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元騎士団のおっさん伝説のピンクビキニアーマーになる ~魅力を添えて~  作者: トリミング中の噛み犬


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第95話 コスモの嫌いなもの

 コスモと軍師のエーシンが、来たる独立戦争に向けて味方となる冒険者を勧誘を行うため、商業都市ウキレアの仕事斡旋所へ向かっていた。


 仕事斡旋所の中へ入ると、これから独立戦争が起ころうとは思えないほどに冒険者達で活気に満ちていた。


 この時期になると、賊の襲撃も落ち着いて依頼は減少傾向にあるのだが、新たに違う依頼が増えていた。それが魔獣の白嶺大熊(シルバビッグベア)から村を守るという護衛依頼である。


 どうやら近隣の村にもアエク村の出来事が伝わったようで、白嶺大熊の護衛依頼が仕事斡旋所に一気に殺到したようだ。


 通常個体であれば上級冒険者10人程で討伐が出来ることもあって、依頼の条件も上級を10人以上を含めたパーティーと定められ、人手が必要となった依頼に冒険者の多くが、商業都市ウキレアに長く滞在してくれていた。


 そして早くも1匹の白嶺大熊を倒した英雄級の冒険者が、仲間と共に併設された酒場で祝宴を開いていた。


 盛り上がっている仕事斡旋所の入口の扉でエーシンが、コスモに勧誘方法について注意をする。


「コスモ、冒険者の勧誘方法だが、彼らには町に住む領民を守るよう頼み込むのだ。それと独立して国を興す事、籠城の事、バルドニア王国が相手である事も伝えて良い。カイネル王に伝わるのは時間の問題であるからな」


「そ、そうなのか……」


 国の母体が大きければ大きいほど、人の出入りが多くなり情報統制というのは難しくなる。


 現にジョストン領の商業都市ウキレアに、商人に扮したバルドニア王国からの斥候が何人か入って来て情報を探っていた。さらにジョストン領に所属する一部の貴族達も、バルドニア王国へ情報を送り続けているという事実がある。


 現在リフィスが屋敷でジョストン領の独立について、配下の貴族達の説得を始めている。その事によって情報がカイネル王に伝わるのは、時間の問題とエーシンとグストは見ていた。


 そして他にも勧誘することで注意すべき点が仕事斡旋所にあった。


「仕事斡旋所の決まりで、国による正規の兵士の募集、徴兵依頼は禁じられておる。よって領主リフィス個人の依頼となるので報酬はグスト殿と相談したが、1人頭、金貨10枚が限界だ。それも忘れるなよコスモ」


「たった金貨10枚じゃあ、命をかけて領民なんか誰も守らねえぞ……」


「ほれ、愚痴を言う暇があれば動くのだ」


 仕事斡旋所で正規の兵士を募集する事が禁じられている。国の影響を受けない代わりに与する事もしない、独立組織の決まりである。


 コスモが頭を困った表情で、仕事斡旋所に居る冒険者を見回す。どの冒険者も強そうな者が揃ってはいるが、冒険者の平均年収の半分である金貨10枚で勧誘しなければならない。


 もしコスモ自身がこの報酬で、戦争になるから領民を守ってくれと言われても、即答する自信が無かった。


 このまま悩んでいても仕方が無いと、コスモが近くに居た中年の男の冒険者に声をかけてみる。


「なあ、あんた、ちょっと話があるんだが……」


「おお、誰かと思えば領主のリフィス様と一緒に居たコスモか!一体何だい?」


「この先、大きな戦いが控えていてな、ウキレアの町を守ってくれる冒険者を探しているんだ」


「はーん……なるほど、個人依頼か……で期間と報酬は?」


 中年の男は上級冒険者らしく話の飲み込みが早い、早速、報酬と期間の確認を取り始める。


「期間は1カ月間、報酬は金貨10枚だ。どうだ?」


「それで町を襲う相手は誰なんだ?」


「それはその……バ、バルドニア王国と……バンディカ帝国の連合軍……」


「はあ??」


 中年の男の冒険者が、口をあんぐりとさせて正気で言っているのかという顔をしている。


 お願いしているコスモも圧倒的な敵戦力に、冷や汗をかいて口ごもってしまう。何とも言い難い空気が漂っていると、中年の男が不思議そうな顔になる。


「コスモ、あんたは帝国の称号をもらっているだろう。なんでその帝国と戦う事になるんだよ」


「……近々、帝国領のこのジョストン領が国として独立する予定なんだ。それを機にバルドニア王国が攻めてくる。そうなると同盟のバンディカ帝国も援軍を送る事になるんだ」


「へえーあのリフィス様が独立ねえ……」


 国を興すと聞いても男は驚きもしない、そもそも自由業を生業とする冒険者の自分には関係の無い話である。


 それに超獣化した白嶺大熊を退治する力を持つ領主ならば、独立くらいなら平然とやるだろうなと男は納得していた。


 ほんの少し手応えを感じたコスモがここで畳みかけようとする。


「なあ、頼むよ。俺たちの味方になってくれないか!」


「コスモ、あんたも冒険者生活が長いから知っているだろうが、冒険者にとって一番大事な物は命だ。国の正規兵と違って命を失ったら何も保証が無い、それをたった金貨10枚で寄こせって言うのは通らないぜ?」


