっとくれよ! それ生でもイケるから大好きなんだよな!」


 蛇毒大蛾は貴重なタンパク源だ。

 特に幼虫は成虫と違い毒がなくナッツのような味わいがあり、クリーミーな食感と相まって非常に美味しいのだ。

 基本的に不味い各種昆虫の中で美味しく食べられる数少ない物だ、思わず俺がおすそ分けを求めてしまうのも無理はない。


「ダメー! これはエリ先輩のオヤツになります! っていうかカタリちん! ここ凄いよ! 他にも失明茸、腐肉百足、熊蛆、腸ミミズとかもいるっぽい!」

「マジか! 楽園じゃないか! 今日はたらふく食ってやるぞ!」

「フローレシアの雪だらけの貧しい森とは大違いだよね!」


 どれもこれも栄養価に溢れており、貴重なタンパク源だ。

 もはやこのサバイバルは食べ歩きにレベルアップしている。

 俺は降って湧いた神の恵みに感謝しながら、早速エリ先輩のポケットから顔を覗かせている巨大な百足をパクり取る。


「いやー、これだったら一生ここで住んでもいけそうだな……ってどうしたんだ、セイヤ?」


 わさわさと俺の腕の中で暴れる巨大百足、その足と頭をナイフで切り落とし、口へ運びながら、何かドン引きしている様子のセイヤに声をかける。……んむ、不味い。もう一口。


「いや……ウップ。なんでもないよ。いこうか」


 皆は信じられない者を見るような目でこちらを見ている。

 猫ちゃんなど涙目だ、しかも頭ぽんぽんしてあげようとしたら逃げられた。

 ……失礼な。

 エリ先輩もモゴモゴと口の端から何かの足をのぞかせながら、キョトンとした顔で皆を不思議そうに眺めている。

 俺はそんな先輩に、訳が分からないよと肩をすくめる。そして手の中で蠢く百足をつまみ食いしながら、セイヤ達に続いていった。


………

……


 数時間は歩いた。

 巨大な根や隆起した岩が障害となり思うように進めない中、ようやく辿り着いたのはサッカー場ほどの広さがある開けた場所だった。

 辺りの木は何故か不自然になぎ倒されており、乾燥しきっていない倒木が散乱している。


「す、すまない。ちょっとココで休憩をさせて貰えないだろうか?」

「丁度開けた場所みたいだね。なんか出そうな雰囲気!」


 セイヤの提案に辺りの気配を探ってみるが、特別何かがいる気配は無い。

 もちろん、怪しい雰囲気である事は同意だが。

 しかし、この場所は見晴らしも良い事から休憩するにはうってつけだ、何が起こっても対処するのは楽だろう。


「休憩ね、了解。セイヤ、なんか食う?」


 既に俺とエリ先輩のポケットはパンパンだ。ガサガサと中でいろんなタンパク源が蠢いている。

 そのいくつかを鷲掴みにし、切り株にもたれ掛かるように座るセイヤの眼前に突き出すが、彼は嫌そうに首を振るだけだった。

 ……ほんと、好き嫌いの多いやつだ。


「いや、いいよ。それより、何か飲み物は無いかい? 喉が渇いたんだ……」

「申し訳ありません、勇者セイヤ様。私達もこんな事になるとは思わず、先程お飲みいただいた分で最後です」


 無駄にペース上げて歩きまわったからなぁ。

 誰かさんのお陰で皆が普段より汗をかいたせいか、水の消費は早かった。

 あっという間に底をつき、この体たらくだ。やはりイケメンにサバイバルは難しかったか……。


「脱水症状だね! あんまり良くないね、カタリちん!」

「水を確保出来る場所はこの森には無いと聞いています。このままだと大変な事に」


 ふむふむとセイヤの様子を観察していたエリ先輩がペカーっと嬉しそうに告げる。

 当の本人は顔面蒼白で荒い呼吸を繰り返している。

 心配そうにエミリー嬢が寄り添っているが、彼女とてあまり水分をとっていない為つらそうだ。

 ちなみに、俺とエリ先輩はそこら辺で飛び跳ねていたブクブクと太ったグロテスクなカエルから体液を絞り、水分を補給した。不味かったが飲めないものでもない。

 不安そうにセイヤを見守るリーダーさん。他の『青い短刀』メンバーやおっちゃんも心配そうにしている。

 うーん。イケメンは何をしていても様になるな。

 俺は弱っていてもなお主人公オーラを出すセイヤにため息をつきながら、自らの魔力を練り上げる。


「もう、世話のかかる奴らだなー。そうやって好き嫌いして水分補給しないからそうなるんだぞ」


 仕方ない、助けてやるか。こいつ悪いやつじゃないからな。

 練り上げた魔力。その力の塊を足元から地面に流すと、能力を発動する。

 と、言うわけで。相棒宜しくね!


 ――はーい!


