『ラーナの美しき巫女』その5
光と緑の奇蹟によって完全に活気を取り戻した一行は、次なる目的地へと足を向けた。ルシアが案内したのは、先日の激しい戦闘の際、自らの手で派手に破壊してしまった正面の城門だった。無惨に崩れ落ちた巨石が転がるその場所で、ルシアは再び静かに右手を掲げる。空間がうなりを上げ、砕けた石塊が生き物のように宙へと舞い上がった。それらはパズルのピースが組み合わさるようにして寸分の狂いもなく元の場所へと収まり、かつての威容を誇る堅牢な城門が、またしても一瞬にして元通りに修復されたのである。市民たちはもはや驚きを通り越し、神への祈りにも似た歓声を神聖な城門へと捧げていた。
やがて古都ラーナに穏やかな夜の帳が降りる頃、ルシアの計画による祝宴の舞台は、広大な野外演劇場へと移された。戦火を免れた劇場の客席は、昼間の奇蹟を目の当たりにして興奮冷めやらぬ市民たちと、彼らを静かに見守る聖騎士たちで埋め尽くされている。
松明の柔らかな炎が揺らめく舞台の上に、純白の衣装を纏ったルシアとセシリアが静かに姿を現した。二人の前には、古風で優美な弦楽器――古琴が置かれている。
二人が息を合わせ、静かに指先を滑らせると、夜の静寂を震わせて幽玄な調べが響き渡った。一音一音が高く、深く、古都の夜空へと吸い込まれていく。ルシアの奏でる凛とした旋律と、セシリアの奏でる包み込むような温かな音色が完璧な調和を生み出し、観客たちの心を瞬く間に魅了していった。昼間の熱狂はどこへやら、演劇場は水を打ったような静けさに包まれ、誰もがその神聖な演奏に深く聞き惚れていた。
演奏が終わり、割れんばかりの拍手が沸き起こる中、今度はベルトトが舞台の脇へと進み出た。彼は慣れた手つきで小堤を抱えると、軽快で小気味よい音を響かせ始める。そのリズムを合図に、ヴィオが鋭い足取りで舞台の中央へと躍り出た。
月光を浴びて、ヴィオの構えた細剣が鋭くきらめく。ベルトトの叩く小堤の音色に合わせ、ヴィオは純白の装束の裾を翻しながら、激しくも美しい剣舞を舞い始めた。空を切り裂く剣の軌跡が、まるで幾重もの光の帯となって夜闇に浮かび上がる。その一糸乱れぬ躍動感あふれる演舞に、聖騎士たちからも熱い歓声が上がった。
ヴィオの剣舞が鮮やかに決まると、続いてココロギが静々と舞台の真ん中へ歩み出た。
ココロギは両手に持った華やかな扇子を優雅に広げると、小さく一礼した。彼女は「芸術の都」「花の都」と称される麗しきルミナリアで生まれ育った娘である。普段の気弱で頭を下げてばかりいる姿からは想像もつかないほど、ひとたび舞を始めると、その一挙手一投足には洗練された気品が満ちあふれていた。扇子が描く柔らかな曲線と、夜風にふわりと舞う衣装の動きは、まるで舞台の上に大輪の花が咲き乱れているかのようだった。観客たちは彼女の優雅な身のこなしに息を呑み、惜しみない賛辞の拍手を送った。ココロギは少し照れくさそうに、しかし嬉しそうに「へへへ」と微笑んだ。
宴が最高潮に達し、夜もいよいよ更けてきた頃。ルシアは隣に座るセシリアの肩をそっと叩き、夜空を指差した。
「お母様、ご覧ください。これが今夜の、私からの本当の贈り物です」
その言葉が終わるか終わらないかのうちに、ヒュウゥゥ……と夜の静寂を切り裂くような鋭い音が響き渡った。市民たちが一斉に天を見上げた瞬間、古都ラーナの夜空に、これまでに見たこともないほど巨大な光の大輪が鮮やかに弾けた。
ドォン、という地響きのような重低音とともに、赤、青、金、紫といった色とりどりのきらめきが夜空を埋め尽くしていく。ルシアがあらかじめ精緻に計画していた花火大会が、ついに始まったのだ。
次々と打ち上がる光の芸術は、夜闇をまるで昼間のように明るく照らし出し、美しく再建された城門や、花々に彩られた石橋を鮮やかに浮かび上がらせた。
「おお……! なんという美しさだ!」
「まるで星が降ってくるようだ!」
集まった市民たちからは、地鳴りのような大歓声と歓喜の叫びが巻き起こった。戦火の恐怖に怯えていたかつての記憶は、この圧倒的な光の祭典によって、完全に人々の頭から吹き飛ばされていく。
セシリアは、次々と夜空を彩るまばゆい光に顔を照らされながら、子供のように目を輝かせて歓声を上げていた。そして、満面の笑みを浮かべて隣の愛娘の手をきゅっと握り締めた。
「素晴らしいわ、ルシア……本当に、言葉にできないほど美しくて、楽しい夜ね」
母のその心からの笑顔を見て、ルシアもまた、胸の奥が温かな幸福感で満たされるのを感じていた。
「お母様に喜んでいただけて、私も嬉しいです」
美しく、そしてどこまでも楽しいラーナの夜。二人のもたらしたまばゆき光と豊かな緑、そして夜空に咲いた大輪の炎は、戦後の重苦しい緊張感を完全に消し去り、古都の民の心に、未来への確かな希望の光を灯したのだった。




