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残された者に祝福を  作者: 鳥居之イチ
第一章 俺は母を殺してしまったのだろうか。
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【前書き】

開いてくださりありがとうございます。

そしていつも、リアクション・ブックマーク・コメントをいただきありがとうございます。

少しでもこの小説を楽しんでくださいませ。





 質問すると言ったのに、また車に乗せられてしまった。ファミレスを出る際の会計を横目で見ていたが俺の食費の1ヶ月分に相当する額が見えた。あまりの恐ろしさにすぐに目を逸らしてしまった。俺はあんなにも食べたのだろうか。俺自身がびっくりしているが、水面さんはずっと笑顔だった。”食べなさい”と強く言ったのは本当に食べてほしかったのだろう。

 そしてまた車内は無言。人と話すのが苦手なのだろうか?




 「えっと、どこへ向かっているのですか?」


 「事務所だよ。」


 「事務所?」


 「そう。僕の仕事場兼自宅。外で話すよりは話しやすいかなと思ってね。」


 「そ、そうですね・・・」




 事務所は予想通りというべきか、どこにでもあるような雑居ビルの3階。エレベーターはなく階段で3階まで上がる。入口には札が立ててあり、”水面探偵事務所”と書いてある。安直だ。でも探偵事務所なんてどこもそのような名前なんじゃないだろうか。法律事務所とか病院とかも名字を取る形でたっているから、そんな感じなんだろう。




 「コーヒーでいいかな?アイスしか出せないけど。」


 「はい、大丈夫です。」


 「では早速、色々と質問させてもらうよ。」




 俺は静かに頷いた。空気が少し重くなる。おそらく軽い尋問のような聞き取りが始まるのだろうと思う。水面さんはそもそも俺に母親を生き返らせたかどうかを聞きに来たのだ。確認屋という職業柄どのようなメリデメなのか研究したいのだろう。




 「まず初めに、君の母親のメリデメを教えてくれるだろうか?」


 「え?」


 「え?」


 「いや、てっきり俺についてだけ聞かれると思っていたので、驚きました。」


 「君のメリデメを確認するより先に、君の母親のメリデメの可能性から探るのが早いと思ってね。」


 「でも色々調べられる立場なんじゃないですか?すでに俺の母のメリデメはご存知なのかと思ってました。それと調べられない場合、俺以外にもあの場にいた人は大勢いたはずです。他の方のメリデメも確認するべきじゃないでしょうか?俺、発現してないですし。」


 「まず僕は君の母親のメリデメは調べていて、すでに把握しているよ。その上で君の口から聞きたいんだ。記録上のメリデメと実際のメリデメは異なるケースがあるからね。あとあの場にいた他の保有者の詳細も調べ尽くしてある。でもその前に君の母親が動いたときは、君が触れていたときだと聞いた。それであればまず君に声を掛けるのが定石だと思うよ。」


 「なるほど、記録上と実際とではメリデメが異なる場合があるんですね。少し勉強になりました。」


 「あっ!ごめん!今のは忘れてほしい!!」


 「大丈夫ですよ。無駄な雑学といいますか、誰かに言ったところで信じる人はほぼいないですよ。都市伝説みたいに思われて終わるだけだと思います。」


 「そう、そうか。」


 「はい。で、俺の母のメリデメでしたね。実は俺もほとんど見たことないんです。俺にメリデメが発現したかったからなのか、俺の目の前でメリデメを使用することはほとんどありませんでした。でも幼少期に片手でも足りるくらいですが見たことはあります。記憶ではメリットは水流操作。触れた水をいのままに操作できる程度であったと認識しております。皿洗いに使っているのを見たことがあります。デメリットは目立ったものはありませんでしたが、メリットを使用してしばらくは手がふやけていたと思います。ただそれが皿洗い直後からだったのかどうかはわかりません。」


 「なるほど。メリットは記録通りだね。デメリットは違う。でもこれは記録に書いてあるデメリットが正しいだろうね。」


 「本当のデメリットは何なんですか?」


 「”体内の水分の1%を消費する”だよ。」


 「え、かなり危険じゃないですか?確かに今思えばよく水分を補給していたように思えます。」


 「1%ならまだ大丈夫じゃないかな。たしか喉が渇く程度だったと思うよ。でもこれで確定したね。君の母親を生き返らせたのは、君自身のメリデメだよ。」


 「やっぱりそうなんですね・・・。そうなんじゃないかと思ってました。じゃあ俺は母親を殺してしまったんですね。」


 「ど、どうしてそうなるんだ。君は殺してないだろ。」


 「生き返らせてしまった以上、その後息を引き取ったのであれば俺が殺したも同義じゃないですか。最悪の気分です。でもそうなんだろうなと思っていたので、気分は最悪でも落ち着いてはいます。」


 「まだそうと決まったわけじゃない。」




 机をたたき、俺を否定するように水面は声を荒げた。




 「君はこの1ヶ月、ずっと自分自身と戦っていたんだろ。自分が実の母親を殺してしまったのではないか。という想いに。まともな食事も取らず、部屋からも出ず。一人で戦っていたんだろ。安心してほしい。僕が君が母親を殺していないことを証明するよ。だからまずはその涙を拭いて。」




 指摘されて初めて気がついた。俺泣いてるんだ。俺のせいで母は死んだという現実を突きつけられて俺は泣いてるんだ。でもこの水面という男は俺を人殺しにさせないように俺を助けようとしている。今日あっただけでここまで希望を与えてくれる人ってすごいな。




