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残された者に祝福を  作者: 鳥居之イチ
第二章 それは自殺かそれとも他殺か

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015




【前書き】

開いてくださりありがとうございます。

そしていつも、リアクション・ブックマーク・コメントをいただきありがとうございます。

少しでもこの小説を楽しんでくださいませ。





 事務所の一室である俺の部屋で目が覚めて感じた感覚は、気だるさと虚無感だった。

 この事務所に住むようになって、朝がこんなにも憂鬱に感じたのは初めてだ。

 俺のために空けてくれたこの部屋は必要最低限のものしか無い殺風景な空間であり、余計に辛くなってくる。

 思い出の品や、ぬいぐるみとかあれば気を紛らわせることができたかもしれない。

 窓から差し込む陽の光が、寝ている俺の顔にかかり、無理矢理にでも起こさせようとしてくる。

 でも起きないわけにもいかない。俺はなんでもない。ただの監視対象なんだから。





 「おはよー、つばめくん。」




 扉を開けると、何食わぬ顔で水面さんが挨拶をしてくれた。

 昨日のことを忘れてる・・・わけじゃないよな。




 「お、おはようございます・・・。」


 「今日の朝ご飯はなんだい?もうお腹すいちゃって・・・」





 照れくさそうにお腹をさすりながらそういった。

 気まずいのは俺だけなのかもしれない。昨日の今日で明るくできない。

 いや、もしかしたら水面さんも気を使ってるのかもしれない。途端に申し訳なくなってきた。




 

 「きょ、今日はクリームパスタで使った卵と牛乳が残っていたので、昨日のうちにフレンチトーストを作っておきました。焼くだけなのであと15分くらい待っててもらえますか?」


 「すごい!すごいよ!余ったもので料理ができるのかい?やっぱりつばめくんは天才だね。」


 「いや、バニラエッセンスもなかったですし、砂糖も少なかったので雑なフレンチトーストですよ。もう少し時間かかってよければ、生クリーム泡立てて上に乗っけますけど、どうですか?」


 「なんだいその魅力的な提案は!もちろん待つよ!僕もなにか手伝おうか?」


 「大丈夫です。水面さんは座っててください。すぐできるんで。」





 なんか普通だ。

 俺が意識し過ぎなのだろうか。

 てゆうか、なんで水面さん俺の料理こんなに楽しみにしてるんだ?






 「あの、この時間ならもう宅配サービスやってると思うんで、フレンチトースト頼みましょうか?その方が早いかもしれないです。」


 「だったらいらない。」





 即答にも程があるだろ。





 「いや、バニラエッセンスも砂糖も無いんで、あんまり美味しくないかもですよ。生クリームに使える砂糖も少ないですし、せっかく食べるなら美味しいほうがいいじゃないですか?」


 「だったらつばめくんの作ったものの方が美味しいよ。」






 なんか意地の張り合いみたいになってきた。

 水面さんはあんまり自分のことを話さないから、手料理にどれだけの思い入れがあるのかが一切わからない。





 「つばめくんはそのまま作ってて。」


 「え?」


 「僕は今からスーパーでバニラエッセンスと砂糖買ってくるから。」





 そういうと水面さんは足早に出かけていった。

 そんなに手料理がいいのだろうか。

 すこし悪いことをした気がする。というかそもそも料理作るのも仕事扱いしてもらってた気がする。それなのに宅配サービスとか出前をちらつかせるのはサボりと同義だっただろうか・・・・。

 そう考えると、悪いことしてる気分になってきた。

 やっぱり今日は気分が乗らない。





 












 ん?

 俺、いま監視対象だよな?

 なんで水面さん、監視対象そっちのけでスーパーに買い出しに行ってるの?

 あれ?

 今思えば、この事務所に住むようになってから一人で外に出たことがない。

 結局大学にも行けてないし。なんだったら大学側から事情は聞いてますので大丈夫です。的な連絡きたし。

 ま、水面さんと一緒に大学に行ったときにでも水面さんが何かしたのだろう。

 あれだけすごい人だ。できないことがある方が驚きだ。






 そんなことを考えていると、事務所の扉が開いた。





 「ただいまー。間に合った?」


 「あ、はい、大丈夫です。」


 「じゃじゃーん、バニラエッセンスと砂糖の他に、はちみつとバニラアイス買ってきたよ!これフレンチトーストにかけると美味しいって店員さんが教えてくれた!」


 「・・・・・・。」


 「あれ?元気ない?」


 「俺、いま監視対象なんですよね?監視せずに、スーパーとか行ってて良かったんですか?」


 「あ、そんなことかい?」


 「逃げてたかもしれないでしょ。」


 「でもつばめくんは逃げてないじゃない。」


 「言葉遊びをしてるわけじゃないです。」


 「じゃあなに、一人で寂しかったの?」


 「そんなわけないじゃないですか。」





 柄にもなく、声を荒げてしまった。

 水面さんは何も悪くないのに・・・。





 「確かにつばめくんは現在監視対象だよ。」


 「なら!」


 「つばめくん。つばめくんはもうメリデメ未保有者は無いんだよ。」


 「水面さんが教えてくれたんじゃないですか。わかってますよ。」





 水面さんは優しく俺に声をかけてくれた。




 「言ったよね。つばめくんは、つばめくん自身にメリデメを発現させたって。それは今もだよ。」


 「え?」


 「感情の起伏が激しい。自分でも少しおかしいと感じることはあったんじゃないかい?」





 言われてみればそうだ。

 勝手に妄想して、勝手に落ち込んで。それをやめよう。直そうと思っていた。





 「つばめくんにはちゃんと伝えておくべきだったね。」


 「・・・・。」


 「つばめくんのメリデメは伝えたようにかなり危険だよ。メリデメの強制力がどの程度のものなのかまだ検証などができていない。でも僕は本当に国家転覆が簡単なくらい危険なメリデメだと思っているよ。」


 「国家機密って言ってましたよね。だからこその”監視対象”ですよね。」


 「そうじゃないんだ。」


 「え?」


 「確かに国家機密ではあるけど、危険なのはどんなメリデメでも同じだよ。移動系だって、能力強化系だって、操作系だって、精神干渉系だって、生成系だって、特異系だってどれも危険だよ。要は使い方次第。」


 「それはそうですけど・・・。」


 「つばめんくんを監視対象としたのは、つばめくん自身がメリデメの制御ができていないからだよ。」


 「制御・・・・ですか?」


 「そう、つばめくんは今メリデメを常時発動させてる状態なんだよ。しかもその発動対象がつばめくん自身なんだよ。」


 「それ、本当なんですか・・・・・。」


 「ま、この話を続ける前に・・・・フレンチトースト食べたいんだけど、焼いてくれるかな?」






【後書き】

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