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というわけで洞窟を攻略することになったんだけど僕はそのダンジョンに足を踏み入れて初めてその洞窟の正式名称が『魔物の洞窟』とかいうファンタジーシナリオを書く気がゼロな奴が考えたような適当な理由がよくわかりましたとも。洞窟内はまさに魔物の洞窟だとしか言いようがない様相を呈していて僕が洞窟の通路を歩く度に背後から握手を求めるアイドルファンの如く魔物の群れが襲ってくるんだよなぁ。つまりロマサガ1のダンジョンである。レベル上げ中毒の僕はダンジョン内の魔物を殲滅してこの段階で中盤まで進めるような強さまで強化して当分のボス戦を軽々と切り抜けられるようにしたい所存だったが、握手会のような魔物の群れを目の当たりにして、この世界の戦闘システムはもしかしてロマサガのように戦闘回数に比例して強い魔物が出現するようになるかもしれないという考えに至り、レベル上げまくり作戦は一旦保留にし、容易に魔物のシンボルに触れてエンカウントしないよう避けつつも適度に敵と戦ってとりあえずは僕の得意武器である剣・大剣のスキルを上げるよう意識することにした。ん? 剣・大剣ってやっぱりロマサガじゃないか(半絶望)。それも2や3のようなシステムのようですねクォレハ……。申し訳ないが僕みたいな脳筋プレイスタイルしかできないアホには自分や仲間のステータスをどういう風に成長させるかを吟味するために戦闘回数を常に意識しながらプレイするとかいう高度な計画なんか立てられないからそういったゲームは自分でプレイするんじゃなくてもっぱら動画配信を見て楽しみますね……。つまり動画勢である。
「というわけでこれ以上この世界で戦うことはどうやら僕にはできそうにないので授業中に書いた妄想ノートの中に入って実際にファンタジー世界を体験するとかいう痛々しい行為はこれにてやめにしてそろそろ授業に戻っていいですかね?」と僕はエルフに頼んだのだが、
「いや、それは無理ですよ。だってあなた、元々中学生なんかじゃないですから」とエルフは言ったのだった。
「なんやて!?」と僕はひどい最終回に衝撃を受けたキャラクターのセリフを思わず吐いた。「ってことはあれかな、やっぱりワイは人生に負けた引きこもりこどおじっていう最低最悪な誰得設定ってことかな?」
「そうとも言えるしそうでないとも言えますね」
「お、待てい。そういう悲惨すぎてネタにすらならない主人公設定は申し訳ないけど一切需要がないからNG。そういう誰も共感しないようなひどすぎる境遇・性格の主人公なんか目に入れるだけで毒だからね、しょうがないね。でもこれが例えば夭折した作家・西村賢太先生の私小説の主人公なら話は別であの貫多シリーズは別に先生が自分の境遇を嘆いてストレスを発散させるために恨み辛みを綴った小説という体を象った痛々しい文章とはまったく違い、狷介固陋で乱暴な主人公が登場人物と揉め事を起こしたりしていろいろやらかしてテレビ版ドラえもんにおけるのび太のように調子に乗った罰としてそれ相当の天罰が下って主人公が痛い目にあって最後は『あ~あ』で終わるような起承転結がちゃんとある残念系エンタメとして読者が楽しめる普通のエンタメ作品だしそしてなにより貫多と同じくして自分の性格や境遇の不利さによって人生が上手くいかない読者が大いに自己投影することができる、つまりその類いの人々にとって救済となるある種の聖書的役割を担った世の中に必要とされている価値ある文学作品だけど、例えば僕がクソみたいな性格だったが故に中年まで何も成し得ないでほとんどまともに職にも就かずにそれどころか毎日ネット三昧でしかもさらに吐瀉物や下痢便や血便を撒き散らすが如く誰が見ても不快にしかならない汚物のような内容の罵詈雑言にすらならない意味のないネガティブワードの羅列をただ自分のやりきれぬ想いを少しでも和らげるという自分本位な目的のためだけに誰も相手にされないというのにシコシコと