表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
元騎士団のおっさん伝説のピンクビキニアーマーになる ~魅力を添えて~  作者: トリミング中の噛み犬


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

95/101

第94話 ジョストン領の独立

 赤いペガサスことサジーに、神輿(みこし)として相応しいのか、コスモが力比べを挑まれるも見事に勝利、サジーの協力を得ることに成功する。


 そしてコスモが男であった頃からちょっとだけ憧れていた、念願の【ペガサスソードアーマー】になる。


 短い間だが、サジーの世話をしていたペガサス調教師のエイダに見送られながら、コスモ達がペガサス牧場を後にする。


 そしていつものように重装鎧を着た状態での訓練を行いながら、空上都市ナクラティスへ戻る。


 到着すると赤いペガサスのサジーが珍しいのか、町の人々が集まりコスモ達を取り囲んで行く。天馬騎士で休日だった者や、天馬騎士に憧れている少女たちが、赤いペガサスのサジーに羨望の眼差しを向ける。


 コスモの立派な体のピンクのビキニアーマーをより映えさせる、サジーの黒に近い赤色の毛並みがその存在感を際立たせていた。


 サジーに乗っていたコスモも、注目されて気分を良くし鼻を高くしている。そのコスモを後ろにいたリフィスとガリオンが笑顔で見ていた。


 そしてマーシャとイリーナは重装鎧を着けたままの訓練を終えて、息を大きく切らせて町の入口で倒れ、置いてけぼりを食らっていた。


 ヴィレオン大公の屋敷の前でサジーから降りると、サジーは人の通行の邪魔にならない端へ寄って、小さな少女達の相手をしていた。どうやら小さな子供に対しては暴れないようで、コスモも遠目で見て安心する。


 そのまま大公の間の扉の外から、声をかけてコスモ達が入って行くと、ヴィレオンが机で各領地から送られて来る報告書に目を通していた。


 事前にコスモが戻る事を伝えていたので、慌てるようすも無くコスモ達に気付くとヴィレオンが作業を止め、褒美の受領を終えたコスモがその場に跪いて報告を始める。


「ヴィレオン様、褒美の受領が完了した事を報告致します」


「それは良かった、もう話は聞いているが、まさかあの暴れ馬のペガサスを手なずけるとは思わなかったよ」


「あのペガサスは性格は荒いところがありますが、一本筋の通った良い性格をしております。そのお陰で私の騎乗を許してくれたのだと思っています」


「まるでペガサスと会話ができるような言い方だね。それが為せたのもコスモ、君の持つ不思議な魅力の力のお陰だろう」


 技能【意思疎通】を持つ両者だからこそ、コスモはサジーに騎乗する事ができていたが、その過程についてヴィレオンは詮索することはせず、素直に称賛の言葉を送る。ヴィレオンなりにコスモに気遣ったのだろう。


 ヴィレオンが報告を受け終えると、コスモの横に跪いていたリフィスに目を向ける。


「リフィス君、ジョストン領の独立の件だがロドック教皇から送られた書状で聞かせてもらった」


「は、はい!必ずやリンティス魔導公国の力になることをお約束致します!」


「もちろん期待はしているが、この先君の歩む道は厳しいものになる。昨日味方だった者が敵になる事だってある、リンティス魔導公国がバルドニア王国から独立する時と状況は似ているんだ。それでもやると、言い切れるかリフィス君」


「……そうなる事は本望ではありません、ですが僕から離れて敵となる貴族達もいるでしょう。でも今僕がここで立たねば、それ以上により多くの犠牲者が出る……やるしかないんですヴィレオン様」


