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しかしまだ終わらないんだよなぁ。だってページが規定枚数に足りてないからね、しょうがないね。
果たして魔物に襲われたとかいう村へとやってくるとなんと魔物達は村人達によって全員ボコボコにされていたのであった。村人つえー。
「お、大丈夫か大丈夫か」と僕は村の子供達に蹴られまくってる情けない大人オーガに駆け寄った。
ついでに弱いものイジメをしているガキ共の頭にそれぞれ三回ずつゲンコツを食らわせた。
「これが大丈夫に見えますかね旦那……」
オークは震える足を奮い立たせてなんとかして立ち上がった。
「ていうか魔物さん達、ちょっと弱すぎじゃないですかね」
僕が呆れていると、
「しょうがないですよ、僕ら現実から追われた元人間なんですから」とオークは衝撃的な事実をいとも簡単に口にした。
「えぇ……まーたそんな手垢の付いた設定ですか……」と僕は更に呆れた。「ということはあれですかねあなたがたは……何かの呪いとか実験の失敗とか事故とかで化け物になった――そういった感じですかね……。うーん、この……今まで戦っていた魔物が実は元々は我々と同じ人間だった、とかいう主にSFとかでよくあるシリアス事実はもう古いだけじゃなくて現実世界が世知辛い今の時代に合わなすぎるからやめてもらっていいですかね……」
「なんですと?」とオークは少しムッ。「それはちょっと聞き捨てならないですね」
「何がだよ」
「さっきあなたが申した、シリアス展開は今の時代に合わない云々ですよ」
「いや合わないでしょ」
「合いますよ。だって今でもシリアスとかグロい系のアニメ、ヒットしたりするじゃないですか。あれはなんなんですかね。あ、『物事には必ず例外はある』とかそういう、『終わりよければ全てよし!』みたいな軽い感じの格言を引き合いに出して逃げるのはやめちくりー。アホな私にも納得できる説明オナシャス」
「いや僕、オタクコンテンツの研究家でもなんでもないから知らんがな」と僕はそうそうに白旗を揚げた。「でもこれだけは言えるけど、昔やたらシリアス系の作品が流行ったのは、世の中が平和で平和で経済が充分潤って捨てるくらいものが溢れている時代にこれから我々は何を目標にして生きていけばいいんだ――そうだ、繁栄の後には必ずデカダンス、つまり退廃が訪れる……やだ怖い――庶民達のそういう言い知れぬ不安感を敏感で感受性の高いクリエイター達が汲み取って作品として結晶化してヒットさせたからだと思われ」
「それだったら経済が衰退し、貧困渦巻く今の時代の方が庶民のそういう不安感を感じ取りやすいから尚更シリアス・鬱作品が世に溢れると思うんですけど(当然推理)」
「バカ、生活の中でキツい思いしてる人達がきつい内容のフィクション作品なんか手に取らないでしょ。ラストに主要人物死ぬだとかそういう鬱エンド見て面白いか? 僕もそんな暗くて絶望的なフィクションいらないんで。フィクション界隈だけじゃなくてアイドルグループも仲の良いグループが好かれる傾向にありますね」
「お、そうだな。ワイもVTuberの(グループ名削除)好きですね。だってみんな家族みたいに仲良いから」
「僕は嫌いだけどね。ていうか鬱シナリオも好きじゃないけどそういう仲良しこよしとかご都合ハッピーエンドとか美少女がキャッキャするだけとかも嫌いじゃないけど好きじゃないです」
「でも今、アイドルの闇をリアルに描く作品がヒットしてたりするじゃないですか。ああいうのはどうですかね」とオークは反論した。
「ああいうのもああいうので好きじゃないです。だってあんなの現実で起こった炎上事件やアイドル間同士の揉め事をそのままフィクションにトレースしただけじゃん。それってフィクション作品でやる意味ありますかね。だったらいろんなアイドルグループを追っかけてそこでリアルに起きてる問題、例えばタレントの苦悩やら揉め事を――言っちゃ悪いけどエンタメとして受け取って楽しんだ方が面白いと思うんですけど。昔、『炎上騒動もエンタメのうち』って偉い人が言ってたし」
