プロローグ そして眠りは砂に融けた
この小説の文体は本来の葉裏のものは違います。何故なら薫君という助っ人に頼んで、ストーリーの方向性は葉裏が、描写や細部の文章は薫君に担当して貰いました。なので、この小説は共著の形をとっています。なお、薫君は協力に際して一切の報酬を葉裏から受け取っていません。完全なボランティアです。
テストが終わった午後は、夏の雨上がりの匂いがしていた。
高校三年の教室には、開放感と疲労感がごちゃまぜになった空気が漂っていて、
彼──結城翔──は、誰とも話さず、まっすぐ帰路についた。
眠かった。
吐き気がするほど、頭が重かった。
三日分の授業を一晩で詰め込んだツケは、確実に彼の身体を蝕んでいた。
食事もそこそこに、ベッドに倒れ込む
目を閉じた瞬間、世界は音もなく崩れた。
──落ちていく。
重力のない穴に、意識だけが吸い込まれていく感覚。
夢だろうか。
もしくは、死後の世界か。
それでも彼は確かに、風を感じた。
砂の匂い。
焼けるような乾いた熱。
口の中に入ってくる粉っぽい粒。
どこまでも広がる青空の下、ざらりとした大地の上で彼は目を覚ました。
「……え?」
見渡す限り、砂漠だった。
薄黄色の砂丘がいくつも連なり、陽炎の中に揺れていた。
頬に触れる風は、熱く、けれど朝の冷えた空気も混じっている。
空気の密度が違う。匂いも、湿度も、音の反響も──すべてが、彼の知る日本と違っていた。
(これは……夢じゃない)
足もとの砂に手を伸ばす。指が触れる。
乾いている。粗い。だが、しっかりと熱を吸っていた。
そのとき、遠くで“鈴”のような音がした。
カラン……カラン……。それは鎖の音だった。
振り返った瞬間、何かが彼の頭を打ち、意識はまた、暗闇に沈んだ。
──足首に、何かが巻きついていた気がする。
──誰かの叫び声。金属のこすれる音。
──何者かに、抱え上げられている。
視界が揺れ、空が傾き、心が遠のいていく。
(どこだ……ここは……)
意識の最後、耳元に聞こえた言葉は、
日本語ではなかった。
だが、彼の心に妙に焼きついた。
「カザルの奴隷か──運のねえやつだ」
以上です。いつもは亀更新ですが、明日から兎更新になりそうです。