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と言いたいところだが僕のこの(拷問のような)冒険譚はまだ半分しか終わってないんだよなぁ(大疲弊)。
「とりあえずあの村がどうなったのか見に行きましょうかね」
エルフの提案に、お、そうだな、と適当に返答し、例の村に行ってみると、ついこの前襲撃してきた、実は現実世界で上手くいっていない人間の化身を返り討ちにしていた村のあの逞しい住人達はなんと今度は絶滅していた。といっても死体が転がっていたりはせず、まるで最初から廃村だったかのようにボロボロの家々が建ち並んでいた。
「これはまた急展開ですね」と僕は呆れたが、
「勇者様がモタモタしているかこうなったんですよ!」
エルフは村の悲劇の原因を僕の怠慢だと決めつけた。
「お、そうだな」と僕は適当に答えた。
たしかにあれだけ長時間くだらないやり取りをしていたら、時限イベントを逃したりするかもしれないしね、しょうがないね。
「ところで魔王ってどこにいるんですかね」
「何度も言いましたよね! 北の最果ての地にいるんですよっ!」
いきり立つエルフには悪いけど僕はそんなことを聞いた覚えはなかった。
「まあいいや、適当に北にむかってイクゾー」と僕は棒読みで言った。
「カーンが入ってない-114514」
しかしそのとき背後から謎の声が聞こえた。
「誰だ?」
僕は振り返った。
そこには奴がいた。奴って誰だよ。つまり僕は新たに登場した謎の人物を知りもしないというのに奴扱いしたのだ。パロネタが言いたいがために。これをバカと言わずしてなんという。ところでこの後の展開が全く頭に浮かばないどころかこの地獄のようにクッソつまらない超絶インチキファンタジー物語のストーリーをつまびらかに語っていくことで寿命が削れていくのを実感すらし始めているのだが僕は様々な理由からなんとしてもこの物語を完結させねばならないという義務を背負っているのでたとえ完結後にトイレに籠もってゲロと下痢と血尿と血便を同時に排出することになろうとも一所懸命頑張って右手を懸命に動かそうと試みようと思うのだがさすがにあと約100ページも面白いストーリーを展開させるなどという執筆を職業として成り立たせているプロ作家か初投稿作が余裕で書籍化するような才能あるアマチュア作家以外にしかできかねない神業は僕にはできかねるので、またこのエルフちゃんと雑談でもしようかなと思い始めていた。その矢先に唐突な新キャラが登場したのである。こういう風にいきなり物語を動かすようなキャラクターが都合よく表れるというのはダメなシナリオあるあるで作品名を挙げるとその作品のファンから恨まれてしまうから敢えてノーコメントを貫かせてもらう所存ではあるが、あともう一つ言いたいことがあって、キャラクターが重要なセリフを畳み掛けるように喋り散らすとかいう荒技を連発するのもダメなシナリオの典型だと思いますね僕は……。もちろんこれも具体例を挙げたりはしませんね……。
「聞いてるのか貴様」とその気の強そうな女は言った。
「なんですかあなたは唐突に現れて……ひょっとして僕と一緒に魔王を倒してくれるとかいうお仲間なんですかね……。だとしたら心強いんだけどパーティーに加入する際はちゃんとリーダーである僕とレベルを合わせてくれませんかね。そうしないと突然仲間になった弱いキャラが先頭で足を引っ張るとかいうストレスをユーザーに与えてしまいますからね……。今の時代そういったストレスを感じさせるゲームっていうのは完全に御法度なんですよね、わかりますかね。いや、ゲームだけじゃないんですよ。全てのエンターテイメントコンテンツがそうです。少しでも不快な要素を含んでいると受け手はそれを火種と見なしてそしてその火種に受け手が燃料をくべて盛大に燃やすのです。つまり炎上案件というのは送り手自らが爆発、炎上させるのではなく、送り手はあくまでも今にも燃え上がりそうな可燃物を受け手にハッキリとわかる形で提供し、受け手はそれに釣られるような形でその可燃物を燃やすのです。可燃物の燃え具合は受け手の怒りの度合いと比例します。