表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界未転生  作者: ハタケ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/16

2

 すると気が付くとまた時間が巻き戻されていたのだった。


 しかも今度は異世界に召喚された時間まで。つまり長耳エルフから「お目覚めですか勇者様」とかいうなんの捻りもないセリフをまた言われたのである。

「ごらんのとおり目覚めましたとも」と僕も適当に答えた。

「ふぅ……」と長耳エルフは何か憑き物が落ちたような表情で吐息をついた。それはまるでほぼ合格確実だけどもしかしたらワンちゃん落第するかもしれない可能性のある大学受験で合格の知らせを受けたときのような安堵の表情だった。

「もうお気づきかもしれないですけど」とその召喚士エルフは言った。「実はこの世界は崩壊の危機に瀕しています!」

「そう……(無関心)」と僕は言った。

 しかし崩壊で思い出したけど死ぬ前に今話題のあのRPGをやっておけばよかったかな……。あ、プレイするならスマホではなくもちろんパッド操作が可能なPC版で。それもPS4のコントローラーで(ソニー信者並感)。申し訳ないが僕にはスマホでゲームをプレイするという発想はなかった。というのも物心が付いたときからパッドでしかゲームをプレイしたことがなかったので僕の脳にはスマホの画面をポチポチしてゲームをするというプログラムが搭載されておらず故に単にネットを閲覧するだけならともかくスマホ及びパッドでタッチやスワイプしてゲームを操作しようとすると僕の意識に過負荷がかかってすぐさまフリーズし、意識不明の重体に陥って救急搬送される危険性があった。つまり平成初期の会社でよく見られた職場に導入されたワープロをむりやり覚えさせられてノイローゼになった機械音痴の中年サラリーマンである。僕は彼らのように新しい物に対するアレルギーがすさまじかった。

「そうなのです! 北の孤島に住まう大魔王が魔物を率いてエルフと人間の国に攻め込んできたのです!」

 脳内で苦手な物アピールをしている僕をよそにエルフは話を続けた。

「だったらあなた方の国の戦士達が協力してその魔王に対抗すればいいじゃないですか(正論)」と僕は言い返した。

「ええ、そうするのが一番いいのでしょうが何せ人間族とエルフ族は争いも飢饉も災害もまったくない安穏な日々を一万年以上過ごしてきたので皆それはもう病的なほど平和ボケをしていまして食糧資源や森林資源が腐るほど有り余っていてあまりにも日常が満たされているために軍隊を持たないのはもちろん俺は天下を取ってやる的な無謀な野心を持ったフリーの冒険家も開拓者も皆無ですしそれどころか第一次反抗期にあたる年齢の子供ですら親への反抗はもちろん子供同士でケンカすらしません。つまりそれほどにも我々は腑抜け――いえ、平和を愛していまして、たとえ侵略者だとしても相手を武力で以て傷つけるなどという発想は寸毫も持ち合わせていないのです」

「まあ敵がいない世界だったらあなたがたのようなフニャチン――いや、腑抜け――いや、間抜け――いや、平和主義者は褒められたような存在なんだろうけど」と僕はなんとか彼らをフォローしようと試みた。「でも降りかかる火の粉を振り払うような武力は持っておいた方がいいかな……」

 その流れで自分の国の政治やら憲法やらを偉そうに語ろうと試みたが残念ながら重度のノンポリである僕の口からそのような政治的講釈を垂れるための言葉は出てこなかった。

「そういう事情があるから僕一人で魔王軍と戦えってことなんですかね」

「そうです! お願いします!」

「できるわけねーだろバカ」と僕は即答した。「どこぞのロトの勇者みたいに一人で魔王討伐の旅に出ろってのか? そりゃちょっと無理があるでしょ。そんなことが許されたのはビデオゲームのソフトの容量がまだ1Mビットまで達していない頃までだろ。今はもう一年~二年ごとに新作RPGが発売する時代じゃないんだよ。グラフィックも実写レベルにリアルなら世界観や設定もリアルじゃないとクレームが来る今の時代に勇者たった一人で何百万という魔王勢相手に戦うとかいうトンデモヒーロー冒険譚が通用するわけないだろ。違うか? そういうのが通用するのはぶっとんだ設定のご都合チートだけだっての。というわけで平和ボケで戦えないとかほざいてないで人間族とエルフ族の中から腕っ節の強い男女をできるだけ掻き集めて君たちも魔王勢に対抗すればいいじゃないか」

