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勇者ですがハーレムがアホの子ばかりで辛いです  作者: 鹿角フェフ
第二章

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第十八話(下)

 切羽詰まった様子で事のあらましを語るギルド職員のお姉さん、その話をセイヤと一緒に聞く。

 どうやらギルドに入った緊急の案件で、病床に伏すとある女の子の為に特殊な薬草がすぐにでも必要らしい。

 もちろんそれは在庫が無く、いまから近くの森へ採集しに行く必要がある。

 しかも取ってつけたように、その森は魔物が徘徊する危険な場所で、現在ギルドが派遣できる冒険者のランクでは心許ないらしい。

 だから、黄金級の冒険者ランクを持つセイヤにすぐにでも採ってきて欲しいとの事。

 なるほどな、ピンチの女の子か。ありがちな話だ。


「分かりました、すぐに準備します」

「えー? 出かけるの? 皆に言っておく必要無いの? 怒られるんじゃない?」


 セイヤがこう答えるであろうことはある程度予想していた。

 少しだけの付き合いだが分かる。コイツは正義感が服を着て歩いているような男だからだ。俺には到底真似できない。

 誰かを助けるためなら労力を厭わない……聞こえは良いが周りでその尻拭いをさせられる人は大変だろうなぁ、と考えながら一応忠告しておく。

 その言葉に、少しばかり戸惑いと苛立ちを持って、ギルドのお姉さんが間髪入れず答える。


「ギルドが伝言を伝えるので大丈夫です。えと……貴方は?」


「俺は流浪の剣士、ポルポール・ポルンポルンだ。セイヤとはさっき知り合った」

「私はポルポルのパートナー兼彼女のプルプルだよ! よろしくね!」


 息を吐くように嘘をつく。外道公に教えてもらった技だ。

 嘘は便利だから日常的について損は無いらしい。ちょっと言っている意味が分からない理屈だが、この場にあってはそれも間違いでは無いだろう。

 だからこその経歴詐称。

 プルプルも乗り気だ。恋人ですと証明するかのように腕を絡めてくる。

 うん……、柔らかいのがあたってよろしい! ちょっと役得!