 中年の男の言う通り、冒険者には亡くなった後の保証金制度などは無い、受けた依頼も未達成と判断されて報酬が支払われない。


 自由に生きれる代わりに使い捨てのように扱われるのが冒険者の特徴である。


 自分の身の丈に合った依頼を受けて、もしそれで失敗しようとも命を優先して次に繋げるというのが冒険者の間では常識である。


 中年の男の言う事はもっともであり、同じ冒険者であるコスモも返す言葉が見当たらず、唇を噛みしめる。


「すまなかったな、時間を取らせちまって……」


「……いやいいんだ。ちょっと俺からも他の奴に聞いてみるよ。もしかしたら、手伝うって言う物好きが居るかもしれないからな!それに俺はここの領主リフィス様が嫌いじゃねえ、命は懸けられないが、こんくらいの手伝いは出来るからな」


「ああ、助かるよ」


 中年の男の冒険者がそう言うとコスモの前から去って行く。ここに居る冒険者達は、あらゆる苦境を乗り越えたベテランが揃っている。


 簡単に応じない事は分かっていたが、1人目から取り付く島もない状態であった。落ち込むコスモを見てエーシンが背中を軽く叩く。


「ほれ、落ち込む暇は無いぞ、拙僧も手伝うからお主も諦めるでない!」


「……そ、そうだな、折角リフィスが決めた道なんだ。俺達が少しでも助けてやんねえとな!」


 コスモが頬を両手で叩き、気を取り直すとエーシンと共に仕事斡旋所に居る冒険者に手当たり次第、声をかけて行く。


 どの冒険者も期間と報酬を聞くと表情を嬉しそうにするが、戦う相手を聞いた途端に及び腰になって断りを入れて来る。


 ほとんどの冒険者に声をかけたが、結局コスモの話に応じる者は誰一人居なかった。エーシンに相談しようとして周りを見るがいつのまにか姿を消していた。


 さすがのコスモもこの孤独な状況にこたえていた。


 すると酒場で祝宴をしていた英雄級の冒険者が、同じ英雄級と噂される冒険者のコスモの話を小耳に挟み、使い走りの男を送って来る。


「おい、あんたコスモだったよな」


「……なんだお前、俺は今、機嫌が悪いんだ」


「そんな生意気な口を聞いてもいいのか?俺は大陸に名を轟かす天下の剣士シャイラ様だぞ!」


「は、はあ?シャ、シャイラだって?」


 聞き慣れた名前が出て来ると、機嫌の悪かったコスモの顔が驚きの表情に変わる。


 自称シャイラと名乗る男は、黒い髪と長さが似ているだけで、猫のような、なよっとした弱々しい顔が目立つ。もし本物のシャイラがこの場に居たら、この男のあらゆる急所を潰されているところだろう。


 自称シャイラという男が、コスモの反応を見て気分が良くなったのか、見下すような顔で本題へ入る。


「あちらにおわすお方が、お前の話に興味をお持ちだそうだ。すぐに向かうようにな!」


「あちらの方って、あの派手な格好をしている男か?」


 酒場に置かれた大きなテーブルに目をやると、男が両脇に踊り子のような格好をした美女を伴って足を組み偉そうに座っていた。


 男は青年で紫色の長い髪を首後ろでまとめ、額に金色のサークレット、細く整えられた眉に流し目、耳にティア型の水晶をピアス、大きく胸元を広げた魔導士の衣服に小さな金色の棒状をいくつも垂れ下げたネックレス、茶色の長ズボンと革製のブーツを履いている。


 とにかく派手な格好で、酒場ではかなり浮いている。その腰には魔法書を革バンドで固定し、【マジック職】である事がうかがえる。


 その男がコスモに気付くと、色男特有の目配せをして、こちらに来るように手招きをしてくる。


 コスモが仕方ないなと思いながら、もしかして味方になってくれるかもしれないと希望を持って、男の側に寄って行く。


 近くに寄ると男がコスモの全身を真剣な顔で見回すと笑顔を作り始める。


「やっぱり近くで見ると綺麗だなコスモ、君の噂は良く聞いているよ」


「で、えーとあんたか俺を呼んだのは」


「そんな冷たい言い方しないでくれよ、俺の名前はイカルス、こう見えても英雄級の冒険者の1人なんだぜ」


 数多く居る冒険者の中でも、英雄級の能力値に達する者は大陸でも数えるほどしか居ない。


 このイカルスの知名度もコスモの知名度には劣るが、珍しい職業と悪癖で有名な男であった。その理由がサンダー系統の魔法を得意とする吟遊詩人、上級職【サンダートルバドール】である事と、その得意な詩で女を囲い込む、無類の女好きである事だ。


