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そしてそこで僕は目を覚ましたのだった。
「ハッ!」
そして僕の目の前にはあのエルフ。
「お目覚めですか勇者様」
「それはもうええちゅうねん。それよりここはどこ?」
辺りを見回した。薄暗くてよくわからなかったが、多分洞窟の中だと思うんですけど(名推理)と思ったが、実は悪役かもしれないエルフちゃんに監禁されてなんかやばい野望のために利用されるかもしれないと想像するのは嫌だったので、あの村にいた住民こそが実は魔物でエルフはそいつらから助けるために僕をここまで連れて避難してきた、という設定を僕は急遽創り上げたのだが、
「ダメですよ勇者様、クラスメートの人達を巻き込んでしまったら」と不穏なことを言った。
「え、それってどういう」
「勇者様はこう考えたのでしょう。『陰キャが魔物として扱われるならクラスの陽キャ共をここに連れてきて僕があいつらを魔物として殺してやるっ……!』ってね」
「いやそんな恐ろしいこと考えないんですけど。それじゃまるで僕が魔物化したみたいじゃあ……ハッ!」
エルフが手に持っているなんか光を放つ石から放たれる淡いブルーの光に照らされた僕の体をハッとして見てみると、
「ちょっ、おまっ……なんか僕の体が紫の豚みたいになってんだけど……? え、もしかして僕ってどこぞの女児アニメの悪役みたいな姿形になったっていうの?」
「そうです。しかもみみっちい性格のため、最弱の魔物として生まれ変わりました」
「俺よえー……」と僕はげんなりした。
せめて最強の魔王として生まれ変わりたかったんですがそれは。
「どうしてこうなったのか徹底的に議論したいんですけど、今時間ありますかね」と僕はエルフに尋ねた。
「ないです」とエルフは即答した。「なぜならあなたを倒して現実世界に戻ろうと試みる新たな勇者達――つまりあなたのクラスメート達がこの魔物の洞窟目指して押しかけて来ているからです」
「あ、そういう」と僕は全てに納得した。「ということはさっき夢で見たことが現実になるってことね、はいはい、また一つスルーすべきクソシナリオが爆誕したってことでおk? つまりバカが考えた稚拙という言葉も生ぬるいくらいのネタにすらならない駄作シナリオのゲームを買わないでスルーするが如く」
「ノット・オーケーですね」とエルフはマリングリッシュみたいなでたらめな英語で答えた。「この世にスルーしていいクソシナリオなんてないですよ。どんな駄作でも手に取って確かめてみれば必ずそこから何かを得られるはずです。勇者様はこう考えていませんか? 例えば読んだ人を共感性羞恥心で悶絶させかねない上に資源が貴重が現代においては鉛筆の芯を無駄に浪費した罪で極刑にしてしかるべきと言ってもいい世紀の駄作と呼ぶことすら躊躇われるほどの駄文が書き散らされた分解者達の栄養源になるであろう下水のヘドロよりも価値が低いあなたが書いたこの黒歴史ノート以下の存在の小説(嘲笑)――つまりこのようにして酷評する言葉を上手くまとめられないほどひどすぎる完成度であるあなたの創作物ですら、スルーしていいとは言えないのです」
「いくらボロクソ言われようとも僕は平気です(悟り)。だってこの小説がカスであることなんか最初からわかってるわけだし?」
「では訊きますけど、肛門から垂れ流され続けるこの長すぎるクソは一体いつちぎれるのでしょうか。早く踏ん切りをつける、つまり糞斬りした方がいいと思うんですけど(名案)」
「最初に踏ん切りって言葉を聞いたとき、あ、出るかどうか微妙な便秘気味のうんこをイキみ過ぎて痔になるのを防ぐためにも諦めて途中で切り上げるってことなんだと思ってテストの答案にそう書いてしまった僕の黒歴史を掘り起こすのはやめちくりー」と僕は悶絶した。「でもそれは間違っていると僕は思いますね。やっぱりあらかじめ歴史に埋もれるとわかっているうんこ物語は最初から土中に埋もれさせてしかるべきだと思いますからね」
「いえ、そうやって世に出る前に殺して土の中に埋めてしまったがために世の中で活躍できなかった恨みを晴らすために後にゾンビになって街に出て満ち足りた生活を送る人々を襲うという悲劇を未然に防ぐためにもあなたは産んだ子を遺棄すべきではないのです。つまりTウイルスを開発してはいけない(戒め)」
「なんでもかんでもパロディに繋げれば面白くなると思ってるんだったら大間違いなんだよなぁ(呆れ)。それはともかく、お腹の中にいる子の遺伝子を調べた結果、能力が平均以下だと判明したからといって間引いてしまうようなことをするのはたしかにどうかと思いますね。というかそういうの嫌いですね僕は。だってそういったことが世にはびこった場合、まさに僕のような平均以下の能力の遺伝子を持った胎児は生まれ出ることなく消えてしまっているでしょうしね。じゃけんこの下水のヘドロ以下の臭いすら人に感じさせない――つまり臭いを嗅いだ人の嗅覚をすぐさま破壊して無臭だと錯覚させうるこの汚物を盛大に世にぶちまけますかね……フンッ!」
ブリブリブリブリュリュリュリュリュ………………!