「お、そうだな(便乗)。たしかにそうですね、まあワイは話題のアニメならなんでも見るし、ていうか流行ってるコンテンツを全部知っておかないと気が済まないタイプだからこの作品はなぜ今の時代に生まれたとかそんな難しいことなんかいちいち考えないんだけどさ」
「でしょうね。だってあなたの脳みそは難しいことを考えられるようにはできてないみたいですからね。その言語能力から推察するに」
「そうだよ(再便乗)。そうして何か強大なコンテンツに寄り添うことしかできない存在なんですよねワイは……」
「いいじゃないですかそれで。今の時代、机に座ってるだけで向こうからコンテンツがやってくるんだから、回転寿司のレーンの終着点にいる感覚で流れてくる作品を食い散らかしていけばいいんじゃね(適当)。ていうか現実世界で充実したオタクであらせられたであろうあなたはなぜ今そのような醜い豚的な化け物へと変貌したのかな?」と僕は問題を最初の方向に戻した。
「充実なんかしてなかったです。だから化け物になったんです。今ワイはこうして肉体的にも化け物になってますけど実は現実世界では揶揄的な意味で化け物呼ばわりされてました。つまり一昔前で言うところの厄介です」
「あ、そういう……。あなたは要するにSNSとかでやべーコメントを連発していたと」
「そうですそうです。ワイは例のVTuberの大手箱が好きだったんですが何人かのVに対して反転アンチになりました。しかしこの辺のことを詳しく話すつもりはありません。言いたくもなですから」
「いや、言ってくれなきゃ困るんだよなぁ。そうしないとこの異世界に蔓延る元人間の魔物達をどうにか処分――じゃなかった、浄化する手がかりが掴めないし。それというものの君らが抱えている心の中の闇を解決すればこの世界から魔物が消えそうな気がするんだよね。当たってるよね?」
「いや、それはおそらく当たってないでしょう。なぜならワイら魔物はこの状態が一番心地いいからです。よってカウンセラーなんかも必要としていないし、蒙を啓かれ心が洗われ、醜い化け物から人間に戻る、などという、なんか子供向け作品にありがちな偽善的救済エンドにもなりません。というかそういうの大嫌いなんで死んでもらっていいですかね。まあともかく、ワイら魔物は魔物として生きるのが一番居心地がいいと完全に悟っていますので、ワイらの存在をどうにかしたいと思ったら、それこそあなた方勇者様一行(笑)が心に鬼を宿して魔物に大量虐殺という名の正義の鉄槌をくだすしかないですね」
「うーむ……」
彼らを容易には切り捨てられぬな……と僕は躊躇った。というのもこの人達人生の敗残者の気持ちが僕にはよくわかったからだ。いや、気持ちがわかるどころか僕はこの人達とまったく同じ立場なのではないかと思われた。
だから僕は訊いた。
「もしかしてあなた、例えば有名VTuberの成功をやっかんでチャット欄やコメント欄やTwitterのリプ欄に荒らし的な言葉を投げかけたりしましたかね?」
「そんなのやらないわけないでしょうが」とオークはキレ気味に言った。「あいつら成功者やその取り巻き――つまり全肯定信者になることでその成功者と自己を同一化しあたかも自分が自己実現したかのように錯覚する目をそらし系盲目信者達はワイら荒らしを化け物扱いするが、逆にあいつらはワイらにとって化け物なんだよなぁ。だってそうでしょう? 一人では使い切れないくらいの金を自慢し毎日おいしいものを食べていることを自慢しいい家に住んでることを自慢し運がいいことを自慢しそのようにしてワイら持たざる者を嫉妬させ煩悶させている」
「でもそれってあなたがたの単なる僻み、つまり被害妄想では?」
「ええ、まったくそのとおり。ですがそれがなんだってんです? あいつらがワイらに激烈な劣等感を植え付け、嫉妬の炎で焼身自殺的な悶絶を味わわせているこの事実は変わるまい。というかそもそもワイらも好きでこうして成功者を僻んでいるわけではないんだよなぁ。そこを誤解しないでいただきたい。考えてもみてください、誰が好き好んで毎日嫉妬でイライラしたいと思いますか? ワイだってどっかのVTuberみたいなイキりインフルエンサーのことなんか考えたくもないですよ。だからもし一つ願いが叶うなら、ワイが嫌いなVTuberやYouTuber、ラノベ作家、マンガ家、絵師、ゲームクリエイターを頭から完全に追い払いたいですね」