匿名掲示板に書き込んだりそれだけなら一応そこまで人に迷惑を書けていないからいいとして元々はファンだったけど成功者が妬ましくなった今はすっかり反転アンチとなったVTuberとかのコメ欄とかに醜い嫉妬コメントを書き込んでそれに対するVの全肯定信者達から『さっさと自殺しろよ敗残者』的な攻撃的な反撃コメントをもらって更に自分が惨めな思いをすることによって行くところまで行く、つまり自分を徹底的に追い込むことで『全ての人々から拒絶された自他共に認める究極のクソダメ人間』というレッテルを得て何者にもならないより自分のポジションが明確にされて安心感が得られるという次元の低すぎる志だけで以て生きていたりしたら、そんなどうにもならない僕を主人公にしようものならエンタメとして昇華するにはあまりにもストーリーテラーとしての技術・センスが必要だし、もちろんミジンコ並みのIQしか持ち合わせていないカス人間の僕に西村先生がお遺しになられた諸作品のような完成度の物語なんざ作れないのでもう死んでもいいですかね?」と僕が呼吸も忘れて一息にセリフを撒き散らすと、
「生きよ」とエルフは超然として言った。
「あなたなんかキャラ変わってないですかね?」
「変わってはおらん」とエルフは泰然として言った。「そなたは生きるべきだ。そしてこの物語を完結させるべきだ」
「なぜですか!? 師匠!」
なんか後光が差す幻影が見えるくらい偉そうな態度になったエルフに僕は畏怖した。
「それはだな」とエルフは悠然として言った。「そなたがこの物語をどのようにして終わらせるかによって現実世界におけるそなたの境遇、いや、より正確に言うと境涯が決まるのだ」
「なんやて!?」と僕はアホの一つ覚えみたいに、それこそネットキッズがニコニコで覚えた淫夢ネタを実生活でキャッキャと得意気になって使うみたいにしつこくパロネタを口にした。「それはどういうことですかね……。もしかしてエンディングまで泣くんじゃない的なあれですかね……」
「それは違いすぎるな」とエルフは冷然としていった。「例えば貴様がこの物語を今ここで投げ出してやっぱり僕はクソゴミ人間でしたと大衆に向かって宣言するようにして打ち切り以下の未完エンドにしたとする。するとこの物語を終えて現実世界で目を覚ました貴様自身の人間的ステータスもその状態と同じようになる。つまり何事も成し得ずあとはただ孤独死して腐臭を撒き散らす汚物と化すのを待つだけのクソ袋となるのだ……」
「えぇ……なんか急に怖いこと言い出しましたねこの人……」とビビり散らかした僕はチビリ散らかしかけた。「あなた最初に登場したときは丁寧な口調だったのに、なして突然僕を貴様呼ばわりするようなキャラになったのかね? ちょっと設定ブレすぎじゃないですかね……」
「それはお主の精神がブレておるからだ……」とエルフは恬然として言った。「お主の精神は今分裂状態にある……故にお主が接した人物もブレブレなのじゃ……」
「たしかに僕はロリババア的なキャラも好きだし色白で細身なのに胸は割とある美人エルフも好きだからそういういろんな好きを混ぜた結果この世界観がカオスになるのも納得がいきますね……。まあそんなことより、僕は一体これからどうすればいいですかね師匠……」
「そんなことは簡単で、まずは目の前のやるべきことを解決すればいいのです」とエルフは悠然として言った。どうやらキャラが戻ったようだ(多分)。
「おかのした。たしかに現実世界でも何か悩みがあるとき、それを行えば割と解決しますね。というかいちいち毎日うだうだ悩んだり考え込んだりする人って結局は甘えなんですよね。つべこべ言わずに働け、って言いたくなりますよ。特に学生とかにもそういった、『お前恵まれた環境で生活してるくせになんで意味もなく死にたいとかほざいてんの?』って言いたくなるようなみみっちい奴いますよね。住む家があって自分の個室があって毎日三食食べられてトイレはウォシュレットで高速インターネッツ環境があってスマホを持っていてしかも通信量は親が払っていて進学する資金が実家にあって都会に住んでるのにまだ何かが足りないとか抜かしやがるカスみたいなキッズね。ああいうの死ねやって思いますね。まあこれは結局恵まれなかった環境で――いや違いますね、努力はしたんだけど頭が頗る悪くて自分の能力や限界を客観的に鑑みれなかったが故に経済的自立に大失敗した僕が妬んでるだけなんですけどね。というわけでこれ以上しくじりたくないので目の前に出された課題をなんとかしてクリアしたいと思います。じゃけん一緒に魔物の洞窟をクリアしましょうね」
