タレコミ
「そうか…成る程ね…」
「まあ…そう言う訳で…」
「あっ、シン!」
「八神さん…それじゃあ僕は…」
「はい、それでは神谷さん」
学校の通路の片隅でシン…マコトと客員教授で講義に来ている原田が話していた
マコトは早々に立ち去ってしまった
原田は心理学を教えていて他の大学にも出向いている
40代後半〜50代前半位の比較的若い教授で丸いメガネをかけた優しそうな見た目の男だった
講義は面白く、生徒からも人気のある人物だった
しかしマコトは学校では目立たないようにしている筈だが…その様なある種目立つ教授とどう言う繋がりだろう?と疑問だった
「八神さん…だったかな?」
「はい」
「この間は色々大変だったけど…落ち着いて来たかな?」
「まあ…そうですね」
この間…
一昨年、この大学の教授だった伊藤教授の叔父に当たる伊藤基平が孫娘の結婚式で結婚相手に孫も一緒に惨殺された
伊藤基平は大手医療機器メーカーの代表取締役でその後別部門で開発していた色々違法な薬物…などが明るみになり一時世間を賑わせた
伊藤教授は前にこの大学で教授選があった時に敵対する派閥の准教授に汚職の濡れ衣を着せて退職に追いやった疑いが浮上して来て親戚の会社の不祥事も有り体調不良を理由に昨年辞職した
「原田先生は…神谷さんと仲が良いんですか?」
「うーん、仲が良いと言うより…」
そう言って周りを見回して空き教室に案内された
「ゴメンね、ちょっと人に聞かれない方が良いかと思って…」
「いえ…」
なんだろう…
原田は女を連れ込んで変な事をする人物には見えないが…
もしもの時の為にこっそりスマホを録音モードにしておいた
「僕はね…その…おかしな話で信じて貰えないかと思うんだけど…」
「何でしょう?」
「聞こえないモノが聞こえるんだ…」
「はい?」
「その…見える力は無いんだけどね…」
「はあ…」
一体何を言ってるんだろうこの男は…
半ば呆れていた
「でね、神谷さん…から女の人の声がね…ちょっと気になって話しかけたんだよ」
この人はマコトの今の見た目で惑わされた口だろうか?
おかしな言いがかりをつけて口説いていたのか?
「でね、その人が言うわけ…私が『赤』を選ばせたって…」
「赤?」
「マコトは悪い男に騙されたから…守らないとって…」
「それって…」
「神谷さんって…八神眞事くんだよね?」
「…」
どう言う事だろう…
頭が混乱して返答出来なかった
「八神くんは…昔授業をしていて優秀だったから覚えていて」
「そうですか…」
「そして…君は八神くんの娘だよね?」
「…はい、そうです」
この男の雰囲気に毒されたのか…
私は素直に答えていた
マコトについている女…
原田の言葉が正しいなら恐らく御月か…
死んで尚取り憑いている執念…
恐ろしい
「どうしてそうだと?」
「その女の人が…君が来た時にそう言っていたよ、自分と八神くんの子だって…」
「…」
今の姿は私とマコトとは似ても似つかない…
誰も親子、血縁者とは普通は思わないだろう
「マコトが姿を変えて実は生きている…その事を誰かに漏らしますか?」
「そのつもりなら君とこんな風に話さないよ。何だか訳ありそうだね…良かったら話を聞くよ?」
ここは原田を信じてみることにした
そこからマコトの、患者に罪を被せられてあの様な姿になった経緯について大まかに説明した
「じゃあ今は八神くんの後釜に田所先生がいる訳か」
「そうですね…原田先生は田所さんをご存知ですか?」
「まあ…仲が良いって程じゃないけどね」
「そうですか…」
「ただ…正直良くない噂を聞いた事があるから…」
「良くない噂?」
「まあ…あの伊藤基平とのね…繋がりと言うか…まあ薬物で…かな」
「成る程…」
「何に使ってるかまでは分からないけどね」
「そうですか…」
田所と伊藤基平の繋がりが分かった
恐らくその辺りのツテから薬物を入手しているのだろう
「ただ…その伊藤基平の所の薬物は…僕の身近な人が人体実験まがいに使用されて…見るも無惨な姿で亡くなったから…かなり危険な物だと思うよ」
「そうなんですね…」
患者の母親を痕跡を残さず殺害した様な穏やかな物だけでは無さそうだ…
「あとね」
「はい?」
「伊藤基平は…高木組と繋がりがあるって噂が有ったから…もしかして田所先生も何かしら繋がりが有るのかも知れない」
「そうですか」
高木組…
恐らく反社の事だろう
まあその辺りは大体予想はしていたが…
「だから…君も余り田所先生には近づかない方が良いと思うよ?」
「…」
「八神くんがこの田所先生の話を聞いて心配してたよ…君と仲が良いらしいから…」
「まあ…私は田所さんとは医師の先輩として話を聞いているだけですから…」
「それなら良いんだけどね…」
「原田先生、この事は…」
「分かってるよ、口外はしないから」
「有難うございます」
「それじゃあね、余り八神くん…神谷さんに心配かけない様にね」
「はい、大丈夫です。有難うございます」
そう言って原田は立ち去った
色々田所について新たに明るみになって来た
薬物の入手ルートも大体予想がついて来た
高木組…予想通り反社と繋がりがあった様だ
この先は警察の…友晴の協力も必要になって来るかも知れない…
いずれ友晴に田所についても話さなければ…
そう決意しスマホの録音を停止して教室を後にした
ここに来て原田教授も登場です
今まで謎だった田所の薬物入手ルートが明らかに?
原田を取り巻く事件や人物等この辺りの経緯は「芳一郎奇談-四谷怪談」を参照下さい
伊藤教授も結局大学を去った様ですね
しかし御月…赤を選ばせたのは君だったのね…
確かに選ぶ直前に思い出していたわ
今もべったりくっついてる様です