 その瞬間、俺の横の土が盛り上がり、メキメキと何かが脈動し作り上げられていく音が鳴る。

 ギョッとした表情で武器を構える皆に軽く手をふり、警戒を解かせ、完成を待つ。

 やがて動きが収まり、何もなかったその場に現れたのは、立派な滑車が取り付けられた井戸だった。


「勇者カタリ様! こ、これは一体!?」

「俺の固有能力。予め記憶した物体を生成するんだよ、井戸を記憶していて良かったわ」

「あ、ありがとう、カタリ君!」

「塩と砂糖もあるよー! 適量混ぜてね!」


 エリ先輩がどこから出したのか、砂糖と塩の入った袋を取り出す。

 別に俺達はさんざん食ったから大丈夫だけど、セイヤ達は汗でミネラル分を喪失しているはず、良い対処だ。

 なお魔力が存在するこの世界では、セイヤ位の実力になると水による中毒症状程度なら心配する必要も無い。これで元気になるだろう。

 オレンジ色の日が広場を照らし、やや肌寒くなってきている。もうすぐ日が暮れる。今日中に戻る事は不可能だ。

 ……とすれば、今晩過ごす場所か。仕方ないなぁ。


「さーって、日も傾いてきたし、もうひと踏ん張りするかな」

「勇者様、何をなさるのですか?」

「まぁ見ててよエルフさん……よいしょっと!」


 掛け声と共に俺の魔力が溢れだし土に染みわたる。

 先程よりも強大な大地のうねりがおこり、広場の中心が隆起する。

 しばらくして出来上がったそれは、このメンバーが全員入ってもまだ余裕がありそうな、立派な石造りの小屋だった。


「す、凄い!!」


 皆が息を飲む。

 今までのブラック労働とも言える、過酷な土木作業で培った経験がここにきて生きた。一瞬で作られるその建築技術はまさに匠の技だ。

 俺は何故か『カタリの家♪』と看板が立てられたその小屋の木製扉を開けると、中の様子を確認し、皆を招き入れる。


「一応中には暖炉もあるっぽいから寒さは余裕でしのげるよ。さ、入った入った」

「倒木が多いから薪には困りそうにないね。夕食が楽しみだよ!」


◇   ◇   ◇


 夕食は比較的豪華だった。

 何故か建物と一緒に調理器具まで作られていたので料理には困らなかったのだ。

 それにしても、相棒はなかなか気の利く良い奴だが、調理器具が建築物に入るのかどうか不明だ。そんな適当でよいのだろうか?

 まぁ、実際に作れているのだから問題無いのだろうけど……。


 夕食のメニューは肉と野草のスープ。

 食材は近くにいたジャイアントスネーク。かなりの大きさだったので全員が食べてもまだ余るくらいだ。

 後は付近に生える毒の無い野草。それらを鍋にぶち込んで井戸から汲んだ水と塩を入れ煮込めば完成だ。食欲をそそる香りが特徴的な特製スープ。全員が腹を満たすには十分だった。