「それは――」

「え、まさか命が惜しいとか言わないよね? 自分達の世界が滅びるかもしれないってのに今の生活を維持したいとかいうそんな保守的な理由で徴兵拒否とかあり得ないと思うんだよね。だから欲しがりません勝つまでは的な覚悟で以て死地に赴いて、どうぞ。それがリアリティってもんでしょ」

「ここはあなたがいた世界とはまったく違うので(リアリティは必要)ないです」

「お、そうだな」と僕は少し納得した。

 考えてみれば異世界に現代日本の常識なんか通用するわけないしね、しょうがないね。

「それにあなたには一人で魔王軍に対抗する力があります。だから私はあなたを召喚したのです」

「なるほど、つまりこれはチート系異世界転移ってわけかな?」

「多分そうです」

「申し訳ないがそんなジャンルはとっくに廃れたのでNG」

 そう言いながら僕は乗り気だった。というのも僕は根が本質的に努力が大嫌いにできているから(北町貫多並感)、ゲーム開始時の難易度選択も当然の如くイージー以下の設定、つまりモンキーレベルを自然選択せざるを得ないわけで故に全ての敵がワンパンキルできるのならこの世界のヒーローをロールプレイするのもやぶさかではない。というのも、このままここから逃げて現代に戻っても非モテで一生童貞確定の僕は欲求不満を拗らせて特殊な性癖に走ってその底なしの獣的欲望を満たすためにしかるべき大人のアイテムを購入して散財しついには破産して人生を棒に振るだろうし、さらには孤独死した後に特殊清掃員の方々からそれら恥辱的アイテムを見つかって液状化した後も嘲笑されるという魂レベルの恥をかいてしまうだろう。だからこのとき僕はそのような抑えきれぬ性欲を爆発させて性的な罪を犯すなどといった最悪な愚行に走るのをあらかじめ予防するためにも、この異世界を救ってヒーローとなって目の前の超絶美人長耳エルフと嫌と言うほどそういったことをして三大欲求の一つを一生分満たそうかな、という極めて打算的な目的を思いついたのだ。

 というわけで僕は、

「やります。この仕事、やらせていただきます」と僕と同じくらいの身長の美人エルフの胸元を見ながら答えたのだった。

「ほっ……」と長耳エルフはわざとらしい吐息をついた。まるで僕が了承するのをわかっていたかのように。

「では早速これをどうぞ」

 そして彼女は僕の目の前に宝箱を置いた。僕は、どこからそんな箱出現させた、とツッコんだりせずにその箱を開け、中に入っている硬貨らしき金貨十枚と小ぶりの剣を取り出した。

「え、もしかして本当に10ゴールドと『どうのつるぎ』しか餞別を用意なさらないんですか……?」と僕は言った。

「いえ、それは『どうのつるぎ』ではなく『ブロンズソード』という初心者用武器です」

「どっちでもええがな。……まあいいや。僕としてもいきなりエクスカリバーとかラグナロクとか渡されても困るからね、しょうがないね。ちな、ラグナロクっていうのは剣の名称としてはいささかおかしくて本来の意味は終末とか神々の黄昏、つまりフレイヤたそとかロキたそとかトールたそとかそういった意味であって決して物質的なものを指すわけじゃないから。ラグナロク=これを入手後はエクスカリバーがエッジになげられるためだけの悲しき運命の聖剣と化してしまうという認識を人々に植え付けたのは言うまでもなく例の国民的――いや、『元』国民的RPGが原因なんだよなぁ。そしてここで僕が『元』と条件を付けたことで憤激したかのRPGの往来のファン達を宥めにかからねばならないのだが、僕が例の究極幻想物語をオワコン的に揶揄したのには理由があって、それは全盛期に比べて如実に売り上げが減少したという厳然たる事実を鑑みたのであって、僕がシリーズ13作目と15作目に幻滅してファンから一転して反転アンチになったとかそんなんじゃないから(震え声)。だって全盛期より売り上げが三分の一以下に減ったのに国民的と称するのはVTuberの言うことならなんでも『うんうん』と全肯定するようなタイプの盲目信者的礼賛に近いものがあって健全とは言い難いし、ともすると信者ではない普通のファンから排他的信仰と見なされて余計シリーズのイメージをダウンしかねないのでここは正当に評価すべきかなと。で、じゃあ現代の国民的RPGは何かというと、やっぱり僕は、王道を往く、ポケモンだと思いますね……」

