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鎖に繋がれし身
砂の夜は冷たかった。
だが、それ以上に冷たいのは、カザルという部族の空気だ。
奴隷として拾われて数日、少年は何もできず、何も与えられず、ただ使い捨てのように扱われていた。
異世界に転移した直後、戦闘部族カザルに拾われ──いや、拘束されたと言うべきか──命は助かったものの、生存は過酷を極めていた。
それでも、彼にはひとつだけ、「誰にも理解できない何か」が見えていた。
それは、部族の広場に鎮座する黒い金属の箱。
**“アーク”**と呼ばれる、誰も開けることができない神の箱。
偶然目にしたその表面には、古代文字のような文様と、ひとつだけぽっかりと空白になった式のようなものがあった。
a² + 2ab + b² = ?
それを見たとき、少年は直感的に理解した。
(因数分解だ……)
しかし、それが何を意味するのか、誰に話すべきなのかすらわからないまま、彼はまた作業場へと戻っていった。