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【更新停止中】残された者に祝福を  作者: 鳥居之イチ
第三章 呪いには代償が必要か
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【前書き】

開いてくださりありがとうございます。

そしていつも、リアクション・ブックマーク・コメントをいただきありがとうございます。

少しでもこの小説を楽しんでくださいませ。





 あれから3日後、ようやく学校から連絡が来た。

 その間水面さんはずっと不機嫌だったと思う。正直気分がいいものではない。俺と水面さんは同じ家で生活しているため、常に不機嫌な水面さんと対面することになる。さらに言えば仕事内容は助手というなの水面さんのサポート業務。

 最近は何故か俺の訓練にも同行するようになった。

 つまり正真正銘24時間共に生活をしているのだ。

 多忙だろうに、俺の訓練にまで付いてこなくてもいいのでは?と思うのだが、学校訪問の翌日の訓練から付いてくるようになった。だとすればあの学校訪問時に何かあったのだろう。あのときの何ともいえない表情は印象に残っている。

 どんな思いで俺の訓練の様子を見ているのだろう。


 「つばめんくん。学校には僕だけで行こうと思ってるって言ったら怒る?」

 今日の訓練終わり、汗を拭っている最中に水面さんから唐突に言われた言葉に俺は思わず「え?」と言い返すしかなかった。

 水面さんの言葉には、俺をこの依頼から外すと言っているのと同等の言葉であり、俺は理解が追いつかなかった。何か粗相をしてしまったのだろうか。でも「怒る?」と疑問形で来ている。俺が悪いのであれば一方的にこの案件に関わるのを禁じればいい。何かあるに違いない。


 「・・・俺は不要ということでしょうか?」

 恐る恐る顔色を伺いながら水面さんに尋ねる。

 今の俺は恐怖に怯えるような表情をしているに違いない。


 『ちょ、水面さん!どういうことですか!』

 話を聞いていた三好さんがどういうことかと腰を上げ水面さんに迫っていた。

 あまりの迫力に後退りをする水面さん。


 「違う違う違う!

 つばめくんが不要とか、この案件に向いてないとかそういうんじゃないよ。

 勘違いさせたなら謝るよ。ごめんね。

 今回の案件なんだけど、僕の仮説が正しければ良い結末を迎えることはないんだ。

 今のつばめくんには酷な結末だと思う。だからあまり聞かせたくないと言うのが正直なところなんだ。」


 「ここのところずっと不機嫌だったのは、その結末を知ってしまったからですか?」


 「ごめんね。不機嫌で接しづらかったでしょ。

 僕の思ってる結末がおそらく正しいんだけど、まだ確証がなくてね。それを思うと感情が表に出ることが多々あったかもしれない。

 ごめんね。」


 『水面さんが立てている仮説をお伺いできますか?

 火野さんに結末を知ってほしくないということは、探偵では請け負うことの出来ないほどの内容だからじゃないですか?それはもう警察の管轄になってくるものだと思います。』


 三好さんの意見を聞いて、そういうことかと認識した。

 この案件は呪いではなかったんだ。それはつまり・・・。

 水面さんは俺の精神面を気にしてくれているのだろう。三好さんの剣道訓練で精神面を鍛えているとは言え、そんなすぐに成果が出るものじゃない。

 今の俺には耐えられないと思ったに違いない。

 でもこのままじゃダメだ。今の訓練では精神面を鍛えることも目標にしている。

 俺は成長しなくてはならない。


 「俺にも水面さんの仮説を聞かせてください。

 これは俺が聞きたくてお願いしてるんです。この間みたいに俺から聞いといて不機嫌になったりしません。

 俺も水面さんの役に立ちたいです。」


 俺の決意を聞き、水面さんは俺の目を見た。

 少し間を置き、軽いため息をついた。観念したかのように水面さんは仮説を話してくれた。


 「この案件は先生と生徒で迎えたい結末が異なると考えているよ。

 呪いを解きたいという願い自体は一緒だが、その後が違うんだ。

 生徒側はいじめがあったことを公表したい。先生側はいじめを隠蔽したいといったところだろうか。

 そして全員が呪いの正体を知っている。」


 「呪いの正体を知っている?」

 どういうことだろうか。

 呪いを解いてほしいと依頼をしてきたのは実際に呪いを受けている生徒だぞ。


 「うん。そもそもね呪いなんて存在しないんだよ。

 それに自殺をしたのはいじめを受けていた鹿山さんだけで、いじめていた燃木は殺されたんだと思う。そして燃木を殺したのは先生方の誰かだ。

 依頼をしにきた桝田さんは鹿山さんが自殺をした時、クラス中が悲しみに包まれたと言った。クラスメイトが亡くなったんだ、無理もないだろう。でもそれだけじゃない。担任の加藤さんのお話では、鹿山さんは成績優秀だったと聞いている。おそらくだがクラスの殆どが鹿山さんと仲が良かったと思うよ。例えば勉強を教えてもらっていたりとかね。

 それを裏付けるように”ぼく含め誰も助けることはできなかった”と桝田さんは言っていた。つまり助けようとする意志はあったと言える。

 桝田さんの言った次のいじめの標的が自分になるのが怖かったからいうのは本当なんだろうね。

 そんななか鹿山さんが自殺をした。

 自殺をしたのは、鹿山さんがメリデメを発現することができなかったからだろう。

 これは華魅高校の山下さんも同じ見解だったね。

 もしつばめくんの友達がいじめが原因で自殺をした場合、つばめくんならどうする?」


 燃木は自殺ではなく、殺された?

