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14/15 グライヒ、相求む



「報告します。今回のサクランビル爆破事件ですが、爆弾はビル内にあったものらしく、不正な輸入などの可能性があります。これに関しては順次追及していくつもりです」


「そうか。ビルの状況は?」


「はい。サクランビルは二十階から四十階は半壊。うち上五階はその損傷が著しく、全壊に近い状態です」


「怪我人の方は?」


「はい。ビル外においてですが、ガラスの飛散などで怪我をした者はゼロ名です」


「ビル内は?」


「はい。軽傷者八名。負傷者十一名。重傷者三名。死亡者・・・」


「・・・・・・」


「ゼロ、です」



*** *** ***



(どこだ、ここは・・・?)


 目をゆっくり開く。視界に入るのは真っ白な天井と、分散したライトの彩り。あまりの眩しさのために、目を完全に開くことができない。


(俺は・・・生きてる、のか・・・?)


 右を向く。花瓶の向きからして、自分が横になっているだろうことに気づいた。

 体を動かそうとすると、まず足に痛みがくる。額に包帯を巻かれ、頬のガーゼを貼り付けているセロテープが少しうっとおしい。


「やっと起きたか」


「この声は・・・アンザイ・・・?」


「ここは、病院だ。ったく、何時間寝れば気が済むんだ。もう夜中の二時だぞ。土曜の」


 一瞬天国かと思ってしまっていた。しかし、ユウキが辺りを一様に見回すと確かにここは病院らしく、他の患者のベッドがないため、個室のようだ。

 アンザイが、ユウキのすぐ右横で本らしきものを片手に、パイプ椅子に座っている。アンザイの後ろには窓があり、幾千もの星が夜空を彩っていた。


「・・・・・・」


「どうした?」


「なんで・・・だ・・・?」


「・・・なんで生きているのか」


 ユウキはまだ半覚醒らしく、ぼんやりとしか世界を眺めていない。しかし、次のアンザイの言葉で、ユウキの目は完全に醒めるのだった。


「憑依術を使っていたのに、か?」


「っ!! アンザイ、なんで・・・それを・・・!?」


 アンザイは本を置き、ゆっくりとサングラスに手をかけた。そして、そのサングラスを、はずした。


「憑依能力者が、お前だけだと思うなよ」


「う、嘘だろ・・・?」


 アンザイの瞳は真紅で、太陽の紋章があった。梅野ばいの一族とは違う形。けれどもそれは確かに憑依能力者を示す紋章だ。

 ユウキはあまりの驚きに、痛みを忘れて上半身を勢いよく起こした。

 今までまったく気づかなかった。ただでさえ真っ白な頭に、さらに白の絵の具を塗りたぐったような気がする。


「なん、で、お前がそれを・・・」


「俺は特異体質でな、遺伝的なものじゃないが」


 アンザイは最初から知ってた。ユウキが憑依能力者だということを。


「うめのと書いて、ばいのと読む。そうそういる姓名じゃないからな。梅野一族は憑依術じゃ有名どこだ」


「そう、だったのか・・・」


「お前、ツバメに憑依してあいつだけを逃がしただろ」


「・・・仕方なかったんだよ。ってか、なんでそんなことまで知ってんだ?」


「お前、走り終わったらすぐ腹に手を置く癖あるだろ? ツバメがビルから出てきた時に同じことをしていたからな。というよりそもそもツバメは走り終わったらいつも脇腹を押さえるし、息遣いも歩き方もユウキぽかったからな」


 ユウキは流石、陸上部顧問だと思った。自分でもあまり自覚のないところまで見ている。部員が少ないからそこまで目が行き届くという解釈もあるが。

 とりあえずユウキの頭は驚愕の事実と今の現状を整理し続けた。そして、最も大事なことに気づく。


「じゃあ俺は、どうして助かったんだ・・・?」


「簡単なことだ。俺がお前に憑依してたんだよ」


 それを聞くと、なぜか当たり前のように感じた。しかし、それではところどころに矛盾が生じる。


「遠隔憑依と分身憑依の併用だ」


 遠隔憑依は直接触れなくても憑依できる術。

 分身憑依は意識を等分するため、意識の一部を術者に残したまま対象に憑依できる術。


「で、でも! 憑依したところで、俺の足じゃ、歩くことすら・・・!!」


「忘れたのか?」


 アンザイは立ち上がり、窓を開けて満天の星空を見上げた。そして、すぐに振り向いてユウキを見下ろしてニヤけながら言った。


「俺は日本一の手すりスベラーだぞ」


「・・・は?」


 ユウキは妙な説得力と視線に圧されてしまった。今までアンザイの瞳を見たことがなかったからかもしれない。


「カナさんの握手会だ。事前に下調べはしている。だから知ってたんだよ。外についてる非常階段のこともな」


「約二十階分を、足をつかずに手すり滑りしたって、こと・・・か?」


「・・・さぁな」


 何とも微妙な空気が辺りを包む。アンザイが本当に全部手すり滑りしたのか、途中でエレベーターを使ったのかも分からない上、アンザイがそれをはぐらかした理由も今一知れない。