 イカルスがコスモに声をかけたのも、同じ英雄として興味もあったが、自分好みの美しい女であれば自分のハーレムに加えようと企んでいたからだ。


 さきほどコスモに声をかけた、自称シャイラという男もイカルスの取り巻きの1人で、露払い兼、小間使いとして扱っていた。


 そのイカルスがにこっと笑い見上げると、コスモの行っていた勧誘について話を聞いて来る。


「コスモはこのウキレアの領民を守る冒険者を勧誘してるって聞いたけど……本当かい?」


「ああ、本当だよイカルス、どうだい英雄級のあんたほどの男が加われば百人力なんだが」


「……そうだな、もしコスモが俺のハーレムに加わると言うなら考えてもみるかな?」


 イカルスが流し目で条件を提示するが、即決する訳では無く考えてみることに留まる。


 酒場で何度かこういう絡まれ方をしていたコスモが、またこのパターンかと顔をしかめようとするが、そこを堪えて何とか笑顔を作る。


「なあ、こっちは本気なんだ。真剣に考えてくれよ」


「こっちも本気さ、もしこの場ではい、と答えるなら先約のこの子達をキャンセルして、コスモと付き合うよ」


 色男特有の余裕の笑みを浮かべコスモを誘惑するが、元男であるコスモにとっては嫌悪すべき対象にしか見えない。


 元々、男だったモウガスの頃から女からモテた経験が無いコスモは、こういった色男を苦手、むしろ敵視していた。


 イカルスの両隣に居た女達が『なんでキャンセルするのよぉ』とか『3人一緒でもいいじゃんー』などと好きなことを言っている。


 その様子を見て、これ以上の説得は時間の無駄と感じたコスモが背を向けて立ち去ろうとする。


「じゃあ、話はご破算だな、あばよ」


「ちょっと待て、まだイカルスさんの話は終わってねえぞ!」


 自称シャイラがコスモの行く前に立ち塞がる。それを見てコスモが振り返りイカルスに助けを求める。


「おい、このシャイラって男もあんたの部下だろう、どうにかしてくれ……」


「さあ、どうしようかな、コスモが俺の言う事を聞くっていうなら助けてやってもいいが」


 イカルスの態度を見る限り、自分の要求が通らない限りコスモを解放する気がないようだ。困っているコスモを見て、両隣に居た女達と同じように顔をにやにやとさせている。


 ここまで来ると我慢していたコスモも苛立ちを募らせていく。勧誘が全て断られたこともあるが、何よりもイカルスのような英雄級の力を持つ男の態度が気に入らなかった。


 コスモが青い陽炎を体から出現させると、再びイカルスの下へ寄って行く。


 無言のままイカルスの襟元を掴み、椅子から体ごと持ち上げる。両脇にいた女達も驚き、仕事斡旋所にいた冒険者達の注目が集まって行く。


「お、おい!何をするんだ!」


「俺には嫌いなものが2つあってな、1つが弱い者いじめだ。そして2つ目が……」


 そう言いながらコスモが右手を大きく横へ振りかぶると、イカルスの左頬に向かって思いっ切り平手打ちをぶつける。


パァァーーーーーーン!!!ズゴゴゴゴゴゴゴゴ!!


「ぶべらっ!」


 乾いた音に必殺の一撃音が酒場中に響き渡ると、イカルスの顔が思いっ切り右に回って鼻血を噴き出し頬が大きく腫れて行く。


「力があるのに何もせず傍観している野郎だよ!」


「ご、ごの野郎……女ひゃからってゆだんしてひゃけど……ひゃめるなよ!」


 さすが英雄級の冒険者イカルス、口の中を切って呂律が回っていないが、コスモの渾身の平手打ちを耐えると、すかさず腰に携えた魔法書を左手に取り、右手でコスモ左腕を掴む。


「くひゃえ!ひょろんはーふと【トロンバースト】!!」


 中級魔法書【トロンバースト】はサンダー系の魔法で、放射状に広がる雷撃が特徴である。一気に放射された雷撃で、相手の動きを止めた後で、閃絡を引き起こしダメージを与えるイカルスの得意技である。


 閃絡とは、雷撃同士がぶつかった時に発せられる大きい火花と考えてもらっていい。


 コスモの左腕から大きな稲光が発せられ身体中に雷撃が走ると、身体中のあちこちから閃絡が発生し続ける。周りに居た冒険者達がイカルスが本気だと気付き、驚いた表情で見つめている。


