穏やかな水
「岩見さん、今日△△大と交流会有るんだけど…来ない?」
「えっ…私は…」
「うちの大学圧倒的に女子が多いしさ。こういう時じゃないと出会いが無いじゃない?」
「そう言うのは…」
「岩見さん可愛いし!来てくれると岩見さん目当てで参加者増えるだろうし!格が上がるって感じで助かるなあ!」
「マユは間に合ってるから!そう言う怪しい会合に誘わないでくれる?」
「ひっ!何アレ!」
「イン!?」
「塀の上から顔が!何か怪しい変なのが居る!」
「こら!!そんな所から顔出さないで!降りてらっしゃい!」
僕は塀から飛び降りて麻由に抱きついた
「マユに変な所へ誘わないでくれる?」
「変な所じゃないけど…ゴメンね、岩見さん…彼氏さん…?飛頭蛮!?野良猫!?じゃなくて…」
「一応○○大の医学部行ってるけど…ちょっと変わってるから…」
「あっ…あはは…頭良いんだね…じゃあ…」
何が面白いのか分からないけど笑いながら立ち去って行った
「しっしっ!あっち行け!」
「コラ、イン!せめて普通に来なさいよ…何で塀の上に登ってんのよ…」
「だって高い所に登ったらマユが早く見つかるかと思って」
「普通に門の前に居てよ…それでなくても私コミュ障気味で友達居ないんだから…」
「そっか!良かった!」
「良くは無いと思うけど…」
「マユはピアニストになるんだから!僕以外必要ないよ!」
「うーん、まあ…そうかもだけど…」
「じゃあこの後僕の家行こ!」
「この後はレッスンが有るの!家なんか行った日にゃ…数日再起不能になるわ…」
「えー、つまんないー」
「じゃあお茶して帰りましょ」
「仕方ないなあ…それで我慢するか」
しょんぼりしていると麻由が言った
「今度の連休には…インの家に行くから」
「わあ!やったあ!」
「大学生になっても相変わらず…喜び方が子供なんだから…」
「あー待ち遠しいなあ…早く毎日マユと朝も夜も一日中一緒に居られる様になりたいなあ」
「まっ…毎日!?朝も夜も!?色々恐ろしいわ…」
「じゃないと心配でまた塀に登っちゃうかも…」
「何で心配だと塀に登るのよ!イン以外の人好きになったりしないから!」
「えっ!じゃあ僕の事が大好きって事!?」
「知らないっ!」
そう言って麻由はずんずん歩いて行った
「ねえねえ!好きって言って!」
「あー!煩い煩い!」
「僕はマユが大好き!」
「そりゃどうも!」
僕は嬉しくて抱きついた
「暑い!重い!ここ学校!」
麻由は僕を安心させてくれて優しくて大好きだ
○○○○○○○○○○
「アルがドナーになるってね」
「そうだね、最後に会ってく?」
「ううん。どうせお別れになるし」
「そうだね…」
「まあ、ここにずっと閉じ込められてるより幸せだと思うよ」
「そうだね…」
「マコトとカイはいつ外に出るの?」
「そうだなあ…インが卒業する頃にしようかなって思ってるよ」
「そっか、じゃあ僕は卒業したら家を出ようかな」
「別に一緒に住んでも良いんだよ?前みたいに」
「僕一緒に住みたい人が居るから…」
「そっか、良かった。今付き合ってる人?」
「うん。子供も欲しい。ちゃんと外で生きていける子が…」
「そうだね…」
「でもマコトとはセックスしたい」
「そこは相変わらずブレないね…インとはしないよ?」
「むう…」
マコトも相変わらずブレなかった
「マコトは…お爺ちゃんの研究の事どう思ってる?」
「そうだなあ…否定するつもりは無いけど…ちょっと変だなって思ってる」
「変?」
「うん。お父さんは人間は工業製品のような人工的に遺伝子操作で作られたミュータントの様なモノではなく、あくまで人間として自然に生み出していく事に意味があるんだよって言ったけど…」
「うん」
「奇形を…身体にエラーの現れたモノ同士を交配させて敢えて作り出す確率の実験は…人間を自然に生み出して無いよね」
「そうだね」
「八神は神の名前を背負っている…だから神である八神の使命は果たさなければならない…自分の研究…自分から作り出された奇形は…自分の、神の想像を超えた創造だって…」
「お爺ちゃんは神様じゃ無いよね…人間だよ?」
「そうだね…」
「自然に生まれたモノは仕方ないけど…敢えて僕みたいなモノを作る必要って有るのかな?」
「そうだよね…」
「僕はマコトが外の世界に連れ出してくれて…色んな人に出会えて…大好きな人にも出会えて…幸せだよ?」
「そっか…」
「神様が居るとしたら僕の神様はマコト。僕を作って地下に閉じ込められてた僕を広い世界へ解放してくれた。自分の意思で選択して自由に生きて欲しいと思うって言ってくれた。僕のやりたい事も進む道も導いてくれた」
「インは…どうしたいの?」
「僕はお爺ちゃんの研究をやめさせたいと思ってるよ。マコトは反対する?」
「僕は…誰の事も否定も肯定もしないよ?インがそうしたいならすれば良いと思うよ」
「マコトはやっぱりいつも穏やかで平穏で…大きくて強い力にも流されない、大きな器に佇んで力ごと全部包み込む水みたいで落ち着く…大好き…」
「そっか…」
僕はぎゅっとマコトに抱きついた
マコトは優しく頭を撫でてくれた
韻なりに色々思う所があった様です