「カタリ君、冗談は止めてくれ。彼はフローレシアの勇者、カタリ君だ」

「まさか! ゆ、勇者様がお二人も! それは頼もしい!」


 驚きの声を上げる職員さん。後ろでこっそり様子を伺う他の職員の一部にも動揺が走っている。

 まったく、セイヤは余計なことを言う男だなぁ。

 俺は空気を読めないセイヤに辟易しながら、適当に相槌を打つ。

 しかしまぁ、これはギルド職員さん獲物を狙う目だな。そんなに俺達に依頼を受けて欲しいのか……。

 なんだかロックオンされた事を確信した俺は、面倒事はゴメンだと、自らの意思を表明する。


「えー、俺は面倒だから行きたくないんだけど……」

「薄情者だね! ポルポル!」

「プルプル程じゃあ無いさ!」


 プルプルことエリ先輩と頬をつつき合いながらイチャイチャする。

 こうやってドサクサに紛れてスキンシップをとれるのもエリ先輩の魅力だ。

 なんだか仲の良い女友達的な感じで非常に心地よい。

 このままセイヤを放っておいてダラダラとデートに行きたい気分だ。


「カタリ君。冗談事じゃないんだ。今でも苦しんでいる子がいる。早くしないとその子が死んでしまうんだ。僕はその子を見捨てる気はない」


 見たことも無い病床の女の子。それほどまで気持ちを揺らす事ができるなんて俺には到底理解できない感情だ。

 やっぱりコイツは主人公だ。そして俺がモブ。俺は小物だから最低でも病床の女の子と出会ってどんな子か確かめないとやる気がでない。


「無理なお願いだとはわかっている。だけど君と僕が一緒に行けば魔物が出てきても安全に排除出来る。お願いだ、助けてはくれないか?」

「んー? 俺戦闘とかやった事全然ないんだけどなぁ。エリ先輩も仲がいいから連れてきただけでそんなに強くないし」

「そうだねー。お世辞に言っても私は大したことないよ!」


 エリ先輩とイチャイチャしながらヘラヘラと返答する。

 俺はモブ勇者だからな、基本的に小物に振る舞う必要があるのだ。

 俺とエリ先輩の名演技によって、女にうつつを抜かす駄目勇者と、色仕掛け要員といった雰囲気がプンプン出ている。

 周りの冒険者達がゴミを見るような目で見ているのがその証拠だ。

 素晴らしい。


「でもまぁ、仕方ないか! 雑用位ならなんとか頑張るよ!」

「エリ先輩も頑張るね!」

「ありがとう、カタリ君! エリさんもありがとう!」


 爽やかな笑顔を返してくるセイヤに適当に手を挙げる。

 うーむ。良い奴だ。性格までイケメンでいっそ好感が持てる。

 仕方ない、付いて行ってやろう。

 なにより冒険には興味があったんだ、このような緊急依頼もまた乙なものだろう。


「ギルドもサポート要員として現在動ける冒険者パーティーに要請をかけさせて頂きます。申し訳ございませんが用意ができればすぐに出発して頂けますでしょうか?」

「ああ、分かった!」


 職員さんより細かな説明を受ける。

 俺達は一応私服ではあるが、武器などの最低限の装備はしていた。

 足りない装備はギルド側が用意してくれるらしく、手荷物等も王宮まで責任を持って届けてくれるらしい。

 流石ギルド、サポート体勢もバッチリだ。

 俺はどのような場合でも対処できるその準備の良さに感動しながら、これ幸いと荷物の宅配ついでに宰相ちゃんへ連絡を入れてもらうようお願いする。


「ふーん。じゃあついでに宰相ちゃんに伝言をお願いしておこうかな? お姉さん、伝言よろしくね」

「かしこまりました。王宮に滞在するフローレシア王国の方宛でしょうか? ギルドの者がすぐに連絡致します」


 快く引き受けてくれる職員のお姉さん。その答えに俺も満足する。

 ちゃんと帰りが遅れることは伝えておかないとね。心配させると悪いから。


「いやー助かるな! じゃあ、宰相ちゃん宛に『ちょっと勇者様ピクニックに行ってくるから良い子にして待っててね』って感じで」

「えっと、かしこまりました。ですが、そのサイショウちゃん?……とはどなた様でしょうか? フルネームを教えて頂けますか?」


 む、そういやお姉さんには宰相ちゃんって言っても分かる訳がないな。反省。

 なんか普通にいつも宰相ちゃん、宰相ちゃんって言ってるから感覚麻痺してたや。

 宰相ちゃんの本名は……。


「ああ、ごめんごめん。えっと――」



「――デモニア・ラグ・シェルテルだね」



 時が止まった。

 お姉さんは先程までの笑みを凍りつかせ、顔色がどんどん青ざめていく。

 ギルドの職員はおろか、周りで雑談に興じていた冒険者達までもが口を閉じ、恐ろしい者でも見るような視線を向けてくる。


「ん? どうしたの?」

「あ、あの……も、もしや現在この王都にフローレシア王連八将(おうれんはっしょう)のシェルテル卿がお出でになっているのでしょうか?」

「来てるよ。一緒に来たの」


 宰相ちゃんは王連八将という凄い地位についているとこの前お風呂で教えてもらった。職員さんが言うシェルテル卿が宰相ちゃんで間違いはない。でも12歳でそんな地位を任されるなど流石といった所だ、やっぱり宰相ちゃんは凄い子だ。

 あと移動する馬車の中でこっそりと一緒にお手々を繋いでたのは秘密な!


「しょ、少々お待ちを!」


 よほど慌てていたのだろう、セイヤに依頼を持ってくる時とは比べ物にならないほどの動揺を見せた職員さんは、木張りされた床の繋ぎ目に足を取られながら、急いでギルドの奥へと引っ込んでいく。