そうして僕らは魔物の洞窟の攻略を再開したのだが……。
「飽きました」
僕は即行飽きたのだった。
そりゃそうでしょ。洞窟に潜ってチマチマ魔物とバトルしたり宝箱ゲットしたりするのが今時面白いわけないんで。
「あなたはなぜすぐ飽きるのですか?」とエルフは傲然として言った。「さすがにこの簡単なダンジョンの攻略すら投げられますと今後私はあなたのサポート如何を考えさせて頂きますが」
「そう言われましてもね……。だって考えてみてくださいよ、今時こんな少しずつ試練をクリアしていく努力型ストーリーなんて誰が面白がります? 世間はチートやらざまぁやら悪役令嬢やら鬼への復讐やらアイドルの闇やら甘々ラブコメやらそして僕が心の底から憎むVTuberやらが流行っているのにこんな昔のRPGみたいにチマチマレベリングして一個ずつダンジョンないしはイベントをクリアしていって道中で出会った頼もしき戦士を仲間に引き入れて諸悪の根源だと思って倒したラスボスが実はそれほど悪くない設定だと判明してユーザーの心を揺さぶったりエンディングで実は死んだと思ってたヒロインが生きてることがわかってなんやねんそれってリアリスト型ユーザーの怒りを買ったりするのってもう古いと思うんですよ。そんなのやっぱり手垢がつきまくってますし、そういった王道という体裁を繕った手抜き設定なんかには今の受け手を退屈死させる以外の効果はないと思いますね」
「じゃああなたが理想とする設定ってなんなんですかね」とエルフは憤然として言った。「文句を言うのならあなたが最善だと思うシナリオを紡いでください。私はそれに従いますから」
「マ? じゃあまず、服を脱ぎます」と僕は古のネットスラングをつい口にした。こういう安易な発言も頭が悪い証拠ですねクォレハ……。
「わかりました。はい」
エルフが右手を掲げた。
すると僕の服が全部脱げ、そして僕のポーツピック以下のしめじさんが公の場に晒されたのだった。ちな、その辺にうろついているオーガ系の魔物も基本フルチンなので今僕が彼らと剣を交えた接近戦バトルをしようものなら別の剣と剣がバッティングしてしまうだろう。つまりソーセージレジェンドである。あ、ソレセとか言ったらまた嫌いなVTuberとか思いだしましたね……。あいつらに99・99999999999999%の累進課税課せてやれば貧困に喘ぐ層にもお金が行き渡って経済が回って国民全体がそこそこの暮らしができるようになって犯罪も減って凶悪犯罪が減って日本がまた住みやすい国になると思うんだよなぁ。私は運がよくて失敗したことがないとかイキってる年収億超えの一人勝ちVTuberからごっそり税金取って富の再配分しろよなー頼むよー。あ、『お前が低収入なのは努力が足りなかったからだ』みたいな、そういう実力主義が能力弱者に向かって吐く差別以下の罵倒は僕に言わない方向でオナシャス。『成功するかどうかはその人の能力・才能次第』という考えは悟り世代という言葉がすっかり死語となるくらいその世代の人々が提唱した思想が世間に認知されてこの令和の時代においてそれはもはや常識となったわけだが残念ながら『成功を目指していくらがむしゃらに頑張って努力しても絶対に成功できない、まったく能力・才能がない人々、或いは努力することすらできない人々』が世の中に一定数いるという事実は実力主義・成果主義を謳うこの国においては今以て世間ではあまり広まってなくて、だから僕のような脱落者はすぐさま犯罪者予備軍や自殺願望者扱いされてしまうんだけどそれは違いますぜと僕は言いたいですね。