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【前書き】
開いてくださりありがとうございます。
そしていつも、リアクション・ブックマーク・コメントをいただきありがとうございます。
少しでもこの小説を楽しんでくださいませ。
「つばめくんはさっきの高校生の依頼、どう思う?」
冷やし中華を食べながら、水面さんが先ほどの華魅高校の生徒2名から受けた依頼内容について聞いてきた。
ご飯を食べながら受けた依頼内容について議論することは少なくない。
おそらく助手として鍛え上げようとしてくれているのだろう。
「それについて俺から聞きたいことがあります。
死ぬことがトリガーになるメリットって存在するんですか?
今まで書類上だけですが、様々なメリットの発動条件を見てきました。
対象に触れる。と言うのが多かったですが、死ぬことが発動条件のものはみたことがありません。
更に保有者<ホルダー>が認識出来ない発動条件があるのでしょうか?」
「そうだよね。真っ先に引っかかるのはそこだよね。
そうだねー、可能性はないことはない。としか言えないかな。
僕もね、そういったメリデメ保有者にはあったことがないんだ。
正確に言えば、どこかであったことはあるのかもしれないけど、死ぬことがトリガーならね。その人の死に目に合わないといけないでしょ?
人の死に目になんてそう立ち会えるものじゃないからね。」
水面さんの言うとおりだ。人の死に目になんてそう立ち会えるものじゃない。
話しぶりからするに、現状はそのようなメリデメ保有者は確認されていないのだろう。
つまり、自殺をした子は本当に未保有者であり、呪いの正体は別のなにかである可能性が高い。
それってつまり、第三者のメリデメが呪いである可能性があるということか。
「気づいたみたいだね。
おそらくだけど、あの高校生二人は嘘を付いてるよ。
桝田さんだっけ?特にあの子はあのまま話しているとボロが出ると思ったんだろうね。佐伯さんが割って回答したことがあった。」
「警察を頼らなくてよいのか?って質問のときですね。」
「その通り。
その時桝田さんはジュースを一気飲みしていたよね。相当緊張してたんだと思う。
そして佐伯さんの回答だけど、嘘はついてないと思う。でもいくつか省いて説明したと思うんだよね。
確かに受験生が警察のお世話になるのは避けたいだろう。でもすでにクラスで2人も亡くなっているんだ。すでに警察が動いていてもおかしくない。
三好くんはこの件について知っていることはあるかい?」
なるほど、水面さんは親しい間柄になるとその人のことをくん付けするのか。最初はお客さんだからさん付けなのかと思っていたけど、三好さんとはあの時が初対面だったはず。
こんなにもはやく仲良くなれるのは、水面さんだからなのか、三好さんだからなのか。
ま、今はそんなことはどうでもいい。
三好さんの回答が気になる。
『申し訳ないのですが、事件に関することをお話することは出来ません。
事件に関することは口外禁止とかそういうのもありますが、そもそもこの件の担当は我々カイトクではないのです。そのため事件の詳細を知っているわけではありません。
知っている情報かつ、お話できることと言えば、いじめで亡くなった子は首吊。いじめていた子は飛び降りで亡くなってるってことくらいですかね。
お役に立てず申し訳ないです。』
三好さんから御尤もな回答がきた。
そりゃそうだ。警察が事件の詳細を他者に漏らすことなんて出来ない。
聖女の殺人事件がイレギュラーだったからで、これは三好さんが正しいと思う。
「そうだよね。ごめんね。情報ありがとう。
これで大体わかったね。
つばめくんどう?学校側にはアポイント取れそう?」
大体わかったとはどういうことだろうか?
もしかして呪いの正体がわかったのか?さすが水面さんだ。
「はい、一応明日のアポ取れました。
ただやっぱり生徒が多くいる時間帯は控えてほしいとのことで、夕方以降に来ていただきたいとのことです。
でも華魅高校専属の確認屋さんは同席いただけることになりました。」
「上出来だよ、つばめくん。
明日は朝から寄りたいところがあるから、車出してくれる?
