009
【前書き】
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あれから2日が経った。ずっと事務所にいて迷惑じゃないんだろうか。あと準備ってそんなに時間がかかるものなんだろうか。てか毎日出前を頼んでくれるけど、この人自炊しないのか?
「あ、あの、」
「今日食べたいの決まった?何食べたい?」
「そうじゃなくて。俺、迷惑じゃないですか?」
「迷惑?どうしてだい?」
「ここ2日も事務所に泊めてもらって、ご飯までいただいちゃって、迷惑じゃないですか?」
「全くそんなことないけど?」
「なら、せめてなにかお手伝いさせてください。」
「掃除とかやってくれてるじゃないか?十分だと思うけど。」
「いや、足りなくないですか?もっとなにか。あ、準備!準備のお手伝いさせてください!」
「準備かぁ〜。う〜ん。準備に時間がかかるって言ったのは、配達に!なんだよね。だから待ってるだけなんだ。そうだ、ご飯作れる?」
「やっぱり毎日出前でお金がないんじゃ・・・」
「違う違う違う違う。言ったでしょ。お金は意外にも持ってるんだよ。本当に安心してほしい。ご飯作って欲しいのは、たまには手料理食べたいなって思ってだけ。」
何いってんのこの人。手料理って出前も手料理じゃないの?
「あの、出前も手料理じゃないですか?結局は人が作ってますし。」
「えぇ〜、そういうこと言っちゃうの。気持ちの問題だよ、”気持ち”」
「そういうものですか?ま、いいですけど、何食べたいんですか?」
「え?よく作るの?」
「水面さんが作れって言ったんじゃないですか。」
「そうじゃなくてね。普段自炊しない人は「〇〇しか作れないですけど」とか言うんだけど、君は「何食べたいですか?」だったでしょ。これはある程度作れる人とか、自炊する人が言うんだよね。」
「はあー。前々から思ってましたけどよく観察してますよね。俺の行動とか言動とか、よくツッコミいれてくるなって思ってました。」
「あはは。職業病かな。この職業を続けているとね、観察することでわかることもあるからね。不快に感じていたのなら謝るよ。」
「謝らないでください。不快になって思ってません。で、何食べたいんですか?」
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「すごい!美味しい!すごい!美味しい!」
水面さん、オムライス好きだったんだ。そしてさっきまでめちゃくちゃ頭良さそうなこと言ってたのに急に語彙力下がってる。本当に掴めない人だな。ていうか、この人がなにか食べてるの初めてみたな。最初のファミレスはコーヒーは飲んでいたけど、食事はしてなかった。出前を俺の分だけ頼んで自分のは頼んでいないのか、食べていない気がする。やっぱりお金ないんじゃないの。それか水面さんのデメリットに関係するのか・・・。いや、詮索はやめよう。俺はこれまで良くしてもらってるんだ。
「お口にあってよかったです。」
「本当に美味しい。気が向いたらでいいから、また作ってほしい。」
この人はたまに砕けた話し方をする。それなりに気を許してくれてるんだろうか。良い気分だ。
--ピンポーン--
インターホンが鳴った。実は出前頼んでいたのか?