「でもそれって結局あなたの考え方次第では? そんな嫌いな奴のことなんか考えなきゃいいじゃないですか」と僕は自己に言い聞かせるようにして言った。
「それができたら苦労しない定期」とオークは正論を言った。「まあ話しても埒が明かないですよね。というわけでワイは死ぬまで成功者達を妬み続けます。それがワイが生まれてきた理由だと思うので」
「お、待てい。今肝心なこと話してるんだゾ。逃げないで徹底的に議論して、どうぞ」
「お、そうだな(便乗)。あ、そうだ(唐突)。ワイらも別に成功者全てを妬み、恨んでるわけじゃないです。そこは誤解しないでください」
「それは僕もよくわかってますとも。だってTwitterとか見てるとよくわかるけど、化け物によく絡まれまくってる有名人と、かなり知名度あるのにそういう厄介なアンチとは一切無縁の人とかいるからね。同じ有名人でもなぜこうも違うのか、僕も気になってたとこだね」
「ところがその理由はめっさ簡単なんですよね。まあ簡単に言えばその人がアンチに絡まれやすい性格してるってことなんですけど、で、一体どういう性格してるかというと、例えばさっきワイが天敵扱いしたイキりVTuberなんかはアンチを煽ってるわけだから厄介に当然絡まれますよね。で、逆に表では決してイキったり調子こいたりしない謙虚な人は決してアンチに絡まれることはないですよね。例えば○○の役をやるために声優目指して頑張ってきた子が実際その役をもらって夢を叶えたとき、そこでTwitterとかでどう発言するかによってその後絡まれるアンチの数が決定づけられるわけですよ。『みなさんの応援のお陰で念願の○○の声優になれました』的な感謝の念をファンに伝えるか、それともどこぞのイキりVTuberみたいに『イエーーーーイっ! 世界一になったぜーーーっ!』とまるでメジャーリーグでホームランを打ったときに相手チームを挑発するかの如く喜びを露わにしながらホームベースを回るように狂喜乱舞するのかでは妬まれる数量が全然違うわけで、そしてどっちが正義かというとどう考えても前者なんですよ。当たり前のことですけどね。だってメジャーでホームラン打ったときはなるべく喜びを露わにしないって基本じゃないですか。そうしないと次にバッターボックスに立ったときにデッドボール食らわせられますからね。日本の野球だとそういうのヤクルトぐらいしかやらないらしいですけど。ちな、これは野球ファンの人からの受け売りだから、ワイの意見じゃないから苦情言うのはやめちくりー。それともう一つ言いたいんですけど、大人しい性格なのにTwitterにしょっちゅうクソリプ送られたりひどいときは殺害予告されたりする人がなぜ厄介に目を付けられるのかというと、これも割と単純な理由でして、要するにその人が卑屈な性格してるからですよ。つまりいじめやすいタイプなんですね。コンプまみれでビクビクしてて心に隙がある人は他人を不安にさせやすいというか、言っちゃ悪いけどイラつかせやすいんですよ。そりゃそうですよね、人は誰だった明るくて元気な人から勇気や元気をもらうわけだから、卑屈で気弱な奴なんか見たくないでしょ。でもそういったコンプレックスが強くてプライド高いタイプってやたら努力するじゃないですか。で、その人の信者ってその努力する姿勢を見て『頑張ってて偉い!』とか言っちゃうじゃないですか。ああいうのもワイから見たらちゃんちゃらおかしくて、馬鹿野郎そいつが頑張ってるのは自分を応援してくれる皆様をより楽しませるためなんかじゃなくて、劣っていると感じている自分を誰にも負けないくらい高めて、いつか天下を取るためなんだって。要するに単なる負けず嫌いなんですよね。そしてそういうのを見てワイら化け物がイライラするのはなんでかっていうと、なんで元々運と実力があって成功してんのにまだ勝ち負けにこだわってんだよバカ、とそいつら卑屈系インフルエンサーにイライラするからなんですね。別に生まれつき運良く才能があって必然的に成功するのが悪いとか不公平だとかは思わないです、少なくともワイはね。