三好くんも付いてきてほしいんだけど、大丈夫かな?」
『はい、火野さんの護衛ですので、火野さんが行くところには付いていきますよ。
学校もお供することになりますが、よろしいですよね?』
「うん。大丈夫だと思うよ。
ただ学校では警察であることは隠してほしいかな。
警察には頼らないって依頼者に言われてるし。」
『それもそうですね。大丈夫です。
明日は探偵事務所の用心棒とでも名乗っておきましょうか。
それで朝からどちらに行くんですか?』
「それはね・・・」
※ ※ ※
「初めまして。水面探偵事務所の火野と申します。
本日は急なご連絡にも関わらず、快くご訪問の許可を下さりありがとうございます。」
俺はいま水面さんと三好さんと共に華魅高校を訪問している。
華魅高校側の対応は、校長先生と呪いを受けているクラスの担任の先生そして華魅高校専属の確認屋の3名となっている。
該当する教室でお話をするのだと思っていたが、人目を気にしてなのか校長室でお話することとなった。人生において校長室に入った経験がないため、少し感動をしている。
「初めまして。本校で校長をしております日下部と申します。
本日は本校で起きている事件。生徒の間では”呪い”と呼ばれるものについて調査いただけるとのこと大変ありがたく思っております。
それもあの”水面さん”が調査いただけるとは、心強いです。」
校長の日下部さんは中肉中背の猫背の男性で茶色と肌色の中間のような色のスーツを着ている。俺が想像する校長先生をまんま具現化したような見た目だ。
「初めまして。ワタシは呪いが発生しているクラスの担任をしております加藤と言います。
本日は調査いただけるとのことありがとうございます。」
担任の加藤さんは黒のリクルートスーツが似合う女性で、整えられた茶色のポニーテールが特徴的な人だ。20代だろうか、若い先生という印象がある。
「オレはここで養護教諭をしながら、専属の確認屋をしております山下って言います。
あの”水面さん”にお会いできるとは嬉しい限りです。
協力できることがあれば、何でもおっしゃってください。」
保健室の先生である山下さんは、水面さんと同じ確認屋のコートを羽織っているが、品があるというわけではなく、サンダル姿でいかにも無気力そうな感じが漂う方だ。
保健室の先生で男性は珍しいなと思ったが、養護教諭の免許と確認屋の資格を保有していることからかなり優秀な方とお見受けした。
と、いうか水面さん有名人すぎではないだろうか?
そもそもこのアポイントも最初こそ断られていたのだが、水面さんの名前を出し調査させてほしいと頼んだところ、掌返しでぜひ着てください。と言われる始末。
同職の山下さんが会えるだけで嬉しいと言うくらいなので、あらためて水面さんはすごい人なんだと再認識した。
「とんでもないです。
初めまして。水面探偵事務所所長の水面と申します。
お褒めに預かり光栄です。
本日はお忙しい中、調査にご協力下さりありがとうございます。
後ろに居ますのは、当探偵事務所の用心棒をしている三好くんです。
腰を掛けていませんが、そのままで大丈夫ですので、ご安心ください。
早速ですが、御校の3年2組で起きている”呪い”について詳しくお聞かせいただけますか?」
三好さんも座ればいいものを、俺をすぐに警護できる位置にいたいという要望があり、申し訳ないのだが、後ろに立ってもらうことにした。
学校だから大丈夫ですよ!とは言ったものの気を抜いた瞬間が習われやすいんです!の一点張りでなくなく折れてしまった。
「担任のワタシからお話させていただければと思います。
その前に。と言ってはなんですが、どこで”呪い”についてお聞きしたのでしょうか?
