前世は王太子の婚約者の公爵令嬢だった私が通りますよ
ヤスゾー様の「スケバン悪役令嬢!」
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を読ませていただいて、新鮮で面白かったので、私もこういう転生ものが書いてみたいと思って書きました。
8月5日、[日間]コメディー〔文芸〕 で1位になってました。身に余る光栄をありがとうございます。
高級車の助手席。恋人である隆が運転している。
「やっぱり、反対されてるんじゃない?」私は聞いた。
「まあそりゃね。親はそれなりの家のお嬢さんと結婚させたかったみたいだからね」
「そうよね…私みたいな、貧乏サラリーマンの娘なんて、嫌でしょうね…」
「しょうがないよ、俺は君と結婚したいと思ったんだから、あきらめてもらうしかない」
「……」なんなんだろ、しょうがないって。もうちょっと言い方ないのかな。
「とにかく、親の前であんまりみっともない姿は見せないでくれよ? 俺が恥ずかしいから」
「はい…」
車がエントランスに止まった。「庶民お断り」と言わんばかりの立派なホテル。
その一流ホテルの中の、一流フランス料理の店。
ご両親との顔見せに、こんなとこ指定してくるなんて。
「恥をかかせるために選んだとしか思えないわ」車を降りながらつぶやいた。
「ん? 何?」ドアマンに鍵を預けて中に入る隆。
「なんでもない」と言いながら、小走りで後をついていく。
最上階のフレンチレストラン。場所も値段もお高い。怖い。
隆のご両親は先に店に着いていた。「ご案内します」店の人が席へ案内する。
緊張で震える。どうしよう、マナーとか、一応本を見てきたけど、ちゃんとできるか自信ない!
いた。あれがご両親か。高級そうなスーツを着た脂ギッシュなメタボハゲと、ブランドロゴが歩いてるみたいなツーピースにじゃらじゃらブランドアクセ。絵に描いたような成金夫婦だな。
「父さん母さん、彼女が今つきあってる人だよ。戸ノ下ななのさん」
隆が紹介したので、あわててお辞儀して「戸ノ下です! はじめましてよろしくお願いします!」と言った。
「そうなの」
「ふーん」
座ったまま、汚い物でも見るような顔してそう言った。うわあ、反対モード全開じゃん!
「座ったら?」ブランド奥様が言う。
うう、確か、こういう店って、店の人が椅子を押してくれるのよね…うまく座れるかしら…。
緊張しながら「失礼します」と言って腰をおろした時、
あれ?
私、なんかこういうの、慣れてる気がする?
と思った途端、頭の中に別の人生の記憶が流れ込んできた。
貴族、公爵家、侍女、王家、婚約、王太子妃教育、婚約破棄、毒杯…
……私、前世で、異世界の公爵令嬢だったわ!
王太子と婚約したから、王太子妃教育を受けたけど、王太子の心変わりで婚約破棄されて、王家の秘密を知ってたせいで毒杯を飲まされたんだったわ!
それで死んで貧乏サラリーマンの家に生まれ変わったってこと? そうなの?
