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残された者に祝福を  作者: 鳥居之イチ
第二章 それは自殺かそれとも他殺か

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014




【前書き】

開いてくださりありがとうございます。

そしていつも、リアクション・ブックマーク・コメントをいただきありがとうございます。

少しでもこの小説を楽しんでくださいませ。





 夕食は宣言通りパスタになった。

 それも2種類。明太パスタとクリームパスタ。我ながらよくできていると思う。

 パスタなんて和えるだけなのだが、それでも食事を共にするこの男は満面の笑みで、とても美味しそうに2種類のパスタを頬張っている。

 一緒に食べて味が混ざらないのか?というかそんなに美味しいか?

 よくできているとは思うが、それでも茹でて混ぜて終わり。

 最初は食べるのが好きなんだと思っていたが、よく考えてみれば出会ったとき、ファミレスでは飲み物しか頼んでいなかった。あのときは空腹ではなかったのだろうか。





 「そんなに美味しいですか?」


 「美味しいよ。ほんとに美味しい。お店出したほうがいいよ。僕毎日通うよ。」





 たぶん冗談で言ってない。本心で言ってる。

 食べ終わると、水面さんは満足した表情で両手を合わせてごちそうさまの挨拶をする。それを見計らって俺はパスタの食器を下げると同時に、食後のデザートとして、プリンを出す。




 「えぇ!!プリンもあるのかい?これも手作りかい?」


 「手作りですよ。水面さん俺の手作り以外食べないじゃないですか。」


 「すごい!つばめくんはデザートも作れるんだね!天才だ!」


 「はいはい。ありがとうございます。食べながらでいいんで、今日の事件の事で俺の質問聞いてもらっていいですか。」


 「うん、いいよ。」




 満面の笑みでプリンを頬張りながら答えてくれた。

 甘いものも好きなんだろうか。材料が余ったら、またなにか作ってあげよう。

 そんな事を考えながらも、俺は頭の中で整理していた質問を水面さんに投げる。




 「まず1つ目です。溺死させたモノ。現場では液状のモノと表現されてました。つまり水ではないということですよね。液状のものとはなんなのでしょうか?」


 「鋭いね。今、現段階で僕から言えることは”僕にもわからない”だよ。もしわかったらすぐに犯人がわかるだろうね。液状のモノと表現したのは警察側にも”ナニか”がわかっていないんだろうね。」





 それもそうだ。

 警察が液状のモノとしか言わなかったんだ。水面さんにもわかるはずがない。

 俺は少し残念な気持ちになった。

 勝手に水面さんは何でも知ってると思い込んでしまっていたからだ。

 俺はやっぱり妄想癖があるのだろうか?勝手に思い込んで、勝手に落ち込むなんて失礼な話だ。

 はやめにやめないといけないな。





 「そうですよね。わかりました。2つ目の質問です。犯人は操作系の可能性が高いって話でしたよね。犯人が仮に水を操作できるとして、一度に操作できる限界量はどの程度なんですか?」


 「保有者の力量による。としか言えないね。僕の知っている範囲では、少なくて200ml。多くて数十トンっていったところだろうか?」


 「数十トン?かなり差があるようですが。」


 「まぁね。こればっかりはメリデメをどれだけ使ってきたか。どれだけ成長できたか。によるからね。言ってしまえば努力の問題だね。どうして操作の限界値が知りたいんだい?」


 「操作する量で殺し方が変わると思ったからです。水面さんが言ったように、溺死させるだけなら顔を覆う量の水を操作すればいいと思いました。でもそうはせずに肺に送り込んだ。勝手なイメージですが、わざわざ肺に送り込んだということは、操作できる量などに自信があったのではないかと思ったんです。」


 「おおおお。推理力が探偵じみてるね!すごい!さすがはつばめくんだよ。そうだね。僕も同意見だよ。犯人はおそらく自分のメリデメに自信があったと思うよ。でもつばめくん。それ以上の推理は良くないね。」


