大切な友達
「こんにちは」
「こんにちは、えっと…今は…」
「植咫だよ」
「そうでしたね、何だか変わったお名前ですね…」
「僕が崇拝する人が名付けた名前だからね…」
韻も家を出てマコトは今は地下施設から外に出て八神の家で生活している
叔父の病院に診察にいく所で田所…植咫と出会した
マコトに会いに来た様で相変わらず律儀な男だ
この変わった名前はその殺害された患者が田所をそう呼んでいたらしい
本来は「ドコタ」らしいが指名手配されているので少し変えた様だ
田所は心酔していた患者を殺害し、『支配』を決行する寸前で張り込んでいた警察に取り押さえられ、その場で薬物を飲んで自殺を図った後一命を取り留めていた
その後監視の目を逃れて協力者と脱走し、指名手配になっている
今は顔も名前も戸籍も変えている
かつてのマコトと同じ様に…
この周到な男はまるでこうなる事を予想してマコトで予行演習をした様な…
整形するのも見越してマコトを使ってそのルートを開拓した…
そんな風に思っていた
田所の言っていた様に以前の姿で会ったのはあの日が最後だった
整形はやはりマコトと同様に宮乃のツテを頼った様だ
宮乃もマコトの命の恩人という事も有ってか協力した様だ
それとも他に何か…交渉したのかも知れないが…
宮乃にも色々有るのかも知れないが私の知る由もない
肉体改造もした様で以前は細かったが鍛えて少しガッチリしていた
何度か整形を繰り返して顔も身体つきも別人になっていた
「この姿の方が色々便利だからね…」
そう言っていたのでまだ他人の精液集めと『支配』は継続しているのだろう
「今何ヶ月だっけ?」
「7ヶ月目に入った所ですね」
田所は私のお腹を指差して尋ねた
「来年には出産かな?」
「そうですね」
「アンちゃんは無事トモハルくんと結婚して子供も産まれる…良かったね」
「はい、色々尽力して下さった様で…有難うございました」
「これで少しは八神先生への借りは返せたかな?」
「まあ…そうですね」
マコトの裁判は続いているが、恐らく冤罪でこの件は無罪の判決となるだろうと言われていた
患者だった娘…麻里奈は供述を少し変えてきていた
『あの日…私は怖くてずっとクローゼットに隠れていて…』
『人が来て暫く怒鳴り合いをしていてこっそりクローゼットから覗いたら八神先生はママを裸にしてレイプしていると思ったんですが…』
『その時は怖くて気が動転していて…隙間から覗いたからちゃんと顔も見れてなくて、その相手が八神先生だったのか正直分からなくて…ママが八神先生を呼びつけていたからそうだと思ってたんですが…』
『その人が立ち去った後、怖くなってその場で私は失禁してしまい…お風呂場へ行きました…』
『その時また誰か人が来た様で…もしかしたらその人が八神先生だったのかも知れません…』
『田所先生には色々相談していて…何とか解決してあげるって言われてたので…八神先生と話し合ってと思ってましたが…』
マコトには殺害などの犯罪経歴も無い
一方田所は同じ手口の殺害が別件で幾つか明るみになって来ていた
田所は麻里奈からマコトとの事で相談を受けていて単独で犯行に及んだ…と結論付けられていた
「この供述は僕が麻里奈ちゃんに頼んでして貰ったんだよ?」
と何だか色々自分の事は棚に上げて恩着せがましい事を言っていた
「でも…田所さんはそれで良かったんですか?折角医者にまでなってたのに…」
マコトを嵌めてまで地位も職場も手に入れた筈だが、些かその行動に疑問も有った
「まあ僕もそろそろ自由に回遊したいと思っていたからね」
「回遊?」
「僕は元々医者になりたいとも思っていなかったからね。親から無理矢理押し付けられただけだから未練は無いね。寧ろ色々なしがらみから抜け出せたよ」
「そうなんだ…」
「八神先生に出会って八神先生の理想を聞いて…僕も自由に理想の世界に生きることにしたんだよ」
「理想の世界…」
「僕に大切な事に気付かせてくれた八神先生は…やっぱり僕の大切な友達だね」
「そうですか…」
マコトは色々使い道のある田所の大切な道具でモルモットなんだろう
「アンちゃんは理想の世界に生きられてるのかな?」
「まあ…その為に色々手を尽くしている所…ですかね」
「そう…僕が教えた入手ルートは役に立ってるかな?」
「はい」
「良かった。僕の件で1つは潰れてしまったけど…まだ幾つか有るから大丈夫かな?」
「そうですね…」
田所は入手ルートを幾つか伝えて来ていた
この辺りもやはり周到で抜け目が無かった
「じゃあ…あのお薬も役に立ってるかな?」
「はい、お陰で1つ私の願いが叶いそうです」
「ははは、その様子だとまだ他にも有りそうだね」
「まあ…私にも理想の世界が有りますから」
「そうなんだね、叶うといいね」
「その為にも…『支配されている相手を『支配』するにはどんな状況でも感情で取り乱さない冷静さと相手を分析する判断力、不測の事態を想定した準備が出来る思慮深さが必要だからね』』でしたよね?」
「そうだね、やっぱりアンちゃんは優秀な教え子の様だね」
「有難うございます」
「果たしてそのお腹の子は…トモハルくんの子なのかな?」
田所は私のお腹を指差してそう言った
「私の子、ですよ」
そう答えて田所と別れて診察の為病院に入った
何やら不穏…