そうしてただでさえうっすら腐臭漂うこの魔物の洞窟のど真ん中で一人ぶちまけた汚物で糞まみれになって妙に高揚感してしまった僕は、エルフにも、「はよう糞まみれになろうや」と誘ったのだが、「嫌です」とすんなりと断られたのだった、というのはもちろん嘘だが、この物語が変態糞親父のエピソードよりもだいぶ劣る文才によって成り立っている糞以下の完成度だというのだけは充分理解できる。
「まあとにかく、僕はこれからどうすればいいですかね」
「そればっかですねあなたは。たまには自分で考えたらいかが?」
「お、そうだな。じゃあさっさと殺しに行こうぜ。日が暮れちまうよ」
そうして僕は愛剣のブロンズソード(攻撃力10)の柄を握力20くらいが限界の僕のクソザコナメクジ筋力で以て強く握りしめてどうしたらかなゴリ並の筋力が得られるのだろうか、と頭の中で考えながら誰のせいかわからないが(お前じゃ)現実世界から転移されてここに向かっているというクラスメート達を迎え撃つのだった。
その結果――
「迷った」
僕は洞窟の出口がわからずウロウロする羽目になったのだった。
「そういうときは右手を壁に付けながら歩けばいいんですよ。さすればロンダルキアですら踏破できますから」
「残念ながらゲームで苦労したくない僕はがっつり攻略本を見る主義だからロンダルキアで迷ったことはないです。というわけでこのゲームにもオートマッピングを実装して、どうぞ」
「わかりました」
エルフは意外にもあっさり了承した。つまり秋子さんである。
しかしエルフは言った。
「オートマッピングですけど、何ボタンを押せばマップが表示されるように設定しますかね?」
「あ、こっちが決めていいの? やっぱり僕は、王道を往く、つまりメガテンシリーズみたいにLボタンで表示されるようにしたいですね」
「そう……」とエルフは面倒くさそうにしてこのゲームのプログラムコマンドみたいな半角英数を空中に呼び出してそれをSFキャラの世界に介入する万能女神みたいな表情で以ていじくり倒してそして僕の脳内にスーファミのコントローラーみたいな画像が思い浮かびそのコントローラーのLボタンを押すのをイメージしてみたら僕の視界全体に洞窟の簡略地図が半透明に表示された――のはいいんだけど、ポポローグとかクライムクラッカーズ2みたいに視界全体にマップが表示されるのはさすがにちょっと邪魔だから画面右下とかにちょこんと表示してくれよなー頼むよー、と言いたいところだけど僕が今いる現在地のすぐ近くに赤い点――つまり敵の群れだと思われる印が向かってきていたのでエルフにシステムUIについてのクレームを入れるのは後回しにすることにしてとりあえず敵を迎え撃つことにした。
そして僕は敵と遭遇した。
それは予想どおり僕をすっかり敵と見なしている陽キャ軍団つまりクラスメートという名の苦痛の種だった。
「お前俺らを妬んでるからってこんなひどい世界に連れてくんなよ」と金髪で制服を着崩して学生の財政状況でも充分手が届くリーズナブルな香水の匂いを漂わせた陽キャのステレオタイプみたいななんの工夫もない容姿の男子が言った。
「そうだよ(便乗)」と茶髪セミロングで下に見せパンを穿いていないミニスカでルーズソックスでローファーを履いている一昔どろこかもはや古のJKとも言うべき女子が言った。
そして驚いたことに彼ら二人の後ろにいる数十名の男女全員がそんな感じのなんかマンガに出てくるようなわかりやすい陽キャというかヤンキーっぽい外見をしていた。つまり現実離れしていて嘘くさかった。
「なんだこの古くさいキャラは……やっぱり僕は人生に失敗した氷河期世代のこどおじだったんやなって」と僕は軽く絶望したのだが、