 「え?」


 「今つばめくんが質問していることは警察の仕事だよ。言っただろ。僕らはあくまで探偵であって、警察じゃない。犯人を特定しようとする行為はあまり良いとは言えないね。」





 正直舞い上がっていた。

 初めての現場。探偵として助手ではあるが、警察と協力関係。

 自分が実はすごい人だと思い込んでしまっていたのかもしれない。

 水面さんの言っていることは正しい。俺はただ監視対象として雇われているに過ぎないアルバイト大学生。

 容疑者を、犯人を絞り込んでほしいなんて一言も言われていない。

 はあ、なんて愚かで恥ずかしい。




 「ご、ごめんなさい。」


 「いやいや、僕こそごめんね。初めての現場で、気が動転してもおかしくないのに、つばめくんのメンタルケアができていなかった。僕の不徳の致すところだよ。今日はここまでって言いたいけど、今日は許そうかな。質問を続けていいよ。でも犯人を特定しようとするのはダメね。」


 「ありがとうございます。これで最後の質問です。これは犯人の特定とかではなく、今後の知識として知りたいことです。・・・”聖女の殺人事件”の犯人は、本当は誰なんですか?」


 「・・・・驚いた。まさかその質問が来るとは思っていなかったよ。」





 水面さんが一瞬目を見開いた。

 驚きと言うのは本当なのだろう。意外にも表情がコロコロ変わる。





 「話を聞いてからずっとおかしいと感じていました。怪我を自身に移動させてたんですよね。それであれば父親に移動させる前に聖女自身が死んでいてもおかしくないのではないかと考えました。そして遺体を移動させて遺棄したと言っていましたよね。怪我や傷をそれだけ正確に移動できるのであれば、人に見つけられない場所に移動すれば良かったはずです。でも遺体が見つかっているような話し方でした。宇田津さんは”なにか”を隠しているようにも思えます。」


 「なるほどねぇ〜。さすが僕の助手だね。」


 「あ!!その助手って言うもの最初っから言っててくださいよ。まぁ嬉しかったからいいですけど。」


 「あははっ、ごめんごめん。助手として迎え入れたいな〜とはずっと前から思っていたんだけど、なかなかいうタイミングがなくてね。今日のあれで”いまだ!!”ってピンときてね。思わず言っちゃったよね。」


 「う、嬉しいです。ありがとうございます。」


 「あははっ。どういたしまして。では質問に答えようか。その前にニュースで聖女がその後どうなったか言っているのを覚えているかい?」


 「聖女のその後ですか・・・ニュースでは捕まった。としか言っていなかったと思います。その後は報道がなかったので何も。」


 「ま、そうだよね。それであってるよ。ニュースはね。」


 「ど、どういうことですか?」


 「遺体で発見されたのは、何も聖女の父親だけじゃないんだよ。それは聖女自身も例外ではなかったのさ。」


 「は?まじでどういうことですか?」


 「まずこの聖女の殺人事件は報道規制が引かれた事件で、ニュースを含むすべてのメディアで正しい報道がされることはなかったんだよ。異例も異例だったからね。この事件の真実を伝える前に、つばめくんに聞かないといけないことがある。」


 「なんですか、改まって・・・」





 プリンを食べ終え、スプーンをゆっくりおいて、水面さんは言った。





 「火野燕。僕の助手になると言う事は今後命の危険が伴うってことだ。この事件の真実を知れば君はもう普通の生活を送れなくなるかもしれない。君の母親が行かせてくれた大学に行けなくなるかもしれない。もう友達と会えなくなるかもしれない。その覚悟が今の君にあるかい?」




 初めてフルネームで呼ばれた。

 いつも笑っている水面さんが今は無表情だ。いや怒っているのかもしれない。

 正直怖い。

 いつも掴めない水面さんが、さらに掴めない。

 助手になると言うことは命の危険が伴う?

 警察に助手だと紹介しておいて、今更そんなこと言うのか?

 普通の生活って何だ。

 大学に行けないって何だ。

 友達に会えないって何だ。

 圧を感じる。






 「・・・それ、どういう意味ですか。」


 「人間、知らないほうがいいことのほうが多いってことだよ。」


 「・・・・・。」


 「うん、今日はこの辺にしよう。この質問の答えはつばめくんの決意が固まったら、その時に聞くとしよう。今日はもう休んでいいよ。初めての現場で疲れたでしょ。食器は僕が洗っておくから安心して。」


 「・・・・・はい、すみません。お疲れ様でした。」


 「うん、おやすみ。ゆっくり休んでね。」







 俺はただの人間。ただの一般人。ただの監視対象。

 それを再認識させられた。





【後書き】

・・・・・。

覚悟とはなんでしょうか。

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