004
【前書き】
開いてくださりありがとうございます。
そしていつも、リアクション・ブックマーク・コメントをいただきありがとうございます。
少しでもこの小説を楽しんでくださいませ。
他人の車に乗るのなんて何年ぶりだろうか。今日見知った人の車に乗るのは緊張する。しかも車内は無言。更に緊張する。会話は俺から振ったほうがいいのだろうか。いやいや、水面さんが誘ってきたのに、なんで俺が話を振らなきゃいけないんだ。でも奢ってくれるって言うし。バイトしてないから今月厳しいし。まあ、背に腹は変えられない。
「あの、ご飯ってどこに連れて行ってくれるんですか?」
「あ、近くのファミレスにでも行こうかと思ってたけど、なにか食べたいものがあった?あるならそっちに行こうか?」
「いえ、ファミレスで十分です。」
「あ、もしかして僕のお財布事情を気にしてくれた?大丈夫だよ。こう見えてお金はあるから気にしないで大丈夫だよ。ありがとね。」
確かに上等な服を身にまとっているように見える。お金があると言うのは本当なのだろう。別にお金の心配をしたわけじゃないのに。しかもお礼なんて、最初は失礼なやつだと思っていたが実はいいやつなのか?
「ちょっと失礼かもしれないけど、どれくらい食べていいですか?」
「え?」
「いえ、個人的な事情で申し訳ないのですが、状況が状況だったのでここ1ヶ月はバイトできてないんです。さらに今の今まで食欲がなく、まともな食事をここ最近取っていなくてですね。。。簡潔にいうと、めちゃくちゃお腹空いているので、たくさん食べても大丈夫ですか?」
「あははははははははっ。はーーーーーっ」
「ちょ、笑いすぎじゃないですか?」
「いやいや、ごめんごめん。素直で礼儀正しい子だなって思っただけだよ。笑ってしまって申し訳なかった。うん、好きなだけ食べてもらって構わないよ。お店の全品頼んでもいいよ。君はまだ学生なんだから、たくさん食べてほしい。むしろ食べなさい。」
「あ、ありがとうございます。」
「しかし君は賢い上に、礼儀正しいだなんて、育ちがいいね。あ、いやごめん。今のは失言だったね。母親をなくしたばかりなのに育ちなどと思い出すようなことを言ってしまった。申し訳ない。」
「いえ、気にしないでください。1ヶ月も経つんです。そろそろ気持ちを切り替えないといけないと思っていたんです。」
「いや、家族を失ったんだ。しかも1ヶ月しか経っていない。1ヶ月”も”じゃない。1ヶ月”しか”経っていないんだ。気持ちの整理ができなくて当然だよ。なんなら一生気持ちの整理がつかなくても誰も文句は言わないし、言えないよ。」
「優しんですね。最初は失礼なことをいきなり言ってくるやばい人だと思ってました。」
「間違っていないから、なんとも言えないな。」
「あ、でも俺賢くないですよ。先ほど俺のこと賢いと言ってくれましたけど、全然そんなことないです。」
「ん?十分に賢いと思うよ。現に僕はまだ君の名前を君の口からは聞いていない。初対面の人にすぐに名乗らないのは十分に賢い生き方だよ。さらに加えて言えば、僕の名前を聞いてすぐに偽名だと疑ったり、ご飯を奢ると最初に言ったときに、素性のわからないやつには奢られたくないと言っていたね。それだけで賢いと言えるよ。」
「俺を小学生か何かだと勘違いしてます?」
「あはは。確かに”知らない人についていかない!”とか特に小学生の頃は言い聞かせられるものね。でもそれを今でも実行できているのはとても素晴らしいことだよ。歳を重ねるにつれて幼い頃にできていたことができなくなってくるものだよ。」
「そういうものですか?」
「そういうものだよ。僕は例えが下手だから正しく言えるかはわからないけど。歳を取れば取るほど交通ルールを守らなくなるだろ?横断歩道のない道を渡ったり、赤信号であろうと、車が通っていないことを確認したら渡るだろ?幼い頃は言われたことを守れば基本的には安全で、怒られることはない。逆に歳を取るにつれて自分の能力に自信がついてくるし、怒られることがなくなってくる。自信に比例するように判断力は鈍くなるものだよ。」
「自信ですか?」
「ここでいう自信というのは”無自覚”なものだよ。」
「無自覚・・・」
「そう、いつの間にか人間が”これくらい大丈夫”と思うようになるだろ。それが無自覚な自信だよ。赤信号で道を渡るもの、自分なら避けられるとかここなら事故ることはない。とか思う前に、道を渡っていると思うんだ。そういうことだよ。伝わったかな?」
「なるほど、、、伝わりました。でも、例えが下手と言うのは本当なんですね。」
「え!やっぱり伝わらなかったかい?」
「いえ、最初に確認屋が公務員という話をしたときに、教師と塾講師の話をしてくれましたよね。同じ先生と呼ばれる仕事だけど、資格の有無は関係ないって。少し例えが違うなと感じはしましたが、まさか例え話が下手という自覚があることに驚いています。」
「なるほど。下手なりに頑張っているんだけどね。良い例えがパッと思いつかないんだ。でも君は僕の例え話が多少なり伝わってて嬉しいよ。」
なかなか掴めない人に思える。さっきまで無言だったのが嘘だったかのように今は会話が途切れることがない。たぶん俺が少し人と話したいと思っていたからかもしれない。母が死んでから、人と話す機会がなくなったから、自分の悩みを聞いてもらえていなかった。そんなときだったから、俺も話すのが楽しかったから会話が途切れなかったのかもしれない。お互いに良い距離感で話せている。そんな気がする。車内でこんなに話しているのに、水面さんがどんな人となりなのかがわからない。これは俺がご飯を食べてから。という約束を守っているからだろう。律儀な方だ。
「着きましたよ。」
「ありがとうございます。あっという間でしたね。」
「君と話すのは楽しくて僕もあっという間だったよ。」
「なんか口説かれてるみたいです。」
「え!!ご、ごめん。そんなつもりはなくて。」
「はは。冗談ですよ。とりあえずありえないくらいお腹空いてるので、財布の紐を緩めておいてくださいね。」
「もちろんさ。メニュー表に乗っているすべての商品を頼んでもいいよ。」
「いや、そんなには食べられないですよ。」
【後書き】
また遅くなりました。
そしていつも通り短くてごめんなさい。
出先用のPCを買ったので、投稿頻度が上がるように頑張ります。