 この技でイカルスは白嶺大熊を1匹討伐していた。その白嶺大熊の亡骸も閃絡によって肉体が弾け飛び、ほとんど原型を留めていなかった。


 その威力も並で無い事は、すでに冒険者達の間に知れ渡っていた。


 そしてイカルス自身の【魔力】も英雄級で無尽蔵に近い、雷撃をコスモに送り続けて10秒以上は経っているが収まる様子はない。


「ざんねんひゃよ、こひゅも……このてでうつくひぃひみをひゃらなくてはならなひゃいひゃんてね……」


 大きく腫れた頬に鼻血を流しながら、閃絡がコスモの身体中で起こり続けるのを見て勝利を確信していた。


 だが閃絡によって立ち昇る大量の煙の隙間から、コスモが覗き込むようにイカルスの顔を見つめていた。


「……で、イカルス、お前は傍観するのか?俺に力を貸すのか?どっちだ?」


「ま、まひゃか、きいてひゃいのか!……ぐっ……ぐぐ!」


「はっきりと答えやがれ!」


 イカルスの放った全力の【トロンバースト】を受けてもコスモは無傷であった。


 そしてイカルスの襟をコスモが両手で掴むと、一気に締め上げて行く。コスモの【魔防】は上級魔法書でないとダメージが通らないのは証明済みで、イカルスの得意魔法をも完全に弾いていた。


 イカルスの表情が酸欠によって一気に紅潮し始め、苦悶の表情を浮かべて行く。次第にイカルスの右手から放たれていた雷撃が収まっていく、すでにコスモとの勝負は誰が見ても決していた。


 コスモの鬼気迫る迫力に他の冒険者が止めることができずにいると、仕事斡旋所の入口の扉が開き、依頼の終えた冒険者のフィオーレとセルシルが入って来る。


「あーあ、また空振りだった。あの大きい熊が、そう何匹も居る訳ないもんね」


「まあまあ、フィオーレどん、村の皆さんは安心を買ってるんだっぺよ」


「それはそうだけどさ……って何か焦げ臭くない?」


「あ、あれってコスモ師匠と、イカルっちじゃないっぺか?」


 すぐに酒場の方が騒がしい事に気付き、視線を向けるとコスモが冒険者のイカルスの襟を掴み上げて首を絞めている姿が目に入る。


「ちょ、何やってんのコスモ!セルシル止めるよ!」


「あちゃー!あの顔はコスモ師匠が本気の奴だっぺ!」


 フィオーレとセルシルが野次馬をかき分けるように酒場へ入ると、フィオーレがコスモの腕にしがみ付き、セルシルがイカルスの体を支え首に負担が掛からないように支える。


 2人の姿に気付いたコスモが青い陽炎を引っ込めると、驚いた表情になって行く。


「フィオーレとセルシルじゃねえか、どうしたんだ?」


「どうしたんだ?じゃないわよ!イカルっちを離しなさいって!」


「そうだべ!コスモ師匠、イカルっちは悪い男じゃねえべ、ちょっとすかした野郎だっぺ!」


「え?こいつはフィオーレ達の知り合いかよ……」


 フィオーレとセルシルの能力値は上級以上、英雄級未満と言ったところで、強い冒険者は強い冒険者を好む質がある。


 冒険者イカルスとフィレオーレ、セルシルはウキレアで出会い、互いの実力を認め合い意気投合した友人であった。


 慌ててコスモがイカルスの襟を放すとセルシルに支えられながら、ゆっくりと椅子に腰をかけさせる。イカルスがむせるような仕草をしながら、この状況を信じられないでいた。


「ごほっごほっ!……まひゃか俺よりつよいひゃんて信じられひゃい……」


「あーなんか……悪い事しちまったな……」


 先に仕掛けられたとは言え、手を出したのは軽率だったとコスモが申し訳なさそうな顔でハート型の盾をイカルスに向けると、盾の中に仕込んだ【ヒールの杖】で、引っぱたいた頬の治療を始めて行く。