 跪きながらリフィスが魂のこもった瞳でヴィレオンを見上げる。ヴィレオンもリフィスの目を逸らさないで、椅子に座ったまま見つめ返す。


 しばらく無言の間が続くと、この厳かな雰囲気を感じてコスモとガリオンの2人が顔を汗でにじませる。そしてヴィレオンが椅子から立ち上がる。


「君が独立したところで勝てる戦いでは無い、それも分かっているのかリフィス……」


 例えジョストン領が独立を果たしスーノプ聖国、リンティス魔導公国と同盟を組んだとしてもバルドニア王国だけと戦力が五分となっただけで、勝てる保証はどこにもない。


 それにリフィスが独立した事で、バンディカ帝国も大国としての面子を潰され、同盟国であるバルドニア王国に援軍や援助を惜しまなくなる。


 そうなれば大陸の二強国家を同時に相手をすることになる。


 その事をロドック教皇、ヴィレオン大公は完全に解っていた。そしてリフィスも解っていた。視線を下に向けリフィスがしばらく黙り込むと、すっと顔を上げ答える。


「……勝つ事は難しいでしょう……ですが、勝つ事が全てではありません、肝心なのは負けない事です」


「負けない事……」


「それに攻める戦力は、守る戦力の倍以上いないと成立しないのが常道。バルドニア王国が大国であろうとも我らの倍の戦力を揃えるのは厳しい、必ずそこに逆転する機会が見付かるはずです」


 負けなければ良いと言い放つリフィスの言葉に、ヴィレオンは口元を手で抑え深く考え込んでいた。実はリフィスの言葉は、訓練の一環で行われていた軍師のエーシンの座学で教わった言葉であった。


 攻めるには守る人間の3倍の戦力が揃わないと難しいという兵法の基本である。


 そしてヴィレオンは大いに悩んでいた。リフィスの立場は帝国に従う領主の1人、わざわざ自分の領地を独立させずともバルドニア王国へ引き渡せば、何も問題無く貴族のまま暮らせる。


 ましてやスーノプ聖国やリンティス魔導公国に、肩入れするメリットは皆無と言って良い。その事に対して疑いを持っていた。


 ヴィレオンは約束を果たす為にリフィスに協力をする振りをしておいて、リンティス魔導公国が危うくなれば、同盟を破棄してリフィスを差し出すことも視野に入れていた。


 もちろんスーノプ聖国のロドック教皇も同じ考えで、書状を通して内密にヴィレオンへ伝えている。


 その心情を察したリフィスが、ヴィレオンに今の本当の気持ちを伝える。


「ヴィレオン様が悩むのは解ります……僕が帝国に反旗をひるがえしても何も得がありませんからね……ですが、僕が世間で何と呼ばれているかご存知ですよね」


「ああ知っている、恐らくカイネルが言いふらしたのだろうが荒唐無稽な話だ」


「実際、コスモと出会う前までは、その言葉の通りでした……嫌なことから逃げ回って、安穏とした選択しか選ばない。このままで良いんだと1人で納得していました。」


 リフィスが跪いたまま顔を下に向け拳を強く握る。そして立ち上がると真っ直ぐに澄んだ目でヴィレオンを見つめる。


「そんな自分を変えたいんです。僕の祖父も父も成し得なかった北方連合国の安寧……それが僕の本当の目的です」


 そう言い切るリフィスの目には迷いが無い、今だかつてこのような目をした男に会った事が無いヴィレオンが心の中で揺れ動いていた。


 するとリフィスが真剣な顔を緩ませると、頬をかきながらちょっとした本音を言う。


「後はその……個人的な感情というか思いなんですけど、あのカイネル王に一発良いのを入れたいなと……できればですけどね、はははは」


「なあにリフィス!今のお前なら一発とは言わねえ、何発でも入れてやれるさ!」


 横に跪いていたコスモが笑顔でリフィスに同調して声を上げる。2人の悩まない真っ直ぐな言葉と姿に、ヴィレオンが悩んでいた自分が馬鹿らしいと言わんばかりに笑い出す。


「ふふふっ……まったく2人のやり取りを見ていると、今まで何を悩んでいたのか分からなくなるよ」


「も、申し訳ありませんヴィレオン様……」


「……リフィス殿、君の気持ちは十分に分かった。独立が果たされた時は必ず協力しよう、とは言っても我が国の戦力では、今まで取られた領地を取り戻すまでしかできないけどね」


