策と木偶~別れの言葉
翌日、翔のもとに二人が訪れ、避難の提案を告げた。
「戦わぬのですか……?」
「誇りは命には勝らぬ。翔、お前を巻き込んで死にたくはない」
リャーナも、うなずいた。
翔は少し考え、そして頷く。
「わかりました。けれど……一つ、ささやかな提案があります」
翔が口にしたのは、戦神と等身大の木偶を作って部落の前に立たせるという奇策だった。
「きっと帝国は、それを破壊して気が済めば、追ってこないかもしれない。
……そんな期待、甘いかもしれないけど」
ザルガは渋い顔をしたが、リャーナが言った。
「いいえ、それもまた、一つの“盾”になり得ます。試してみましょう」
そして部族の名工と言われる職人たちが総動員された。
翔も自らマグ・ゼル=アークを動かし、森から木材を引き抜いて運んだ。
カザル族の地には、本物そっくりの偽りの戦神が組み上がっていった。
部族の避難は順調に進んだ。
先に逃した者たちに続いて、残る民もほぼ撤退を終えた。
木偶は完成し、本物と同じ色に塗装された。
少し離れて見れば、見分けはつかないほどだった。
その夜、翔はザルガとリャーナに頭を下げた。
「僕も、もうこの地を離れます。
でも……皆さんが無事に山奥にたどり着いたのを確認してから、元の世界に帰りたいと思います」
リャーナは微笑んだ。
「あなたは本当に、空から来た人なのね……」