まあ詳しいことはマイケル・サンデルの『実力も運のうち 能力主義は正義か?』(早川書房)を読んで、どうぞ。ここには実力が付けられるかどうかは運・才能次第、努力し続けられるかどうかも才能次第、といった運・才能が皆無な僕のような劣等人間にとって救済となりうる金言が書かれているから。ちな、(僕はこの本を読んだことは)ないです。つまりアマゾンのレビューを一通り見ただけで読んだ気になってました。すいません許してください、なんでもはしませんが。貧困に喘ぐ僕には値段が高すぎるので、kindle版がセールになったら購入を考えます(買うとは言ってない)。しかし最近こういったその本を読んでもいないのにネットの感想を拾って読んだ気になってあたかも自分自身が買って読んだかのようにその本の感想をネットで呟くような知ったかエアプ勢、かなり多いっすよね。まあ僕も人のこと言えないけど。
「って、そんなことより僕のこの矮小な息子を早く隠してくれませんかね」と僕は股間を両手で隠しながら言った。本当は片手だけで充分隠れるが。
「残念ながらあなたの服は魔法により消失したため二度と戻って来ません」とエルフは凜然として言った。なんで逞しい口調で言うねん。
「じゃあどないせっちゅうねん。こんなサービスシーン、誰が喜ぶんですかね」
「それは中学生男子の初々しい肌を好む層が喜ぶかと思われますが……じゅるり」とエルフは陶然として言った。
「いや、そんな無理に腐女子アピールみたいなことしなくてもいいから(良心)」と僕は宥めるようにして言った。「今時そんなちょっと前のアニメで見かけた変態女なんか需要ないから」
「そもそもあなたは最近のアニメを何か観てるんですか?」
「(もちろん観て)ないです。だってワイ、敗北者じゃけぇ、なんかそういった人生の勝ち組みたいな業界最前線で活躍するクリエーターが渾身の力を込めて創り上げたキラキラしたコンテンツとかに触れると体と心が掻き消えそうになるんですよね。というかコンテンツそのものじゃなくて自分の力で手に入れたわけでもないのに単に運がよかったっていうだけで社会的に成功することが確約された才能を持って生まれた人達そのものの存在を不摂生や不衛生や乱れまくった生活習慣が原因で蚊が飛びまくる幻影つまり飛蚊症となってしまったこの僕の網膜に認識させることがつらいんですよね。ああいった人達は狩猟採集時代の人類だったら使えないお荷物として集団組織から捨て置かれてしまう僕のような敗残者に生きるのがつらくなるほどの耐え難き劣等感を与えて自殺に導かせる存在だと思うの。つまり歩くニフラムである。故に持たざる者である僕らを死に追いやる彼ら持つ者達は直接手を下したわけではないのでニフラムでクソザコナメクジを消し去ったが如く彼らには経験値は一切入らず、ただ単に人身事故のニュースを見て中央線は今日も遅延かと一言心の中で思うのみである。というわけでその歩くニフラムが元気いっぱい生放送しているVTuberのライブ配信なんか観ようものならその成功者の放つ強烈なオーラが放つまぶしさに『うおっまぶしっ』と目を眇め、そして自らの強烈な嫉妬心がエネルギーとなって燃え上がった瞋恚の炎によって我が魂は焼き尽くされることになりますねぇ!」
「ではあなたは最近のアニメのトレンドについて何か意見する権利は持ち得てない、と」とエルフは毅然として言った。