「も、もちろんそれで充分です!よろしくお願いします!」


「さあ、ここでの用事も済んだだろう?早く自分の領地に戻るんだ。良い結果を期待しているよリフィス殿」


「ヴィレオン様、期待に応えるように頑張ります」


 ヴィレオンから良い返事をもらい、リフィスが喜ぶとコスモとガリオンが一緒になって大公の間を後にする。


 すると入れ替わるように、隣の部屋に待機していた天馬騎士団(ペガサスリッター)の長でもあるヴィレオンの母のフリーニアが大公の間に入って来る。その表情はどことなく嬉しそうだ。


「大公殿下、もちろんリフィス殿の案に乗りますよね?」


「無論、リフィス殿なら独立を果たすだろうね。念のためロドック教皇にも一筆入れておくよ」


「しかしあのような男が【無能のリフィス】と呼ばれていた事が不思議でなりません。カイネル王は人を見誤ったのでは……」


「リフィス殿は言っていた、以前の自分はその通りであるとね。だからこそ、カイネルに負けたくない気持ちが芽生えたのだろう、その言葉に偽りはない、そう思って私もリフィス殿に乗ったのさ……」


 何の理由も無く、リフィスが協力を申し出ている訳でないことを知ったヴィレオンは安心していた。


 その理由もバルドニア王国の国王カイネルに一発入れたいという、一見下らないものに思えるが、利用されていたリフィスだからこそ、ヴィレオンにとって信頼できる言葉になっていた。


「斥候の話では、バルドニア王国がグーラグラン王国に地上軍を派遣するよう号令をかけています。恐らくは雪解け、いえリフィス殿の独立のタイミングで、仕掛けてくる事は間違いないでしょう」


「……軍の編成はフリーニアに任せる。それと……マーシャ、イリーナ、ガリオンの3人だけど……」


「はい、私にお任せ下さい。コスモ殿の訓練を引き続き行っていきます……きっとあの子達の力が必要になりますからね」


「頼んだよフリーニア」


 大公の間で、リフィスに協力する方針で意見をまとめたヴィレオンが、母のフリーニアに軍編成を任せる。リンティス魔導公国の方針をまとまると、対バルドニア王国に向けて大きく舵を切って行く。


 屋敷を出たコスモ達だが、ガリオンの厚意によってジョストン領の国境まで、飛竜で運んでくれる事になる。


 ガリオンの姉であるマーシャとイリーナは、鬼教官のコスモが去って行く事を喜んでいたが、その後ろからフリーニアが現れ、引き続きコスモの訓練を引き継ぐことになった。


 そのようすを見て、コスモが苦笑いして安心するとペガサスのサジーに騎乗し、リフィスはガリオンの騎乗する飛竜に2人乗りする形で上空に舞い上がり、国境の方へ飛び去って行く。


 やはり地形に囚われずに進める事は、非常に快適で歩いて来た時に比べて何倍も早い。


 あっという間に、ジョストン領の国境まで辿り着くと、ペガサスのサジーとガリオンとリフィスを乗せた飛竜が着陸する。


 コスモがガリオンに別れの挨拶をするため、サジーから降りるとリフィスも飛竜から降りる。その後に続けてガリオンも飛竜から降りるのだが、別れを惜しむような寂しい顔になる。