「はあ」

 僕が早口に何かについて語ると、エルフはいかにも無関心といった生返事をした。

 僕がこのようなことを口走ったのにはもちろん理由があって、それは緊張を隠すためだった。というのも、マッチョメンしか持てないような大振りの剣や槍を構えた色黒で無骨な男性兵士五十人くらいがエルフの頼みを断ったら貴様を肉片にしてやるぜと言わんばかりに威圧的な形相で以て僕を今まさに取り囲んでいたので、ヤンキー一人の恫喝ですら小便チビリ案件に等しいと思えてしまう僕はド緊張のあまり高山でスクワットをしたときみたいに恐怖で息苦しくなっていた。というかバスケのハーフコート並の空間に三十人もいるのだから実際空気は薄いに違いない。

「……つーか未来の英雄様を脅そうっていうのかい?」と僕はそれら高圧的形相の兵士達を一瞥して言った。「こういう威圧外交されちゃうと僕はあなたたち異世界人に対しての心証がいささか悪くなるんけど、そのへんはいいの?」

「もうしわけありません。このすし詰め状態にはよんどころなき訳がありまして」

 異世界人のくせになぜかスシを知っているエルフは僕に頭を下げた。ついでに周囲の百人の兵士達も一斉に僕に頭を下げたので一時的に神室町を仕切る団体の組長の気分になった僕は今は亡き某VTuberのように中指を立ててイキりたくなるどテンションが上がってしまったが、そんなことより今はエルフからそのよんどころなき理由とやらを聞くべきだと思って深呼吸して血圧と心拍数を下げたのだった。

 魔の手は既に城内に、とエルフは言った。

「魔の手は既に城内に及んでいるのです……。つまり城内は魔王軍の魔物で溢れており、数歩歩く度に魔物との戦闘が開始されてしまうのです」

「なんだその遠回しな言い方。城の中を歩いているとFC時代のRPGみたいなクズエンカするって直喩したらええがな。或いはポポロクロイス物語2みたいな理不尽超絶高エンカみたいな状態になっております、とかさ。しかしあのゲームは敵が弱くてよかったね。あれでザコ敵ですら苦戦するようなゲームバランスだったら間違いなくクソゲー認定されてたと思うんですけど(妥当推理)。まあとにかくこの兵士達は昼間サボるときにいつも使っている兵舎を魔物に占領されてこの狭い儀式の間まで追われてしまったと、そういうことかな」

「いえ、我が王国の兵士達は至って真面目なので日中の兵務を怠って兵舎のベッドで昼寝をするような者は一人もおりません」

「つまりポポロクロイス城の兵士みたいな奴は一人もいないと。それより僕から要望を出したいんだけどさ、男達の流した汗が蒸発してできたコミケ雲ならぬ兵士雲が垂れ込める吐き気を催すこの空間から一刻も早く出たいんで話の続きは外でしませんかね……ヴォエ……」

 空気がクッソ汚いのもそうだけど、陰鬱と威圧の交ざった表情の男達の視線に晒されるのもかなりの心労を伴った。

「いいえ、それはできないのです」

「Why?」と僕はわざとらしく肩をすくめて見せた。

「実は城下町も魔物達に蹂躙されてしまいまして……つまりこの国で安全な場所と言えるのはもはやこの儀式の間だけなのです……」

「え……何それは」

 え、もしかしてもしかするとだけど王国内で生き残ったメンツがこれだけとかいう絶望的な状況だったりしないよね? ベリーイージーでしかゲームがクリアできない僕がギャラクシーモードに挑むとか……やだ怖い……。

 しかしすばらしいことに怖すぎるから一刻も早く安全な場所に案内してくよなー頼むよー、と半泣きになりながら哀願する僕に、このエルフは、

「城の近くにある村はド田舎だけあってまだ魔物に見つかっていませんのでそこまで無事に辿り着けたのなら勇者様の安全は保障されるでしょう」と希望的観測を述べてくださった。

