おにぎりお預け
特に代表の言葉とか、言うわけじゃないのに、緊張するのが入学式というものである。
自分が言うたった一言の「はい!」が裏返らないかずっと心配しているし、それが終わっても舞台で話す人の緊張を感じるたびにドキドキする。
それが知り合いなら尚更だ。
「本日は、私達の入学式のために………」
新入生代表はなんと飯川さんだった。まだ本当に一瞬しか話してないけど、それでも緊張しているのが表情でわかる。
隣の充はなんとも思ってなさそうだけど。
さすがに飯川さんが話してるときは大丈夫だけど、さっきの校長先生の話は船を漕いでいた。本当に、よく最前列でできるな。
親友の行動に呆れるとともに尊敬すらする。
僕の名前は植田勉斗。生石高校一年一組、出席番号四番。
隣の伊賀充は三番。どう足掻いてもこういう行事は二人並んで最前列だ。
飯川さんの話は続く。
「先輩方、先生方は今日のために準備をしてくださり、またこの後の片付けなども含めてやってくださると聞いています。今日、私達は入学式が終わったらすぐに帰宅しますが、…」
この言葉に、僕ははっと顔を上げる。決して寝てた訳では無い。舞台から目をそらしていただけ。
違う、大事なのはそこではなくて…帰宅!?これが終わったらすぐに!?昼休みは?せっかく持ってきた弁当を早弁するタイミングは?
トートロジーもカタストロフィーもどうでもいいけど、せっかくの僕の気合いどうしてくれるんだよ。
絶対に的外れなことは分かっていても、感情の矛先が飯川さんに向く。自分が思ってる以上に強めの視線を送っていたらしく、飯川さんも僕がただ代表の言葉を真剣に聞いているだけじゃないということに気づいたような気がした。目が合ったのだ。
「えっ…」
隣の充に小突かれて、自分の口から声が出ていたことに気づいた。一瞬硬直してから周りをこっそり見回すが、どうやら大丈夫だ。
もちろん、声を出したのには相応の理由があった。飯川さんが僕を見たとき、その目が合った刹那、飯川さんの目に浮かんでいた感情が「してやったり」だったからだ。
まさかそんなわけないし、すぐにもとに戻ったけど、確実に一瞬だけ飯川さんはそう思っていた。
なぜだろう。何に対してだろう。すごくモヤモヤする。
そんなことを考えているうちに、飯川さんの話は終わった。
◆
教室で解散してから弁当を出すと、他にも数人持ってきてる人がいた。仲良くなれそうだ。
気を取り直してワクワクしながらランチバックを開くと、現れたのはおにぎり二つ。いつもなら入っている弁当箱ではない。
母親は知っていたのだ。今日が午前で帰る日だと。そして、それでも帰宅が二時近くになるかもしれないから、おにぎりを持たせてくれた。どうりで早弁のことばかり考えていた僕が弁当をねだったとき、不思議そうにしていたわけだ。
なんだか悔しくて恥ずかしくて、おにぎりにかぶりつく。海苔の味がおいしい。今日の具は梅干しだった。




