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追放速度チート ~いまさら後悔してももう遅い!~  作者: ダイキリン
幼少期編 灰の山の中で、火より出でて風を知る
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第五話 火より出でて風を知る

 ━━かちゃ、かちゃ。


 それはローズと暮らすようになって、すぐに気づいたことだった。夜にトイレに起きた時、ローズの部屋からかちゃかちゃと聞こえるのだ。耳馴染みのある金属が擦れる音、ローズが手持ち無沙汰な時に見せる剣をいじる癖。だけど邪竜が村を襲ったあの日から、その癖が持つ意味が変わったらしかった。


 金属の擦れる音に混じって、小さく「お父さん……お母さん……」と呟くローズの声が聞こえてきた。騎士の誇りか強がりか、俺たちの前では決して涙を見せないローズも、あの日の光景を胸に深く刻んだままでいるのだと知った。

 冒険者の言葉が俺の中で何度も反芻される。


「俺はあの2人の同業者として敬意を持っているからこそ、自暴自棄になってその命を無駄にはしてほしくない。」


「だからお前がそばにいてやって、あの子を守ってやってくれ。あの子のパパとママが1番守りたかった宝物だ。」


……俺がローズを守らなくちゃ。今はただ音を立てるだけの剣が、いつかローズ自身に向いてしまうのでは━━そんな不安が頭をよぎる。そうなる前に、俺がなんとかしないと。




「ローズ!!」


 家の外、少し開けた場所から声を張り上げる。目の端には木製の人形が目に映る。ローズが父親と剣の訓練に励んだ場所だ。

 夜が来るたびにローズが鳴らす剣の音を聞きながら考えた俺が今のローズにできること。それを実行に移す。


「どうしたんだいシュユ?」


 俺の母親の手伝いをしていたローズが家から出てくる。昼間のローズは夜の弱さを決して見せない。それがかえって、俺には不安だった。


「俺と決闘しろ。ローズ。」


「決闘?急にどうした……」


 ローズは困ったように笑って流そうとしたが、俺の顔を見て言葉を止め、そして真剣な顔になる。


「本気かい?」


「ああ。」


「でもなんで……」


「なんでも。」


「……わかった。」


 俺はローズの剣に布団を巻きつけ、その後、ローズにバンダナを渡す。


「そのバンダナ、好きな場所に巻いて。

俺はローズのそのバンダナを取れたら勝ち。ローズはバンダナが取られるまでに一回でも俺に剣を当てたら勝ち。いい?」


「いいよ。」


 静かなやり取りの後、互いに距離をとり向き合う。ローズはバンダナを右腕に巻いた。俺はトントンと軽く準備運動をして━━


加速魔法ヘイスト


 魔法を発動させ、一気に距離を詰める。ローズは一瞬ギョッとするも、すぐさま反応して剣を振るう。大振りな切り上げだった。俺は一瞬だけ魔法を解除して減速、即座に方向をローズの右側に転換してまた加速する。目の前を通り過ぎる剣に一瞬ヒヤッとするも、ローズの右腕についたバンダナに手を伸ばす。ローズはかろうじて半身を翻しそれを回避した。勢いのついたままの俺は手が空を切ったことでそのまま明後日の方に吹き飛び、派手に転ぶ。


「シュユ!だいじょ……」


「決闘中だぞ!!」


 擦り傷をたくさん作りながらも立ち上がる。ローズも俺の一言で剣を構え直す。今度はローズから仕掛けてくる。不意打ち気味な先ほどとは違い、腰の入ったキレのある振り下ろすような一撃。加速でなんとか避けるが、逆に言えば加速なしでは反応しきれない。避けた先を目がけて二撃三撃と次々に攻撃が繰り出される。村を守った英雄直々に鍛えられた剣技、無駄も隙もない。かろうじて回避出来ていたが防戦一方、ジリ貧だ。大袈裟に後ろに飛び退き距離を取る。

 改めて息を整え意識を集中する。ローズも無闇に踏み込んでこない。互いに仕切り直したことで、睨み合いの状況が続く。


━━加速魔法ヘイスト


 ローズの間合いに入れば勝ち目はない。

━━よって俺の勝ち筋はローズの間合いの外からの急襲。


「早っ……!」


 ローズはそう呟きながらも待ち構えていたように剣を振る。

 俺はローズの右腕のバンダナに手を伸ばし、ローズは剣を振り……


 ローズは寸止めしようとする。しかし俺の予想外の速度に目測を誤り、俺もまた勢いを殺しきれないままローズの剣に顔から突っ込んだ。


━━バキッ!