「コスモ姉さま、リフィス、出会ってからたった数日だったけど、本当の姉と友達ができたみたいで僕は嬉しかった……」


「ああ、短い間だったが、色々あってこっちも楽しかったぜ!」


「ガリオン、君が居なければこうしてペガサスのサジーさんやオルコン鉱石も得る事が出来なかった。感謝するのはこちらの方だよ」


 リンティス魔導公国の騒動もガリオンが発端だったが、そのお陰でコスモ達の要望もすんなりと通っていた。


 ガリオンもコスモによる姉達の矯正に感謝し、姉達の面倒を見てくれたリフィスにも感謝をしていた。ガリオンが少し涙目になると袖で拭い、飛竜に騎乗する。


「きっと何もかもうまく行くよ。コスモ姉さまとリフィスが居ればね!」


「ありがとうガリオン、きっと成功させるよ!」


 そう言うとガリオンを乗せた飛竜が空高く舞い上がり、空上都市ナクラティスへ戻って行く。


 それをコスモとリフィスが地上から見送ると、商業都市ウキレアを目指して歩き始める。


 すでに道端の雪は解け始め少なくなっていた。ジョストン領を出てから、すでに1カ月以上が経ち、残された時間は後わずかであった。


 それから3日程で商業都市ウキレアに到着するのだが、何やら商人達の動きが慌ただしくなっていた。街道には大きい荷物を載せた馬車がどんどんと商業都市ウキレアに入って行く。


 いつもであれば出て行く馬車の方が多いのだが、その逆の現象が起こっていた。町に入っても商人達が荷下ろしや、荷物の移動でせわしなく動き回っている。


 それをコスモとリフィスが不思議そうな顔で見ながら、自分達の屋敷を目指して行く。


 屋敷の入口に着くと、扉の側に黒い軽装鎧を着た特徴的な橙色の長い髪をした美男子が立って居た。その美男子がコスモ達に気付くと、駆け足になってこちらへ向かって来る。


「コ、コスモ様!」


「おう!エシェラントじゃねえか、久しぶりだな!」


「エシェラント卿じゃないか、一体どうしたんだい?そんなに慌てて」


 美男子は地区領主のエシェラントでレシェナの兄であった。そのエシェラントが顔を歪めながら慌てた様子でコスモ達の前に立っている。


「コスモ様!確か貴女に大事な妹のレシェナを預けましたよね!」


「あ、ああっ、確かに預かったけど、それがどうかしたか?」


「で、ではなんで愛しい妹が……オークからオーガになっているのですかっ!!」


「オ、オーガ?!」


 オーガと言えば童話などに登場する空想上の種族である。筋骨隆々の大きな浅黒い体を持ち、頭には角を生やし腰に巻いた布だけの姿で、手に持ったこん棒を持ち前の怪力で暴れ回るというのが一般的な認識だ。


 当たり前だがアセノヴグ大陸にはオーガのような生物は存在はしない。居たとしても体を鍛え過ぎた陽に焼けた人間であろう。


 しかしエシェラントの顔はオーク呼ばわりしていた時と同じで、禁断症状のような顔をしている。その顔を見てコスモは、やっと今のレシェナの姿を思い出していた。


「顔は確かに愛しい妹なのですが、体が私よりも逞しくなってしまって、久しぶりに会ったら『お兄様!私元に戻りました!』と言いながら私をお姫さま抱っこしてきたんですよ!……元のレシェナは剣も持てないのにです!」


「あ、あーーー……その、なんだ……エシェラント、レシェナは痩せたし体も健康的になって良くなったろ?」


「健康的と言っても、常識の範囲というものがあるでしょう!!ああ、あのか弱い妹のレシェナが丸太を抱えながら屈伸運動をしているなんて信じられない……」


「ああ……確かにレシェナは骨を噛み砕いて顎を鍛えるくらいだからね……」


 レシェナは異常であった食欲の反動で、筋肉の訓練に没頭していた。その効果で痩せたのだが、今度は男よりも逞しい体付きとなっていた。


 妹を溺愛するエシェラントにとっては、2度目の絶望である。


「い、一体どう責任を取ってくれるのですか!コスモ様!!」


「う、ううっ……そ、その……正直すまなかった……」


 今にも泣き出しそうなエシェラントの顔を見て罪悪感を覚えたコスモが、歯切れの悪いままに謝罪する。


 しかし以前のレシェナに比べて、顔は昔の名残があったので技能の【狂乱】は発動せず、リフィスの説得によってエシェラントが気を取り直して行く。


 落ち着きを取り戻した所で、気まずそうにしているコスモを横にリフィスがなぜ屋敷に居るのか尋ねる。


「今日は一体どうしたんだいエシェラント卿、評定を行う日では無い筈だけど……」


「それなのですがリフィス様、グスト殿からジョストン領に居る地区領主の貴族全員に招集命令があったのです」


「招集命令?」


「ウキレアに来て2日ほどになりますが、もう一週間以上前の事です。他の領主達も呼び出されているのですが、グスト殿からはリフィス様が戻るまで待機をするよう言われまして、こうしてウキレアに滞在しているのです」