 腫れた頬が小さくなり、切れた口の中の傷も塞がっていくとイカルスがまともに話せるようになっていく。


 治療の終えたイカルスがコスモの持つハート型の盾の効果に驚いた後、落胆した表情になると、左手に持っていた魔法書を腰の革バンドに戻す。


「はあ……ちょっと凹むね。まさか同じ英雄級でも俺とコスモにこんなに差があるなんてね」


「すまねえな、フィオーレ達の知り合いだったら手荒な真似はしなかったんだが……」


「いや、俺の方も意地悪しすぎた。コスモ、君の美しさがどうしても欲しくてね、つい意固地になってしてしまった」


 さきほどの傲慢な態度であったイカルスが素直になって謝罪をする。イカルスを心配するように両脇にいた踊り子の女が頬をさすってあげていた。


 なぜコスモとイカルスが喧嘩をしていたのか理解できないフィオーレとセルシルが、同席して事情を聞き始める。


「ちょっとコスモ!なんでイカルっちとこうなったのか聞かせなさいよ」


「んだんだ、何か事情があるんだっぺ?」


「ああ、実はな……」


 コスモが領主のリフィスがジョストン領の独立させる予定である事、商業都市ウキレアにバルドニア王国とバンディカ帝国の連合軍が攻めて来る事、その商業都市ウキレアを守る要員として冒険者達を勧誘していた事を説明する。


 その話を聞いたフィオーレとセルシルは最初は驚くものの、ひそひそ話で相談を始めるとコスモの顔を見て決心する。


「コスモ、その事なんだけど、ちょうど私達、依頼が終わって暇になってさ。手が空いてるから手伝ってもいいかなー」


「スーテイン領で、俺が居ない間に山賊王コンドラを討伐してくれた恩もあるっぺ、その恩を返す良い機会だっぺ」


「いいのか2人共!今度の相手は山賊じゃなくて正規の軍だぞ!」


「正規軍よりも怖い、私の師匠がグーラグラン王国に居るからホントは嫌なんだけど……まあ世捨て人みたいな人だから出て来ないと思うし、それにコスモに付いて行けば暇じゃなくなるしね」


「俺は全く問題ないっぺ、正規軍よりもコスモ師匠のが怖いっぺ!」


「お前ら……本当にありがとな!……で後でセルシルは拳骨な」


 コスモが嬉しそうな顔で2人の申し出を受けると、余計な一言が多いセルシルには拳骨をプレゼントする事を約束する。


 近くに居たイカルスはその状況を微笑ましく見ていたが、コスモの視線に気付くと悟ったような顔になる。


「コスモには悪いけど、俺はその話に乗れないな」


「ああ、分かったイカルス、お前には何の関係も無いからな。話を聞いてくれただけでも感謝するよ」


「そうだ!感謝しろよ!コスモ!」


 しゅんとした顔でコスモが感謝を述べると、イカルスの横にいた自称シャイラが乗っかるように罵声を浴びせる。するとフィオーレが顔をしかめて自称シャイラに忠告をする。


「ちょっとシャニャム……あんたがニャシムの親戚だって言うから忠告するけど、シャイラって私の師匠の師匠の名前だからね。本人が生きてたら体をばらばらにされるわよ!」


「フィ、フィオーレさん、そんな怖い事を言わないで下さいよぉ……」


(あのシャイラ殿が、フィオーレの師匠の師匠だって?)


 自称シャイラを名乗る男の本名はシャニャムで、スーテイン領で山道を案内してくれたニャシムの親戚であった。


 それと同時にフィオーレの剣の師匠の師匠が、シャイラである事にコスモが驚いていた。


 40年前の魔女の呪いによって、シャイラは男から女になって表舞台からは姿を消したが、知る人ぞ知る【ドラゴンスレイヤー】の称号を持つ伝説の剣士として名だけは残っていた。


 恐らくシャイラが男であった時に、フィオーレの師匠と呼ぶ者が師事をしていたのだろう。


 すると仕事斡旋所の事務所がある2階の扉から、仕事斡旋所の所長らしき立派な髭を蓄えた体格の良い男と、姿を消していたエーシンが一緒に出て来る。


 そしてエーシンが2階の手摺りから、酒場に居る冒険者達に向かって大きな声を上げる。


「仕事斡旋所に居る全ての冒険者達に告げる!こちらが指定する1カ月間、この商業都市ウキレアに滞在した冒険者には、領主のリフィス様から金貨10枚を進呈する事を約束しよう!」


 エーシンの突然の言葉に、仕事斡旋所にいた冒険者達が戸惑い始める。その冒険者達もさきほどコスモからの勧誘を受けて、詳細は知っている。


 しかし、聞いていた条件が変わり、エーシンはただ滞在するだけで金貨10枚を与えると言うのだ。さらにエーシンが言葉を続ける。


「滞在している間は、仕事斡旋所の依頼を並行して受けてもらって良い!これは個人依頼に該当するからな!いわゆる一挙両得というやつだ。もし受けても良いと言う者が居れば、拙僧が居る2階の仮設の受付所まで来て欲しい!」


 冒険者にとってこれは美味しい話である。例えジョストン領が独立したとしても冒険者が狙われる訳ではないし、ウキレアの町自体は狙われるがバルドニア王国とバンディカ帝国の正規軍を直接、相手にする必要が無い。もし襲われても逃げるという選択が取れる。