 「あ、ちなみに本当に君は母親を生き返らせてはいないよ。」


 「・・・は?」


 「ごめんね。ずっとそれで悩んでいたみたいでなかなか言い出しづらかったんだけど、一度死んだ人間を生き返らせることはできないよ。メリデメがある以上。どんな不可能も可能にすると思われがちだけど、そんなことはないんだよ。」


 「え・・・? は・・・?」


 「あははっ。自分にメリデメが発現しなかったからと言って、メリデメに関する授業をちゃんと受けてないだろ君。いいかい?メリデメは大きく6つに分類される。”移動系” ”操作系” ”能力強化系” ”精神干渉系” "生成系" ”特異系” の6つだ。君のご両親、父親は座標指定型瞬間移動だったね。これは移動系に分類される。母親の水流操作は操作系に分類されるんだよ。この6つの枠から出ることはないんだ。」


 「・・・言われてみれば授業で聞いた気がします。選択問題でテストにも出てきてたような。で、でも特異系だったら生き返らせたりできるんじゃないですか?」


 「もし仮に生き返らせることができた場合、それは”能力強化系”だね。これには2つの種類があって、自身の能力を向上させるものと、他者の能力を向上させるものだよ。具体的に言えば、自身の視力を上げて視力を6.0にしたり、脚力を向上させて足を速くしたりできるのが自己能力強化型。逆に他者に対して免疫力を向上させて病気や怪我を治療したりするのが他者能力強化型。生き返らせたりできたのであれば他者能力強化型タイプの能力強化系の可能性があるかもしれないけど、あくまで能力の向上なんだよ。1を10にすることはできても、0を1にすることはできないんだ。逆に0を1にするのが"生成系"だね。でも正確には0から1を作れるわけじゃないんだけどね。」


 「そうなんですか?」


 「生成系には必ずデメリットが対価になる特徴がある。有名なのは火を吹けるメリットだね。これは血液中の酸素を消費することで火が吹ける。他には毒生成、電気生成と多種多様だよ。君の母親は水流操作だから体内の水分の1%の対価ですんでいるけど、これが生成だったら、3~5%くらいは対価で消費するかもしれないね。でも水生成のメリデメは珍しいから、研究が進んでいないのが実際のところだよ。」


 「な、なるほど。では特異系にはどんなものがあるんですか?」


 「そうだね、一言で言い表すのは難しい。本当にいろんなものが分類されているよ。人物の居場所を特定することができるメリデメ、自身に起こり得る未来を予言することのできるメリデメ、他には他者の外傷を自身に移すメリデメも存在するね。」


 「全く系統が異なるように思えるのですが、それ全部特異系なんですか?」


 「特異系はそもそもがレアケースなんだよ。保有者の発現率がかなり低いんだ。そのため系統がバラバラでもとりあえず特異系に分類せざるおえないといったところだろうか。今まで6つに分類されていたものを7つ、8つに増やすのは簡単なことじゃないんだよ。世界基準を変えることになるからね。」


 「理解はできました。でも今までに事例がないだけとかはないんですか?」


 「おそらくというか、生き返らせることはできないよ。これは言い切れる。いくらメリデメでもそんなことができてしまえば、世界の均衡が崩壊するからね。仮にそんなメリデメが存在していた場合僕が知らないことの方がおかしいってもんだよ。」


 「じゃあ、本当に俺は母親を生き返らせていないんですか?」


 「うん。断言してもいいよ。現段階での僕の考察では、”操作系”か”精神干渉系”だと思うよ。ネクロマンサーって聞いたことあるでしょ?あれは操作系に分類されるもので、死者を任意に操作できるというものだよ。」


 「精神干渉系というのは具体的には、どんな物があるんですか?」


 「メジャーなところでいえば、テレパスとかかな。相手の脳に干渉して自分の声を届けたり逆に聞いたりするあれだよ。」


 「なるほど。では精神と干渉は別なんですか?」


 「良い着眼点だね。全くの別と言うわけではないんだけど、分けて考えてもらっても問題はないよ。さっき”能力強化系”には2種類あるって話をしただろ。そんな感じで同じではあるんだけど、少し違うんだよね。」


 「と、いいますと?」


 「精神は生きているもの。干渉は無機物にも作用できるという点かな。精神系は人だけではなく、犬や猫などの動物にも作用できるんだよ。動物の声が聞けたりできるメリデメもあるね。干渉の場合は無機物にも働く。例えばノートに触ることで持ち主を特定できたりできるメリデメもあるよ。ま、無機物にも記憶があってそれを読み取れるって考えて同じ精神系統に割り振られてるんだよ。」


 「はっーーー。わかりました。ありがとうございます。今の例えば話はわかりやすかったです。」


 「あ、そこっ。でも良かった。わかりやすい例え話ができて。」


 「じゃあ、俺に発現したメリデメが”操作系”の可能性は理解できましたが、なんで”精神干渉系”も該当する可能性があるんですか?」


 「それは、君の行動や言動から推測した結果だよ。」


 「行動や言動ですか?」


 「うん、とりあえず、実験してみよっか!」


 「実験?」





【後書き】

よかった。

主人公は母親を殺したわけじゃなかったのか。

そしたらどうして動いたのか。

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