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第一話

 当時、好きだった女の子がいた。

 まるでお人形さんみたいな顔立ちで、楚々として、お淑やかな、近所に住んでいた女の子。


 俺、飯田京也(いいだきょうや)の、冴えない人生の中で、唯一色が付いている記憶だ。


 その子とは毎日泥だらけになるまで遊んで、学校に行く時も一緒。帰る時も一緒。たまに、家に泊まりにくるほど、仲が良かった。


 いわゆる幼馴染の女の子。


 だが、俺が10歳のとき、彼女は家庭の事情で引っ越してしまった。

 想いを伝えることができぬまま──


 しかし、高校2年生に進学する前の春休み、母からこんな話を聞いた。


「ちっちゃい頃仲良かった女の子いたでしょ? こっちに戻ってくるらしいわよ」


 瞬間、俺の心は輝いた。なぜなら、まだ淡い恋心は過去の世界に置き去りにしていたままだったからだ。

 けれど、過去から、現代に恋心が矢になって飛んできた。


 とにかく胸が躍った。あの子と再会できる。

 高校も、俺と同じ高校に通うらしい。さらに、クラスまで同じだと母から聞いた。

 ちなみに、どうやら引っ越した後も母は、あの子の家族と定期的に連絡は取り合っていたみたいで、だからこんなに正確な情報が届いたのだ。


 彼女のことを考えない時はなかった。一体、どんな子に成長したのかな。

 ちょっと引っ込み思案で、内気で、恥ずかしがり屋だったっけ。いつも俺の後ろにピタっとくっついていた記憶がある。


 思い出のままに成長していれば、それはそれは黒髪清楚の綺麗な女の子になってるだろう。


 そして、あの子が転校してくる当日。

 俺はクラスで再会を心待ちにしていた結果──


「はじめましてっ! 東雲月奈(しののめるな)でーっす! 趣味はインスタとスタバ! 好きなのは映えスポ巡りとか、あとゲーム好きなんで! 仲良くしてくださ〜い! よろっしゃーす!」


 金髪の、超どストレートなギャルになってた。




「おーい、キョーヤー、キョーヤさ〜ん? 起きてますか〜?」


 起きてない。俺は寝てる。


「な〜んで無視すんの〜? 起きてよキョーヤ〜」


 違う。無視してるんじゃない。

 脳が理解するのに時間がかかっているのだ……。


 東雲月奈。


 間違いない。俺の幼馴染、あの子と一言一句同じ名前だ。


 先ほど、教壇で自己紹介していた姿を思い出す。


 黄金のような派手な金髪をボブにし、ちょっと垂れ目気味な、それでいて吸い込まれそうなほど深い、紺色の瞳。

 何より、あの人形のように、整った顔立ち……クラスの男どもは、彼女を見た瞬間、皆目の奥にハートマークが浮かんでいた。


「……うりゃ♩」

「うぎゃあああ!?」

「あはっ♡昔と弱いところ変わんないだ〜♡可愛い〜♡」


 ……俺の脇腹が弱点ってことも知っている。

 家族以外で、それを知っているのは、あの子=東雲月奈だけだ!


「ほ、本当に月奈なの!?」

「そうだよキョーヤ〜、めっちゃ久しぶり〜! ガチで会いたかった〜!」


 そ、そうだ。俺のことをキョーヤって呼ぶのも、あの子だけだ。当時、まだ舌足らずで、”きょうや”ではなく”キョーヤ”と呼んでいたのが、そのまま俺の呼び名として定着したのだ。


 約7年ぶりに再会した大人しかった黒髪の幼馴染は、金髪の派手なギャルという、変わり果てた姿に変貌を遂げていた。


「ず、随分と変わったね……」

「そりゃ7年もあったら人間変わりますよ〜! つかキョーヤは全然変わってないじゃ〜ん! あの頃と同じイケメンとかウケるんですけど! 教室入った瞬間一発で分かった私拍手〜」

「いや、イケメンではないよ……」


 自分で言うのもなんだが、俺はフツメンだ。

 イケメンだったら、もう少しクラスの女子から名前覚えられてるはずだし……俺のクラスカーストは、要はその辺なのだ。

 おそらく彼女の評価は、思い出補正を加味してのものだ。


 とはいえ、清楚系女子から可愛い系ギャルに月奈は変態したものの、やはり髪型以外は当時の面影があった。


「もー! キョーヤってば7年も経つのにまだ自分の顔面偏差値に気づいてないの?」


 すると、月奈は俺の机に手を置いて、ずいっと顔を近づけてきた。

 ふわりとした、良い匂いが鼻腔をくすぐる。


「うん。変わってない!」

「る、月奈……?」

「あの頃と同じ、かっこいいキョーヤのままだね」


 ……こういうところも、変わってないな。

 優しいところ。彼女なりに俺のことを励ましてくれたのだ。


「よっしゃー! じゃ! 7年ぶりの再会を祝して!」


 なんだかんだで、胸が思い出で溢れかえり満たされた瞬間。

 月奈は、ギャルは、頬を染めながら、甘えたような仕草をとって、


「キョーヤ、一緒にお風呂入ろ♡」

「???????」


 ──想像を絶する発言をしたのだ。

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