「ななの?」隆がけげんそうな顔でこっちを見てることに気づいて、あわてて「あっごめんなさい、ちょっとぼんやりして」と言った。
「こんな店来たことないでしょうから、緊張で固まってたんでしょ?」ブランドが意地悪く言う。
「ああそうか、それじゃしょうがないか」
納得すんなよ失礼なこと言われたんだよ怒れよ。
「メニューもワインも選んでおいたわ。隆は車だからノンアルコールよね」
「うん、さすが母さん」
さすがじゃないよ。勝手にメニュー決めてんじゃないよ。アレルギーの確認とかしろよ。私にはアレルギーないけどさ。
でも公爵令嬢の記憶を取り戻した私にとって、そんなのはささいなことだった。
ここにいるのはみんな平民。平民が貴族ぶって偉そうに食事をしてるだけ。
本物の貴族の中で暮らしてた私にとっては、ごっこ遊びにしか見えない。
「アミューズ・ブーシュです」給仕が小さい前菜を持ってきた。
ふうん、一皿ずつ持ってくるのね。この世界だと、毒見の必要もないから、気楽に口にできていいわね。
私は背筋をのばして、外側のカトラリーを使って優雅に食してみせた。
どのナイフとフォークを使うかわからなくて、おろおろするのが見たかったんだろうけど、おあいにく様。あんたらより慣れてるわたぶん。
「とてもおいしいです」とにっこりして言ってやると、ちょっとひるんだように「そ、それは良かった」と、顔をゆがませて笑った。ふふふ、楽しい。
オードブルが、スープが、そして魚料理が運ばれてきた。
骨付きまるごとの舌平目のムニエル。
わかりやすく食べにくいのを選んでて笑える。
もちろん慣れてるので優雅に食べる。隆もご両親も、ガチャガチャ音を立てて苦戦してる。みっともないのはどっちよ。人を陥れる前に、自分のマナー見直せ。大口開けるな。
「あなたのお父さんはモグモグ、聞いたこともない会社の係長だそうね」
口にもの入れた状態で喋るな、と思ったが、我慢して
「ええそうです」と答えた。
「そんなもぐもぐどこの馬の骨かわからないような子、うちの隆ちゃんにはふさわしくないと思うんだけど、どう思う? もぐもぐ」
平民のくせに、何様のつもりなんだろう。
「母さん、俺がななのをもぐもぐ選んだんだ、ふさわしくないとか関係ないんだよ」
おまえも飲み込んでから反論しろ。
「しかしもぐもぐ、うちの財産目当てかもしれんからな」ハゲおまえもか。
しかも財産目当てって。平民だろ? 平民が小金持ちになったからって偉ぶるなよみっともないな。
「ごくん。そんなことないよ。ななのは倹約家だし、結婚しても働いてもらうし、俺がななのの給料もがっちり握るから、無駄遣いはさせないよ」
うわ、私が稼いだお金まで握るつもりだったの?
「でもなあ、何かあったら遺産が転がり込むからなあ。ぱくもぐもぐ、遺産目当てで殺されちゃかなわないし」
「ほんとよ、卑しいぱくもぐもぐ人間と一緒に居たら、隆ちゃんまで卑しくもぐもぐなっちゃうわよ」
「ぱくもぐえ~、俺も感化されてるのかなもぐもぐ?」
私は、ナプキンで口を拭きとると、食事の途中だが立ち上がって、「では、感化される前にお別れしましょう。さようなら」と言った。
「え」「なんだって」「ななの?」
スタッフに「お料理、ここまで本当に美味しくいただきました。残りのコースを頂けず、シェフにも大変申し訳ないとお伝えください」と伝え、レセプションで自分の分の会計を済ませた。
親の暴言をたしなめることもできない恋人なんか願い下げだ。
なにより、飲み込んだと思ったら、またすぐに食べ物を口に入れて喋る神経が、どうしても許せなかった。
公爵令嬢として厳しくしつけられた私にとって、あの家族は動物にしか見えない。
隆との結婚は玉の輿だったかもしれないけど、王族への輿入れがどれほど大変だったか知ってるし、貴族ごっこみたいな暮らしなんて絶対嫌だ。せっかくこんな、身分で縛られることのない、平民天国の国と時代に生まれたんだし、平民の暮らしをエンジョイしたい。
誰にでも話しかけられる、どこにでも行ける、結婚相手を自分で探せる!
こんな幸せの中で生きてることを、今まで気づかなかったことにびっくりだ!
さあさあ、元公爵令嬢の平民が、手始めに、合コンに行くわよー!
五十音順で、「と」の下「な」なの、というどうでもいい理由でつけた名前ですが、「とのした」は「殿下」っぽくていいなあと思ってます。
あとフランス料理! 全然わからないのでAIさんにたくさんお世話になりましたありがとう!