「え、じゃあ一刻も早くそこまで行こうじゃマイカ」と僕はうれしみのあまり古のネットスラングを口にしてしまった。

 ところがエルフは話を続けた。

「しかしその村までの距離はSFCのRPGで例えますと50歩ほどになります。そして我々の世界のフィールド上でのエンカウント判定は10歩~20歩の間で行われます。つまりこの10~20の間でランダムで必ずエンカウントすることになるので」

「ということはつまり?」

「つまりその村に辿り着くまでの間に最低でも二回魔物に襲われる危険があります。そしてここら辺で出現する世界で最弱だと推察される魔物と戦う力ですら我々にはもう残されておりません。見てください、この空間に集まっている兵士達の疲弊した表情を。彼らの残りHPは多くて3といったところでしょう。ここにいる兵士達の数は30。つまり全員のHPを合計しても90です。よって90以上のダメージを食らわないようにすればあなたは無傷で村まで辿り着けるでしょうね」

「なんかいろいろツッコみ入れたいんだけど、まずはこの屈強な見た目兵士達のHPがたったの3しかないってどういうことかな? 普段何してたの? ちゃんと訓練してた?」

「どうやらあなたは人の話を聞かないタイプみたいですね。ここにいる兵士達はついさっきまで城内を襲った魔物達と戦っていたのです。つまり彼らのHPの3というのは最大HPではなく残りHPです。そのくらい少し考えればわかると思うのですが」

「急に辛辣な態度になったな。まま、ええわ。それにこの兵士達が終始無言だったのは臨終間近なほど疲弊していたからだと説明もつくしな。で、二つ目のツッコミを入れさせてもらうけど、君は一緒に戦ってくれないの? なんか魔法とか得意そうな衣装に身を包んでいるし」

「もちろん私もザコ的と戦いますし、あなたにも戦ってもらいます。ですがそれはここにいる最下級兵達が皆死に絶えた後でいいと思います。というのも彼ら下級兵の命は上級神官である私の命より価値が低いので、必然、優先順位が決まります」

「ひでぇこと言うな……この女」と僕は優しそうな目をして心ブラックなこの美少女エルフの株の価値を心の中で大幅に下げたのだった。

「あ、大丈夫です。一番優先順位が高い命はあなたですから」

「いや、そういうフォローが欲しいんじゃなくて」

 人の命は地球より重いとか言ってしまうような現代人日本人の価値観は通じないと思った僕は、

「じゃあ君たち、僕らの肉壁になってくれたえ」と死に体の兵士達に向かって震え声で言ったのだった。

『ふざけるな! 勇者だかなんだか知らねぇがお前俺らをなんだと思ってんだ! 一番強いお前が前線に立てよ!』と反発されるのではないかとビクついていたのだが案に相違して、というか半ば予想どおり彼らは、「了解しました……」と殺虫剤を食らって死にかけの蚊の鳴くような声で答えたのだった。

「ほっ……」とエルフは安堵の吐息をついた。こいついつも安堵の吐息ついてんな。

「ていうかなんで君が安心してんの? さっきあんた上司のためなら命を捨てるのは当然だルルォ!? みたいな言い方したのに」

「ええ、それはそうですが……私はそういった命令はあまり……」とエルフは目を伏せながら言った。

 つまり彼女は『口ではああいう冷酷なことを言いましたけど本音は城で共に王国に仕えていたこの仲間達を大切に思っているので上官の威を示すためとはいえ非常に後ろめたい思いに苛まれています……』と内心では思っているのですよ、といった印象を僕に植え付けようと考えているに違いない。しかし僕はその辺の事情はよく存じているからそんなこと企まなくてもいいから(良心)。

「やはり勇者様が全ての汚れ役や憎まれ役を買って出るべきだと思いますから」

 ところがエルフはこんなことを言いやがったのだった。

「あ、そういうこと言うわけね? 要するに君は冷酷な命令を下して憎まれるのが嫌な八方美人上司ってことか。でももう遅いから。僕は君をひどく軽蔑したし、この世界のことも早速嫌になってこれもう救う価値ねぇなって思い始めたしさ」

「ところでこの会話イベントには時間制限がありまして、あと数秒ここに滞在していると魔物の大群に襲われて全滅してゲームオーバーになってしまうのです。そうしたらあなたの魂はタルタロスで永遠に労働することになりますが」

 というわけで僕は有無を言わさずここから脱出する羽目になったのだった……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