弁当は教室で
鳴れ、チャイムよ、早く鳴れ!
そんな願いが通じたのか、教室の時計が授業終わりを告げるよりも三十秒早くチャイムが鳴った。どうやらここの時計は若干ズレているらしい。二時間目終わるまで気付かなかった。
初回の授業って初めの方こそ先生の自己紹介とかこれからの予定とか楽しいけど、後半普通の授業に入るタイプだとどうしても残念だと思ってしまう。
違う。そんなことはどうでもいいのだ。僕がこんなに授業が終わるのを待っていた理由は「退屈だから」とかでは決してない。もちろん「早弁」のためだ。
「充。僕は食べるよ」
「お、おう。俺はまだお腹空いてないから…」
前の席に座る充が不思議そうに僕のことを見て去っていく。別に誰かと一緒に早弁したいとかそういうわけじゃないから、追いかけもしないで弁当を取り出す。蓋を開けると、ふわっと美味しそうな匂いがして、近くの席に座るクラスメイトの視線がこっちを向いたように感じた。「何で今食べる?」「早弁には時期尚早じゃないか?」という目で見られているような気がするが、ここで怯んだら負けだ。僕は早弁をするのだ。
「え、植田くん、今お弁当食べるの?」
もう聞きなれた声。二つ前の席に座る飯川さんが僕の前に来ていた。
「次教室移動だよ。伊賀くんもう先行ったんじゃない?」
見上げた僕を見る飯川さんの手には、まだ新品同然の化学の教科書。思い出した。次は化学で、化学室に移動なのだ。
「化学室ってここから遠いから、食べてたら間に合わないんじゃない?」
「まあ、一口だけだから」
「じゃあせめて教科書とか準備してから食べたら?」
それもそうだと思い鞄の中を漁っていると、突然教室の電気が消えた。窓際なので電気が無くとも手元は見えるが探しづらい。消したのは飯川さんだった。
「ごめん、電気つけてもらってもいい?」
「私学級委員だから、教室移動する前に電気消さなくちゃいけないの。早くして」
周りを見ると、飯川さんが電気を消したことで残っていた数人が教室を出ていき、僕と飯川さんだけが残された。
「植田くん。移動するときはお弁当の蓋閉めていった方が良いと思うよ」
当たり前だ。開けたまま放置だなんて、そんな弁当への冒涜みたいなこと僕にはできない。仕方なく蓋をつけなおして、ランチバックの中に仕舞う。早く、と飯川さんに言われているけれど、机の上にランチバックを放置する気にはなれなかったので鞄の中に入れて、理科の教科書とノート、筆箱を持って足早に教室を出た。飯川さんを追いかける。
化学は二時間続きで、教室に戻るタイミングを見失った僕は、今日も早弁できなかった。