「僕が出るよ。」
「あ、はい。」
出前だったらいつも俺が出ているから、今日は違うのか。
「届いたよ。君の実験に使うものだ。」
「あ、準備って言ってたものですか?」
「そう。僕の見立てが正しければ、今日中には君のメリデメが判るよ。」
「ッツ・・・」
とうとう、俺のメリデメが判明する。この19年間ずっと発現していなかったメリデメ。そのせいで両親は離婚して、母親にはとてつもない迷惑をかけた。そして母の葬儀で発動したメリデメは母だけではなく、俺自身をも苦しめた。それも終わり。今日決着が付く。
また事務所の奥の小部屋に案内された。実験室だ。出入り口は一箇所。窓もないこの部屋。
「心優しい君は少し酷な実験になるかもしれない。事前に謝っておくよ。」
「大丈夫です。よろしくお願いいたします。」
「実験にはこれを使う。」
そう水面はいうと、先ほど届いたであろう4つのゲージを見せてくれた。
「これはネズミ・・・ですか?」
「ま、モルモットだね。」
「モルモット・・・。これが・・・。え、生物実験ですか?」
「そう、申し訳ないがそうだね。生物実験の分類になるかもしれない。大丈夫かい?」
「あの、すでに2匹動いていないんですが、これは寝てるんですか?」
「その2匹はすでに死んでいるよ。」
「マジですか。」
「マジだよ。ごめんね。実験のためなんだ。嫌だろうけど頑張ってほしい。」
「いえ、だ、大丈夫です。続けてください。」
少し声と手が震えてる気がする。いくらモルモットといえどすでに死んでる動物を目の前にすると気分が滅入る。今日は気分の浮き沈みが激しくてすでに疲れてきた。でも水面さんが俺のために力を尽くしてくれている。俺も頑張らないと。
「実験する前に、最終確認ね。君の母親が式場で動いたときの状況をもう一度詳しく聞かせてくれるかな。」
「あのとき、母がなくなったことを実感して泣いてました。あとは母に買ってはいたけど渡せなかったネックレスを棺の中に入れました。その直後くらいに母が動いた気がします。」
「なるほど、ネックレスを入れた時に母親には触れたかい?」
「触れました。」
「ありがと。じゃあ君のメリデメの発動条件は対象に触れることで間違いないね。」
「発動条件ですか?」
「そう、これは操作系の保有者のほとんどの該当する発動条件だよ。メリットには基本的には発動条件があるんだ。移動系や操作系は対象となるものに触れておく必要があるケースがほとんどだね。そうじゃない場合もあるけど、基本的にはそんな感じ。」
「なるほど。でも俺、精神干渉系なんじゃないんですか?」
「そうだよ。ま、詳細は確定したら教えるからね。そしたら次。触れたときどんなこと想ってた?」
「そうですね・・・。もう一度話したい。だった気がします。すみません曖昧で」
「いや、大丈夫だよ。ありがとう。そしたら実験を始めようか。まずは生きてる赤い色のゲージのモルモットに触ってもらえるかな。」
「はい。」
言われたとおりにする。モルモット初めて触ったけど意外とずっしりしてるんだな。
「なにか感じることはあるかい?」
「いえ、特にはなにも。」
「じゃあ次。その子はゲージに戻してね。次は青の生きてるモルモットに触ってもらえる?」
ゲージから出して、そっと抱えるように持つ。
「あ、」
「なにか感じるかい?」
「強いて言えば、お腹すいた。とかですかね。」
俺がそういうと、抱えていたモルモットが暴れ始めた。
「え、ちょ、なに。」
「ゲージに戻してあげて。」
「あ、はい。」
「これをあげていいよ。」
「これ、なんですか。」
「モルモットの餌だよ。大丈夫。その子はお腹が空いているだけだよ。」
水面さんはキャベツの葉を渡してくれた。ただお腹が空いているだけと入っていたが、急に暴れ始めるようなものなのだろうか。なにはともあれモルモットに餌を与える。
「よく食べますね。」
「よほどお腹が空いていたんだね。じゃ次だよ。ここからはゲージの隙間から触ってくれるだけで大丈夫だよ。赤の死んでるモルモットに触ってくれるかな。」
「は、はい。」
抵抗がないわけじゃない。でもこれは実験。やるしかない。
「な、何も感じません。」
「うん。じゃあ最後だね。青の子を触ってくれるかな。」
ゆっくり指先でそっと触れるように、撫でるように触った。
「何を感じる?」
「き、気分が落ち込むような。泣きたくなるような感覚でしょうか。」
その時、死んだはずのモルモットから流れるはずのない涙が流れた。
「え、ど、どういうことですか。この子は死んでるんですよね。」
「そうだよ。これですべて解決した。もう一度言っておこう。やはり君は母親を生き返らせてはいないし、殺してもいない。君のメリットは少し複雑な発動条件だが、人々に希望を与えるかもしれない素晴らしい能力だよ」
【後書き】
次回が第一章のラストの予定です。
さて、彼のメリデメがなにか、もうわかりましたか?