 ちなみに、肉はセイヤが文句を言い出すと面倒なので偶然見つけた鶏って事にしておいた。どうせわからないだろう。実際美味そうに食っていたし。


 それにしても……ちょっと遭難してから食い過ぎな気がする。

 遭難から帰ったらダイエットも兼ねてちょっと食事を減らさないといけないな……。

 お腹いっぱいになったのか、俺の膝を勝手に枕にして眠りだすエリ先輩のほっぺたをつついて遊びながら、そんな事を考える。

 食事も終わり、あとは各々が好き勝手に過ごす時間だ。


 暖炉の明かりをぼんやりと眺めながらダラダラとだらけていると、何やらおっちゃんと話し込んでいた猫ちゃんがこっちへトテテーと走り寄って来る。


「あの、勇者様。私こんなの見つけたの! 良かったらお召し上がり下さいっ!」


 そう言って差し出されたのは赤いまだら模様に紫色の柄を持つ茸だ。

 猫ちゃんがニコニコと嬉しそうに持ってきたその茸。きっと俺がいろいろと食べ歩きしているのを見て気を利かせてくれたのだろう。良い子だ。

 しかし、俺はその茸を見て目の色を変える。

 それは俺にとって、いや、俺達の人生にとって切っても切れない思い出深い茸だった。


「おお! これは!」

「何々ー、何貰ったのー……あっ!」


 何事かとヌッと起きあがったエリ先輩がその茸を見るや驚きの声を上げる。

 ふふふ、どうやらエリ先輩も理解したようだ。


「「地獄茸!!」」


 俺達は二人目を合わせると、息を合わせるようにその名称を叫んだ。


「いやー、懐かしいなー。これにはいろいろと苦い思い出があるんだよなー」

「食べると苦いしね! けど流石に丸々はキツイよ?」


 地獄茸はあの外道公特製の毒飴ちゃんの原料にもなっている茸だ。これ一本で下級ドラゴンを即死させるだけの力がある。

 飴ちゃんに含まれている成分などこの茸の一欠片に満たない量にすぎない。

 これだけ立派な茸だ、気付かず食べたら死は免れないだろう。

 俺も流石にこれ一本まるごとはキツイ。

 だが……俺にはとっておきがある。


「ふっふっふ、エリ先輩。俺を何だと思ってる。っと、これなーんだ!?」

「あっ! 胃腸薬!」

「道具屋で買ったんだよね! これさえあればなんでもイケる!」

「マジでやっちゃう!? イッちゃうの!?」


 俺が密かに購入していた胃腸薬を見たエリ先輩が目を輝かせる。

 胃腸薬はサバイバルにおいて重要なアイテムだ。これさえあれば大抵の物は食える。

 俺は自らの用意周到さをしたり顔でエリ先輩にアピールしながら、己の挑戦を宣言する。


「俺の勇姿を見ててくれエリ先輩! そらっ!」


 記念に傘の一部をちぎってポケットに入れると、残りを胃腸薬と一緒に勢い良く飲み込む。

 口の中に強烈な苦味と共に刺すような痛みが走る。

 胃は、まるでマグマでも飲み込んだかのように熱を発しており、喉が悲鳴を上げているのがわかる。

 だが……それだけだった。それ以上は無かった。

 俺はエリ先輩に親指を立てながらウィンクする。


「ひゃー! 凄いよカタリちん! 普通死んじゃうよ! 良く平然と生きてるね!!」

「外道公のしごきで俺の胃腸は新たな次元に旅だったからね!」

「こりゃあもう、カタリちんに食べれない物は無いね!」

「生きてるなら神様だって食べてみせる――――なんちゃって!!」

「ひゅー! かっこいいー! 惚れちゃいそうー!」

「あんま茶化さないでよーエリ先輩!」


 エリ先輩とハイタッチをしながらイチャイチャする俺。

 ふと、気が付くと、驚愕の表情で猫ちゃんがこちらを見ているのが分かった。


「あれ? 猫ちゃんどしたの?」

「あの、それ……毒だった……えっと」

「あ、気にしなくていいよ。俺は意外とイケるから。猫ちゃんは多分血を吐いて死ぬから絶対に食べたら駄目だけどね」


 猫ちゃんなら多分血を吐きながらのたうち回って苦しみ、死んでしまうだろう。

 俺は彼女がそこら辺に生えている茸を不用意に食べる悪い子じゃなかった事に安堵すると、やんわりと注意する。

 不用意に茸を食べられるのは、ちゃんとした訓練を積んだ者だけなのだ。

 素人に拾い食いはおすすめできない。


「…………」

「ん? なぁに?」

「ひぃっ! い、いえ! なんでもないです!!」


 ピューッと逃げていく猫ちゃん。隅っこでブルブル震えている。失礼な。

 よくよくみると、周りの皆も信じられない物を見るような目で俺を見ている。

 なんだか恥ずかしい。

 ポリポリと頭をかきながら、照れ隠し気味に皆に声をかける。


「えっと、皆も……何かあった?」

「いや、何でもないよ。カタリ君……」


 セイヤは、それはそれは微妙そうな顔をしていた。


………

……


 その後は皆疲れていたらしく早々に就寝となる。

 小さな小屋ではあるが、暖炉の火が部屋全体を温め、雑魚寝であっても十分な休息が取れそうだ。

 勢いが弱まった暖炉の炎が、柔らかく室内を照らしだす。

 もちろん、俺とエリ先輩はこの楽しげな修学旅行的雰囲気に寝られるはずもなく、夜通しいろいろな話をしていた。

 日常の事、好きな食べ物の事、好みの男性や女性の話。これからのこと……。

 話すことは一杯で、なんだかまたエリ先輩と仲良くなれた気がして嬉しかった。

 ちなみに、セイヤ達は物凄く迷惑そうな視線を向けてきたが、エリ先輩と一緒に無視した。


◇   ◇   ◇


 夜が明ける。

 小屋の窓からはうっすらと日の光が差し込み、朝の訪れを知らせてくる。

 夜通し語り合っていたエリ先輩と俺が、そろそろ朝食をとりに行こうかと相談していたその時だ。

 爆音とともに小屋が揺れた。


「な、なんだ! 何が起こった!?」


 リーダーさんが飛び起きながら窓から外を覗きこむ。

 ――瞬間。何を見たのか慌てて窓から飛び離れ、転がりながら距離を取った。

 その直後。彼女を捕まえるかのように、窓を破壊しながら爬虫類を思わせる巨大な腕が差し込まれた。

 ……うむ、なかなかの反射速度だ。とても青銅級とは思えない。


「ひ、ひぃぃっぃ! ま、魔獣です! 魔獣が現れました!」


 入り口の扉よりおっちゃんが血相を変えて飛び込んでくる。

 先程帰れる道がないかどうか付近を確認すると言って出て行っていたのだ。

 おっちゃんは慌てふためきながら、異変に気づき起きた皆へと状況を説明している。

 窓からギョロリと爬虫類特有の無機質な、だが驚くほど巨大な目が室内を見渡す。

 セイヤ達に緊張が走り、矢継ぎ早に指示が飛び交う。


 だが、俺とエリ先輩だけは、そのやり取りをつまらない物を見るかのように眺めていた。

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