帝都謁見──王子、窮地に立つ
豪奢な謁見の間に、王の怒声が響いた。
「貴様は敗北したのだぞ、セリオ! あの辺境の蛮族ごときに!
しかも“神の器”などという、得体の知れぬ魔物を持ち出されて……面汚しが!」
玉座に座る老王、オルシウス四世の顔は、紅潮していた。
杖を打ち鳴らしながら、激昂を隠そうともしない。
王子──セリオ・ヴァルハルトは、跪いたまま、深く頭を垂れていた。
だが、その頭の奥では、冷静に──いや、冷酷に、次の手を探っていた。
「父上、進言いたします」
「申してみよ」
「我が帝国軍は、カザル族が皮鎧と短槍程度の装備であると見て、正規兵のみを派遣しました。
あの“戦神”なる巨人の存在は想定外……。ですが、それは対処が不可能ということではありません」
「ふん、敗将の言い訳か?」
そのとき、玉座の左右に控えていた弟王子たちが、皮肉な笑みを浮かべて言った。
「兄者には荷が重すぎたようですね。父上、ここは我らに任せて──」
「俺に三千、いや千の兵を与えてくだされば、たちまちその蛮族どもを薙ぎ払ってご覧にいれましょうぞ」
嘲るように口を開くのは、第二王子・ローデリヒと、第三王子・メイアス。
狡猾な弟たちは、この機を王位争いのチャンスと見ているのだ。
セリオは、ゆるやかに顔を上げた。
その瞳には、鋼のような光が宿っている。
「……父上。彼らが勝てるのであれば、それも一興。ですが、それは“賭け”です。
我が軍には、まだ切り札がございます──弩弓機と、投石機を」
「ほう?」
「弩弓機は、王城を守るための巨弓。
長さ三尋(約五メートル)の鉄製の矢を放ち、砦の門を一撃で砕く威力。
投石機と連携すれば、いかに神の如き巨人といえど、穿てぬはずがありません」
弟たちは言葉を失い、ざわめきだけが響く。
セリオはとどめとばかりに言う。
「そして、私は“敗北”から学びました。
次は、勝ちます。
帝国の名に懸けて──あの巨人を、地に伏させます」
王はしばらく黙したまま、セリオを見つめた。
やがて、椅子の肘を叩いて、命じた。
「……よかろう。兵を与える。弩弓機と投石機もだ。だが、次はないぞ、セリオ」
セリオは頭を垂れ、口元にわずかな笑みを浮かべた。
(──勝たねば、終わる。いや、勝つしかない)