「(もちろんそんなものは)ないです。でもVTuberについてどうこう言う権利はあるんだよなぁ。というのもワイ、この三年間有名Vの配信を、それこそ10窓するくらいがっつり観てたからね。もちろん親のクレカでスパチャするという未成年依存リスナーあるあるの窃盗行為もしましたとも。あ、やっぱり人生オワコンの中年こどおじがゴキブリと仲良く暮らす部屋で新陳代謝の高い学生女子が夏の間履き続けて一度も洗ってないブーツの匂いみたいな納豆が腐った感じの腐臭を放ちながら一人パソコンモニターに向かってシコシコ自己満足以下のゲロゴミ小説を書き綴るとかいう悲愴極まりないカタストロフィにはしたくないので良いスクールカウンセラーにさえ恵まれれば地獄の牢獄で拷問を受けているかのような爆裂的な劣等感が因によるもはや末期的といっていいほぼ完治不可能の重度の依存症の症状を多少なりとも改善できるとも言えなくもない可塑性を持つ未成年という年代に設定したく思う所存でありますあります。というわけで僕はちゅうがくにねんせい、じゅうよんさい、そういう認識でおk? ちな、あらゆるVの配信に居座ってた僕がチャット欄にコメントした『うんうん』の数は1919072にものぼり、これもうギネスに申請するしかねぇなった思いましたね……。あ、僕がネイティブに英語を発音するギネスの日本人スタッフとおどおどしながらやりとりするその様子を動画に撮って登録者数が一桁しかいない吹けば飛んでいくようなしょぼい僕のYouTubeチャンネルに投稿すれば週刊誌のようなスキャンダラスなネタを取り扱ってる人気まとめサイトであわよくば取り上げられてバズって登録者数が一気に千を越えて収益化条件が満たされてしかもバズりにバズって僕の年収がいきなり一千万とかになるかもしれないしそうすれば本当は小説家になりたかったけど文学的センスが欠けていたがために純文学系の新人賞に落選し続けついにはプロ作家への道を諦め夢が叶わなかったときの保険のために大学時代に取得していた教員免許を頼りに公立の国語教師になったはいいがあの大作家を越えてやると意気込んでいたときに抱いていた壮大な夢(笑)が打ち砕かれたことで生まれたあらゆる刹那的快楽でも解消できないくらい肥大化した劣等感から目を背けるために僕のような劣等生を陰で嗤ってバカにしていた二十代後半の女性顧問を金にものを言わせて従えてワンワン鳴いてみろよ、三回だよ三回、あくしろよ、と屈辱的な命令を下して悦に入るという夢のようなことになるかもしれませんね……」と僕はニチャア……。
「閑話休題」とエルフは淡々として言った。「それよりも勇者様、この冒険初心者ですらまたいで通るクソザコダンジョン『魔物の洞窟』ですら攻略する気がないというあなたがこの先生きのこるにはどうしたいいでしょうかね」
「そらこっちの質問やがな」と僕は答えた。「お前僕を召喚した責任者なんだから、どうしたら僕が充実した人生を送れるか、ついでに魔王に蹂躙されそうなこの世界をどうしたら太平の世へと変えられるのかを僕に教えろよホラホラホラホラ」
「そうですね……」
だがエルフは黙然としている。
なんだよこのエルフ、以外とローディング長いんだな……。
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「……………………………………」
「……………………………………」
エルフはいつまで経っても僕に対しての適切な答えを自身の脳内から引き出すことはできなかった。それとも僕へのアドバイスの情報量があまりにも大きすぎてローディングに時間がかかっているのかもしれない。だったら一刻も早くCDドライブを倍速に取り替えて、どうぞ。まあでもアーケードゲーマー垂涎の例のゲーム機はCDドライブが等速から倍速になったバージョンでもほとんどあの地獄のようなローディングは改善されなかったようだが。だからドリキャスで家庭用格ゲーソフトが拡張ロムなしで快適にプレイできるようになったときは歓喜に打ち震えたゾ……。ま、ヘタレゲーマーの例に違わず僕は格ゲーが頗る下手クソだから昔はほぼギャラ専、今は完全に動画勢なんですけどね。これは僕のような頭が弱くて運動もダメなタイプのゲーマーにはよくあることで脳の造りが他人より悪いせいか状況を瞬時に判断して即座に指を動かしてコントローラーを操作するという高度な技術が必要とされる頭の回転速度の差が如実に表れる格闘ゲームというジャンルが上手くできないんだよなぁ。