悼む日
いつもと少しだけ毛色が違います
その日は、すごく忙しくて、休み時間もお弁当を食べられなかった。いつもと同じように、「時間が無かった」と、半分以上残ったお弁当を、母親に押し付けるつもりだった。女子高生には多すぎるお弁当は、「食べきれない」と言うと「ダイエットなんてしちゃダメよ」と言うのに、「忙しかった」と言うと「青春ね」と納得して三角コーナーに捨てるのが私の母親だ。
その日は、本当に忙しかったから、放課後にハンバーグとだし巻き卵だけ勿体ないから食べて、あとはそうするつもりだった。
ナマズは、本当に突然暴れる。
◆
「とりあえず屋上に避難!この学校は高台だけど、避難するに越したことないから!」
警報音が鳴り響く中、先生の声が飛ぶ。静かに避難しろと言ったのはどっちだったか。「訓練、訓練、避難訓練です」の決まり文句が無かった以外は訓練と同じ。騒がしくなる周りとは裏腹に、何処か冷静になっている自分が居た。
「水衣ちゃん、行こ」
親友のミズキに言われて私も屋上に向かう。何か持っていくかと思っている隙に、ミズキには私を引っ張って出口へと向かった。
いつもは上がらない階段を上がり屋上に着くと、遠くに海が見える。ここは海岸が近いから、いつも潮の匂いはするけど、今日は私でも分かるくらいに何かが違った。
「あ、海が!」
誰かが叫ぶ。一気に高くなった波が、海岸沿い、いつもなら満潮でも人が歩ける道を飲み込んだ。そのまま市街地に侵入していく。私も思わず屋上のフェンスから覗く。
私の家は学校より内陸だ。でもあそこには、母の職場がある。
心のどこかで、自分だけは、自分の家族だけは無事だと思う。思いたい。何とかバイアスだ。
この学校もどうやら下の方が浸水したらしい。でも、三階の私の教室はいつもと変わらず無事だった。荷物をまとめて帰り支度をする。親が来た人から帰る。私は待ち時間にお弁当を食べることにした。いつもより少しだけ遅い時間に食べたお弁当は、冷たくて、でも変わらず美味しかった。
夜を越えても、母は来ない。
次の日の朝ごはんで、私は残りの弁当を食べた。やめたほうがいいと言われても、捨てることができなかった。
◆
「このクラスの担任の大原水衣です。一年間よろしくお願いします」
三回目の担任を持ったクラスは、いつも通りの初々しい反応を私にくれる。
初回授業で早弁をする人がいるのだ。元気なクラスである。元気なまま、居続けてほしいと心から思う。




