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異世界未転生  作者: ハタケ


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「……すいません、まだ規定枚数に足りてないのでもう少しだけ続けてもらってもいいですかね?」と僕はエルフちゃんに恐る恐る提案した。

「えぇ……」とエルフちゃんはドン引きした。「勇者を召喚したつもりが自分が何をしたいのかわからない(まったく使えない)迷妄戦士がこの世界に現れてしまってみんなが迷惑していたこの異世界にようやく平穏が訪れると思ったのにまだここに用があるんですか……あなたは……」

 そして彼女は僕を思いっきり邪魔者扱いした。

「えぇ……」と僕もドン引きした。「僕、この世界においてそんなに邪魔だったの? だったら召喚の儀式の直後にさっさと現代に送り返してたらよかったじゃないですか。それなら僕もこの異世界で見る人みんなが『知らなんがな』って言いたくなるような長文お気持ち表明をしなくてもすんだのに……どうしてくれんの……」

「どうしてくれんのって、それはあなたがなんの役にも立たない勇者だから私達異世界人はムカついたのです。非難されたくないのだったらせめて魔王を倒してから帰ってください」

「おかのした」


 そうして僕はエルフちゃんと二人きりで魔王討伐の旅に出ることにした。集団生活が根本的に不向きな僕が仲間をこれ以上増やそうものならまた人間関係の諍いで冒険に支障を来すこともあり得たのでパートナーはエルフちゃんオンリーに固定した。

 すっかり仲良くなったエルフちゃんには気を遣わなくてすんだので冒険はスムーズに進んだ。無理なくレベリングをし、攻略できそうなダンジョンのみに挑戦していき、順調に溜まった資金で装備品を新調していき、魔王城のある島へ渡るための重要アイテムもホロメン達のドラクエ1配信を視聴していたこともあって特に苦労することなく手に入れることができ、そうして最終的にはそれほど苦労することなくラスボスである魔王を倒すことができた。堅実で慎重な勇者である僕は適正レベルを遥かに超えた状態でラスダンに挑んだために、まったく苦戦せずに――言い換えれば世界を破滅させようとしている魔王に敢然と立ち向かったつもりなのに一欠片の緊張感なしに魔王をこの世界から葬り去ったのだった。つまりヌルゲーである。

「うーん……」

 光が戻ったこの世界のフィールドを眺めながら僕は腕を組んで考え込んだ。

「どうしたんですか? 世界は救われたのですよ!」

 エルフちゃんは一応やりきったような清々しい表情をしていた。

「エンディングですよ、泣けよ」

 そして異世界人のくせにネットスラングを口にした。なんやねんこのエルフ……。

「いや……こんなのゲームじゃないなって思いましてね……」

「あ、気付きましたか」とエルフは、こいつどうせ一生バカのままだから何言っても無駄かな、と見くびっていた相手が精神的な大人へと成長するための階段を一段上がったことに感心したような表情になって言った。

「はい、気付きましたとも。こんなヌルゲー、ゲームなんかじゃなくてただの作業ですわ。例えるなら勤続十年以上の工場勤務のベテランがいつもと同じ作業を無意識に機械的に行うようなものかな」

「わかりづらい例えですね。マイナス114514点」

「うるせーバカ」と僕はストレートに怒りを露わにした。「まあとにかく、こんな風に勝利してもつまらないっすね。だったら最初からやんなきゃよかったかなって」

「ということはまたニューゲーム始めますか?」

「それは嫌です」と僕は、買ったゲームは一度きりでやめたいタイプだったが故にそう答えた。「だからもし次にこういった異世界冒険に挑戦するとしたら、今度は過度なレベリングはやめようと思いますね……」

「あなたのゲームへの今後のプレイスタイルが変わったのはよく理解できたのですけど、この教訓を現実世界でどう活かそうと考えていますか?」

「そうですね、夢を――もとい、目標を叶える際に努力しすぎたり準備期間を過剰に取ったりしないようにしたいと思いましたね。つまり思い立ったらさっさと行動、行動して上手くいかなかったら修正してすぐにまた行動――これが成功への近道だと思います(必ず成功するとは言ってない)」

「ようするにあなたは今までのあなたがそうであったように、自分が完全に満足するまで技術や感性(笑)を鍛えに鍛え抜いた後にようやく行動に移す、という石橋は叩いても渡らない的な慎重主義をやめるのですね?」

「そうですね。どっかの政治家も昔言ってたじゃないですか。『時期尚早って言ってる人はずっと時期尚早言い続けてる』ってさ。ようするにそういう機が熟すまで待つとか今は雌伏する時だとかなんとか言ってなかなか行動しない人って、結局完全に手遅れになるときまでずっとそう言い続けていて、最後は諦めることになるよね……。僕はそういう悲劇的結末を迎えたくないので、現実に戻ったら即座に夢に――じゃなくて目標に向かって行動しようと思います」

「で、あなたが叶えたいっていうその目標ってなんですか……?(小声)」

「(実は叶えたい目標は特には)ないです」

「えぇ……」とエルフはまたもドン引きした。「偉そうに特定の人達を非難しておいて自分は目標すら持っていない、と。だったら目標に向かって愚直に努力し続ける中年モラトリアムの方がずっとかっこいいと思うんですけど」

