韻の質問
6年間の大学生活も終わり卒業と医師免許取得も出来た
今は僕も麻由も卒業して漸く落ち着いていた
僕はこの後まだ2年間の初期臨床研修が始まる
監察医になる為にその後大学の法医学教室に進学する予定だった
麻由は卒業したら今度こそ海外留学…も考えていた様だったが…
「そうなると今度こそインがほっぽり出してついて来そうだから…泣く泣く諦めたわ」
と言ってくれた
「だから…責任取ってよね!」
「うん!よく分からないけど…任せて!」
「あなたねえ…」
麻由が何故か呆れていた
卒業したら…
麻由と結婚の約束をしていた
お互いまだ好きなら、うん!大丈夫!多分
「マユ、今日家に来て!聞いて欲しい事があるんだあ!」
「えっ、ええ…良いわよ…何かしら…」
麻由を僕の部屋へ招待した
「聞いて欲しい事って…何かしら…」
麻由は何だかソワソワしていた
「じゃあ!」
そう言って僕は電子ピアノの前に座って演奏を始めた
「これって…」
「ねこふんじゃったー!ねこふんじゃったー!」
歌いながらこの日の為に練習したピアノ演奏を披露した
「何故そのチョイス…何故今その曲…」
「ねこふんずけちゃったらとんでったー!」
「飛ばしちゃダメだろ…」
「ねこあしたの朝おりといでー!」
僕は間違えずに最後まで演奏して歌い切った
「どう!?驚いて欲しくて練習したよ!」
「うん、色々驚いた…まず何故この曲を今このタイミングで演奏なのかと言う事が知りたい」
「えっとねー、初心者でも練習出来る曲を検索したよ!」
「そっかそっか…勉強も有るのに頑張ったな…」
「うん!マユと結婚するなら僕も少しはピアノ弾けなきゃだしね!」
「一応その約束覚えてたのね…今までの流れからもうすっかり忘れたのかと思ったわ…」
「忘れる訳ないじゃん!マユ僕と結婚してくれる?」
「何だか…思い描いていたプロポーズからかけ離れてるけど…約束だものね。女に二言は無いわ」
「わあ!良かった!あのね…」
「何?早速お風呂場へ連行されるのかしら…」
「僕ね、前にマユに一つだけ秘密にしてる事あるって言ったの覚えてる?」
「あー、確かそんな事言ってたなあ…」
「結婚してくれるなら教えるって言ったの覚えてる?」
「うんうん、確か言ってたわ」
「じゃあね、一緒に来て欲しいの」
「うん?分かった」
僕は麻由を地下施設に連れて来た
「ここは…?」
「僕が中学生になるまでこの指のせいで戸籍も与えられずに隠されて生活してた所…」
そう言って6本の指を見せた
「ここ…で?ずっと?」
「うん、中学生になるまでここから外に出た事無かったの」
「えっ!?」
「それでね、マユに会って欲しい人が居るの」
「…誰?」
「今は神谷真って名前なんだけど…」
「…今…は?」
「マコトー!」
僕はマコトを呼んだ
「はいはーい」
予めマコトには麻由を連れてくる事は話していた
マコトはいつもの様に返事をして部屋から出てきた
「この人は神谷真改め八神眞事。僕のお父さん」
「えっ!?はっ…初めまして…岩見麻由と言います…」
「君がマユさんか、インが迷惑かけてるだろう?ゴメンね」
「いっいえ…て言うか…確か亡くなられた筈じゃ?」
「それはね…」
麻由にマコトが田所に嵌められて罪を着せられた事、自殺しようと田所から受け取った薬を飲んだが仮死状態の後一命を取り留めて戸籍と顔を変えてここで生活している事を説明した
「確か…あの事件、冤罪の可能性が出て来て裁判をやり直してるとかニュースになってましたね…」
「そうなんだ…アンやトモハルくんが色々頑張ってくれて…でも僕はもう死んだ事になってるから大手を振って名乗れないけどね…」
「そんな…」
「でも僕は今また医学部に入り直して新たに医者になる為に頑張ってるよ。今は6年生でインの1年後輩なんだよ。ははは」
「そうなんですね…色々大変でしたね…」
「誰かを恨んだり過ぎた事にこだわっても仕方ないから…今を大切にして生きていこうと思ってるよ」
「そうですね…よく分かります…」
「まあ今は僕はインの親とは名乗れないけど…インの事宜しくお願いします」
そう言ってマコトは麻由に頭を下げた
「はい」
麻由もマコトに頭を下げていた
マコトを紹介して挨拶をした後地下施設を後にした
「マユは…この事知って僕と結婚するの嫌になった?」
「嫌になってたらマコトさんに『はい』なんて返事しないわよ…」
そう言って麻由は僕にキスしてくれた
「良かった…」
「これは…墓場まで持ってく秘密を共有してしまったわ…」
「ふふ、お墓も一緒に入ろうね」
「まあそうなるわな…でも…」
「なあに?」
「何か…マコトさんってやっぱりインに似てる」
「まあ親子だしね。なんならアンもお爺ちゃんもおんなじ顔だよ?まあマコトは整形して顔は変わっちゃったけど…」
「顔だけじゃなくて…なんて言うか…自分のされて来た過去や人を恨むとか無くて真っ直ぐで純粋な所…かな」
「そう?」
「うん」
「そっか」
「うん」
マコトと僕は似てるんだ!
何だか嬉しくなった
きっと麻由もマコトの事も僕と同じように大好きになってくれる!と思った
それから暫くして両家と挨拶をした
麻由の両親は僕の事をよく知っていたので喜んでくれた
僕の家からはお爺ちゃんが来てくれてつつが無く挨拶は終えた
式は僕が初期研修を終えて落ち着いてからとなった
その後2人で住む部屋を探して家を出た
それから引っ越しした日に婚姻届を役場に提出した
韻はついに麻由にマコトの存在を打ち明けました
こちらも約束通り何とか結婚しましたが…