「それはまだわかりませんよ」とエルフは極めて女神的な優しい声音で以て言った。「あなたのクラスメートとはまったく異なる印象のこの男女達を見事撃破できれば、『あなたが実は氷河期世代でこの物語は死ぬ直前に投稿サイトに投稿したネット小説』というキツすぎる結末を回避できるかもしれません(そのバッドエンドルートが消滅するとは言ってない)」
「マ? でも僕一人でこいつら全員を倒すのはさすがに骨が折れますね……(チラッ)」と僕は救いを求めるようにエルフに視線を送ったのだが、
「……」
エルフは気付かない振りをしやがった。
「はぁー……つっかえ……やめたら? デウス・エクス・マキナの仕事」
普通に考えたらこのエルフがこの世界の神みたいな存在だと思われたので僕はそう言ったのだが、
「この世界を創ってるのはあなたなんですがそれは」とエルフは言い返した。
「まあそんなことより、この戦いは避けられそうにはないですね……」
そして僕はクラスメートらしき男女数十人と一生懸命戦った。
だが僕が通常攻撃、つまりブロンズソードを一振りすると一閃のダメージが反射され、僕の体に大きな切り傷が付いた。厄介なことに敵は物理攻撃を反射するタイプだったのだ。つまりギリメカラである。
「これは参りましたね……」と僕はさぞかし魔法が得意であろうエルフに期待の眼差しを送った。
「……」
しかしエルフは僕から目をそらした。
「僕、物理しかできない脳筋だから、魔法で一掃してくれよなー頼むよー」
「物理が得意な人を脳筋とは言いません」
「いや科目のことじゃなくて……つーか立て込んでるんだからさっさと魔法使えよ、あくしろよ」
「勇者っていう職業に就いてるんだったら攻撃魔法の一つや二つ使えると思うんですけど」
「レベルがまだ足りないから使えないんだよなぁ……ああもう」
「ホラホラホラホラ」
「ホラホラホラホラ」
「ホラホラホラホラ」
ごちゃごちゃやってたら敵が次々と攻撃を仕掛けてきた。
僕はそれらを適当に躱した。
「じゃあしょうがない。アルテマ!」と僕は使えもしない古代の究極の魔法を唱えた。
しかし辺りは青い光に包まれ、その光はよくわからないクラスメート的な敵を飲み込み、そして僕のイメージする嫌なクラスメートの姿形をした魔物らしき存在は、「ウボァー」とお決まりの断末魔を上げ、灰燼に帰したのだった。完。
「やりましたね勇者様!」とエルフは無駄に喜び称えた。「さあこの調子で魔王退治に、イクゾー! デッデッデデデデ (カーン)デデデデ」
「カーンが入ってる。+114514」と僕はほぼ条件反射で言った。今更こんなネタを擦るなんて、と思うかもしれないが僕にとってこのネタは死ぬまで笑えるネタだからね、しょうがないね。
「適当だな。まるで僕の人生みたいだぁ」と僕は表面だけ絶望し、しかし本心はこの世に生まれたことそのものを感謝しているので誰に何を言われようと、たとえまた殿下ネタか(呆れ)と後ろ指指されようとも、お、待てい、最近では殿下ロイドっていう有志による非公認ボイスロイドが公開されててそっちは旬なネタだゾ、と内心で論破してご満悦状態と化しているのだった。文句あっか。
「どうでもいいけど魔王勢と戦うとかそういう話は結局どうなったんですかね。もしかして伏線投げるだけ投げて一生回収しないとかいう読者・ユーザーから顰蹙を買うランキング1・2を争うひどすぎる結末を迎えるとかそういう喉に刺さったままの骨を放置したまま床についたら次の日その骨が何かの間違いで心臓まで侵入して弁に引っかかって死ぬとかいう状態はなしにしてほしいんだけど」
「大丈夫ですよ、未完の大作なんかウェブ小説では当たり前にあることなんですからね……」
