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デッドエンドは望まない!  作者: カヱ猿
学園天獄 Haven, not Heaven
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第05話 それは驚きか困惑か怒りか

 なんだこのビジョンは、これがこの時陰府月の抱いた正確な印象である。


 陰府月は、疲れにより眠りにつくも二子木の生死を心配するあまり、朝5:00に目覚めてしまっていた。仕方が無いと思い、コーヒーを啜っていたところ、ビジョンに襲われまたもや二子木の未来をみたのだ。


「いろいろと意味わからないわ……」


 最初は、気づかぬうちに二度寝してしまったのかと思っていたが、映像の見え方は今までの死のビジョンと変わらない。ただ決定的に違っていたものそれは、


「死ななかった……」


 そう、彼は死ななかった。それどころか、世界の素晴らしさを感じているところで映像が途切れたのだ。この事実は、陰府月にとってひどく衝撃的なものだった。


 陰府月が最もこの能力を卑下する理由であった、人の死が見える、という最も根本的な能力に対する認識が破壊され、陰府月の理解は根底から覆ってしまった。


 しかし、陰府月は、自分の認識が覆ったからと言って諦めはしなかった。

 そして、導き出した答えは、これは能力の変化、つまり、進化か退化だということだ。


 進化ならば問題は無いだろう。死のビジョンの他にも日常の未来が見えるのだから、使い勝手も良くなるだろう。決意通りに二子木を守ることができる。


 退化だったとすれば、これが陰府月にとって一番の問題となる。これからは、自分の意思で人の死を見ることはできなくなり、死のビジョンも一切見えなくなってしまえば、二子木を守ることはできず、兄たちへの裏切りは何もなし得ない無駄なものになってしまう。


 極端に物事を考えるのは良くない、そう陰府月は思い、例え能力が消えても、守ることにしようと心に決め、携帯に指を伸ばした。


「とりあえず、家にくるようにメールだけでもしておかないと」


 まだ、両親も寝ている。あまり音を立てたくないとも陰府月は思ったが、今寝てしまえば寝坊しない自信がなかったため、熱めのシャワーを浴びることにした。




 二子木は、家を出たあとに陰府月からメールがきていることに気づいた。

 ちょうど生存報告をしようと思っていたところだが、ついでということで連絡はいれずに直接陰府月の家へと向かうことにした。


 10分ほど歩くと、陰府月の家が見えてくる。あらためて見て見ると閑静な住宅街で大通りにも近く、所得のいい世帯向けといった印象だ。


 その家の前に、二子木と同じ高校の制服を纏った綺麗な少女がいた。紛れもなく陰府月 玲その人ではあるが、昨日のようなドタバタの最中に見る姿とは違い落ち着いて見ると学内でも上位に入る容姿をしている。


「あら、ちゃんと生きていたのね」


「もちろん、いつも通り過ごしてたからな」


 二人は短めの生存確認をすると早々と歩き出した。学校に行きさえすれば、ある程度死ぬ可能性を低くすることができる。階段で転げ落ちて死んだり、体育で死ぬ可能性もなくはないが、武道系科目は冬に行われるため、死亡率の高い柔道などは必然的に行わなくて良く、水泳もこの季節には行わないため、屋外に長々と居るよりも安全なのだ。


 信号待ちをしている時、ふと陰府月が口を開く。


「ちょっと質問があるんだけど、今日の朝ごはんって和食だった?塩鮭とおひたしとみそ汁と」


「あぁ、そうだけどもしかしてまた俺は死ぬのか!?」


「いいえ、ビジョンが見えたには見えたんだけど、あなたは死ななかったの」


「えっ?死ぬビジョンが見えるんじゃないのか?」


「ええ、そのはずだったのだけど、単純な未来が見えてしまったのよね」


 二子木にとっては嬉しい知らせだった。この前、死ぬ未来を見てもらった時は、死なない=何も見えないであったが、死なない未来が見えたのであれば、不確定的な要素に翻弄されなくて済む。陰府月が普通の未来を見て、何も告げなければ未来は変わらないため、その時点までは安全に過ごせるということになるからだ。


「人が死ぬ未来が見えるよういいじゃねえか」


「そうね」

 校門をくぐるとと二人は別れた。陰府月が、生徒玄関とは少し離れた来客用玄関へと向かうためだ。

 陰府月は今日復学扱いではあったが、今まで二年の在籍名簿には乗っていなかった。そもそも転校でここに来たものの、皆の目の前に現れる前に事故で入院したため、記録上は転校となっているが、実質上の存在はないに等しい。

 また、4月というのは、新しい学校生活が始まる日なのだから扱いの上で転校してきた生徒の方が学校にとっては勝手が良かった。

 そのため、教室へは直接向かわず、職員室へと向かわなければならなかった。


 二子木は、靴を履き替えると、階段を上り4階にある自分の教室に向かった。6階建ての校舎は、最上階が調理実習室を除く各実習用教室となっていて、5階が一年生、4階は二年生といったように、学年が増えるごとに階が下がって行く。

 2階は職員室や図書室、進路関係の教室となっていて、1階には、購買や調理実習室、保健室などがある。


 旧校舎へは一階の来客用玄関近くの通路を通ることで向かうことができるが、運動部が合宿時に使う以外はほとんど誰も使用することはない。トイレで叫ぶ人間がいたくらいだ。


 二子木が教室にはいると、一組みの男女が会話しているのが目に入った。いつも通りまずはじめに挨拶を交わす人間がその男女だ


「よう、(うしお)涼花(すずか)