というわけで僕は有名ゲーマーの配信内のチャット欄でネットで蓄えた知識をフル活用してチャット欄にいる他の動画勢共と知識マウントを取り合い時にはその暴言乱れる僕とケンカ相手の罵倒合戦がモデレーターから荒らしと見なされて両者ブロックされてケンカ両成敗されるという動画内で行われている世界レベルのプロゲーマー達の高度な技術による戦いとは天と地ほどの差がある超低レベルの争いに終始するしかないんですよこれが……。あ、でも動画勢っていっても僕は(エアプでは決して)ないです。アケアカで発売されてる名作格ゲーは全部買ったしおそらく世界で一番ガロスペの動画を配信しているであろうあの有名ゲームセンターのチャンネルもしっかり登録してますしてます(メンバーシップに入っているとは言ってない)。もちろんガロスペの配信も低評価を押すだけ押してさっさとブラバするとかいうアンチ的な行為は絶対しないどころか毎度高評価してますとも。そうしてガロスペが稼働していた少年時代に想いを馳せていますとも。
「ん? 今餓狼伝説スペシャルが稼働していたとき少年時代だって言ったよね?」とエルフは燦然とした、しかし人の隙を突いたときのようないやらしい笑顔で言った。しかしこいつさっきから形容動詞使えばかっこよくなるって思ってるな。「なぜ今、中二のあなたがそんな古いゲームのことを知ってるんですかね」
「そういう設定なんでしょ(適当)。それは冗談だとして『俺の青春時代はゲームが2Dから3Dに移行する日本のゲーム黄金期だった』が口癖だった僕の氷河期世代の親父が格ゲーマーだったんだよ。それと今の時代昔のゲームのプレイ動画や実況動画なんか腐るほどあるし、学校のクラスメートなんかも発売した時、自分はまだ白いオタマジャクシですらなかった頃のゲームを推しのVが配信で取り上げたときは熱心に観てるし、というかそういった熱心なVリスナーはプレイしているゲームなんか興味なくてあくまでも『仮想恋人の相手であるVを観ること』が目的だし、そういうわけだから彼らは仮想彼女に気に入られたいがために推しがTwitterでレトロゲームの配信予定を通知するや否やそのゲームの動画を観て攻略法をメモを取りながら徹底的に記憶して推しが配信でそのゲームの攻略で詰まったときに『そのボスは無敵だからあのアイテムをつかうんだよ』とか『あのヒロインは次の場面で死んでパーティーから永久離脱するから今のうちに装備剥がして』とか『スタートボタンを押してポーズ中に上上下下左右左右BA押してみ。とぶぞ』などといった重大なネタバレを含む余計極まりないアドバイスをする厄介ファン、つまり指示厨になったりしてるから別に僕ら令和のキッズがドット時代のゲームに馴染んでたってそれほど不自然じゃないと思うんですけど(名推理)」
「すいませーん、魔物の洞窟のオークですけど、まだ時間かかりそうですか?」
僕らが初期タランティーノ作品みたいな長ゼリフを展開させていたら勇者と戦う準備をしていた魔物の洞窟のボスっぽい魔物が業を煮やした様子で洞窟から顔を出してそう言った。
「うるさい。今大事な話してるんだよ」と僕はブロンズソードで洞窟から顔を出したオークの頭をぶった切った。
「ウボァー」
断末魔の叫びを上げながら吹っ飛んでいったオークの頭を見届けながら僕は剣を鞘にしまい、
「はい、ボスは倒したから魔物の洞窟は攻略完了」
「速いっすね」とエルフは鷹揚に言った。「これで村の平和は守られましたね、勇者様! では早速村に戻って吉報を村長に届けましょう!」
「ブーラジャー!(昭和のギャグマンガ並感)」
だが僕は浮き足立ったその足で以て村へと向かおうと一歩踏み出したその足をピタリと止めた。
「あ、そうだ(唐突)。オークをぶった切った時に飛び散った鮮血を全身に浴びちゃったから、村に向かう途中にある民家で風呂を借りよう」
描写は省いていたのだが実は僕がオークの首をチョンパしたとき、赤と黄色と緑の三色が混ざった粘度の高い体液というか血液を僕とエルフは滝行の如く浴びてしまったのだ。これが色が毒々しいことに加えてくさいのなんのって。当分パプリカは食べられませんね……。