「あっそ。じゃあどうでもいいか。どっちにしろ僕って奴は小説とか創作とかそういうの興味ないしね、魔王なんか放置ってことで。ていうか移動するのも面倒だからここでこれから僕ら地球人がこの先生きのこるにはどうすればいいのかを議論したいんだけど、おk?」
「なんでいきなりそんな壮大なテーマへとテーマが変遷されたんですかね」とエルフはブロークンな日本語で言った。つまりみこちの日本語である。
「なんでってそれはこうしてなんの価値もない創作活動なんか今すぐやめて地球をできるだけ生き延びさせるために頑張った方が今後の人類のためになるんじゃないですかね、と僕は全人類の人々に向かって提唱したいからです……と思ったけどこれはおかしいかもな」と僕は自問し始めた。「なんの価値もない創作活動をしているのは多分娯楽が溢れている先進国の人々だけだろうしね……。まあ正確に言うとサブスクが普及している国の人々だと思われますが」
「あなたはどうして、『サブスクが普及している国=なんの価値もない創作活動が盛ん』といったある種の人々を愚弄するような方程式を築き上げたのですか」
「いい質問ですね(池上並感Ⅱ)。それは簡単ですよ。まず始めに言っておきますけど、サブスクで体験できる音楽、映画、アニメ、電子書籍、ゲームといったコンテンツの出来が悪いとはまったく言いませんし、それどころか現代のエンターテイメントコンテンツはどれもこれも一昔前より完成度そのものは高くなっています。が、その実、それらの作品の大半は暇つぶしの域を出ていなくて、その人の人生を変えうる衝撃的な芸術作品というのはほぼ存在していないと思うんですよ」
「それはあなたがコンテンツそのものに飽きているからでは? もしくはあなたがまだ芸術的に素晴らしい不朽の名作に出会っていないだけとか」
「それもありますねぇ。でも今後も出会うことはないでしょう。なぜならそういう時代じゃないから」
「そういう時代ってどういう時代でしょうかね」
「やっぱり今って現代人全員が暇で暇でしょうがないじゃないですか。あ、時間的に余裕があるとかそういうことを言ってるんじゃないんですよ。だから、子育てに忙しい世帯のご夫婦は、『ふざけるな! 俺らに遊ぶ暇なんて一切ないぞ!』と言うかもしれません。でも、こう言っちゃ失礼ですけど今ご夫婦が賢明になさっているその子育てや生活の維持といったしくじることのできない死活問題って、たとえ本当にしくじっても別に世界は変わらないじゃないですか。その人自身が不幸になるって事はあっても、我々現代人は子孫をできるだけ多く残さなければ人類は破滅する――もっと規模を縮小すれば国家が維持できなくなる、といった危機感は皆無だと別に思うんですよ」
「それはおかしいと思いますよ。だってニュースで散々問題提議してるじゃないですか。このまま出生率が下がると国家が維持できなくなるって。だからみんな必至で子育て頑張ってるんですよ」
「それってつまりこの少子高齢化という国難に国民全員が危機感を抱いている、とあなたは判断するんですか?」
「そうでしょうよ」
「いや、国民は危機感なんか抱いてませんよ。だって本当に少子高齢化や人口減少による国家の破滅を危惧しているのなら、若い男女が揃って焦って早婚するようになるでしょう。ところが若者の街頭インタビューの内容を聞くに彼らは危機感を抱いて結婚を焦っているどころか、自分は一生独身がいい、とむしろ結婚を忌避している。これはどういうことでしょうかね」
「それはやっぱり現代日本が今のところ安心安全に暮らせる場所、だからじゃないですかね。だから危機感を抱きようがない」
