幾つになっても
「杏、来てたのね」
「あ、お母さん」
病室を出た所で宮乃に声をかけられた
「先日は韻が来てたわよ」
「そう、鉢合わせなくて良かった」
「相変わらず仲悪いわねえ…顔はそっくりなのに」
宮乃は呆れた顔をしていた
「私も今から休憩だし…折角会ったんだから少し話しましょうか」
「うん」
そう宮乃に促されて外のベンチに2人で腰掛けた
「そっちはどう?」
「うん、問題なくやってるよ」
「友晴くんとは仲良くしてる?」
「うん、してるよ」
「照陽は…7歳になったんだっけ」
「そうだよ、今年から小学校に通ってるよ」
「風邪とかひいたりしてない?」
「してないよ…あはは」
「何?」
「だって…私もう33だよ?子供じゃ無いんだから体調管理くらいちゃんとしてるよ。代わりのきかない仕事だし…」
「親にとっては幾つになっても子供の事は心配なのよ。例え他人の家に嫁いだとしてもね」
「そっか」
「まあ杏も娘がいるしその内分かるわ」
「うん…」
宮乃は本当の母親では無いが今だに気にかけてくれていた
「云足は…まあ今は落ち着いて来て命に別状は無いわ」
「そう…」
「意識が戻ったとしても…かなり頑張ってリハビリしないと普通に生活して行くのは難しいでしょうね。ただ…認知症になってるみたいだから本人が回復しようと努力出来るのか…どこまでやれるか分からないわ」
「そうね…」
「もしかしたらこのまま意識が戻らず…夢の中で好きな実験に浸っている方が幸せなのかも知れないわね」
「かも知れないね…」
宮乃も云足のあの実験については知っていた様だ
宮乃はどう思っていたのか聞いた事は無かった
「お母さんは…叔父さんの実験についてはどう思ってた?」
「まあ私も自分のしてる事を棚に上げて偉そうな事を言える立場に無いけど…正直気分の良いモノでは無かったわね。同じ医者として」
「そっか…」
「私も後ろめたい事はしてるけど…でもそれで救われる命が確実に有る。誰かの未来に繋がってると信じてる。云足は自分の欲求の為だけに命を弄んでいた…」
「そうだね…」
「今回の件は…今まで命を弄んで粗末にして来た事の報いを受けたと思ってるわ…」
「そう…」
やはり宮乃は医者なんだな…と思った
「その報いは…偶然に起きたと思う?」
私が病院を継いでやっていける様になったタイミングで…
都合よく起きた事件について…
宮乃はどう思ってるんだろう
宮乃は事実を知っても同じ様に私を娘として接して行けるのだろうか…
医者として、妹として許せるのだろうか…
実の兄を嵌めた私の事を…
「言った筈よ。杏は私がお腹を痛めて産んだ子じゃないけど…本当の娘だと思ってるわ」
「うん」
「何が有っても…私は杏の味方だから」
そう言って宮乃は私を抱きしめてくれた
「うん、有難う…」
恐らく宮乃は勘付いているだろう
私は宮乃の家を出る時と同じ返事をした
○○○○○○○○○○
私は云足が入院している病院を後にしてその足で今は自分が院長となった八神産婦人科へ向かった
友晴には病院でやる事があるから帰りが遅くなると伝えていた
照陽が家に1人なのでお手伝いさんにも友晴が帰ってくるまで居てくれる様に頼んでおいた
今日は休日で病院はお休みしていた
病院には出産目前で入院している妊婦さん等も今は居ないので病院に人は居なかった
夜になって地下施設の云足の研究室に入った
「長い間狭い所に閉じ込められて晒されて好きな様に弄ばれて辛かったね…」
そう呟いてガラスの容器から一体ずつ取り出して水で丁寧に浸かっていた保存液を洗い流してあげた
布で一体ずつ包んで敷地内の隅に新たに作った花壇に抱き抱えて一体ずつ地下と往復しながら持ち運んだ
「あなた達の供養もお墓も作ってあげられないけど…ここで土に還って新しく綺麗な花となってこの先ずっと咲き続けていこうね…」
一体ずつ花壇に深く穴を掘って埋めて行った
上に土を被せ花の種を植えてジョウロで水を撒いた
「ここで一年中…毎年咲き続けて皆に綺麗だねって言われながら見て貰おうね…」
そう言って手を合わせ黙祷した
家に着くのが遅くなってしまって照陽はもう眠ってしまっていた
「アン!どうした、泥だらけで…」
「叔父さんのお見舞いの後病院に行ったから遅くなってごめんね」
「それは良いけど…何が有ったの?」
「今日位しか新しい花壇に種を植えられないと思って…ちょっと張り切り過ぎたかな…」
「あはは、そんなの誰かに頼めば良いのに…」
「ううん…もう私の病院だから…休みの日にまで誰かの手を煩わせたく無かったの」
「アンはやっぱり真面目だなあ…じゃあ先ずはお風呂入っておいで」
「うん」
漸くお風呂に浸かってまるで禊をしている気持ちになっていた
「ちょっと前までテルヒも起きて待つんだって言ってたけど…うとうとしちゃってたからベッドに寝かせた」
「そっか、有難うね。じゃあ寝顔でも見てくる」
「うん、やっと寝たから起こさない様にな」
照陽の部屋に入って眠っているベッドに近寄った
楽しい夢を見ているのか時折り笑顔をしていた
7歳になり、段々少女の顔つきになって来ていた
「綺麗だね…」
そう言って起こさないようにそっと頭を撫でた
やはり宮乃も何となく察している様です