「というかそんな民家なんかありましたっけ」と尋ねるエルフに、
「ありますあります。そういうことにしておけば家でも城でも勇者様でも召喚されるから」と僕は答えた。
「さすがです勇者様! それでこそこの世界の創造神です!」
エルフはあざとかわいい仕草で感心して見せた。そういう90年代~2000年代のヒロインのノリを見せつけられるのはもはや拷問に近いんだよなぁ。それとサラッとネタバレ的なことを言うのもNG。
そうして僕らは村に向かう途中にある集団生活が馴染めないで人里離れた一軒家で暮らしている変わり者家族が住んでいるという民家へと向かってクソ液まみれになりながらとぼとぼ歩き始めたのだが、なんか道の向こうから僕らに負けず劣らず体液まみれになった少年が血相を変えて全力疾走してきたんだが……。ちな、その少年の体にこびり付いた体液の色は残念ながら(?)白ではなく黒ずんだ赤だった。その少年が通り魔殺人を犯した様子は別になかったので、
「何があったんだ?」と僕は臆することなく――さっきからやたら多用されている形容動詞シリーズに則って言うと――泰然として尋ねた。
「助けてください! 村に魔物の群れが襲ってきたんです!」
「なんやて!」と僕は普通に驚いた。「そんなベタな展開誰が望んでるっていうんだよ! ふざけんなよ! せっかく現代からむりやり召喚されてきたってのに小説ゲームアニメ実写ドラマ実写映画のファンタジー作品で一億回くらい見たようなそんなベタすぎて付いた手垢がサーロインステーキの白身くらい分厚くなったクライシス誰が望んでるんや! そんな百億回くらい繰り返されたシーンに僕が行って観る人の度肝を抜くような新鮮な展開にできると思ってんのか!? だからさっきから僕は創作の才能がないって言ってんだルルォ!? 将来永遠の助走者クリエイター確定の僕にはちょっと荷が重すぎやしないですかね」
「でも今この時も村の若い女の人達がオーク共に犯されてるんです! 早く助けに来てください!」
「よしわかった、行こう!」
僕は敢然として薄汚い魔物共に立ち向かうことに決めた。
え、それってオークに陵辱されている女性を目に焼き付けるのが目的なんじゃ、というエルフの呟きの他に僕の耳に入ってきたのは、「でも村の女の人達は実はふたなりなんです!」という少年の衝撃的な言葉だった。
「なんやて……」と僕は心の底から聞き返した。「それどういうことやねん」
「はい、実は数年前にも一度オークの大群が村の女性達を襲ったことがありまして、そのときの苦悶を二度と味わわないようにと防衛本能が働いたのか、村の女の人達の体が急激に進化しまして、なんとオークのしかるべき穴を逆に陵辱して精神的に破壊すべく女の人達全員にご立派すぎる前尻尾が生えたのです……。つまり女の人達は逆襲として今度は逆にオーク達を陵辱するようになったのです……それが数年前に一度起こった事件です……」
「あ、そう……」
僕は下らなすぎる下ネタにいささかうんざりした。
「そんなクソみたいな進化はB連打してキャンセルして、どうぞ」
「でもそのお陰で逆レ○プできるようになりましたし、男の手を借りずともオークを撃退できるようになりました。立派な肉剣で以てです」と少年はいささか得意気な笑顔を浮かべていった。
「死ね」と僕は思わず吐き捨てた。さすがにバカらしくなってきたのだ。「手段はともかくその女の人達だけでオークを撃退できるんなら僕の出番いらなくないっすかね(正論)」
「いりますねぇ!」
少年はここぞとばかりに語録に近い言葉を口にした。このガキ殴りてぇ……。
「だって自分の母親が嬉々としてオークを逆レ○プするのを見てあなたはどう思われますか!? それをなんとかして防ぎたいとは思いませんか!?」
