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族長の娘
そのとき、彼女は現れた。
カザルの族長の娘──リャーナ。
カザルの女性たちは皆、戦士であり、剣と血を愛する者たちだった。
だがリャーナだけは違った。
彼女は、静かに観察し、考えることを好む、知の娘だった。
奴隷たちが一斉に膝をつき顔を伏せる中、ただ一人、少年はその少女を見てしまった。
その目は、澄んでいてどこかこの世界のものとは思えない、上品な光をたたえていた。
彼は見惚れた。無意識のまま、目を逸らすことを忘れて。
「貴様ァッ!!」
奴隷監督ヴォランの怒声とともに、殴りかかる拳が飛んできた。
その瞬間、静かな声が制した。
「待て」
リャーナだった。
「なぜ、止められるのですか? この奴隷はリャーナ様を見てあなた様を汚そうとしたのですよ」
「彼の顔……。アークの扉に刻まれた“天の使い”の像に似ていた気がするの。ほんの一瞬だけど、確かに」
その言葉でヴォランは翔を解放した。天の使いと言う言葉はカザル族にとってそれだけ重みがあるのだ。
そのまま彼女は父、ザルグのもとへ向かう。