 リンティス魔導公国からの便りで、コスモとリフィスが騒動を解決した事を聞いた軍師のグストが、ジョストン領の地区領主達を商業都市ウキレアに招集していた。


 もちろん、リフィスの帰りを歓迎するために呼んだ訳では無い。その話を聞いたリフィスがグストの意図を何となく理解していたが、それが確信に変わる。


(もしかしてグストはやっぱり……)


 そう考えていると屋敷の扉が開き、軍師のグストと軍師のエーシンが現れると、2人が揃ってコスモ達に向かって来る。グストがリフィスの正面に立つと優しい目で笑顔になる。


「お帰りなさいリフィス様、長い外交お疲れ様でした……」


「……ただいまグスト、何とか話はして来たよ」


「はい、スーノプ聖国のロドック教皇から書状が届いております。本当に……本当に……立派になられた……うっ……うっ」


「お、おいグスト、こんなところで泣くな……こちらが恥ずかしいだろう」


 グストはロドックから受け取った書状で、リフィスが帝国からの独立を考えている事を知らされていた。


 そして星光騎士団(スターライトリッター)の団長ルクシーンの強い後押しもあって、独立を果たした際はスーノプ聖国も必ず協力すると明記されていた。


 グストは以前から帝国からの独立を考えていた。


 バルドニア王国に対抗する勢力を築くためには、どうしてもジョストン領の独立が必要不可欠だからだ。


 しかしその独立も一介の軍師であるグストの口からでは無く、領主のリフィス自身が決めて、切り出さなくてはいけなかった。


 そしてリフィスはグストの期待通りに、自らの口で帝国からの独立を宣言する。


 軍師であるグストにとって、待ちに待ったリフィス自身の決断であった。それが嬉しくて嬉しくて感極まってしまったのだ。泣き崩れるグストの代わりに、コスモの軍師であるエーシンが言葉を続ける。


「リフィス、コスモ、お主達の外交は成功と言って良い、そのペガサスとオルコン鉱石、全ての準備は整った」


「ああ、リフィスが外交をしっかりやってくれたお陰でな!」


「はははは、コスモが居なければ、その外交にも行けなかったけどね」


 お互い謙遜しあうコスモとリフィスだが、2人が一緒で無ければ外交も上手く行かなかっただろう。するとエーシンが思い出したような顔をする。


「そうそう、こんなこともあろうかと呼んでいた者がおる、おい!こちらに来てくれ!」


 エーシンが屋敷の扉の方に声をかけると、数人の男達と話をしている女が声に気付いて駆け寄って来る。革製の外套に厚着をしている可愛い女だが、コスモが顔を見た瞬間に驚く。


「お、お前は……」


「やっほー久しぶりだねーコスモ!」


「ミ、ミリットじゃねえか!なんでこんなところに!」


 女の正体は地方都市カルラナの鍛冶師ミリットであった。コスモのビキニアーマーを作った天才鍛冶師であり、ピンクに拘る童話の英雄、戦神ライオネルの熱狂的なファンである。


 なぜ商業都市ウキレアに居るのかコスモが分からないでいると、ミリットが説明を始める。


「そこのエーシンちゃんから手紙をもらって来たんだ。オルコン鉱石が手に入ったって言うから急いで来たんだよ!」


「そ、そうなのか、でも店が忙しいだろう、良く来れたな」


「それがヒルディさんのお陰で大分楽になっちゃってね、ビキニパラダイスの注文も落ち着いて暇だったし……それにさ、やけにオヤジがウキレアに行くようにうるさく言うもんだからさ、仕方なくここに来たんだ」