「ああっ!シュユ!!」


 俺は勢いのまま後ろにひっくり返る。


「……決闘中だぞ」


 ローズは仰向けのままそう言う俺の顔を覗き込んでほっとしたように胸を撫で下ろした後、手に持つ剣を指差した。この決闘のルールはバンダナを取れば俺の勝ち、剣を当てればローズの勝ち。顔から剣に突っ込んだ俺の負けだった。


「さてと。シュユは決闘に負けたわけだから私の言うことを一つ聞いてもらおうかな。」


「そんなルールはなかっただろ。」


 俺の反論を笑って無視し、ローズは続ける。


「一つ教えて。どうして急に決闘なんて言い出したんだい?」


 俺はローズから目を逸らす。勝とうが負けようが聴かれるとは思っていたが、いざ本当に聞かれるとなんとなく話しづらかった。しかし、プライドを賭けた決闘に負けたのだ。答えないわけにもいかなかった。それに答えずに逃げるのは今は難しい。未だに俺は地に伏しながら天を仰いでいた。


「……ローズを守りたかったから。」


「?」


「ローズはいっつもみんなを守ろうとする。助けようとする。だけど、今のローズは自分を守れてない……気がしたんだ。だから俺が代わりにローズを守りたかった。」


 ローズの困ったような顔が目に入る。


「俺は!ローズが守らなくたって強いって、ローズを守れるくらい強いって証明したかったんだよ!だから決闘を挑んで勝ちたかった!!……これでいいか?」


 いざ口に出すと恥ずかしくなる。顔が熱いのが剣に当たったからなのか、恥ずかしいからなのかわからなくなる。


 ローズはしばらく俺の顔を眺めたのち、吹き出すように笑い出した。


「なんだよ!」


「いやあ、ごめんごめん。隠してたつもりだったけど、やっぱりシュユには心配をかけてたみたいだね。気にかけてくれてありがとう。」


「そういうとこだぞ!!」


 痛さと恥ずかしさと、それからローズの余裕な様子、それから自分の不甲斐なさになんだか腹が立ってきた。


「……でも、本当に嬉しいんだ。」


 なんだか久しぶりにローズが笑った気がした。

 この時のローズの顔は何故だか今でも鮮明に思い出せる。


「ローズ!明日もまた決闘だからな!!」


「えー、またかい?」


「俺が勝つまで!!じゃないと俺の強さが証明できない!!」


「一生やるつもり?」


「なにを〜!!」


 未だ起き上がれないまま地面でジタバタと怒りを表明していると母親が家から出てくる。


「うわっ、シュユあんた鼻血すごいことになってるわよ。ローズちゃんに喧嘩なんか売るから。」


「喧嘩じゃねーし!決闘だし!!」


「ローズちゃんもごめんねぇ。シュユが急に変なこと言ったんでしょ?」


「いえ、なんとなく私もスッキリしました。」


「そりゃよかった!ほら、シュユも早く立って!家入って手当するよ!ローズちゃんは救急箱持って来てくれる?ごめんね、私まだ救急箱の場所ちゃんと覚えてなくてね。」


「……立てない。」


「ジタバタする元気あるなら立てるでしょうに……ってあんた重くなったわねー。ちょっと前まであんなにちっちゃくて可愛かったのに。」


 俺たちのやり取りを見ながらローズが笑う。すごく恥ずかしかったが、同時に少し嬉しかった。



 結局決闘は俺が勝つまでやると宣言した通り日課になった。毎日のように鼻血を流しながら勝つための戦略を考え、魔法と身体の両方を鍛えた。

 気がつけば、夜にローズの部屋からかちゃかちゃという音が聞こえなくなっていた。



━━


「……なによあなた、めちゃくちゃ重い話したかと思ったら急に惚気話始めるじゃない。アタシびっくりしちゃうわん。」


「なっ、うるさいなぁ!惚気ってなんだよ!!」


 酒場の店主に言われて傭兵のおっさんを引っ張り出した後、俺たちは当てもなく街を歩きながら話を続けていた。


「ずいぶん仲良さそうじゃない、あなたとローズちゃん。追放なんて無縁そう。」


「そうなんだよ!」


 つい大きな声を出してしまう。俺が追放された現実を受け止めきれていないのはそこにあった。自分で言うのもなんだがかなり壮絶な幼少時代を過ごして乗り越えた仲なのに、なぜローズは俺を追放なんて……


「ローズ……なんでなんだよ……」


「あっ、わかった。そういうウジウジしたところじゃない?」


「お前なんてこと言うんだ!こちとら傷心だぞ!!」


「冗談よん。あなた感情忙しいわねん。」


「誰のせいだ!!」


 オネエは余裕そうに口元を扇で扇ぎながら軽口を叩いてくる。

 ……正直言うとこの軽口のおかげでずいぶん気が紛れてるのも事実といえば事実なのが尚更に腹立たしい。


「ま、いきなり生い立ちから話し始めた時は何事かと思ったけど、まだ続きあるんでしょ?聞いてあげるわん。乗りかかった船が思いの外広大な航路に漕ぎ出してビックリしてるけど、あなたとローズちゃんがこれからどうなるのか、なんで追放の話になったのか気になって来たしね。」


 全くこのオネエには調子を狂わされっぱなしだ。ここまで話させたのだから、オネエには責任を持って最後まで付き合ってもらおう。どのように俺たちが冒険者になって、どのように俺が追放されたかまで。

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