受け手の怒りが少なければ受け手は可燃物にサラダ油程度のショボい燃料を垂らしてコンロの火をかける程度の消防を呼ぶまでもないボヤ未満の炎で済みますが、怒りの段階が進むに従って燃料の種類がアルコール、エタノール、灯油、軽油、レギュラーガソリン、ハイオク、モータースポーツで使うガソリンといったようにグレードアップしてきますね。あ、今並べた順番が燃料の燃えやすい順というわけじゃないですよ。だってアホな僕にそんな知識あるわけないんでwwwwwwwww本当に燃えやすい燃料を知りたかったら自分でググって、どうぞ。そういうふうにわからないことを自分で調べられるかどうかがこの現代社会で成功できる鍵ってそれ一番いわれてるから。お前もそう思うよな? な?」と僕は教壇から授業をしながら僕のことをずっと監視している教師に向かって問いかけた。
ちな、さっき唐突に現れた気の強そうな女が現実世界の教師だった、というわけではない。現実世界の教師は普通にテーマ曲をつけるとしたらはげ山の一夜みたいなイメージの頭頂部をした、くたびれた、しかしキャリアを積んで教師として自信が付いたのと思春期の難しいガキ共に舐められてはいけないという警戒心があるために気の強さは同年代よりも三倍ほど強い中年男性なので、(新キャラとはなんの関係も)ないです。
「貴様はこれから死刑になる」と気の強そうな女は気の強そうなことを言った。
「えぇ……」
僕は普通にドン引きした。いくらなんでもセリフが適当すぎじゃないですかね……。それともその唐突で脈略のないセリフがきっかけとなって読者の度肝を抜くような展開に発展していくのでしょうかね……。
「なんなんですかねあなた。突然現れてわけのわからないことを言いだして」と僕の横でまるで僕を危険から守るナイトかのように警戒心を露わにして構えているエルフが僕をフォローしてくださった。普通立場が逆だと思うんですけど。
「この者がいかに危険な存在か、貴様もよくわかっているだろう?」
気の強い女が僕を指差した。
「お、待てい。指を指すのはあまりにも失礼極まりなくて少しでも他人に攻撃の意思を見せよう者なら即アウトサイダー認定されかねない現代のホワイト社会においてはもはや迷惑防止条例違反に抵触すると言っても過言ではないほどの暴挙だゾ」
「ここは現代じゃないですけどね」とエルフが余計なことを言った。
「お前一体どっちの味方なんですかね」
「一応あなたの味方ですけど、ここは現代でもなければ日本でもないので普通に金、暴力、セックスが横行しているんですよ」
「えぇ……。じゃあKBSトリオみたいな怖い人達がのさばっているって言うのかい? こわいなーとづまりしとこ」
本当は早く平和な日々に戻りたいのだが事情があってそれはできないので(ここ伏線)、リレミトで脱出、或いは僕のこのかなり重篤な状態まで進行してしまった夢遊病とも言うべき病理をエスナなどで完治させたい気持ちを抑え、とづまり程度の防衛策に留めたのだった。
「こいつの大罪は」と気の強そうな女は言った。「病気や中二病の振りをして我々のこの世界をめちゃくちゃにしていることだ」
「え? それってどういうことですか」とエルフは気の強そうな女の話に食いついた。
「貴様も騙されているんだよ。そいつはこの世界にやってきて世界を救う勇者を自称して魔物退治をする振りをし、人々からの受ける資格のない感謝を享受して贅の限りを尽くすという、つまり詐欺師まがいのことをしているのだ」
「えっ……それは」とエルフは絶句した。「それは違うと思いますけどね。だってこの方をこの世界に召喚したのはほかでもない私ですし、つまりこの方は望んでこの世界にやってきたのではないんですよ」
「なんだと……? だが実際此奴は各地の村や街に赴いて魔物退治をする振りをして人々の資源を奪っている、という情報を得たぞ」
「それってどこ情報ですかね」と僕は適当に尋ねた。
というのも疲労が限界に達していた僕はさすがにもう新たなキャラクターや世界設定やストーリー展開を考える気力がとうにゼロで、こういう風にして文章を紡いでいくのはお腹にぱっくりと開いた修復不可能の傷からだくだくと血液が流れる状態に等しい、つまり物語が完結するのが先か、僕が失血死するのが先か、といった状態で正しい会話のやり取りなんかできないんだよなぁ。