 飛び降りたと言っていたじゃないか。

 なぜ他殺の可能性が浮上するんだ。

 理解が追いつかない。


 「質問に答える前に、俺から質問させてください。

 燃木が殺されたというのはどういうことですか?

 死亡原因は飛び降りだって言ってたじゃないですか!」


 「そうだよ。

 でも自殺だなんて誰も言ってない。

 だったら突き落とされたとしか考えられない。

 それにね桝田さんの話では蝿野は”次は俺が殺される”と言っていたそうだね。

 確かにそれだけ聞けば、呪いによって殺されることを恐れたのかもしれないが、呪いと呼ばれるようになったのはその後何人かがポルターガイスト現象にあったり、金縛りにあってからだよ。

 つまり、蝿野は燃木が殺されたことを知っていたんだ。

 そうなると次に疑問になるのは、桝田さんはどこで蝿野が”次は俺が殺される”と聞いたかだよ。

 さて、つばめくん。ボクは答えたよ。

 次はつばめくんが答えてね。」


 水面さんのいう通りだ。

 担任の加藤さんの話ではいくつかの異変が続いた後、ある生徒が鹿山くんの呪いだといい始めたと言っていた。

 桝田くんの言った蝿野は”次は俺が殺される”と言う言葉は、燃木が殺されたことを知っていなければ出てこないはずだ。ということは燃木は自殺ではなく他殺で確定だ。


 「俺の友達がもしいじめが原因で自殺をしたらでしたっけ。

 俺なら・・・いじめてたやつを殴りに行くと思います。

 絶対に許さないと思います。」


 拳を握りしめながらそういった。

 それに対して俺はハッとした。


 「気付いた?

 たぶん桝田さんも同じことを思ったと思うよ。

 桝田さんは燃木を殴りに行ったんだ。

 それ場所が燃木が飛び降りたあのビルだよ。」



*     *     *


 時は学校訪問する前に遡る。


 『それもそうですね。大丈夫です。

 明日は探偵事務所の用心棒とでも名乗っておきましょうか。

 それで朝からどちらに行くんですか?』


 「それはね、いじめっ子が飛び降りた現場だよ。

 三好くん、特に今は立ち入り制限とかはしてないんだよね?」


 『ええ、問題なく入れると思いますが、一応担当部署に話通しておきましょうか?

 なにかするのであれば、連絡いれておいたほうが後々厄介事になった時に盾にできますけど。』


 「うん、そうだね。お願いできるかな?」


 『わかりました。

 火野さん、少しゆっくりめに現場に向かっていただけますか?』


 「わかりました。

 ではたまにはドライブスルーでコーヒーなんていかがですか?

 俺あんまり行ったこと無いんですよ。」


 そういうと水面さんと三好さんは頷いた。

 朝一ということもあってか車はかなり空いていた。

 コーヒーも難なく購入でき、そのままいじめっ子が飛び降りたというビルに向かった。

 ビルは所謂廃墟ビルで施錠などもなく、誰もが入れるような状況であった。階段で屋上へ向かうと、一人腕をまくったシャツを着た男性が立っていた。

 ベストを着ており、引き締まった身体がよりいっそう際立って見える。

 男性はこちらに気がつくと、こちらに向かって歩いてきた。


 『初めまして三好さん。そして水面探偵事務所の水面さんと火野さんですね。

 自分は今回の投身事件の現場担当をしておりました前野まえのと申します。

 以後お見知り置きを。

 現場の確認をされるとのことで、念の為ご同行させていただければと思います。

 邪魔をするつもりはございません。どうぞよろしくお願いいたします。

 ちなみに、一箇所柵が壊れている箇所がございます。危険ですので近づかないようにしてください。それとそこから投身されたようです。』


 前野の名乗ったその男性は、三好さんが事前に連絡をしていた投身事件の担当部署の刑事さんだった。三好さんが初めましてと言ったところを見ると警察と言うものは部署が異なるだけで関わりがほとんど無いのだろう。

 ま、大学生である俺も取る授業が違っていれば、他の生徒と関わりを持つことなんて無い。大人の世界もそういうものなのだろう。

 と言うか警察は美男美女しか入れないルールでもあるのか?

