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『オーレリア戦記』  作者: りあと
『オーレリア戦記』帝国歴324年
219/287

『聖堂を包む光の中で』

帝都オクタヴィア。 久しぶりの吉事に沸いたこの新年。 いつの頃か、春宮に住み着くようになった大きな白鷺が、新たに生まれた赤ん坊を見守るように佇んでいる。皇太子妃が産んだ女の子は『白鷺姫』の意味を成す『シェルランテ』と名付けられた。シェルランテを取り巻く奇妙な現象は生後すぐから始まった。一瞬目を離すだけで、部屋中が宝物だらけになるのである。宝石、絹、綿布、果物。後宮は緘口令を敷いたが、人の口は抑えられるものではない。ただし、シェルランテが生み出した宝物類は惜しげもなく世話する者へ配られたので、女官や宦官はこぞって皇太子妃の居館である春宮で働くことを望んだのであった。

厳格なしきたりに満ちた後宮で唯一、異質な人物がいる。 名前をココロギ・サイリュンという。 彼女は後宮の聖堂、『真理の光教団』の巫女として、自由に外にも後宮にも出入りできる珍しい立ち位置の人となった。宮廷はあの忌まわしい事件を国教としていた天信教の呪詛によるものとし、天信教を国外追放とし、資産や財産はすべて没収とした。聖堂の多くは『真理の光教団』の聖堂として改修されるか、取り壊されていった。後宮にも『真理の光教団』の聖堂が設けられて、ココロギが巫女として常駐することになったのである。彼女が後宮にて『四つ葉様』と呼ばれているのは、『真理の光教団』の象徴が『四つ葉のクローバー』であるからであった。 聖堂の庭にはクローバーが絨毯のように植えられ、放されたウサギが数匹、自由に草花を食んでいる。

◇

オルゴールの透明感のある音色が聖堂の高く澄んだ天井へと響き渡り、やがて静けさが訪れた。 ステンドグラスから差し込む柔らかい午後の光が、聖堂の静謐な雰囲気を優しく包み込んでいる。 巫女が白の祭服を身に纏い、静かに壇上へと歩み出た。

「これより、新しい命を神の御前に捧げ、聖なる洗礼の儀式を執り行います」

最前列の席から、皇太子夫婦が愛おしそうに赤ちゃんを抱きかかえて立ち上がった。赤ちゃんの傍らには、穏やかな笑みを浮かべた代母セシリアが並んで歩みを進める。赤ちゃんの身を包むのは、純白の洗礼ケープ。まだ世の汚れを知らない無垢な姿が、光の中で一際鮮やかに浮かび上がっていた。

「両親ならびに代母よ。あなた方は、この子を『真理の光』の教えに従って育て、神の愛の中で育んでいくことを誓いますか」

ココロギの問いかけに、父親と母親、そして代母は深く頷き、声を合わせて応えた。

「はい、誓います」

その声は静かでありながら、確かな決意に満ちていた。 ココロギは、大理石で作られた精巧な洗礼盤へと向かった。洗礼盤に満たされた聖水に手が差し伸べられ、短い祈りが捧げられる。

「主よ、この水を祝福し、この子を新しく生まれ変わらせたまえ」

皇太子に支えられながら、皇太子妃がそっと赤ちゃんを洗礼盤の上へと差し出した。赤ちゃんは、見慣れぬ光景と静けさの中で、大きな瞳をくりくりさせながらココロギの顔を見つめている。 ココロギは銀の小さなシェル(貝殻)で聖水をすくい、赤ちゃんの小さな額へと優しく注いだ。

「『真理の光』の教えにおいて――あなたに洗礼を授けます」

ひんやりとした水滴が額を伝うと、赤ちゃんは「うあぁ」と小さな声を上げて手足をバタつかせた。巫女の温かい手がその頭を優しく包み込み、聖油を額に塗って祝福のしるしを記す。

「恐れることはありません。あなたは今日から、神の愛される子となりました」

続いて代母の手から小さな洗礼ろうそくへと火が灯された。ゆらゆらと揺れる小さな灯火は、「世の光」として歩んでいくこの子の将来を照らす象徴だ。 大きなオルゴールが再び祝福のメロディを奏で始め、参列者たちからあたたかな拍手が送られた。

母親の胸の中に抱き戻された赤ちゃんは、注がれた水の感覚に少し驚いたようだったが、母の温もりを感じるとすぐに安心したように瞳を閉じ、小さな吐息を漏らし始めた。 聖堂を包む光の中で、新しい生命の祝福された歩みが、静かに始まったのであった。

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