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STEP2 ご飯を食べよう

ルークが自身の所属する白狼の牙に誘ったのには大きく三つの理由があった。


1つ目はルナが食事をとる習慣をみにつけるため。

パーティの中でも大食らいのグランを見るもよし、同じ女性であるシフォンやユリナと比較させるもよし。世話焼きなグランに世話を焼かせて食べる習慣をつけるのもよし。

ルナにはひとまずA級冒険者の食事量…もとい普通の食事と自分がどのくらいかけはなれているか直接見て確かめさせたかった。


2つ目に約束の2週間だけでは足りないと判断したため。

弓の技術だけなら申し分ないが如何せんルナには筋力が足りない。下手に放置して間違った鍛え方をして体を痛めても困るし、何よりルーク自身がルナを放っておけないくらいには気にかけてしまっている。ルナが健全に成長するためには時間が必要だがそこまで長くパーティを離れられない。ならばルナを連れてきた方が早いと判断した。


3つ目にるなの金銭面の負担を減らすため。

生真面目なルナは指南代を払おうとするが、A級冒険者はS級冒険者に劣るものの金に困るような生活はしない。ルークとしては弓が広まるだけでも十分なメリットであるし、そんな金があるならば自分に使えと言いたい位だった。

しかしそれを伝えてもルナは首を縦に振らないのはわかっていたので、『ルークがルナに教える代わりにシフォンに魔法を教える』という形で負担を減らそうとした。

シフォンが魔法で伸び悩んでいたのもあり、教えて貰えるのはチームとしても非常にありがたく、それこそルークに払う指南代以上の価値があるのも事実である。


以上の理由を説明し、ルナにパーティの元へ着いてきて欲しいと言うと、ルナは二つ返事で頷いた。


誘っておいてなんだが警戒はしろよとルークがツッコミを入れてしまうくらいにまっすぐに信じたルナは良かったと言って笑った。


「戦力としてなら、私も役に立てるから嬉しい」

頓珍漢な、今それを言うかと思ってしまう発言にルークが頭を抱えている隣でルナは何を教えようかと真剣に考え込み始めた。


「おー、頼りにしてるぜ」


これ以上言っても野暮だと判断したルークが言いかけた言葉を飲み込んでそう言うと、任せて、とルナはとびっきりの笑顔を見せた。



(今まで独りで戦ってきたから、パーティに憧れはあったけどこんな形で叶うなんて!)


ドキドキと胸を高鳴らせながらルークたちの拠点である白狼の牙が借りている一軒家にルナは足を踏み入れた。


人と接する機会がもとより少なく、冒険者になってからも、S級冒険者に話しかける人間も少ないせいで話す相手も限られたルナにとって仲の良いパーティには憧れを抱いていた。そしてS級冒険者であるルナに偏見なく接してくれる数少ない冒険者がルークやグランたちだったため、ルナは条件付きとはいえ仲間になれるかもしれないことに浮き足立っていた。


グランからはよくバトルを挑まれるし、シフォンからは過剰なほどの尊敬の眼差しを向けられてもどかしいけれども。それでも良い人だと思うくらいにルナの中で白狼の牙への好感度は高かった。


(でも、指南できるかなぁ)


以前に臨時でパーティを組んだ魔法使いからはもう一緒に戦いたくないと泣かれてしまうくらい魔力差があった。初級魔法であるファイアーボールでさえ威力差がありすぎると泣かれていたのだ。

新しい魔法を教えることは出来るが、心を折ってしまわないかと心配していた。


ぎゅっと拳を握りしめるルナを見てルークは励ますように笑う。


「大丈夫だ、取って食ったりしねぇから」


ルークのその言葉に無言で頷いたルナは玄関の扉を開けた。

ルークを出迎えに来たであろうゲイルとパチリと目が合うと、ゲイルは目を丸くして固まった。


「る、ルナさん?!?おい、みんな一大事だ!!ルークがルナさんを連れ込んだ!!」


ゲイルはそう叫ぶと、ルナの肩を掴み、どんなことをそそのかされたんですかと真剣な眼差しで問いかけた。唐突な質問に困惑して固まるルナの様子を肯定と捉えたゲイルが再度メンバーを集めようとした時、べしりとルークがその頭を叩く。


「言いがかりつけんなバカ」


そう言って制止した時には、時すでに遅し。メンバー達はルナを見ようと玄関まで集まっていた。


「えと、ルークに弓を教えて貰ってて、…時間が足りないから白狼の牙に臨時で入って、シフォンさんに指導する代わりに弓の指南してもらうことになって…」


どんどんと声が小さくなり、自信の無い様子のルナの代わりにルークが事の経緯を説明すると、シフォンがぱっと目を輝かせた。


「魔法使いの中で唯一のS級冒険者のルナさんに指導してもらえるなんて…いくら積んでも足りないレベルなのに!弓の指南の代わりって、そんなのいいの?」


そんなことを言いつつもキラキラとした目でルナを見つめるシフォンに、ルナはたじたじとしてしまう。ここまで受け入れて貰えると思っていなかったルナにとっては手を握ってくるシフォンにどう接したらいいか分からなかった。