「嘘つけ君は絶対そういった男を軽蔑してるゾ」

「私は長寿のエルフなので、何十年も(無駄な)努力をし続けている人に対してネガティブな感情を抱くことはありません(微震え声)」

「あっそはいはい。まあとにかく、僕は完全にこの世界に飽きたのでさっさと帰るので帰還の魔法よろ」と僕は完全に投げやりになった。

 なんかずっと異世界の空気に身をさらしていたら体調が思わしくなくなってきたのでこれもう体がヤバいウイルスに冒されてんな、と危険を察知し、もう何もかも放り投げて帰ることにした。伏線? 何それおいしいの。

「はい、さようなら」

 エルフも僕に完全に愛想を尽かしたことがよくわかるような適当な動作、表情、魔法で以て僕を現実世界へと帰したのだった。

「ああああああああああ」

 現実に帰る際、僕の肉体は一度粒子へと分解され、特殊な空間を移動した。つまり宇宙船のワープみたいなもんである。もしここでワープ装置に不具合があったら粒子が肉体の再構築に失敗して現代に戻ったとき僕の肉体は仲間にいっそ殺してくれと懇願するくらいの苦痛を感じるようなぐちゃぐちゃの肉塊と化すだろう。つまりスーパーノヴァの船長である。

 しかし僕は無事に中学二年の教室のど真ん中へと帰還したのだった。それは僕が異世界にいたときに予想していたとおり授業中で、そして僕は大学ノートが文字で真っ黒になるくらいに妄想うんこストーリーを書き殴っていたのだった。その内容を読んでみるとなるほどついさっき僕が体験したことが忠実に書かれていた。つまりあの異世界で体験した日々は当初の予定どおり中二の僕による痛すぎる妄想だったというわけだ。

 とにかくこれで僕は心底安心した。異世界にいたときもチラッと出た説だが、僕が中学生ではなく実は40代職なし嫁なしのニートかもしれないという懸念が払拭されたのだ。

 ところで眩しい光とともにこの教室へと帰還したわけだが、その際、教室にいたクラスメートないしは教師からの「ファ!?」などといった驚嘆の声が僕の耳に届くことはなかった。つまり人がひしめき合う授業中の教室だというのに誰にも驚かれなかったのである。これは一体どうしたことか……。

 その答えはすぐにわかった。教室には誰一人として存在しなかったのである。それどころか教室はしかるべきテロリストからの攻撃を受けたかのように壁や床が所々壊れていて、人生に対して無気力な僕でさえも、「これなんかやばくね?」と刹那に危機を察したのだった。遠くから爆撃音みたいな不穏な音も聞こえてきた。

 そのとき不良達にボコボコに殴られたかのような壊れかけの戸が最後の力を振り搾るかのようにしてガラッと盛大な音を立てながら誰かによって乱暴に開かれた。開かれたボロボロの戸は当然の如くレールから外れてバターンと盛大な音を立てて息を引き取った。

「誰だ物を大事に扱わない不届き者は」とエコノミストである僕は憤慨しながら言った。

「今は自然保護だとか環境保護だとか言ってる場合ではない。自分の命を守ることを最優先させるんだ」

 だが教室に入ってきた成人男性が唐突展開を予想させるかのような畳み掛けるセリフを僕に吐いた。

「はい? というか今一体どういった状況なんですかね」と僕は読者の困惑を代弁した。

「現在我が国はしかるべき国から攻撃を受けている」

「は?」と僕の顔は埴輪になった。「……そういういろんな意味で危険なネタはやめた方がいいと思うんですよね。昔のエロゲーでも38度線ネタを平気でぶっ込んだりしてたけどああいうのはもう今は余裕でNGだと思うし、そもそもそういうネタを得意気になって挿入するライターの神経が僕は気に食わないですね。もっとストレートに言うと気持ち悪いです。そういう頭の悪さがエロゲー衰退を招いたのかなって」

 僕がここぞとばかりにエロゲー批判をしていると、

「とにかくこれを装備しろ」

 先生がFPSなどで定番の武器、つまりアサルトライフルAK47を置いた。僕はかの武器をGTAシリーズやfar cryで散々使いまくった経験があったので、

「あ、これなら僕でも使いこなせそうですね」とゲーム脳的判断で以て余裕ぶっこいたのだった。

 僕が机に近づくとゲーム的な甲高い効果音がなり、そして僕はL1ボタンを長押しして武器ホイールを表示させ、AK47を装備し、L2ボタンを押して目の前にいる先生にポインターを合わせて、「お、私に銃口を向けてるがお前エイム大丈夫か大丈夫か?」と戸惑う先生に向かって僕はR2ボタンを押してアサルトライフルを撃ち、先生を亡き者にしたのだった。僕が一番殺したい相手、それは僕のことを散々バカにしたこの無能教師だった。つまり異世界の魔王とはこの教師そのものだったのだ。クソみたいなオチ乙。その後僕はその辺に転がっている拳銃を拾って適当に自分の頭を吹っ飛ばし、そしてこの世界は消え去ったのだった。


 完。

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