 多少の戦火に注意するだけで金貨10枚がもらえる上に、仕事にあぶれない。その事が分かると酒場や仕事斡旋所にいた、腕に覚えのある冒険者達が2階のエーシンの下へ殺到して行く。


 その話を聞いていたイカルスも目を瞑って微笑すると、目を開けてコスモを見つめる。


「なるほど……コスモの口から無理難題を伝え、より引き下げた条件を提示して目的を果たす。まるで卓越した商人のような交渉術だね」


「……そ、そういう事だったのか……エーシンの奴、俺も利用してたのか」


 エーシンの目的は冒険者の共闘では無く、どう動くか分からない不特定な戦力、つまり見せかけの戦力を作る事にあった。


 賊を相手にして生活している腕の立つ冒険者の多くが、ウキレアに集まっているのは周知の事実、これを見かけ上の戦力で利用して敵を牽制しようとしていた。


 その事が分かったイカルスが席を立ち上がると、取り巻きの冒険者達に声をかける。


「じゃあ俺達もその口車に乗ってやろうじゃないか、お前達、2階に行って受付をするぞ」


「……イカルス、あんた本当は良い男だったんだな」


「良い男だったじゃなくて、元から良い男だ、なにせ金貨10枚なんてはした金、たった2カ月で使い果たすからな。だがこんな美味い話を逃して他の国に向かったら他の冒険者に笑われてしまう、それが許せないだけだ」


 そう言うとイカルスが、シャニャムと他の取り巻きを引き連れ2階へ向かって行く。エーシンの巧みな交渉術で、冒険者達の力を借りることに成功すると、コスモが大きく息を付いて安心する。





 一方、時を遡りコスモとリフィスがリンティス魔導公国に外交で向かっていた時、バルドニア王国の首都、要塞都市ガーグラである事件が起こっていた。


 要塞都市ガーグラは巨大な山の中腹に作られた都市で、空上都市ナクラティスと同じ地上からは攻め難い土地の上に造られていた。


 違う点と言えば、山間を塞ぐように造られた巨大な城壁に、要塞門と呼ばれる小さな門が一つしかない点と、都市の外周はせり出した崖が天然の要害になっている点、そしてカイネルの居城の背後は、地上からの侵入を許さない急坂な山が反り立っている事だ。


 基本的に地上軍よりも空軍を多く抱えるバルドニア王国にとって、何も無い空こそが自由に出入りできる道となっている。


 そう言った軍の運用上、地上の要塞門は最低限の人数が通れれば良いという思想で造られているため、幅や高さが大きな荷馬車1台で埋まるような狭さである。


 例え数万人の地上軍が攻めて来たとしても人数の意味が無くなる。その攻略の難しさから要塞都市と呼ばれていた。


 そんな要塞都市ガーグラにあるカイネル王の居城では、王子であるオリオーンが王の間を訪れ、玉座に座る父のカイネルの前に跪いていた。


 オリオーンは父のカイネルと同じ長い赤い髪をした年齢が18歳の美男子で、黒を基調とした青いラインの入った貴族服を着用して、体も適度に鍛えられしっかりとしている。


「カイネル様、どうか戦を止めるようお願い致します!」


「……またその話かオリオーン、何度言えば解る。ジョストン領の返還が終わり次第、そこから税を取れば我が国は豊かになるのだぞ。さらにそこを足掛かりにすればスーノプ聖国の豊富な食料、リンティス魔導公国の鉱山は我が国のものとなる」


「残念ながら、そこまで戦える金銭が我が国にはありません……お願いでございます、戦いを延期してどうにか今、国民に課している重税だけでも軽くは出来ないでしょうか!」


 オリオーンの言う通り、現状のバルドニア王国は財政が破綻しかかっていた。同盟国のバンディカ帝国に食料などを融通してもらい、辛うじて国民が食いつないでいる状態である。


 こうなった原因もジョストン領の領主リフィスが神器を扱えない事、【無能のリフィス】だとカイネルが知った事と、【ブラックオーブ】の入手が発端である。


 夢が現実となる材料が揃い、なんとしてもこのタイミングで北方連合国の統一を果たそうと、カイネルが無理な改革を強行していた。

 軍事に巨額の金銭を投入して強化を図り、少しでも領土を広げるための子飼いの賊を養い、更にジョストン領の貴族を取り込むための接待で、国の金銭を使い込んでいった。


 バルドニア王国の最大の資金源である【ミスルン鉱石】、【オルコン鉱石】の鉱山も、急ピッチで行われた採掘の影響で枯渇してしまい、最後の手段として、国民に重税を課している状態であった。