「ずりぃぞ!俺もルナと戦いてぇ!」


「グラン落ち着け、街中で戦ったら街が壊れるだろうが」


グランが手を挙げて発言したのに対してゲイルが呆れてツッコミを入れる。その騒がしさにルナが戸惑っているのを見てユリナが大丈夫よというように笑いかけた。


「騒がしくてごめんなさいね、ルナ。ご飯の時間だけど何か食べたいものはある?」


「えと、…なんでも。筋肉つけられるものなら」


「メシ!!そうだ!ゲイル、今日の飯はなんだ?」


「ルナさんが来るならもっと豪華にしたかったが、今日は焼きたてのパンを買ってきているんだ。焼きたてふわふわのパンのサンドイッチ…ではダメだろうか」


ゲイルの案を聞いたグランたちがルナの答えを求めてルナを見る。けれどもルナはそれに答えることが出来なかった。


「…えと、サンドイッチって何?」


その一言に、ルナを除く人間が固まった。

信じられないというように見られたルナは何がおかしいのか分からずにしどろもどろと狼狽えているとユリナがため息を吐いてルークを見た。


「…ルークがわざわざ連れてきた理由わかった気がするわ。シフォンの件だけじゃないのね。…ねぇルナ、いつも食べてるものは何?好きなご飯は?」


ユリナの質問に、いつもの食事は乾燥パンだと告げた。その言葉にまた周囲は凍りつく。


乾燥パンは、旅の非常食として用いられるもので普段の食事用では無い。普段から食べるものでは無いし、ユリナたちは食べないで済むなら食べたくない、と思うくらいには味がない。

それをいつもの食事にしているのは浮浪者くらいで孤児院の子供たちだってもう少しまともな食事をしているのを知っていたからこそ、ルナの言葉が信じられなかった。


「…好きなご飯は?」


ユリナの質問にルナは恥ずかしそうに、助けた街で子供たちにお礼として貰った串肉とか、果物とか。と伝えるとゲイルがガタッと席を立った。


「腕によりをかけてくるから少し待っててくれ」

そう言って厨房に消えたゲイルの行動にルナは頭に疑問符を浮かべていた。そんな様子を見たシフォンはルナに質問をぶつけた。


「孤児だった私よりも酷い環境…あんなに活躍してて、S級って私たちより稼いでるんじゃないんですか?どうして?」


両親への仕送りや持病持ちの妹の治療代として、素材の収入を金貨1枚生活費に残す分以外全て送ること、街を守る時の依頼では復旧のために素材をくださったと宣言されて素材の回収ができないこと、時々街の復旧のために払えないと未払いにされてしまうこと。

そしてオークションにかける素材の時価を下げたくないからと売る量を制限されてしまっていること、そして緊急の依頼のための交通費が高いことなど、不運の重なりであるとルナが訴えるも事情を知っているルーク以外のメンバーは黙り込む。


無言が続く居心地の悪さに、帰りたいと思っているルナに、厨房からゲイルが声をかけた。


メシできたけど食えるか?と。


「そ、そうね。ルナさん、まずご飯食べましょう」


シフォンに背中を押されて椅子に座ると目の前に色とりどりの具が挟まったサンドイッチが並べられた。


カツサンドにハムサンド、たまごサンドにフルーツサンド、ツナサンドにトマトサンド。初めての色とりどりのパンにルナはキラキラと目を輝かせた。


特にルナが見とれていたのはフルーツサンド。まるで芸術のように断面が美しく、色とりどりのフルーツで彩られているフルーツサンドに見とれていると、ゲイルが食べてみな、と笑う。


「こんな綺麗なの、食べちゃっていいの?」


ルークに確認を取り、それでも恐れ多いと言わんばかりに触れるのを躊躇った。


「ルナ、食べてもまたゲイルが作るから食っちまえよ。お前が食わねぇと俺が食えねぇんだよー!シフォンたちが許してくれねぇんだ!」


早く!とグランが催促したのと、ルークが大丈夫だと頷いたのを確認したルナは、強ばる手でフルーツサンドをもち、ぱくりと1口頬張った。


まず感じたのは柔らかさ。いつも食べている乾燥パンとは違いふわりと一口で噛み切れるパンにルナが驚く暇もなく口の中に濃厚な生クリームと爽やかなフルーツの甘味が広がった。


「んんっ!!」


森で採取して食べる野いちごとは違う甘さのいちごの味、ほんのりと甘いけれどもくどさは感じない生クリームとの調和、そしていつもと違うパンの食感に感動のあまり言葉が出なかった。


「…どう、だ?」


心配そうに反応を見るゲイルたちを前にルナは何も言えないまま固まっている。


「ルナ、おーい、大丈夫か?もしかして苦手だったか?」


「…ううん。ちがうの。ふわふわなの」


「ふわふわ?」


幼い頃に食べたきり、食べることのなかった果物以外の柔らかい食べ物。贅沢品だからと嫌煙していた甘味は、涙がこぼれそうになるほどに優しい味だった。ルナはこれをどう表していいかわからなくて、唯一表せたのがふわふわという単語だった。


「美味いってことでいいのか?」


その言葉にこくりと頷いたルナを見てユリナやシフォンもほっとしたように笑う。


それからひと口ひとくち味わうように食べたルナのペースを待ちきれずにグランがハムサンドに手を伸ばし、なし崩しにみんなの食事がスタートした。


ルナはフルーツサンドとツナサンドで食事が終わってしまったが、ふにゃりと笑顔でおいしい、と頬張っているのをルークたちは微笑ましく見守った。


「なぁ、みんな。改めてルナをパーティに仮加入させたいんだがどうだ?」


「いいに決まってるでしょ。ルナさん、もっと一緒にご飯食べましょう」


ルークの言葉に真っ先に頷いたシフォンに続き、ゲイルはこんな美味しそうに食べてくれるならば手によりをかけて作りたいと笑う。ユリナはもうルナを保護する前提で妹のように頭を撫でているし、グランは何時でもバトルできるってことだろうと笑う。


「ってことで総意で仮加入歓迎だ、ルナ。トレーニングも継続するしシフォンに魔法を教えることになるから忙しくなるが、改めて大丈夫か?」


「っ!うん!!」


頑張るね、と笑うルナに、ルークは安堵したように笑い返した。

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