 しかしユウキは、今はそんなことはどうでもよいと思えた。

 きっとアンザイも辛かったはずだ。足の痛みに耐え、自分の代わりに死の恐怖に立ち向かった。


「非常階段にたどり着くまで匍匐ほふく前進だったからな。お前の体を少なからず傷つけてしまった。そのことはすまない」


 アンザイは頭は下げずに謝った。謝りたいのはユウキの方なのにも関わらず、普段のアンザイとは思えないほど謙虚であった。


「んなことはどうでもいいよ。それより・・・ありがとな。アンザイ。ほんとに」


「ふん。礼ならいらない。というか、いつも気になっていたが、教師を呼び捨てってどうなんだ」


 アンザイはサングラスをかけ直し、再び椅子に腰掛けた。そして足を組んだ。


「あとついでに言っておくが、クロカワも憑依能力者の可能性がある」


「えっ!?」


「あいつ、ヘリコプターが初め来た時、一瞬立ち眩みを起こしただろ? あれ、俺がクロカワに憑依しようと術を掛け続けていたからなんだが、どうも上手くいかなくてな。クロカワ自身、術こそは使えないものの、憑依術の精神訓練は積んでいたからだろう」


「そう、だったのか・・・」


(目に見えないとこで、そんなことが・・・)


 今回の一件でユウキはアンザイを見直した。というよりも百八十度、別の人間に見えた。


「ところでアンザイ、なんでサングラスなんだ? 紋章隠すためならカラコンとかでもいいんじゃないか?」


「紋章は光るだろう? カラコンではその光を防ぎきれない」


「なるほど」


「・・・それと、この話は、当然秘密だ。分かってるな」


 ユウキは、はいよ、と二つ返事で返した。

 その時、ノックの音がユウキの部屋に転がりこむ。そして、扉が開いた。


「アンザイ、ユウキ起きたァ? ってユウキィ!! 目ェ覚めたのかァ!?」


「レンジ、痛ぇ」


「うわあァァッ!! ユウキィッ!! 生きてて良かッたァッ!!」


「レンジ、痛いって」


 レンジはせっかくの美貌を、醜い泣き顔にして走り、ユウキに飛んで抱きついた。

 見ると、その後ろにはツバメとキリヤの姿。

 ユウキはツバメと目が合った瞬間、頬を赤らめて目を逸らしてしまった。しかしそれはツバメも同じのようで、ユウキは少し安心した。

 ツバメのことを考え、レンジを振りほどこうとしていると、キリヤがユウキの目の前に立った。


「本当にすまない。ユウキ君」


「あ、いえ」


(確か、キリヤだっけ)


 キリヤは深々と頭を下げた。その体は震えている。

 キリヤも、ひどい怪我をしているにも関わらず、松葉杖で自分を上手に支えながら顔を下に向けている。


「謝ったくらいで許されるわけないことは分かっている。医療費だって勿論出すつもりだ」


 キリヤが辛そうな顔で謝罪していると、レンジがユウキの耳元で、キリヤに聞こえないように囁いた。


「ユウキ、キリヤさんな。ああやッて、ビルにいた人全員に謝ッてんの」


「・・・そう、なのか」


 ユウキはレンジの言葉を聞き、キリヤさんは本当に良い人なんだ、と思った。


「キリヤさんは、この後どうするんですか?」


「事情聴取のときに、全部話したよ。俺のされたことも、してきたことも。全部。だから、俺はこの後牢屋行きさ」


 事情聴取を受けていないのは残りユウキだけだった。

 キリヤは一頭最初にされ、包み隠さず全て話したそうだ。勿論そこでキリヤは逮捕されるはず、だった。


「だけどどうしても、皆さんに謝りたくて、少しの時間をもらったんだ」


 そう簡単に犯罪者が野放しにされるわけはない。

 キリヤがこうして時間をもらえたのは、ビルにいたオタク達や関係者がキリヤの逮捕を強く反対したからだった。


「さて、と、ユウキも起きたことだし。俺はちょっと出るかな」


「あッ、俺も! ほらァ、キリヤさんも行こうぜ」


「え? あ、あの」


 アンザイは不自然に、そしてわざとらしく言葉を残し、立ち上がった。歩きだしたアンザイを追うようにレンジも外に出る。そして半ば強引にキリヤさんも連れ出した。


「じゃァ、ごゆッくり!!」


 気づけば、病室に残されたのはユウキとツバメの二人だけとなった。





いよいよ次回で最終回です。最終回はハッピーな曲を聴きながら読むといいと思います。(個人的にですが・・・)

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