 ミリットが父親であるドノバンの勧めで、ウキレアに来たと言っているが実情は違っていた。


 上皇アインザーの娘、ヒルディが鍛冶屋【覇者の剣】で働き始めてからしばらくして、ミリットの父親ドノバンと良い関係となっていた。


 しかし実の娘のミリットが居る手前、気を遣ってお互いが距離を取るという事態に陥っていた。


 そこにエーシンの手紙が届き、コスモの装備とリフィスの槍をオルコン鉱石で製作する依頼が入った。


 これは好機と見たドノバンが、娘のミリットを追い出す様に商業都市ウキレアに向かわせたのが事のあらましである。


「そこでウキレアにある工房を借りようと思ってね、こっちの鍛冶屋のご主人達と交渉してたの。リフィス様の新しい槍と、コスモの防具の製作依頼はそこに居るグストさんから正式にもらったんだ」


「ミリットがここに居る理由は分かった。しかしよ……エーシン、あんたここまで予測していたのか?」


「拙僧もそこまで万能では無い、たまたま運命の歯車が合っただけの事よ」


 エーシンが小動物のような可愛い顔をにんまりとさせる。コスモはエーシンの顔を見ながらその先を見通す力に、小さく息を付いて驚くばかりであった。


 そこへ割って入る様にミリットが迫ると、満面の笑みで両手を前に出してコスモにねだり始める。


「という事で……コスモ、オルコン鉱石をちょーだい!」


「ぐっ、ぐぬぬ……」


「ど、どうしたのコスモ?早くオルコン鉱石をミリット嬢に渡しなよ」


 ここまで来れば鍛冶師のミリットにオルコン鉱石を渡すだけなのだが、コスモが顔を歪ませ渡すのを渋る。その行動が理解できなかったリフィスが、コスモにオルコン鉱石を渡すように促す。


 この時コスモは直感、というよりも確実に訪れる結末が見えていた。


 それはコスモの格好と盾を見れば十分に理解できるであろう。ピンク色のビキニアーマー、ピンク色のハート型の盾、性能こそ抜群であるが、見た目は奇抜、それがミリット流である。