「まさにそのとおり。なんだかんだ言って豊かなんですよ、この国は。会社や家庭でつらいことがあっても別に死にはしないじゃないですか。本人は『もう死にたい』、『もう死にそう(SO1ミリー並感)』って言うかもしれないけど、飽食だし、治安は悪くなったような気がするけど犯罪に巻き込まれる確率はそこまで高くないし、徴兵もない。そうなると娯楽作品でサバイバルしたくなるもんなんですよ。あ、でもさすがに90年代みたいな暗くてシリアスな作品はもう流行らないかもしれないっすね。ところで、もう数十年、いや、十数年かもしれないですけど、こんなに安全なこの国でも危機感を抱かざるを得ない状況になると思いますね」
「そりゃなるでしょうね。増税、治安の悪化、あらゆる業界が慢性的な人手不足に陥っているせいで長期勤務の常態化による精神的余裕の欠如……まあこの国に明るい未来はなさそうですね」
「でも今のところはまだ安心安全に暮らせている。そういう精神的な安寧っていうのは実は長期化すると逆にかなりストレスになるんですよね。簡単すぎて作業みたいなゲームって名作とは言い難くてクソゲーに片足突っ込んでると言っても過言ではないじゃないですか。それと同じようにヌルゲーの人生もクソゲーなんですよね」
「それはそうだと思いますね。一発当てただけで一生安泰に暮らせるだけの収入を得て今はすっかりテレビから姿を消した運がいいだけの芸人や、長寿シリーズとなったゲームシリーズの原作の著作権だけが唯一の功績でそれ以外の仕事はことごとく世間から無視されているシナリオライターとしての才能がまったくない原作者などは、端から見るとただの幸運の持ち主というだけでその人がいくら温和な性格でも人間的には少しも尊敬できないクソゲーのような人生を送っているように見えますからね」
「すごい具体的な例えですね」と僕は怖くなった。
「ところで話は戻りますけど、今の時代に不朽の名作、つまり芸術的な作品が生まれる可能性ってあるんでしょうかね」
「ありますねぇ」と僕は答えた。「それはいつの時代だって生まれ得るものなんですよ、不朽の名作というのは。ちなみに不朽の名作というのは完成度が極端に高い、とかそういうことじゃなくて、人間心理を表現しているかどうかなんですよ」
「それって物語限定ですよね」
「そうです。じゃあ音楽とか絵はどうなのかというと、これは時代を変えた作品ですね。わかりやすい例で言えば今、演奏会で演奏されているクラシック音楽ってどれもこれも当時の人の度肝を抜いた新鮮な曲だったんですよね。つまり先人の劣化コピーみたいな作品が皆無なんですよ」
「なるほど。現代の作品群が創られてはすぐに忘れられるのは誰かの劣化コピーかほんの少しだけ上質なコピーばかりだからなんですかね」
「まあそうです。でもそれって別にクリエイターが腑抜けているとかそういう話でもないでしょうね。そもそも時代を変えるような新しい作品なんて普通のクリエイターにはまず創れないですし、誰か一人の天才がある日革命的な作品を創り上げるなんてことは半世紀に一度あるかないかだし、特定のジャンルで人々の度肝を抜く新しい作品がある日突然生まれることは実際には滅多になくて、大抵は数万人規模のクリエイターが切磋琢磨して先人の作品を参考にしながらコツコツと仕事をこなしていった結果にそのジャンル全体の感性が徐々にアップデートされていってその結果として数年後に革新的な作品が生まれる、といった集団型漸増革命とも言うべき事例の方が普通だと思われます」
「ようするに真面目にコツコツやっていればいつかすごい作品が生まれますよ、と」
「そのとおり。でも『本当にすごい作品』が生まれる過程で、完成度はまあまあだけどなぜかすぐに飽きてしまう凡作が日々すさまじい量生まれてしまうんですよ。まあそれは副作用みたいなものですけど」