「おお、尊、今日は随分はやいな」

「おはよう、尊くん」


 如月(きさらぎ) (うしお)竜宮(りゅうぐう) 涼花(すずか)


 2人とも二子木の中学時代からの友人だ。なんの腐れ縁か中学から今までずっと二子木と同じクラスとなっている。


「お前らこそなんでもう教室にいるんだ?」


「今日は朝練なかったの忘れてて」


 竜宮 涼花は弓道部に所属している少しおとなしい少女だ。頭髪は校則を守り、黒髪を肩につくまでしか伸ばしておらず、どこか、子供っぽさを感じられる。

 弓の腕前はかなりよく、全国大会に手が届くほどだ。


「おれはなんとなくだな」


「そう言えば、昨日のサッカー部の助っ人どうだったんだ?」


「まぁまぁだな、2本しかゴール決められなかった」


 如月 潮はサッカー部に所属しているわけではない。スポーツ万能で何をやらせてもうまくこなすが、これといって打ち込みたいものがないため、フリーランスの傭兵さながら各部の助っ人をしている。


 しかし、スポーツバカというわけではなく、定期考査では学年5番以内の常連である。彼の校則に反する明るい茶髪が咎められないところも、進路担当の教師と有名大学に合格して学校の実績をあげるという密約があるためだ。


「ろくに練習もしてない奴がサッカー部相手に2本も取れればいいだろ」


「ハットトリック決めた方がかっこいいだろ」


 暫く、三人で雑談をしていた。昨日あったことや今日の授業の宿題確認などだ。流石に、二子木は昨日の出来事を話すわけにはいかなかった。当然信じては貰えないだろうし、万が一友人を巻き込む羽目になったら申し訳ないと思ったからだ。


「そう言えば尊がくる前に涼花と心理テストしてたんだよ、やるか?」


「おお、好きだぞ心理テスト、問題は?」


「ええっと」



 二子木が竜宮をみると、竜宮は手にもっていたティーン向け雑誌を二子木に中身が見えないように目線の高さに持っていく。


「えっと、『祖母の葬儀にでたグッドスプリング兄弟は、同じく祖母の葬儀に来ていた女性に恋をしてしまいました。その女性は弟の方を見て微笑んでいたようです。次の日、兄は弟を殺してしまいました。さてなぜでしょうか?』って問題なんだけど……」


「なんか……想像してたのと違うんだけど」


「最近流行ってるらしいぞ、こういうの、でどうなんだよ」


「女性を弟に取られないためだろ」


「尊はやっぱり一般人だね、安心安心、それに比べて涼花なんて


「お前ら席につけーホームルームをはじめる」


 白髪混じりの初老の男がそういいながら入ってきた。


「あれ、今日はやけに早いな、じゃあな尊、涼花」


 教室の中には、机が全部で37脚並んでいる。廊下側から、6、6、7、7、6、5といった感じだ。

 如月の席は教室に6列ある机の中で、廊下側から数えて3列目の一番前、ちょうど教卓の真ん前に位置している。

 対する、二子木は、廊下から5列目の一番後ろ、涼花はその目の前に座っている。


「日直、号令頼む」


 起立、礼、着席が終わると再びその男性教師は口を開く。


「さて、今日は急だが転校生が来ている」


 教室は瞬く間に騒ついた。隅々で男か女かやらなんやら憶測が飛び交う。


 しかし、教室の中1人だけその正体を知っている男がいた。 もちろん二子木尊その人だ。


『そういや、守るっていってもクラス違うならどうやって守るんだって話だよな、あいつもとから知ってたんじゃ』


「静かに、さぁ、入って来なさい」


 ガラガラと扉を開けて入ってきた人間は、もちろん陰府月玲だった。


 男共からの歓声はもちろん、女子からも好感的な言葉が聞こえてきた。


「はじめまして、陰府月玲です、皆さんに会えるのを待ち焦がれていました、もう何ヶ月もウフフ、特技は占いです未来もズバッと見通してしまえますよ、よろしくお願いしますね」


「はっ?」


 思わず、二子木の口から驚きの声が漏れる。なぜ、この女は自らの秘密を暴露しているのかわけがわからなかった。


「どうした、二子木」


「え、えっとなんでもないです、すいません」


 クスクスと笑う声が聞こえてくる。


「ならいい、そうだな、陰府月、いま奇声を挙げた奴の隣が空いてるだろ」


「ええ、お前の席ねーからってことでしょうか」


「いや、机を持ってくるのを忘れていてな、とりあえず、あの二子木って奴の机の上に荷物を置かせてもらえ、そして二子木、お前は罰として陰府月の机を用務員さんからもらって来い、あと空き時間にでも陰府月に学校を案内するように」


「はい……」


「陰府月、あとで二子木に学校の中を案内してもらってくれ」


「はい、承知いたしました」


 陰府月は黒板の前から二子木の方へと向かう。二子木は立ち上がり、陰府月の机を取りに向かおうとしていた。


「座って待っててくれ」


 すれ違うその時、陰府月は耳元で囁く。


「楽しくなりそうね」


 男共からの嫉みという妬みが二子木の方へベクトルを向け、Holy Shitな野郎共の制裁を受けなければいいなと思いながら、二子木は思う。まったく楽しくなる気配がしない。と



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