ていうかエンターテイナーとしていい仕事ができる人として生まれたんならTwitterやらブログやらYouTubeチャンネルとかで余計なお気持ちと表明とかやめて与えられた仕事を淡々とこなしてろよアホ、って思うんですよマジで。ていうか一番イラつくのが、ああいうほとんど成功体験しか知らない人が人生を語ることですね。これは本当にムカついてムカついてしょうがないです。でもあいつらって、『あの時、挫折したから今の自分がある』みたいなことをよくほざくじゃないですか。ところがしかし、ほーん、やっぱりこういう才能溢れる人にも若い頃に下積み時代があったんやなって、といくらかシンパシーを覚えたワイを憤怒させよるんですよね、あの野郎共は。その挫折の内容を聞くと、単に仕事の出来の悪さをお客様に貶されたとか、そんな仕事やってりゃ誰でも経験するようなことを『挫折』と称するんですよあいつらは。それ、挫折じゃなくて単なるつまづきとかショックって言うんですけど。挫折ってのはその道を完全に諦めることなんだよなぁ。例えば声優だったらまったく上手くいかなくて声優を引退するとかさ、もう自分で完全に見限ってゲームオーバー状態になって、他のゲームを始める、これが挫折。だから、声優が『こんな下手くそな演技、俺でも出来る』って言われてショックを受けるのは挫折でもゲームオーバーでもなんでもなくて、それどころかマリオがダメージ受けて小さいマリオになっただけで、一機失ってすらいないんだよなぁ。だってその発言した有名声優ってその後順調に活躍していって、今や大御所の域じゃないですか。つまりスーパーマリオが上手い人ってのはたとえ敵の攻撃を食らって小さいマリオになったり一機、二機失ったりしてもその後ステージをクリアしていって、最後は全クリするじゃないですか。でもアクションゲームが完全に苦手な人って、どんなに頑張ってもクリアまでいけないじゃないですか。そういうことですよ、才能とか成功とか挫折っていうのは」
「たしかにそうですね」と僕は納得した。「まあスーパーマリオは頑張れば誰でもクリアできるよう調整されてるけど、でもアクションゲーム苦手な人は失敗してコンテニューしまくるうちに心が折れてゲームやめますよね。で、あなたの場合、何かに挑戦したけど結局嫌になってゲームオーバーしてしまったと」
「そのとおり」
「でもそれってどうなんですかね。人生はマリオみたいに何度もコンテニューできるんだからあなたも諦めずに再挑戦すればよかったんじゃないですかね。ゲームを続けるかどうか判断するのって結局あなた自身なんだからさ」
「まあそうなんですけど、でもゲームもそうですけど、何回も負け続けると最後は気力がゼロになるんですよ。それに才能がないとわかっていることを続けるのはある種拷問だし、仮に希望どおりの仕事に就けたとしても向いてないんだから結局いい仕事なんかできないんだし、無駄でしかないんでさっさと諦めた方がいいとワイは思うんですよね。だからやめたんですよ、何もかも」
「あなたが何か夢を諦めたのはわかったんだけど、それならなんで化け物になんかなったんですか? 自分の無能さ、凡庸さを甘受してるように見えてるのになぜあなたは成功者を妬んでいるんですかね」
「いい質問ですね(池上並感)。でも(それに対する明確な答えは)ないです。まあ要するに、ワイは無能だから人生に大失敗したのはしょうがない、と表面では受け入れてるけどやっぱり心の底では受け入れきれてないからでしょうね。いや、ちゃんと受け入れてはいるんですよ。でもSNSとか見てると恵まれてる人達の煌びやかな生活っていうのがやっぱ目に入るじゃないですか。それで心の奥底に燻っている『俺はまだ本気出してない』っていう想いが静かに煮えたぎってくると言いますか、つまり後悔してるんでしょうね、学生時代から全力で何か努力してたら成功してたのに時機を失って手遅れになったことを」
「うーん、この」
