そこはさらっと守ってくださいよ。
こんな生活嫌だ。貴族生活をしていた王女がある若い男性俳優と出会い冒険が始まる。そんなファンタジーストーリーです。
ここは、よくある洋風建築の城の中、貧しい一国の姫は言う。
「もう嫌、こんな退屈な生活。凝ったソースをかけた冷たい料理に、部屋の庭園は見飽きたし。お付きの者がいつも見ているし。」
こっそり手に入れた、観光ガイドブックのページを眺めながらそうボヤく。鏡に映るその姿は童顔で背も低く歳16歳程度だろう。
その時、東の山から大きな轟音を共にひとつの大きな物体が領地に不時着する。ゆっくりをその飛来した物体の扉が開き、一人の武将が現れた。
世に言う織田信長その人である。
「めっちゃイケメン。して、そこの男、我が国に何の用で参られた。」
白い西洋甲冑に身を包んだその女性騎士は白馬に跨り信長に尋ねる。
「この国にガスステーションは、あるか?補給を行い次の星へ行きたいのじゃが。」
「化石燃料なら隣国が採掘を始めたばかりだ、それが狙いか?」
「狙いというか、お願いなのだのが…、」
「怪しいな、この国に害を及ぼすかもしれん。衛兵、この者を拘束し城へ連れ帰るぞ。」
「無礼者、名を名乗れ!」明智光秀がそう叫ぶ。
「私か?私はシモーヌ。女騎士団の団長を勤めている。さっさと馬を降りてついて参れ。その飛行物体はあのコインパーキングに置いておけ。ここには部品回収を装い盗みを働く者も多い。先ずは、城で姫に謁見して事情を話すが良い。」
白騎士シモーヌは顔を緩め、放った厳しい言葉とは裏腹に瞳をキラキラと輝かせ、信長を手引きして飛来した乗り物の乗組員を指定した場所へ移動させる。
一頭の早馬を伝令にし、家臣を城へ向かわせた。
『姫様、イケメン男子の軍勢をゲットしました。お城へ連れて帰りますのでお楽しみに!』
それだけ書き示すと、部下に手渡しシモーヌは青空に目をやり、様々な草花が咲く野道をゆっくりと帰路につく。
城に到着すると姫の居る玉座の間に到着した。シモーヌは姫に謁見し、囚われの身となった信長一行と出会う事となった。
「その者達か、我が領土に侵入した輩は。」
「イケメンでございます。」
「そうか…。これが。」
「はい。これが、姫が所望のいいオトコにございます。」
「私は、もっと笑顔の素敵な良い若人を期待しておったぞ。」
「…。違ったかー!」
シモーヌは額に汗を浮かべ、叱責を覚悟した。
「して、名を何と申す。」
「ほら、名を申せ。」
「え、ああ。俺が織田信長で、こっちの髭の無いのが明智光秀。実は撮影用の送迎機体がガス欠を起こしそうになって、この領土へ不時着を致しました。」
「なるほど。その衣服から察するに、転移したのであろう。この様な現象は過去にもあった。取り敢えず風呂場で汗を流し、着替えるが良い。武器は持っておらぬな。」
「私たちが住んでいた国では、武器の所有は法律で禁じられております。持ち込みは全くございません。」
そう、この男たち、名前こそ名だたる名称だが只の歴史オタクの大学生。京都で撮影していた最中にセットと思っていた転移装置にうっかり乗り込んでしまい、空高く爆音と共に打ち上げられちゃったのだ。
「状況は判ったわ。安心していいわよ。我が国は『困った時はお互い様。皆んな仲良く平和な世界』を掲げた国なのよ。故障した期待で戻れるまで、ここで仕事をしながら、修理すれば良い。移動は、空飛ぶ空中スクーターがあるので、それを使って国内を移動していいからね。」
「いいんですか。そんなに適当で。」シモーヌは呆気にとられて姫に尋ねる。