「なんやねんその遠回しな言い方。いかに多くのコンテンツを消費できるかが勝負のこの時代に冗長なセリフは御法度だからな? 例えばweb小説なんかだと、言いたいこと、言うべきこと、重要なことを簡潔にまとめた文章にしないと三行でブラバされるから注意な? でもよく誤解されるんだけどそういったわかりやすくて尚且つ魅力的な文章はなるべく多くの読書体験によってなされるとかいう人たまにいるけどそれは大間違いだからな? というかそもそも本を読めば読むほど文章が上手くなるっていうのも間違いで、それは取りも直さず他人が考えた他人の言葉を盗みまくる技術が上がるだけで決して文章そのものが上手くなるわけじゃないんだよなぁ。で、こういう話をすると、『え? 創作って結局いろんな人の細かい技術やセンスを切り貼りすることじゃないんですか?』って反論されたりするんだけど、まあそれはたしかにそうだと思うけど、でも本当に人の心に刺さる創作作品ってその人の本心から作られたものだし、まあ昔風に言うと魂の叫びってやつ? そういう青臭いというか痛々しい表現も現代ではもはや嘲笑の的になりつつあるけどでも言葉に関してはその人が心から言いたいことを言ったときに出た言葉だけが人の心を打つんだと思うんですよ。例えば好きな人に告白するときも、『月がきれいですね』みたいな虎の威を借る狐の如く文学作品から引用してしたり顔するよりも、『僕はあなたが好きすぎるので夜中毎日あなたのことを考えながらシコシコしてます。だから付き合って今度は一緒にセクースしましょう』って言った方が相手の心に響くと思うんですよね。結果が上手くいくいかないは別としてさ。だからお前も勇者様に村を助けてもらいたかったらもっとガキらしいセリフ回しで以て僕に助けを請うて、どうぞ」
「またピネだ! このピネって奴マジうぜーんだけどふざけんなよぜってー殺す! はいピネ死んだー」と少年は突然喚き始めた。
「やれやれ」と僕は言った。「どうやら貴様は僕の話を全然理解してなかったようだね。他人の言葉を流用するなって言っただルルォ!? スケベなことしか考えないド田舎の無垢な少年らしい言葉を紡げよ、あくしろよ」
「そういうあなたもさっきから他人の言葉を借りまくってると思われ」とエルフが横から僕に攻撃した。
「ああもうじゃあいいよ、そんなに僕を責めるなら村なんか助けないからな。勝手にしろ」
反論できなかった僕は拗ねた。
「じゃあいいよお前なんか! このインチキ勇者!」すると少年が普通にキレた。「このお姉ちゃんに助けてもらうからお前なんかいらねーよバカ! アホ! 死ねっ!」
そしてエルフの手を取って駆け出したのだった。
「なんやねんあのガキ。やっぱり教育の行き届いてないドドドドド田舎の少年って感じですね」と僕はやれやれ。
そうして荒野に異人である僕一人が取り残されたのであった。
「……」
ていうかこれからどうしましょうかねほんとに……。
まあもうそろそろ異世界転移ごっこにも飽きたし、ていうかそもそもファンタジーの世界に入っていろいろ頑張るとかそういう七面倒くさいことは僕には向いてないし、帰りますかね、ホーム・スイート・ホームへと……。
「リレミト!」
だから僕はパクリ呪文を唱えた。
「……」
しかし何も起こらなかった。
「ルーラ!」
そいうえばここはダンジョンじゃなくてフィールドマップ上だったな、と思った僕はその呪文を唱えたのだが、自分が元いた世界のことを頭に思い浮かべてもそこに向かって飛んでいくことはなかったし、例え飛んだとしても元の世界はおそらく天井にありそうなイメージ、つまりアレフガルドに対しての上の世界みたいな場所にあると思われたから飛んだとしても頭をぶつけるだけかと思いこの呪文は使わない方がいいなと判断したのだが、それと同時に、あ、もしかしてこの世界の魔王を倒したら元の世界に繋がっている然るべき穴が閉じる可能性が微レ存? そしたら僕、この世界にずっと留まらなきゃいけなくなるんですがそれは……という懸念が頭をよぎったのだった。
「まあいいんじゃね、別に。家帰っても特に面白いこともないし」
そうして僕は明日へ向かって歩き出したのだった。
完。




