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デッドエンドは望まない!  作者: カヱ猿
学園天獄 Haven, not Heaven
11/35

第10話 その場の空気や気分に流されて取り返しのつかない事する奴ってよくいるよね

 昼休みが終わり午後の授業が始まる。

 外の天気とは違い恐ろしく不穏な空気を陰府月は纏っていた。


 二子木はそれを彼女の隣でひしひしと感じている。

 自分の所為によるものなのだろうが、何故かはよくわからないため、どう対処をすればいいのか分からないままだった。


 授業の途中、陰府月からノートの切れ端が渡された。

 〈放課後、私は旧校舎の裏から出るからそこで合流〉

 そう、かいてあるのを見ると、クラスに内緒で付き合っている初々しいカップルに見えるかもしれない。

 しかし、二子木と陰府月の関係はそんな単純な関係ではなかった。

 二子木は生きなければならないし、陰府月は生かさなければならない。

 二子木の命と陰府月の贖罪は一蓮托生だ。


 恐らく、陰府月は二子木とあらぬ噂が立つのを避けたかったのだろう。それが自身の保身のためか、二子木のためかは彼女自身にしか分からない。



 ◆



 6限は、身体測定だった。6階の家庭科室、音楽室で男女別に行われる。

 もちろん、廊下側のガラス窓は内側から新聞紙などで覆われ、男の嗜みである覗きなどはできない。


 家庭科室と音楽室は、同じ6階にあるが、その位置は正反対だ。新校舎には階段が三つあり、西に一つ、中央に一つ、東に一つという風に別れていた。中央階段はそのまま屋上へと階段が続いている。

 男子は西階段から上がり、家庭科室で身体測定を終えると中央階段から教室へ。

 女子は反対に、東階段から上がり、終われば同じ中央階段から教室へ戻る。


 身体測定前は、各会場と廊下で待機するため、教室に人間はいなくなってしまう。

 つまるところ、陰府月は二子木をその間一切監視できなくなってしまうのだ。

 陰府月は二子木に、いつでも階段では後ろと前を確認して手すりをつかんで降りるように言っている。

 そのため、いまさら階段から落ちたり突き飛ばされたりで死ぬとは考え難いが、それでも、姿が見えないと心配というものだ。

 恐らく恋では無い。赤ちゃんを見守るベビーシッターの気分が的確だろう。


 陰府月は初めてこの高校の体操着を着た。更衣室で着替えている時、なぜかわからないがやたらスタイルを褒められ、恥ずかしい思いをしていた。

 一年近く病院から出なかったその体は、肌も白く手足も細く伸びていて、身長がもう少し高ければモデルとして活躍していてもおかしくは無い。


 陰府月の順番が回って来た。廊下から音楽室に入ると、体重計と身長計両方の昨日を兼ね備えた測定機器と座高計が3台ずつある。

 その前に半袖短パンの女子が並んで、それぞれ列をなし並んでいた。

 本来なら、名簿順の列を作るのだが、陰府月を含めた最後の数人は好きなところに並んでいいと言われた。


 1番空いているところに並ぶと、二つ前に西原がいるのを陰府月は見つけた。

 西原も陰府月の存在に気がついたようで、不穏な視線が交差する。

 気にしないように後ろを向くと竜宮がどこに行こうか迷っているようだ。

 陰府月が手招きすると竜宮はこちらに近づいて来た。


「今日は初めて話すねー」

「そうね、また一緒にご飯食べてもらってもいいかしら」

「ぜんぜんいいよ!尊くんも潮くんも喜ぶよ!」


 そんな雑談を小声でしていると、陰府月の順番が回ってきた。

 測定器に乗ると自動で頭に計器が降り、身長と体重が計測され、それが終わると座高を計測し、その後退室する。

 陰府月は竜宮を待とうかと思ったが、二子木がすでに教室にいるだろうと思い先に行く事にした。


 階段には誰もいなかった。男子はもう終わったのだろう。女子は体操着に着替えるために一度更衣室に向かったため、男子よりも遅れて測定が開始されたのだ。


 階段を降りて4階の更衣室に向かう。頸城高校では、生徒の教室がある各階に更衣室があった。体育館にもあるが、基本的に女子生徒は自分の過ごす階の更衣室を使用する。男は大抵更衣室には行かず、自分の教室で着替えていた。


『なるべく早めにもどっておかないと』


 階段に足をつけるその時だった。

 背中に衝撃を受けた。

 バランスを崩し、まだ10段以上もある階段を転げ落ちる。


 考える暇も無い。

 一瞬で、踊り場まで転げ落ち、全身に痛みを感じつつも、意識を失った。


 階上には、一人せせら笑う影があった。

 

