俺と記憶と二人で鍛練
作者は夢を見た。
どこの国かは分からないが、日本では無い事は確かだ。
少し細め下り坂が延々と続いていて、道の両脇には沢山の家がある。
…ふと何かの音が聞こえてきた。
作者が振り返ってみると、作者のいる更に上の方の道から3人の男が現れた。……何故かスケボーに乗って。
そういう競技中なのだろうか?
どうやら自分は幽霊のようなもので、三人を宙に浮きながら追う事が出来るらしい。
1.2分追いかけていると、後ろから黒い霧の様な物が来た。
それがなんなのか暫く見つめていると男たちが“それ”に気づいたらしい。
「おい! 来たぞ!!」 「分かってる! 全力で行くぞ!!」 「ちくしょう! まだ追ってくるのかよ!?」 「いいから逃げるぞ!」
男たちは先ほどよりもはるかに速いスピードで走り続ける。
表情もかなり真剣だ。
そして、その時突然頭に知識が流れ込んできた。
『この男たちは、ただ蜂の集団から逃げているだけである』
無駄にアクロバティックな動きをしながら逃げて行く男たちの背を見送り「えぇ~」と夢を見始めてから初めて声を出して…
そこで目が覚めた。
実際に、小・中・高・そして今回の分を足して4回、この夢を作者は見た。
『十夜…君に大事な話があるんだ……』
『驚くかもしれないけど、最後まで聞いて頂戴……』
『だいじなはなしってなに? おとーさん。おかーさん』
この声は…父さんと母さん……? 子供のころの俺の声もするな。
これは…夢、か……?
『あのね…、十夜は…僕とアリシアの実の息子じゃないんだよ……』
『…? どういうこと……?』
ああ、そうか。これはあの時の記憶か……。
『ごめんなさい。本当はもっと十夜が大きくなってから話すつもりだったの……。でも、昨日言った通り、朝一さんは外国に行ってしまうでしょ? 十夜と面と向かって話せる内に話しておく事にしたの。下手にズルズル引っ張って話せなくなったりしたくも無かったから……』
『えーっと……、ぼくがおとーさんとおかーさんのじつのむすこじゃないって、どういうことなの?』
もう何年前の記憶だったか……。
親父がまだ日本にいたのはかなり昔だったから、確か俺がまだ幼稚園に行っている頃だったか?
最低でも10年以上前の記憶だなこりゃあ……。
『…あのね、十夜。あなたは…ね、本当…は…うぅっ』
『アリシア、僕が言うよ。…十夜。君の本当の親は…僕達じゃない。君は……僕の親友の子供なんだ』
泣き出してしまった母さんの代わりに、父さんが決定的な部分を言った。
……ったく、何で今更こんな物が夢に出るんだか……。
『えーっと…じゃあぼくのほんとうのおとーさんとおかーさんはどうなったの?』
『っ! 君のお父さんとお母さん…黒神真と、黒神美春は……死んじゃったんだよ…。交通事故でね……。もう、会えないんだ……』
『……なんで、ふたりはぼくにそのことをはなしたの?』
……………。
『そうだなぁ…。君に、嘘をつき続けるのが出来ないと思ったからさ。…どっちにしろ僕の弱さ、かな。僕が遠くに行く直前になってから話すなんてね……』
『あなた! そんな事言っちゃ……』
『いいや、アリシア。これは…まごう事無き、僕の弱ささ。…本当にすまない、十夜……。僕は、君の父親失格だよ……』
『……おとーさんは、よわくなんてないし、ぼくのおとーさんだよ……』
『っ! …まだ、僕をお父さんと呼んでくれるのかい……?』
『だって、ぼくはほんとうのおとーさんもおかーさんもしらないんだもん。ぼくのおと-さんとおかーさんは、いままでいっしょにくらしてきたふたりだけだよ』
『そうか…ありがとう。本当に……ありがとう………!』
『ありがとうね…十夜……!』
父さんと母さんは完全に泣き出してしまったようだ。
『おとーさん…おかーさん…ないてるの……? どこかいたいの?』
『うふふ…十夜、大丈夫よ。痛い所なんて無いわ。私達はね、嬉しくて泣いてるの』
母さんが、涙を流しながら美しく笑った。父さんは何か言おうとしていたけど、今はそれすら出来ないほどに号泣してしまっている。
―――――思えばこの時の母さんの笑顔は、雫の笑顔によく似ている。
やはり雫は、母さんの娘なんだなぁ…と、今更ながら思った。
『えっとね……おとーさん、おかーさん。これからあらためてよろしくおねがいします』
『うぅ…グスッ…十夜…! うん! これから、また、よろしくね……!』
『うふふ…あらあら、十夜ったら一体どこでそんな言葉覚えたのかしら♪』
……やっぱり、俺の父親と母親はこの人達しかいない。
胸を張ってそう言えるんだから、それで良いのだろう。
「―――――やはり夢、か……」
本当に懐かしい夢を見た。
そういえば最近両親に電話してないな…。
久しぶりに電話してみるか……。
まぁそれは学校から帰ってからにするか。朝はあんまり時間が無いしな。
夢の内容についてだが、雫には話すべきなのだろうか?