 コスモの反応を見たミリットが、それに気付き不満そうな顔になって行く。


「ひっどいなあ、さすがにリフィス様の槍はライオネルシリーズのピンクにしないよ!」


「うおーーーーーーい!!それなら、俺の装備も普通の形や色にしてくれよっ!!」


 ミリットのまともな発言に、趣味全開の装備をあてがわれているコスモが、勢い良く突っ込みを入れる。


「やーだもん、コスモはピンク色が一番似合ってるからね!」


「ぐ、ぐぞぉ……」


「コ、コスモはその格好が嫌だったんだね……てっきり好きなものだと思ってたよ」


 コスモが好き好んでピンクのビキニアーマーでいるわけじゃない、驚愕の事実を知ったリフィスが少し同情気味になっていた。


 結局コスモの抵抗も虚しく、オルコン鉱石がミリットに手渡されると、子供の様にはしゃぎまわり鍛冶屋の工房に向かって行く。


「完成したらすぐに持って行くから楽しみにしててねー!!」


「ああ、僕の槍を頼んだよミリット嬢!」


「どんなのが出来上がるのか、俺は不安しかねえよ……」


 そう言ってミリットが小躍りしながら、ウキレアにある鍛冶屋の工房へ向かって行く。それを暗い顔で見つめるコスモと、明るい笑顔で見つめるリフィスが対照的であった。


 泣き崩れていたグストがエーシンに支えらえると、涙を拭いリフィスに報告を行う。


「リフィス様、すでに各地の地区領主、貴族達が屋敷に集まっております。そこでリフィス様の思い描いている今後の方針について説明をお願いします」


「分かったグスト、僕の意図を汲んでくれて助かる」


「じゃあ俺も立ち会うよリフィス、その方が説得力もあるし……」


「コスモ、お主は拙僧と別の仕事がある。リフィスと共に参加する必要は無い」


 コスモがリフィスと一緒になって地区領主達を説得させようと提案するが、エーシンによって却下される。その言葉を聞いたコスモが焦った顔でエーシンに詰め寄る。


「なんでだよエーシン!一緒に外交に行った俺が居れば貴族達も納得するだろ!」


「よいか、これはジョストン領の命運がかかっておる。部外者の拙僧達が余計な口出しをしても結果は変わらぬ、むしろ悪くなる可能性もある。ここはリフィスを信じて待つのだ」


「だ、だけどよ……」


 ジョストン領の領主リフィスの教育の依頼を受けただけで、領地の方針に口を出すのは見当違いだとエーシンが諭すと、コスモが顔を渋くする。


 近くで聞いていたリフィスが心配するコスモの気持ちに嬉しく思いながらも、表に出さないよう男らしい顔付になって言葉をかける。


「安心して待っててくれコスモ、もう決めたんだ。これだけは僕がやり切るってね!」


「……分かったリフィス。だが帝国が敵になろうが、俺はお前の味方だ!それだけは忘れないでくれ」


「ありがとう、その言葉が何よりも頼もしいよ」


 リフィスが笑ってそう言うと、軍師のグストとエシェラントと共に屋敷の中へ入って行く。


 コスモの目には最初に出会った時に比べてリフィスの背中が大きく見えていた。領主として神器の継承者として、目的を達成するための覚悟の表れがその要因だろう。


 屋敷の扉が閉まるとエーシンがコスモに目を向け、自分達の仕事へ移っていく。


「ではコスモ、拙僧と一緒に仕事斡旋所へ行くとするか。少しでも味方となる冒険者の勧誘をしなくてはな」


「……ああ、そうだな、行こう」


 そしてコスモもエーシンとペガサスのサジーを引き連れ、商業都市ウキレアの仕事斡旋所へ向かって行く。





 領主リフィスの屋敷では評定が行われる会議室に、各地から集まってきた地区領主達が集まっていた。


 その地区領主達も2つに分類される。世代交代をしたエシェラントと同じ若い貴族に、年配の貴族である。


 特に年配の貴族は顔に生々しい傷跡を残し、歴戦の猛者のような佇まいをしている。帝国本土から離れた飛び地である、ジョストン領での暮らしは簡単なものではないことを物語っていた。


 初代の領主キリアンがジョストン領に入って来た頃は、元バルドニア王国の住民の反発もあって一揆などが頻発していた。


 それに便乗した賊も襲って来て、ジョストン領では何度も小さな騒乱が頻発していた。


 その騒乱期を戦い抜き、キリアン、フィアン、リフィスと三代に仕えて来た年配の貴族達はジョストン領の戦力の中核を担う存在となっていた。


 集められた貴族達は評定の時とは違い、ほぼ全員が揃っていたが未だに集められた理由を知らない。ただグストから送られた書状には『ジョストン領の火急の危機』と書かれていたので、急いで駆け付けた者が多かった。


 そのグストの意図が読めず、貴族達の間では不満が溜まりつつあった。


「一体グスト殿は何を考えておられるのか……」


「どうせ、バルドニア王国に土地を返還するのだ。火急の危機とはその事だろう」


「今さら、若様に何を言っても無駄だろう、だからこそわしは評定に参加しなかったのだ」


 年配の貴族達は神器の扱えない【無能のリフィス】に三行半(みくだりはん)を付けていた。


 リフィスが幼年の頃は、フィアンの頃と変わらない忠誠心で必死に守り抜いてきたが、成長する度に卑屈になって行くリフィスに我慢がならなかった。


 神器が扱えないのもあるが、何より初代のキリアン、二代目のフィアンが命を懸けて守ってきた領地を、リフィスがあっさり返還すると発言したのが決定的であった。


 それ以降、評定に参加する必要性を感じなくなった貴族達が、バルドニア王国のカイネル王に呼び出され歓待を受けていた。


 人は酔うと本音を出しやすくなる、その事をカイネルの側近に愚痴を言ったりと、リフィスから気持ちが離れている事を伝えてしまっていた。


 その後はカイネル王から返還後の領土安堵を条件に、バルドニア王国に残るように誘われていたが、キリアン、フィアンに命を懸けて従った男達である。毅然と断りを入れていた。