「シモーヌ。こんなど田舎の自然しか取り柄のできる辺境国で来訪者の変わった話が聞けるのだから、容易いサービスだよ。疲れを取りゆっくりと観光を楽しむが良い。お茶席の演芸をお願いしても良いかな。お二人さん。」
「ええ。それは喜んでさせていただきます。お心遣い有り難うございます。」
そしてその日の夜、二人の歓迎の宴が城で催される事となった。
「乾杯!」
皇族や国の重鎮たちが集められ、曲が流れる中でワルツを踊る人々。そして国の大道芸人達が芸を披露する。
「信長、そして光秀とやら、お主らは東方の国から来たそうじゃな。」一人の老人がそう尋ねた。
「そうでございます。おおよそここの文化とは程遠い雰囲気です。」
「よいよい、そう硬くならなくても。ここは田舎の野菜した育ててない農業国じゃからな。」
「お父様、また酔って、御免なさいね。」隣にいた娘がそう言った。
「ここには若い男性が少ない様ですが、どうしてです?」光秀はその男に尋ねる。
「ここに居ても、見慣れた親族と顔を合わせ、同じ景色を眺めるばかり、手に職をつける為、皆他国へ出ていくのだよ。」
「気持ちは分からなくもないですが、この国は女の子ばかりになっちゃって男手が無くて困ってるの。」娘はそう言った。
「男手が足りない。それは大変ですね。農作業もままならないでしょう。」
二人は正座してその話に耳を傾ける。城の外は野ばらで咲き乱れ、田園では菜の花や色々な小さな名も無い草花が咲き誇っていた。宴も終わり。二人はシモーヌの家で預かる事となった。
「もう直ぐ桜の樹が花開くでしょうね。」デニム姿にポロシャツ姿に着替えた二人は居間に通され、シモーヌから今の国の状況に耳を傾ける。
「交通網はどうなんですか。」
「町と町を結ぶ列車の他は馬車がある。」
「では、自動車はまだ普及していないのですね。」
「ああ、でも空を飛ぶ乗り物は発達していて不便はないよ。魔道具というヤツだね。」
徐々にお互い話す事で、お互いの心の壁は薄らいで行った。
「すまない。お茶を忘れていたね。お茶会とまではいかないが、棚にあるのを淹れよう。」
「有り難うございます。」
少しして、ティーカップに注がれたお茶が運ばれた。
「ケーキや何か口に出来る物は…。」
「いや、お構い無く。囚われの身ですので。」
シモーヌはそれを思い出しクスクスと笑う。
「そうだった。そうだったね。忘れていたよ。」
シモーヌは甲冑を脱ぐと使い古された普段着の青いドレスに着替えていた。その姿は華奢な身体でとても騎士とは程遠いイメージである。見たところ二十歳にも届かない程度でまだあどけない。
大きな剣を壁に立てかけ、やれやれと行った様子。
「この剣は父の形見でね。骨董品だよ。切れ味は悪いし、重たくて仕方がない。」
「シモーヌさん。」
「シモーヌでいいよ。何だい?」
「男手が足りないという事は戦争があったのですか?」
「いや、ただの出稼ぎだよ。こんな田舎の辺境だと若者は退屈で仕方ないからね。武術を稽古しても、相手が農地しかないなんて堪えられるヤツなんていないし。争いなんて野山を駆け回るのは十代まで。単に都会の華やかな頭脳労働がしたくなるんだよ。」
咲きかけのアーモンドの樹の間が木漏れ日が差し込み部屋を照らしている。囚われた二人にはお茶が振舞われ、ゆっくりと時間が流れていった。
「退屈だろ?後で町の美味い店へ連れて行ってやるよ。」
シモーヌはそう云うと二階へ行こうとする。
「私たち、ここの通過は無いですよ。」
「野暮な事を尋ねさんな。お客人。」
いつの間にやら二人は囚われの身から客人となっていた。
あまり期待せず、見届けてくださいね。