 バタリと扉が閉まる音の後、沈黙がギルドのホールを支配した。

 まるで雰囲気はお通夜だ。適当な人物に目を合わせるが、慌てて逸らされる。

 唯一、あまり分かっていないのか、「何かあったのかい?」と質問してくるセイヤと不思議そうに首を傾げるエミリー嬢だけが話についていけてないようで面白かった。


「変なお姉さんだなー」

「宰相ちんは人気者だね!」


………

……


 職員のお姉さんが消えた奥の扉、その扉が再度開かれる。

 現れたのは端正な顔つきの初老の偉丈夫だった。眼光は鋭く、その佇まいから歴戦の戦士を思わせた。

 その男は、キョロキョロと辺りを見回し、こちらに視線を向けるとまっすぐやってくる。


「私が、こちらのギルドでギルドマスターをしているウィーンと申します。勇者様に置かれましては――」

「ああ、いいです、いいです。そういうの気にしないタイプですから、もっとフランクに」


 彼の言葉を遮る。

 面倒なやり取りだ。折角冒険者ギルドのマスターなんだからそういう媚を売る発言はやめて欲しいものだ。イメージが崩れる。

 俺は不機嫌を隠そうともせず、彼の言葉、その続きを待つ。


「はぁ、では、その……先程係の者より伺いましたが、シェルテル卿がお出でになっているとの事で……」

「うん。何? ファン? サイン貰ってきてあげましょうか?」


 宰相ちゃんは人気者だな。もしかしてこのオッサンもファンなのだろうか?

 だとしたら気をつけなくてはいけない。宰相ちゃんはその可愛らしさ故にありとあらゆる人々を魅了してやまないが、その全てが善良であるとは限らないのだ。

 俺が宰相ちゃんを守ってやらねば。


「いえいえ! 滅相もございません! いやはや、伝言の件ではございますが、勇者様には申し訳ございませんが、この様に短い文章ではシェルテル卿も誤解されるかと思いましてですね、こちらにて事情を詳細に記した書簡をお付けさせて頂こうかと……」

「よくわかんないけど、どうしたんです?」


 少しイライラする。要件を早く言え。

 口先だけで全てを解決しようとする者特有の雰囲気だ、言葉に重みがない。

 確かギルドマスターとは、ある程度功績をあげた冒険者が推薦によってなるものと聞いていたのだが、その推薦とは、思ったほどまっとうな物でも無いらしい。


「カタリちん! カタリちん! つまり、ギルドマスターさんはこう言いたいのさ!『何があってもギルドは関係ない』ってね!」


 俺の苛立ちを感じ取ったのか、横でフムフムと話を聞いていたエリ先輩がフォローを入れてくる。

 これだから先輩は好きだ。言わなくても理解してくれるあたり一緒にいてて非常に心地よい。


「なるほど! うん、迷惑はかけられないですからね。じゃあそれでいいですよ。書簡でもなんでも付けて宰相ちゃんに伝えて下さい」

「よ、よろしいので?」


 慌てて念を押してくるギルドマスターのウィーン氏。心配性な人だなぁ。

 まるで言質を取るかのように俺の言葉を確認する氏にパタパタと手を振りながら、脳天気に答える。


「うんうん。じゃあ、俺達早速その森に行くからよろしくねー」

「では、ここにいる全ての人間が証人ということで……」

「おっけー」


 ウィーン氏が穏やかな笑みを浮かべる。目は笑っていない。

 一部のギルド職員が、こちらをじっと見つめている。

 冒険者の何人かが呆れ顔で首を振ったのがわかった。


 ギルドマスターを待つまでに既に準備は終わっている。

 セイヤとエミリー嬢も用意された防具を身にまとい何時でも出発できる。

 俺とエリ先輩は面倒なので用意された物は断ったが……。

 ギルドの入り口より、バタバタと数人の冒険者がやって来る。

 どうやら森に詳しい案内役の人とサポート役の冒険者も到着したようだ。


「じゃあ、皆ー! 出発進行だよー!」


 エリ先輩の、底抜けに明るい声が静かなギルドに響き渡る。

 冒険か、ワクワクしてくるな。

 新しい経験の予感に胸が躍り、自然と鼻歌が漏れてくる。

 でも無事に済む気が全然しないな! こういった話にピンチはありがちだからな!

 ……うん。何が起こるかわからないが。



 ――まぁ、楽しもうじゃないか。



 誰にも気づかれないよう、そっと笑いながら、俺はサポート役の冒険者の人達が集まる場所へと向かった。

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