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「世界設定のことなら私が一晩かけてゆっくり解説しますが」
宿につくとエルフがそんなめんどくさそうな言った。
「あ、すいません。僕、社会の授業は全寝する質なんで、このクソゲーをクリアするに足る知識で充分です。ていうか自分の町内のことも興味ないのに世界のこととかましてや本当にあったかどうかもわからない昔のことなんか知りたくもないんだよなぁ。そんな無駄知識を記憶してるかどうかで進学先や就職先や最終的に年収と抱ける女の数が決まるなんてなんかおかしくね? って僕は思うわけですよ。つまり学歴偏重主義はやめちくりー」
「……」
「というわけで僕に備わっているとかいうチート能力を駆使してその魔王とかいうのをさっさと殺そうぜ。日が暮れちまうよ」
「いえ、あなたにはまだチート能力は備わっていません」
「なぜだ」
「だってあなた、チートとかそういった類いの無敵設定がお嫌いなのでしょう? 最初のモノローグでそのようなことを仰っていた」
「そうだよ(便乗)。たしかになろう的設定やラノベを嫌ってはいるね。でも僕自身がかの物語の設定に則って無双してあらゆるヒロインとニャンニャンするのはやぶさかではないね」
「残念ですがあなたが一度心の中で決意したことは私ですら変えられません。この世界では心の中で思ったことが設定として反映されるんですよ」
「え、何その引きよせの法則的な安易な設定は。ちょっとご都合主義すぎやしませんかね」と僕はスピリチュアル系の思想を軽く非難した。
「別に不自然ではないと思います。魔法が普通に存在するこの世界ですね。とにかくあなたはあなた自身が望んだとおりチートで無双するのではなく、『歯を食いしばってコツコツ努力して毎日少しずつパワーアップする』を有言実行してください」
「なんか言ってることめちゃくちゃなんですけど。じゃあ僕に元々備わっていた勇者的チート能力はもう消えちゃったってわ~け~?」
「消えてはいません。あなたは今もチート能力を内に秘めています。しかしあくまでも内に秘めているだけで、それを引き出すには長年の苦心惨憺と忍従が必要です。そういう設定を自分に課したのはもちろんあなた自身です」
僕はたしかにチート設定は好きではないが、かといってくしんさんたんやにんじゅうとかいう漢字にするのも嫌なものを体験するのも嫌だった。
「やだ! 小生やだ! そんな面倒なことするなら現実世界に帰る!」
「それは無理だと思いますよ。だってあなたは家の前で軽トラックに轢かれて死んだのですから」
「そうだけどそれは僕が授業中にノートに書いた落書き上での設定、つまり単なる妄想であって、本当に死んだわけじゃないから(震え声)」
「いいえ、本当に死にましたよ。それもあなた自身が死を選ぶことによってね」
「なんやて……」
目の前で薄気味悪く微笑むエルフを見て僕のデリケートな器官は縮み上がってしまったのだった。ついさっきまでの僕は彼女の微笑みを見て、夜は一体どんな表情でどんな声で喘いでくれるのかなあああああ、とキモすぎることを考え、そして大量の血液が送り込まれたしかるべきデリケートな器官が見事なワンポールテントを形成させていたというのに今僕のデリケートな器官は取って食われるのではないかという恐怖に怯えてしまっている……これはまずいな……しゃぶられるのはいいが食われるのはちょっと……。
しかしそのようなセクハラ中年親父のようなスケベな発想をしている場合ではない。努力しなければチート能力が手に入らないというのならなんとかして努力するしか道はない……。
「わかったよ。じゃあ魔王を倒して現実世界に帰るためにも努力するよ。幸い僕はチマチマレベル上げするのが大好きな質でね。故にレベルを上げまくればボスなんか紙のようにもろくなるドラクエシリーズが好物で逆にこっちのレベルと反比例して敵からもらえる経験値が減っていくファルコムのRPGは苦手なんだよね。だってそういうゲームは石橋は叩いても渡らない僕のような超慎重派には向いてないから。ていうかそういうゲームって逆に言うとプレイの幅が狭まると思うの。だって誰がプレイしても適正レベルでボスに挑むことになるし、ていうかファルコムゲーって昔から僕らみたいなライトゲーマーに厳しいよね。他のユーザーより時間をかけてキャラクターを強化して楽にボスを倒すとかいうある意味ズルみたいなプレイスタイルを否定してて敵が倒せなかったら何度もトライしてプレイテクニックを磨いてクリアしてくれ、っていうスタンスだよね。要するにそうして苦労してゲームをクリアすれば清々しい気分でエンディングを迎えられますよ、って言いたいんだろうけど残念ながら僕はクリアするまでに味わった苦労やストレスが多ければ多いほど一銭にもならないのにあーこんなゲームのエンディング見るためだけになんでこんな苦しい思いしなければダメなんだろってむなしくなるタイプなんだワ。まあ要するに僕はゲームには本来向いてないんだろうね。ていうか根が本質的にエンジョイ勢なんですよ。ていうかゲーム実況やろうかなって今は考えてますね。そうすればプレイ中にうまくいかなくて『ふざけんな!(迫真)』ってキレてコントローラーぶっ壊したりすればまとめサイトで面白おかしく取り上げられて人が集まって再生数が増えて広告費を稼げると思うんだよなぁ。ていうかそうじゃなきゃゲームで苦労なんかしたくないですね……」