「誰か!誰か早く来て!!はやく!!」


 白々しく叫ぶその影は、陰府月の体へと近づく。額から血が流れてるようだ。その様子を見て口角を歪める。



 ◆



 陰府月の瞳に再び光が戻る。目の前にいるのは制服に身を包んだ二子木尊だった。

 いつも通り、と言ってもここ2、3日の事だが、普段と同じ日常に陰府月はいる。そう、思っていた。


 二子木は自分を覗き込んでいる。そして、彼の顔の背景はまるで天井のように白かった。

 というよりも、天井だ。そこで初めて陰府月は自分が仰向けになっている事に気がついた。

 陰府月は自身の腕を額に当てる。包帯が巻かれている事を認識した。体を起こそうとすると体の各所に痛みが走る。


「大丈夫か?」

「大丈夫よ、あちこち痛いけど」

「ならよかった」


 二子木は安堵のため息をつくと、後ろに伸びをした。


「その心配は私のため?それともあなたのため?」


 随分と鼻につく質問だ。自身でもそんな言葉が口からでてしまうとは思いもしなかった。

 すぐに陰府月は二子木の表情を(うかが)う。自分の失礼な言葉に気分を害してはいないか、気になったからだ。

 しかし、二子木の表情にそのような色は無い。


「もちろん俺のために決まってんだろ」


 最低な返しだ。しかし、二子木は微笑んでいる。陰府月は気を使われたと確信した。彼は最低な私に最低な言葉で合わせてくれたのだと。


「階段から落ちたみたいね」

「あぁ、西原が最初に見つけたらしいぞ」

「……西原さんがねぇ、あなたは何故ここにいるのかしら?別に出ていけという意味では無いわよ」

「お前が転校して来たその日、世話係に任命されただろ?だからだよ」

「変態執事がついてたわけね」

  「冗談が言えるなら大丈夫だな。先生が念のため病院で検査した方がいいってよ、頭打ってるみたいだし」

「私一つも冗談なんて言ってないのだけど。そうね、また親でも呼ぼうかしら」


 そう思い、携帯を取り出そうとポケットに手を突っ込むと携帯とは違う感触を感じる。

 取り出して見ると、四つ折りの紙切れだった。

 〈ざまあみろ〉


 そう書き殴られていた。



 ◆



 携帯はカバンの中にあったためその場で電話をかける事は叶わなかった。

 かわりに保健室の先生が、親への連絡、病院への送迎をお願いした。保健室の先生は快く受け入れてくれ、二子木に陰府月の荷物を持ってくるよう頼んだ。

 そもそも、先生は自分が病院へ連れて行くと考えていたし、それが職務でもあったので、『わざわざお願いなんてしなくていいのよ』と答えてくれた。


 病院へ向かう車中、二子木は陰府月に詳しい経緯を説明した。


「お前が落ちた後、西原が音に気付いて発見したらしい。授業中のクラスの先生が西原の声に気付いて、息がある事を確認すると保健室に運んで、担任に連絡が行き、俺が保健室で様子をみてるように言われた訳だ」


「じゃあ、私が倒れた後私の近くにいたのは西原さんだけなのね?」

「あぁ、先生が近づかせなかったらしい。西原もすぐに剥がされたみたいだな、保健室に来てからも俺以外の生徒は近づいてないけど、なんだ?おまえ他人に触られるの嫌なタイプ?」


 陰府月は、二子木が少し分からなくなってきた。さっきみたいに、鋭く人の思いを察知できるかと思えば、今みたいに鈍い返答をする。もしかしたら、鋭いがためにあえて鈍感な答えを出したのかもしれない。

 どちらにしろ、彼を少し見くびっていた、彼はただの変態では無いと陰府月は思わざるを得なかった。


「もうすぐつくわよ、お母さんが病院についているそうよ」


 今まで話に口を出さなかった先生が、終点の知らせを告げた。


「尊、おそらく今日はここでお別れになるわね、今の所何も見えないから大丈夫だと思うわ」

「あぁ、分かった。お大事にな」


 病院は車でほんの5分くらいのところにあった。二子木の家からもほど近く荷物持ちを兼ねて自宅近くまで送ってもらった事になる。

 先生は急ぎ学校に戻らねばならない用事があったようで、陰府月の母親に経緯を説明し、その内容のメモを渡すと帰って行った。


『娘とは違って、おっぱいでかいな』


 そんなアホな事考えながら、陰府月玲の荷物をその母に預けると、なにやら陰府月に耳打ちをしていた。

 陰府月玲は頬を赤く染め、なにやらまた耳打ちをしている。

 それを聞いた母の方は二子木に近づき、

「どうもありがとうございます、変態執事さん」

 と言葉を残すとにこやかに去って行った。

 二子木は誰もいなくなった病院の前で一人になる。


「ぞくぞくした」


 そんな独り言を病院の前でポツンと漏らした。



 ◆



「あぁ、あなた。やっぱりバカだったのね」


 誰も寄り付かない旧校舎の音楽室、いつの日かの3人が集っていた。


「つい気分がスカッとしちまったんだよ!てかどうしようこれ、確実に私がやったってバレるじゃねーか!」


 西原は今日起こった事を、嬉々として二人の前で話してしまった。それを聞いた二人は呆れ顔で西原の言い訳を馬耳東風に流している。


「みっちゃんさー、そういう仕事するのってとくいじゃなかったっけー?ほらあの男たち使ってさーあ?」


 桐谷と呼ばれる少女は机を並べその上にうつ伏せに寝転がりながらそういった。


「あいつらさんざん尽くしてやったのに、この前勝手にいなくなりやがったんだよ!ほんとにつかえねーわあいつら」

「ビッチの末路は哀れね」

「抱かれ損だったねーみっちゃん」

「おい、なんかアバズレみたいな扱いしてるけど、片手に収まる人数としかしたやってねーからな」

「回数は伏せるのね」


 雪の言葉を無視し、西原は輪から外れ、黒板の前まで移動する。そして、黒板を強く叩いた。


「どーすればいいか考えろよマジで!さもないと黒薔薇の会参上って陰府月の机に入れんぞ!マジで!」


「「うわー引くわー」」





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