 俺も訓練をし始めて元よりはだいぶ筋肉が付いてきてはいるが、佐々木さんや三好さん、そして今目の前にいる前野さんほど引き締まったものではない。

 こうやって見ると、筋肉が付いているだけで男性はこんなにも魅力的に見えるのかと感動する。俺もああなりたい・・・。


 「初めまして。水面探偵事務所所長の水面です。

 こっちは助手の火野燕くん。

 どうぞよろしくお願いします。」


 水面さんが挨拶を交わし、それに合わせよろしくお願いしますと言いながら俺も会釈をした。ここ最近学んだことだが挨拶時に握手などはしないらしい。これは相手のメリデメを気にしてのことなのだろう。メリデメの発動条件で一番多いものは直接触れるということだ。もちろん他にも視界に入れる、声を聞かせる、睡眠を取るなど様々なものがある。水面さんは警察の皆さんはそういったものを常に警戒しながら生活しているのだ。俺も水面さんの元で働いていなければそういったことを一切気にすることなく生活し続けたことだろう。


 「前野さん、いらしていただきありがとうございます。

 ちょうどお伺いしたいことがあったんですよ。

 飛び降りた子はどんな感じで見つかったんですか?」

 水面さんは前野さんが来ることがわかっていたのだろうか?

 事前に三好さん経由で連絡はしていたようだが、来る確証なんてなかっただろうに。


 『事件に関わることですので、全てをお話できるわけではないことをあらかじめご了承ください。

 見つかったのは華魅高校に在学している3年2組の燃木という男子生徒。

 おそらく脆くなっていた柵に手をかけ、その勢いで壊れて落下。後頭部から落ちて即死だったと思われます。

 ま、わざわざ人気のないこのビルの屋上。さらに柵近くまで行っているのを見ると自殺をするつもりだったが、柵が壊れ不慮の事故で転落といったところでしょうか。

 お話できることはこのくらいです。』


 「ありがとうございます。

 お伺いしたかったことは、今ので殆どお伺いすることが出来ました。

 ところで下に花が手向けられておりましたが、花束の数は2つでした。1つは燃木の両親だとして、もう一つはどなたからのかわかりますか?」


 言われてみれば、落下位置であろうところに花や飲み物が供えられていた気がする。水面さんはよく見ているな。花束は確かに2つあった。ユリの花束そしてもう一つは白い花だったことは覚えているが、何の花だったかまではわからなかった。花の種類が違うということは手向けた人も違うということだ。


 『申し訳ないのですが、誰が手向けたのかまではわかりかねます。

 お調べすることも出来なくはないと思いますが、調べさせましょうか?』


 「いえ、そこまでは大丈夫です。大体の目星は付いておりますので。

 もう一つお伺いしたいのですが、事件後ここに来た華魅高校の関係者はいますか?」


 『自分が把握している中では、燃木の担任の先生。たしか加藤さんですかね。その方だけだと思います。』


 「わかりました。ありがとうございます。

 お伺いしたいことはすべて聞けました。お手間をおかけいたしました。

 つばめくん、三好さんお昼を食べてから学校に向かおうか。」



*     *     *


 そして今に戻る。

 

 「燃木が投身としたあの場に、桝田さんと蝿野がいたということですか?」


 「おそらく蝿野だけじゃない。

 桝田さんが燃木をあのビルから突き落としたとすれば、蝿野が助けに入ったはずだよ。でも助けに入ることはなく、逆に次は自分が殺されるのではないかと怯えるほどの恐怖心を植え付けられた。

 だとすれば、あの場には最低でも4人いたことになる。

 桝田さんに燃木、蝿野。そしてもう一人。

 その一人が燃木をビルから突き落とし、蝿野に恐怖心を植え付け、蛇舌を自殺未遂にまで追い込んだ犯人だ。」


 「・・・一体誰なんですか?先生方の誰かだと言ってましたが、、、」


 「それはまだわからない。それを確かめに学校に行くんだ。

 生徒の話を聞くのは、呪いが生徒によるものだと確認するため。

 そしてこの事件を終わらせるためだ。

 三好くん、次の学校訪問も一緒に来てもらえるかな?1人は逮捕することになると思うから、手錠などの準備もお願いしたいです。」


 『かしこまりました。

 宇田津部長、許可をいただけますでしょうか?

 それから佐々木さんも同行いただけると助かります。』


 『許可する。

 佐々木も私から同行をお願いしたい。いざとなれば武力行使しても構わん。』


 『はっ。かしこまりました。』


 「皆さん、ありがとうございます。

 つばめくん、もう一度聞くよ。

 これから向かうのは呪いの解呪ではない。誰が殺したのかを暴きに行くんだ。

 君にその覚悟があるかい?」


 「・・・誰が車を出すと思ってるんですか。

 学校への訪問は明日の午後の予定です。

 お昼は全員分作るんで、事務所で食べてからみんなで向かいましょ。」


 俺は笑顔でそう言った。


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