「じゃあゲームやめればいいじゃないですか」
「そうなんだけどそれがたった一つの取り柄というか、やることがないんですよね。かといってオタクコンテンツはあまり好きじゃないし」
「ゲームもオタクコンテンツだと思うんですけど(名推理)」
「今はそうかもしれないけど昔は違ったんだよなぁ。というのも、今でこそゲームはゲーム好き、つまりゲームを理解し、楽しもうと思っているゲーマーだけの娯楽、ていうような認識があって、つまりゲームに興味のない人はおいそれと手を出せないコンテンツになってるけど、日本のゲーム黄金期と呼ばれた90年代はそんなことなくて、猫も杓子も任天堂かソニーのゲーム機でゲームをやってたんだよなぁ。それだけフレッシュなエンターテイメントだったんだワ、当時のビデオゲーム市場は。今のコンテンツで例えるとYouTuberとかですかね。いや、同列に語りたくないけどさ、正直な話」
「セガを忘れてるような気がするんですけど」
「残念ながら青いハリネズミが一世を風靡したのはアメリカ大陸でだけなんだよなぁ。それこそ日本ではセガハードなんて今で言うゲーマーの間でしか認知されてなかったし(微偏見)」
「で、結局何が仰りたいんですか?」
「早川書房の『セガvs.任天堂』はゲーム好きにとって必読ってことですね。ソニックのあのデザインを最終的に決めたのはセガ・オブ・アメリカの女性社員だったとか、セガ日本本社がソニックの相棒の名前を『マイルス・パウワー』に決めたのを知ったアメリカ側スタッフが『ファ!? なんやねんそのAV男優みたいな間抜けな名前は……テイルスとかにしろや……』と猛反発して日本側と対立した結果、かの複数しっぽ狐の名が妥協案としてマイルス・テイルス・パウワーに、つまりアメリカ側の考えた名がミドルネームとして加えられたことを僕はこの本を読んで初めて知りましたね。ちな、今はテイルスの本名がマイルス・パウワーだなんてことはほとんどなかったことにされてテイルスに統一されてますね……。まあそれだけ当時の日本側のスタッフのセンスがあれだったということで……(偉人に対する侮辱)。ところでテイルスの声は広橋ネキじゃなくてソニアドの林一樹君が一番合ってると思うんですけど(懐古厨並感)。だから今度新作を出すときは林君を再起用して、どうぞ(叶わぬ願い)。それにしてもつくづく思うんだけど任天堂にしろセガにしろソニーにしろアメリカ側のスタッフの意見があったからこそ今の成功があるんやなって。ちな、マリオの名付け親も(宮本さんでは)ないです」
「ゲームの歴史は楽しく勉強できるんですね」とエルフはムカつく笑顔を浮かべた。
「お、そうだな。まあ好きこそもののなんとかこうとかっていうし、多少はね?」
「だったらゲームの歴史解説系の動画を作って一儲けしたらいいじゃないですか。こんなくだらない小説を授業中に落書きするよりも」
「いや、そこまで詳しいわけじゃないし。それに僕みたいな半端な知識を持った奴が解説系の動画を公開しようものならすぐにボロが出て本当の有識者達からコメント欄で訂正という名のお叱りを受けちゃうよ……やだ怖い……。実際生半知識の解説系動画のコメント欄は殺伐としてるし、ていうか僕もあやうく怒りのコメントを書き込みそうになったゾ……」
「ですがチート能力の会得でも動画収入でもなんでも努力しないと手に入らないと思いますけどね。それこそ平和なんかも死を覚悟して戦いに挑まなければ手に入りません」
「いや、僕、戦争世代じゃないし、そんなシリアスなことを言われてもねぇ」
こうして平和ボケした現代人特有の脳天気さを口にしたわけだが、いつまでこうやって、戦争の当事者じゃないからシラネ、とすっとぼけてらますかね……と僕が今の世界情勢の不安定さに内心で怯えていると、
「すいません、勇者様、上級神官様……今お取り込み中でしょうかね? なんか近くの洞窟に住む魔物の群れが村にやってきたんですけど……」とさっき村長の傍にいた中年男性の村人が僕らの部屋のドアをノックなしに開けてきたのだった。
「おいコラァ! 僕がこの上級神官様としかるべき行為に及んでいる最中だったらどうするつもりだったんだ!」
そしてビビった僕はそんな寒いことを言って虚勢を張ったのだった。
「あなた方はそういう関係にはとても見えなかったので堂々と入った次第です」と中年村人は不服そうな表情で答えた。
その強気な態度にイラッときた僕は、年上の威圧感みたいなものに多少怯えながらも、
「ふざけんな!(声だけ迫真)」と勇者の威厳を何とか示そうと試みたのだった。
「とにかくそんな場合じゃないですよ」
だが村人は動じなかった。村人は僕の手を取り、
「いいから早く来てください」
僕を宿の外へと連れ出した。