 それでも足りない金銭は、贔屓にしているユズリハ商会から借りていた。


 見返りとして要塞都市ガーグラで商売をする時の税の免除、一等地の無償提供、そして秘密裏に奴隷を引き渡すという約束を結んでいた。


 さらにユズリハは、優勢であるバルドニア王国の勝利をより確実なものにするため、戦のために必要な武具、防具を投資という名目でバルドニア王国へ無償で渡していた。


 国民達が貧困にあえぐ中、唯一の希望が先代のバラントと同じ、温厚な性格を持つと言われる王子のオリオーンの存在で、国民や役人から切迫した声が届いていた。


 オリオーンはカイネルの本当の野望を知らない。しかし、北方連合国の統一を目的としていることだけは分かっていた。


 その統一を先送りにして、国民の救済を優先するように諫言をしている状態であった。


「後少しなのだオリオーン、後少しで我が国は帝国を超えることができるのだ!」


「カイネル様、いえ、父上、国というのは民が居るからこそ成り立つもの。それを疎かにしては、帝国より巨大な国を作ったところで未来はありません!」


「……まさかお前から王である私に、国の成り立ちで説教をされるとはな」


 カイネルが玉座から厳しい目でオリオーンを威圧すると、それに気付いたオリオーンが焦った様子で顔を伏せる。


「出過ぎたことを言いました……ですが、このままではカイネル様が国民の敵となってしまいます!それが私には耐えられないのです!どうか考えを改めて下さい!」


 跪いて顔を伏せたままオリオーンが本音を持ってカイネルの説得にあたる。


 その言葉を受けて一瞬だけ、カイネルの顔が優しい父親の顔になるが、すぐに元の険しい表情になると体から黒い瘴気を出現させて、王の間の外に居た近衛兵に声をかける。


「近衛兵!オリオーン王子が乱心した!ただちに捕らえよ!!」


「ち、父上!なぜそんな事を!!」


 オリオーンがカイネルの言葉に驚き立ち上がると、王の間に入って来た4人の近衛兵がオリオーンを囲い、銀の槍の穂先を突き付ける。玉座に座ったまま黒い瘴気を漂わせたカイネルが、口元を大きくにやつかせる。


「オリオーン王子は反乱を画策している恐れがある、しばらくの間、牢屋に幽閉せよ……」


「ははっ!」


「ち、父上!どうか、どうか考え直しを!!このままではバルドニア王国は……」


 近衛兵に引きずられたオリオーンの悲痛な声が王の間に響くが、外の廊下へ引き出されると扉が閉められ、その声もカイネルには届かなくなる。


 そして王の間にカイネルが1人だけになると、目の色を徐々に赤色に染めていく。手で目を抑え、一気に顔を天井に向けると大きな笑い声を上げる。


「フハハハハハッ!もう少しで我が野望が成就する……この【レッドブラックオーブ】の力さえあれば確実にな!」


 そう言うと、カイネルが懐から赤みのかかった黒い水晶を取り出す。冒険者エヴァンズの特殊技能【オーブ生成】で生成した特別な宝具である。

 そのオーブには、バルドニア王国にあるゾフアの洞窟の下層にしか生息していない、特別な魔獣の力が込められていた。


 以前に冒険者のエヴァンズが、ゾアフの洞窟の最下層で【紅の宝玉】を手に入れた後に、カイネルに渡した【ブラックオーブ】の1つである。


「これでようやく人類の盟主として、人々を導く事が出来るのだ……大陸中の国が1つとなれば邪神竜……いや神をも恐れる必要はない!!」


 すでにカイネルは【ブラックオーブ】の力に魅了されていた。元々持っていた野心が大きくなっていくと、今や北方連合国だけでは無くバンディカ帝国さえも統一しようと考えていた。


 【ブラックオーブ】はその者の負の力を吸い上げ、それを力に変換して装着した者に与える特徴がある。


 負の力が大きければ大きいほどにその力は増していく、それが野望のために人を捨てたカイネルともなれば底知れない力を発揮する。


 今のカイネルの野望は、すでに誰も止められないほどに歯止めがきかなくなっていた。


 こうして、公になる事なく王子であるオリオーンが消息を絶つ。やがてオリオーンを見かけなくなった国民達が、カイネルによって命を奪われたのでは無いかと噂を始める。


 同じく異変に気付いたオリオーンの側近で友人でもあるルディンという男が、カイネルのところへ赴きオリオーンの所在について尋ねる。


 しかしカイネルから返って来た答えは、オリオーンが流行り病になって城内の部屋に臥せているというものであった。


 そこでオリオーンに一目だけでも会いたいと伝えるも、感染する力が強いと言われ拒否される。


 ただの貴族であるルディンが、王であるカイネルの言葉を疑う訳にもいかず、仕方なくその場を後にする。だがカイネルの態度、詳しい病名を言わない事からオリオーンが幽閉されているのではと疑惑を抱いていた。