「どこの情報か知りたいのか?」と気の強うそうな女は言った。
「もちろん」
「本当に知りたいのか?」
「当たり前じゃないですか?」
「後悔しないか?」
「はい」
「それを知ったとき、君は生命の始まりを見るだろう……」
「……はい?」
なんか流れ変わったな。
「先生、そういう文章稼ぎはいいです。いくらネタが尽きたからと言ってそんな読者を怒らせるような卑怯な手段をとらなくてもいいです。たしかにギャグマンガ家は最終回付近になってネタが尽きて絞り出そうとしても出てくるのはうんこではなく脱腸という悲惨な状態になったときに苦肉の策として実写を取り込んだ前衛的な作画による脈略のないシュールなギャグに逃避したりしますけど僕はそういう手をとらない方向で行きたいんですよね。というわけで気の強そうなそこのあなた、僕が冒険者ギルドで詐欺師として懸賞金をかけられているその理由を一生懸命考えて、どうぞ」
「ちょっと待て。貴様はいつ自分がギルドで懸賞金をかけられていると知った?」
「あ」
どうやら僕は先走ってしまったようだ。てへぺろ。
「とにかく僕は世界中の冒険者から追われている、そうだね?」
「いいや、違う」と気の強そうな女は言った。「かけられた多額の懸賞金を獲得することを大目的とした欲に目が眩んだ冒険者か、このように悪が存在することそのものに多大な嫌悪感を感じる性格の者が貴様を執拗に追おうと試みている最中だ」
「はい?」と僕は聞き返した。「あなたなんか急に日本語が乱れ始めましたけど、大丈夫ですかね? さっきまで人の心に直接訴えかけるようなシンプルなため口を放っていたというのに。なんですかねその日本語ネイティブではない人が日本語にローカライズしたゲームに出てくる文章みたいな、文法的にはまあ多分間違っていなさそうだけどネイティブからしたら不自然に感じる日本語っていうんですかね。具体的なゲーム名は出さないでおきますけど、海外のソシャゲでそういうのよくありますあります。まあ日本語に翻訳しているそういったソシャゲの外人スタッフはおそらくみこちより日本語上手いんでしょうけど」
僕が多方面にケンカを売る発言をしたその時、
「とにかく、死ねっ!」
気の強そうな女が武器を構えて突然襲いかかってきた。どういった武器かはもはや面倒なので説明はしないがとにかく、『冒険者ギルドに出入りしている気の強そうな女が持っていそうな武器ってどんなだと思いますか?』と街頭インタビューで調査したときに上位三位に入るような武器だとだけ言っておく。服装もそんな感じ。つまりビキニアーマーである。冒険者で気の強そうな女といえばこの格好以外ほぼありえないからね、しょうがないね。
「おらよー」
しかし僕はその女の攻撃を軽くいなしたのだった。つまりパリィである。しかし実際の僕はパリィやジャストガード、フラッシュムーブ、フラッシュガードといった敵が攻撃してきた直後に数フレームという際どいタイミングでボタンを押して相手の攻撃を瞬時に回避するという小足見てから昇龍余裕でした的な神反応による神回避はできかねるヘタレゲーマーだったのでGuts100%の状態で棒立ちして敵の攻撃を防いだのだった。つまりスターオーシャン3のプロテクトである。だが残念ながら僕はカウンターオーラ習得書を持っていなかったのでプロテクトから発生したオーラで女戦士を気絶させて薄い本を厚くするようなこともできなかった。残念。
いずれにせよ女戦士のよくわからない攻撃を完全防御できたので、この女がプロテクトで弾かれてる隙に僕は全速力で逃げ出したのだった。その際逃走に失敗して『だめでした』とか『……こけた』といった文字が画面上に表示されることはなかった。
そのようにして全速力でフィールドマップ上を駆け抜けていったのだが現時点での僕の唯一の理解者と言ってもいいあのエルフをあの場所に置き去りにしてしまったことに気付かないではなかったが、もはやこの物語が無事収束することはなさそうだったのでメインヒロインなんかもういなくてもいいかな、と割り切ることにしたのだった。