ニュース等でも流れてはいないと思うのですが。」
「そうですね。
こちらは御校のある生徒さんから呪いを解いてほしい。という依頼が事務所まで来まして、その時に初めて呪いについてお伺いしました。
本日お邪魔したのもその依頼のためです。
そして申し訳ないのですが、生徒さんのお名前までは個人情報の観点からお伝えすることは出来ません。
その点はご了承ください。」
「ウチの生徒が呪いを解いてほしいと依頼したんですね。
わかりました。ありがとうございます。
ではどこまでご存知かわかりませんが、認識に齟齬があるといけないので、ワタシから改めて呪いについてお話させていただきます。
始まりは一人の生徒がいじめにより亡くなったことから始まります。
生徒名を鹿山くんと言うのですが、その子は未保有者であることが原因でいじめにあい、その苦痛に耐えきれず自ら命を絶ちました。
いじめをしていたのは燃木くん。蝿野くん。蛇舌くんの3人と聞いております。
お恥ずかしい話、ワタシは当時担任であるにも関わらず鹿山くんが3人からいじめられていることに気が付きませんでした。
”聞いております”と言ったのは、現在入院している蛇舌くんから聞いた内容だからです。
鹿山くんが亡くなってから1ヶ月を過ぎたあたりでしょうか、その頃から燃木くんが登校しなくなったんです。元々素行の良い生徒ではなく、遅刻や欠席も多かったので特に気に留めていなかったのですが、燃木くんが登校しなくなったからか蝿野くんも蛇舌くんも登校しなくなりました。
そんなある日、警察から本校宛に連絡があり、燃木くんが遺体で発見されたと連絡がありました。死亡原因は飛び降りだそうです。
遺書等はなかったらしいのですが、鹿山くんを死に追いやったことに耐えられず自ら命を絶ったと警察の見解では自殺という扱いになりました。
蝿野くんも蛇舌くんもそれに耐えきれなかったんだと思います。蝿野くんは精神を病んでしまって引きこもり。蛇舌くんは自殺を図ったそうですが、未遂に終わりそのまま精神病院で入院しています。
その2日後くらいからでしょうか?クラスで徐々に異変が起き始めました。
クラスの学級委員長である桝田くんが左手首を骨折してきたんです。
それに続くように、一人暮らしをしている生徒がポルターガイストにあったとかで、家中がめちゃくちゃになったり、ある生徒は全身金縛りにあって起き上がれなかったりしたそうです。
他にも鹿山くんと燃木くんの机には花が添えられているんですけど、燃木くんのだけ授業中急に散り散りになったり、身に覚えのない怪我をする生徒が増えたりしていきました。
あまりにもおかしなことが続くもんだから、ある生徒がこれは鹿山くんは実は保有者で死ぬ間際に呪いをかけたんだといい始めたんです。
これがワタシたち教師陣が把握している”呪い”です。」
俺が桝田くんや佐伯さんと聞いた話と殆どわからないな。
でも何か引っかかる気がする。
「ありがとうございます。
僕の知っている内容とほぼ変わりありませんでした。
では次に、山下さん。鹿山さんのメリデメカルテを見せていただけますか?」
メリデメカルテとは、メリデメについて書かれているカルテのことで、それにはメリデメの詳細が書かれている。
発動条件はもちろん。いつ頃メリデメに目覚めたとか、今までメリットとコントロールするためにどのようなカリキュラムが組まれたかなど、保有者のメリデメに関する情報が事細かに書かれているものだ。
つまりメリデメカルテに何も書かれていなければそれは未保有者ということになる。
山下さんから手渡されたカルテを水面さんが俺にも見えるように傾けてくれた。
そこに書かれていたのは。
「表記が・・・ないですね。」
「うん、これはメリデメ保有者ではないってことだよ。
でもこれで一つは確定したね。
この連続した呪いとも取れる騒動は、鹿山さんのメリデメによるものではないよ。」
「どうしてですか?