僕はやりきれなくなった。たしかに外見がものすごい醜いこのオークも(描写一切してないけど僕と対話してるこの人はちゃんと紫色の肌をした魔物の姿だから)若い頃に自分の能力をちゃんと把握してそれに相応しい努力をしてたら普通に向いてる職業に就いて自己実現できてたかもしれないけど、不器用な彼はそれができなくて、分不相応な職――例えば有名VTuberとかになろうとして大失敗して無気力になったと。だからこの人は生まれつき化け物だったわけじゃなくてごく普通の人間で、ある日道を間違ってしかもその道の終着点で化け物に変わる呪いにかかって今更道を引き返しても遅い状態になった、と。
「心中お察しします」
とりあえずそう言った僕に対して、
「そんな上っ面の言葉、いらないから」と彼ははねのけた。「もう放っておいてくれって感じですね、マジで。早くどっか行け」
「そうは行かないんだよなぁ。だってお前らこの村の人達襲おうとしたじゃん」
「まだその設定生きてるんですか?」とオークは嘲笑した。「もういいじゃないですか、こんな異世界ごっこ。どうせあなたも同じ穴の狢、つまり創作の才能なんてゼロの無能なんだからやめましょうよ、こんな内面を具現化した異世界(笑)で分裂した自己と対話するとかいう痛々しい小説wwwwwwwwww誰がこんなの読みますかねwwwwwwwwww今の時代何が流行っているのか考えてみてくださいよ。早い、安い、上手い。これです。でもこの三つは吉野家の例の宣伝フレーズとは意味合いが少し異なりますからね。この場合の早いは『消費者がなるべく早く消化できる』です。安いと上手いはまあ飲食店の商品と同じですけど。つまり手軽だけど上質で理解しやすいものが受け入れられるんです。あ、今、『そんなの昔からそうだろ』って思いました? そりゃそのとおりなんですけど、最近は昔以上にわかりやすいものや安いものが求められてるんですよね。だからあなたが授業中にノートに書いてる(っていう設定の)この異世界物語みたいな変化球どころか大暴投なんて永遠に評価されることなんかないですからね? ご愁傷さまwwwwwwwwwさあ痛々しい中学生君、或いは40代無職童貞のこどおじさん、もうこの物語をゲームオーバーにしようではありませんか」
「死ね」
僕はブロンズソードを振り下ろした。
「ヴァー」
そしてオーガはどこぞの無抵抗ラスボスの断末魔のような声を上げながら死に絶えた。剣で真っ二つにされた彼がどうやって断末魔を上げたかとかどういう様子で肉体が滅びたとかそういった面倒なことは書かないです。文句あっか。
「さすがです勇者様!」
そのとき、僕らのやり取りを遠巻きに見ていた村人達、そしてエルフがこちらにかけよってきた。
「いたの? 君たち」
「ええ、いましたとも」とエルフは燦々とした目で言った。「言辞を弄するあの醜くて救いようのない魔物に勇者様が騙されて私達の敵になるのではないかと見張っていたんです!」
「え」
「そうですとも! 勇者様よ!」と村長が言った。「あの魔物はああやって被害者ぶって心の弱い者を同情させて仲間を増やしていったのです! 中には勇者様のようなチート級に強い戦士もあのゲロのような救いようのない化け物の仲間になってしまったこともあります! まあしかしその元戦士が村に襲ってきたときもあっさりと我々だけで駆除してやりましたけどね」
「え、それってどういう」
「ようするにああいう化け物っていうのはね」と村の少年が言った。「定期的に洞窟から出てきて俺ら恵まれてる人間達が住まう村を襲ってくるんだけどあいつら結局人生で何も成し得なかっただけにケンカの強さもお察しレベルなわけじゃん? でも俺らは家族とか恋人とか守るべき人がいるからつえーのよ。それこそ惨めすぎてもう自殺するしかないっていうカスなんかワンパンキルしちゃうくらいにね♪」
「……」
「『じゃあ僕っていらなくね?』とお思いですか、勇者様」とエルフが言った。「それが必要なのです。というのも、あの化け物達はレベル1の初心者でも1、2ターンで倒せるザコですけど、たまにボスクラスの厄介が村を襲うときもあるのです。そういったとき村人が無謀な戦いを挑むのは非常にリスキーですので化け物の気持ちをよく理解できるであろう化け物予備軍であらせられる落ちこぼれ――じゃなかった、勇者様に登場していただき、説得の任に当たってもらおうかと」