 そしてルディンはバルドニア王国から密かに出国すると、とある人物の下へ飛竜に騎乗して向かって行く。それがテイルボット領に居るカイネルの妹のバミーネである。





 テイルボット領、海上都市ハヌイアムにあるテイルボット城の領主の間では、バルドニア王国から訪れていたルディンが跪いてバミーネに救援を求めていた。


 ルディンは灰色の長い髪を後ろでまとめ、黒いバンダナがトレードマークの寡黙そうな若い男である。体には青い軽装鎧に竜の紋章の入った白い外套、黒地の青いラインの入った貴族服を着用している。


「バミーネ様、カイネル様がオリオーン様を幽閉しているのは明らかなのです。どうにか説得してオリオーン様をお救い下さい」


「話は分かったルディン、しかし兄上が子であるオリオーンを幽閉するなど考えられぬ……」


 ルディンの救援要請を受けてバミーネは大いに悩んでいた。


 確かにカイネルは野心を持つ男ではあったが、身内である妹のバミーネには優しく接していたし、姪のアルティナが生まれた時も、わざわざ公務をあけてバミーネの下に見舞いに来るほど身内に気をかけていた。


 悩むバミーネを横の玉座に座っていたテイルボット領の領主レイグが見て、自分が説得に向かう事を提案する。


「ハニー、話は聞かせてもらった。そこは僕が向かった方が良いんじゃないかな☆義兄さんには良くしてもらってるしね☆」


「ダーリン、そう言ってくれるのは嬉しいのだけど、最近のバルドニア王国からは良い噂を聞かないのです。もしルディンの言う通りだとしたら非常に危険です……」


 すでにテイルボット領内にも、バルドニア王国が食料に不自由している噂が広まっていた。


 その原因も急に課せられた重税が原因であることも伝わっていた。ルディンはその事を知りながらも、バルドニア王国の貴族の1人として知らない振りをして顔を伏せるしかできなかった。


 すると領主の間の扉が開き、バミーネの娘であるアルティナが護衛のゴンベエを伴って入室してくる。その表情は相変わらず自信に溢れた元気な顔だ。


「母上!話は聞かせてもらった!その叔父上の説得の任は私が受けよう!」


「お、おい!姫さん、何を言ってるんだよ!」


 横にいたゴンベエが焦った顔でアルティナを宥めるが、アルティナの意志は変わらない。


「何を弱気になっているゴンベエ!父上と母上は領主の仕事で忙しいのだ。ならば子である私が向かうのが妥当だろう」


「し、しかしだな、もしそのカイネルって奴が本当に息子のオリオーンを幽閉してたとしたら、姫さんが危険なんだぞ!」


「なあーに!そこはゴンベエ、お前が居るから安心だ!お前が私を守ってくれるからな!」


「この姫さんは何も変わってねえなあ……」


 バルドニア王国は情勢が不安定で危険であると話をしていたのに、まったくの無策でゴンベエを頼り切った、出たとこ勝負をアルティナが仕掛けようとしていた。それ聞いたゴンベエが頭を抑えて呆れていた。


 しかし、それはゴンベエに対するアルティナの絶対的な信頼を示すものである事もゴンベエは解っていた。だからこそ止めようが無かった。


 アルティナからの進言を聞いて母のバミーネが考え込むと、隣にいた領主のレイグが玉座から立ち上がってアルティナにカイネルの説得に向かうように命令する。


「よーし、じゃあアルティナ、義父のカイネル王の説得を任せるよー☆」


「ちょっとダーリン!アルティナではまだ力不足、アルティナが向かうくらいな私が向かいます!」


「ハニー、それは却下だね☆それにアルティナはもう一人前の竜騎士だ。ゴンベエくんも護衛で付いてくれてるし、頼っても良いと思うよ☆」


「で、でも……」


「なあーに☆何かあったら責任は僕が全部取るさ☆ハニーにはいつも苦労をかけてるからね☆」


「ダーリン……私の事をそこまで気遣ってくれていたなんて……素敵……」


 バミーネも頬を赤くして玉座から立ち上がると、レイグへ駆け寄り抱き付く。しばらくの間2人の抱き締め合う姿をアルティナ、ゴンベエ、ルディンが呆気に取られて眺めていた。


「父上と母上は相変わらずだな……子である私でも恥ずかしいぞ……」


「まったくだ……俺は仕える主君を間違えたのかもしれねえ……」


「あの勇猛果敢と言われた竜騎士であったバミーネ様があのような顔に……レイグという男、只者ではない……」


 それぞれが思う事を口にすると、領主レイグの命によってアルティナ、ゴンベエがルディンの案内でバルドニア王国へ向かう事になるが、ゴンベエが何となくこれから起こる災難に既視感を感じながら渋々アルティナの後を付いて行く。


 コスモとリフィスが外交を行っている間に、バルドニア王国の中でも事態が動き始めていた。

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