俺みたいに、メリデメがカルテが取られた後に発現した可能性はないんですか?」
「まずカルテが取られた後にメリデメが発現した可能性は低いよ。
このカルテの日付はおよそ2か月前。鹿山さんが亡くなる前日か当日かだと思う。
もし発現したとしてもコントロールの仕方はわからないはずだし、こんなにも長期間発動しているとは考えられない。
そして鹿山さんの自殺の原因は”メリデメが発現しなかったから”だと思われる。
どうですか、山下さん。」
日付を見逃していた。カルテに日付が書いてあるのは当然だろ。
悔しい。
話を振られた山下さんはどこか嬉しそうで、悲しそうな表情を見せた。
嬉しいのは水面さんに話しかけられたから。
悲しそうなのは、自殺の原因があっているからではないか。
「はい、確かに鹿山さんが自殺をした当日メリデメの確認検査がありました。
メリデメ保有者であれば、義務教育時にカルテ記入は基本的には終わるのですが、未保有者の場合は2~3ヶ月単位で確認検査を行っております。
鹿山さんも検査の対象者だったので、検査を実施しました。
水面さんの言う通り、鹿山さんの自殺の理由は”メリデメが発現しなかった”からだと思います。
いじめの原因が未保有者だったことを考えると、発言しなかったということは、今まで通りいじめられると思ったのかもしれません。
本校には他にも未保有者はいるんですけど、特にいじめにあっているわけではないようです。」
「そう・・・なんですね。
ならいじめの原因は、未保有者だからってわけじゃないんじゃないですか?
俺は今年までは未保有者でしたが、特にいじめにあったことがあるわけでも、友達がいないわけでもありませんでしたよ。」
「ワタシからお答えします。
いじめられているのは、頭がいいから。出そうです。
入院している蛇舌くんから聞いた話ですが、未保有者でありながら成績上位なのが気に食わなかったそうです。
火野さんが今までこういったことに出会わなかったのは、そういった環境だった。としか言えません。
実際に山下からもあったように鹿山さん以外の未保有者の生徒はいじめにあっていないようです。」
成績が良かっただけで、いじめの対象になるのか。
そんな理由でいじめるのか。本当に理解できない。
話せないでいる俺を見てか、水面さんが話を続けた。
「鹿山さんがいじめを受け始めたのはいつからですか?
と、言うかいじめを受ける前は、他のクラスメイトとの仲はどうでしたか?
いや、クラスの生徒さんと直接お話することは出来ますか?
直接聞いたほうが良さそうです。」
「ワタシからは何とも言えないです。
いかがですか、校長。」
驚き。いや動揺か?加藤さんの目が泳いでいた気がする。
気のせいだろうか?でも日下部さんも話を振られて少し困惑しているようだ。
「そ、そうですね。
本日はすでに殆どの生徒が下校済みですし、生徒側も話したくないかもしれないので、明日以降で生徒にアンケートを取って、許可をもらえたらこちらからご連絡する。という流れでも良いでしょうか?」
「ええ、構いません。お手数おかけいたします。
本日はありがとうございました。あまり長居するのも良くないので、今日のところはこのへんで。
つばめくん、三好くん。帰ろうか。」
そういうとソファから立ち上がり、軽く会釈をして校長室から出ていった。
それを追いかけるように、俺と三好さんも失礼します。と軽く頭を下げ、水面さんを追いかけた。
いつもより少し水面さんが速歩きな気がする。
何か話の中で不快になるようなことがあったのだろうか。不機嫌な気がする。
今日は水面さんの好きなオムライスにしようかな。
俺は駆け足で水面さんに追いつき、言葉をかわす。
「スーパー寄って帰りましょ。
今日の夕飯はオムライスです!他に食べたいものありますか?」
その言葉にすこし機嫌が戻ったような気がする。
でもそれは何か感情を隠すような・・・。
「それは楽しみだ。
そうだ、疲れてるだろうけど、運転大丈夫?
僕が運転しようか?」
『なら私が運転しますよ。』
水面さんの言葉に、三好さんが反応する。
優しいな。ふたりとも。
「大丈夫ですよ。ありがとうございます。
俺、車酔いひどいんで自分で運転させてください。
三好さんもリクエストあったら言ってくださいね。」
その日の帰り、いつもは助手席の水面さんは後部座席に座った。
バックミラー越しにみる水面さんは、怒りと悲しみの表情だった。