確か雫には、俺が家族の中で誰とも血が繋がっていない事を知らない筈だ。父さんと母さんが俺に話した時、雫はまだ小さかったしあの時は眠っていた筈。
……まぁ聞いていたとしてもあの娘の記憶に残っているとは思えないしなぁ……。
んー…、話すべきか、話さないべきか……。
待てよ? もし雫が俺と血の繋がりが無い事を知ったら……。
『あたしと兄貴とは血が繋がってない…? ッ!? だったら、あたしは兄貴と結婚出来るんだな!? よっしゃあ兄貴! あたしと結婚しよう! 血が繋がって無いんだったら大丈夫じゃねーか!!』
おうふ。何とありえそうな未来………。
こりゃ話さない方がいいか……?
まぁなんにしても、父さん達に聞いてからだな……。
とりあえずは起きて、今日の鍛練に行くとしよう。
「さってと……あれ?」
布団から出ると、雫がいない。何故だ?
いつもならまだあいつは寝てる筈……
「あ、兄貴。やっと起きたのかー?」
あ、いた。しかももう着替えてる…?
「何でお前もう起きてるんだ? いつもならまだグースカ寝てる筈だろ? 俺を起こす必要も無いし……」
昨日も結構早くに寝たからな。おかげでスッキリした目覚めだし。
「それはな……今日からはあたしも、兄貴と一緒に朝の鍛練に参加するからだ!!」
へー……え゛?
「何で……?」
こいつがまともな理由でこんな朝早くから起きるだと? ありえない。俺が雫を嫌いになる事ぐらいあり得ない事だ。俺は雫が大好きだからな!
……話がずれた。とりあえず本人に聞いてみよう。何故鍛練に参加するのかを。
「何で鍛練に参加する気になったんだ? 今まで『朝早く起きてまで体を動かすのは嫌だ』って言ってたじゃないか」
「そんなの兄貴と少しでも一緒にいたいからに決まってんだろ?(兄貴を狙う泥棒猫も増えたし(聡里の事)、あの美咲も兄貴のファーストキスを奪いやがったんだ……、少しでもあいつらより長い時間兄貴と一緒にいて優位に立っておかないとな……)」
やっぱりまともな理由じゃ無かった。
一緒にいたいだけって…、そりゃ嬉しいっちゃ嬉しいがなぁ……。
「そんな理由で参加されても、正直付いて来られるのか怪しいけど大丈夫か? それに体を動かす以上どうしても多少は汗もかくし、朝から二人シャワーを浴びてたら時間もきつくなるんだが……」
別に参加自体は良い。寧ろ雫が理由はなんにしろやる気になってくれて嬉しいほどだ。
でも、どうしても時間がなぁ……。俺一人でも結構時間がかかるってのに。
「何言ってんだよ。あたしを起こすのに使う時間が無くなるんだから、その分の時間を考えたらあたしがシャワー浴びる時間ぐらいにはなるんじゃねーか?」
……そういえば毎日雫を起こす時、程度の差はあれど結構な時間が掛かっていたような……。
しかも起こした後また二度寝しないように声を掛けたり、どうしても目が覚めない雫にコーヒーを入れてやったりした事もあるから、もしかしてそれが無くなったら雫のシャワータイムぐらいにはなる…か……?
「――――――分かった。でもなるべく早くシャワーを浴び終われるようにしないと駄目だぞ。俺が好きでやってるだけの鍛練だからな。それに参加させて遅刻なんてさせたくないし……」
「んな事分かってるよ。あたしだって別になんの考えも無しに参加する訳じゃねーからな(嘘だけど…。でも兄貴はカッコいいなぁ♪あたしの為に鍛練してる癖に、それを『好きでやってる』だなんて…あぁ、こんなにカッコいいから他の女どもが釣られて行くんだよ。……そりゃあたしの事を大事に思ってくれるのは嬉しいけどさ)」
なんか雫のかおが赤くなった…?
もしかして熱でもあるのか……?
「お前風邪とか引いてないだろうな。……ちょっと熱測るぞ」ピトッ
雫の額に俺の額を当てる……ふむ、別に風邪を引いてるわけではないっぽいな………。
「んな!? いきなり何すんだぁ!?」
「いや、顔が赤いから熱でもあるのかと…っておい、さっきよりも赤くないか? 熱があるなら鍛練は止めておいた方が……」
そのせいで風邪が悪化なんてしたら目も当てられんぞ……。
「う、うるせー! さっさと鍛練行くぞ!? あたしは先に外行くから、兄貴も早く来いよな!!」ダッ
「ちょ、待てって!」
全く……まぁあれだけ元気なら大丈夫か。
すぐに着替えた俺は、雫を追って外に出た。
さて、今日も頑張りますか!
十夜爆発しろ。
……いや待て! 俺と変わるんだ!!
あ、前書きのあれは事実ですよ?
4回見たって所も本当です。
ちょっと前書き長過ぎたかな……でも実際に見た事だし、今回の話が夢から始まるからな……。
感想で指摘されたミスを修正
なんという致命的ミスorz