「そしてあなたもそのすぐに飽きてしまううんこ作品の生産者の一人である、と」
「僕は違いますよ」と僕は半ギレで答えた。「ていうかそれいじわるで言ってますよね? なんのために僕が今まで散々『僕は才能がない才能がない』っていう自虐セリフを吐いてきたかわかりますかね。今みたいにバカにされないためですよ。僕が無能であることなんかとっくに自覚してるんだからこれ以上無能呼ばわりするのはやめてください死んでしまいますって僕は言いたかったんですけどどうやらあなたはそれを斟酌できなかったみたいですね」
「あ、今あえて『忖度』っていう言葉を使わなかった。+114514」
「忖度なんて今やギャグみたいな言葉になっちゃったからね、しょうがないね。それにこの場合は斟酌の方が当意即妙だと思うんですけど」
「あ、今ちゃんと当意即妙だって言えましたね。+1145141919。どこかのYouTuberは当意絶妙って誤用してたんですよ。つまりあなたはその年収億超えのYouTuberよりも日本語の使い方が上手いことが証明されたので誇ってください」
「いや、そんな矮小で低次元な誇り、今すぐ部屋の隅に溜まった埃と一緒にゴミ箱へ捨てますからね。そういう重箱の隅をつつくようなマウントとってもむなしいだけってそれ一番言われてるから」
「論破合戦から自ら降りた。+1145141919072」とエルフは言った。
「そのどうでもいい加点、もうやめてもらっていいですかね」と僕は言った。
そもそもそれを最初に言いだしたのは僕だったような気がするけど。
「こんな感じで僕は学校の勉強なんかより遥かにためになることを日々考えてるんですけど、お前どう思う?」と僕は授業中に思いついたことをノートに書き殴っている僕のことを睨み付けている教師に向かって尋ねた。
するとその教師は、「は?」といった感じの、「なんなんだお前わけのわからん奴だな……これはちょっと問題のある生徒のようだから後でしかるべきカウンセラーに診断してもらわんとな……」といったようなことを呟いた。つまり誰もが同じように思いつくような極めて普通の反応を示したのだ。やっぱり教師っていう生き物は凡庸で面白みがなくて何一つ教訓を得られる要素がないんやなって。こんな奴と関わるくらいなら引き続きノートに妄想を書き連ねていった方が人生の限られた時間を有効活用できるなと思った僕は再び机に視線を落として大型書店の一階に売られていた超高級シュープペンシルにHBの芯を新たにインサートし一冊丸ごと妄想ストーリーが書き殴られた大学ノートを脇にどけて机の脇に掛けてある鞄の中から昨日アニメショップで購入したアニメのノートを取り出して机の上に広げて再び異世界へと旅立ったのだが、「みんな、こういう風に社会の縮図である学校という機関でアウトローな行動を取っていてしかも大人のアドバイスを無視していると将来必ず社会から脱落することになるぞ。じゃけんみんなは真面目に学校に通ってちゃんと授業を受けて学校行事も無難にこなして先生達になるべく逆らわないようにしようね、はい、返事は?」「はい、はい」といったやりとりが聞こえてきたが、お前なんかの面白みもなんともない教訓なんかに誰も真剣にならないから、と心の中でマウントを取りながら妄想という名の暴走的な執筆の続きに取りかかったのだった。なぜ僕が唐突にこのような授業風景を描写したかというとそれは言うまでもなく実はこの物語が僕の妄想だったという伏線を張るためだった(伏線が回収されるとは言ってない)。
「まあそんなことはいいとして、ここもそろそろ飽きたから他の土地に冒険したいんだけど」と僕はエルフに提案した。
「そうですね、じゃあ行きましょうか」
というわけで僕らは明日に向かって歩き出した。
完。