「なんなんのそれ? じゃあ僕って立てこもり犯を外から拡声器で懸命に説得する巡査部長みたいな役割なの?」
「いえ、正確には説得役兼突撃部隊です。時には命を省みず犯人の所に飛び込まなければなりませんから」
「いやそういうことじゃなくてだな、そもそも魔物って現実世界のネット上で化け物扱いされてる人達――例えばVのアンチっていうことなの?」
「そんなことは私達に知る由もないですよ。だってこの世界はあなたが作ったスペースじゃないですか。つまりメタバースですよ」
「いや適当なこと言うなって……ああもうわけわかんねぇ」
ていうか今まで超ウルトラ適当だったこの世界観に現実世界の社会問題を寓話的に変換して持ち込むなよ……しかもものすごい稚拙なメタファーでさ……。
あ、その稚拙な物語を今まさに創造してるのが僕なんでしたっけ。まま、ええわ。
「で、僕らはこれからどう生きればいいんですかね。ちな、僕は例のアニメスタジオの作品が大嫌いなので僕がたとえ生きる道しるべを渇望していたとしてもその答えを偉そうな上から目線で以て作中で説教くさく語っていそうな例のアニメスタジオの新作は観ないです。そうは言っても僕はひどく受動的な生き物だから、導いてくれる誰かがいないと何もできません。助けてください」
「嫌です」とエルフは言った。「あなたを導いてくれるような存在はこの世界には皆無です。だって100000000%受動的な性格的要素で構成されているあなたという存在が創り上げたキャラクターの受動性は皆あなた以下ですからね、理論上は」
「お、そうだな。まあとにかく、こんなうんこ世界なんかどうでもいいから早く帰って宿題しようかな~」
「おらよ~」
「オォン!」
しかしそのとき僕はエルフから強大な腹パンを食らい、そして僕の意識は暗転したのだった。困ったときの唐突展開、嫌いじゃないけど好きじゃないよ。
脳にダメージを受けたのではなく腹パンされたために完全に意識が途絶えていたわけではなかったので、なんか馬車に乗せられてどこかに運ばれてんな、というのは薄い意識の中でなんとなくわかった。つまりスカイリムのオープニングである。
気が付くと僕は教室で居眠りから覚めた落ちこぼれの中学二年生の役割、つまり現実世界の学生の状態に戻っていたのだった。
「なんだお前、もしかして俺様の授業で居眠りをしていたのか?」
しかし運が悪いことにその授業は、ホワイト時代とかいう今の腑抜け切った時代にこそ昭和的な暴力教育が必要だ、という独りよがりな教育方針を墨守する強面の教師が担当していたので、居眠りをする生徒に容赦なく全力の蹴りを入れる厄介教師からひどい精神的苦痛を受けることが確定されたのだった。南無。
「うおおおおっ!」
だから僕は正当防衛のためになぜか右手に握られていた武器、つまりブロンズソードを下から振り上げ、そして強面教師の首をチョンパしたのだった。
胴体から吹っ飛ばされた強面教師の首にはまだ酸素が残っていて思考する意識があったらしく、『な、なぜ貴様のようなこわっぱがこの私を……』といった意外な表情をしていた。
僕も意外だった。いや手に剣て……ということはここはまだ異世界じゃないか……。
しかしそれは少し事情が違ったようで、隣の席のたいして仲良くない女子が僕に向かって、
「あんたのせいでこの教室が異世界と融合しちゃったらしいんだけど、どうしてくれんの?」と言ったことから、妄想力豊かな僕がまた新たなうんこ世界を創造したらしいことが判明したのだった。
僕は教室内では常に孤立無援だったのでクラスメートから直接非難の言葉を投げかけられたのはこの隣の席の女子からの一言だけだった。
「……」
「……」
「……」
つまりクラスメートたちは、本当はこいつをボロクソに非難したいけどいじめるほど嫌な奴じゃないし、かといってこんなカスみたいに稚拙でいい加減な設定の異世界に俺らをまるごと転移しやがったことを寛容に許してやるほどいい奴でもないから遠くからみんなで抗議の視線を送って責めてやろう、といった心理作戦で以て僕を貶めようと試みていた。
根が針のむしろが大嫌いな質でできている僕は(また貫多オマージュか壊れるなぁ)、地獄から脱出して地上に出るべくその教室から脱出したのだった。