 しかし世代交代して初期のジョストン領を知らない若い貴族が数人応じてしまっていた。


 そんな状況で会議室にリフィスと軍師のグスト、エシェラントが入って来る。四角い会議用のテーブルの席に着いた貴族達の注目が一気にリフィスへ集まって行く。


 リフィスが上座の席に着くとその横にグストが立つ、エシェラントも自分の席へ着く。


 いつもとリフィスの雰囲気が違う事に貴族達がざわつき始めていた。しばらくして静かになると、グストから全員に向けてジョストン領の将来について話を始める。


「皆、よくぞ集まってくれた。これからジョストン領の取るべき道を話したい!」


 グストの言葉に再び貴族達がざわつき始めるが、気にする事なく言葉を続ける。


「この先はリフィス様からお話しする。良く聞くように!」


 話を振られたリフィスが集まった貴族達の1人1人の顔を眺め、きりっとした顔でゆっくりと口を開く。


「これからのジョストン領の話だけど、単刀直入に言おう!我が領地はバンディカ帝国と決別して独立を目指す!!」


「なっ!なんですと!!」


「い、一体どういう意味なのだ!」


 リフィスの突然の決断に、理解が追い付いていない者達から疑問の声が上がる。いきなり帝国を裏切ると言われれば普通の貴族であれば動揺する。


 そんな反応は織り込み済みだと言わんばかりにリフィスが話を続ける。


「バルドニア王国がジョストン領を編入した後に取る行動は、ただ一つ、北方連合国の統一。そうなれば再び邪神竜との戦いと同じように、この広大な土地が荒れていくのは明らかだ。それを止めるにはスーノプ聖国、リンティス魔導公国と手を組む事が最善と僕は考えている」


 会議用のテーブルを囲んでいた貴族達が一斉に無言になる。


 以前からカイネルの言動や行動は、明らかに野心を持ったものばかりで、リフィスの言葉通りになる事は薄々ながら貴族達も気付いていた。


 だが同盟関係であったので、諫める事もできず言われるがまま成すがままであった。


 すると1人の年配の貴族が立ち上がる。


「若様、本気で言っておられるのですか!恩ある帝国を裏切るのですぞ!」


「だからこそだ!ウェイリー陛下は争いを望む方では無い!だが同盟を結んでいる以上、手が出せないでいる。それを僕達が助けるんだ」


「し、しかしスーノプ聖国とリンティス魔導公国と我らが同盟を組んだとしても、バンディカ帝国は同盟という関係上、援軍をバルドニア王国に送るでしょう!その戦力が加われば圧倒的に分が悪い!どのようにして戦うのですか!」


「……それは……商業都市ウキレアに籠城して戦う!」


 リフィスは戦力差と練度の差を考え、籠城しかないと判断していた。


 野戦では圧倒的にバルドニア王国とバンディカ帝国に分がある。大軍を相手にするにはどうしても籠城が必要であった。


 しかし1つ問題点もある。もう1人の年配の貴族が立ち上がるとその問題を指摘する。


「籠城するという事はスーノプ聖国とリンティス魔導公国から援軍が望めるのですか!」


「いや……援軍はない……戦火を広げないために籠城をする。局地戦を続けていれば領民達を巻き込む……それを防ぐためなんだ……」


 ジョストン領はバルドニア王国の一部だった事もあるが土地が思った以上に広い。


 そこで戦線を作れば、おのずと領民達の土地に被害が及ぶ、時間を稼ぐのであれば一番効果的であるが、被害も大きく再び立て直すのに長年の月日が必要になる。


 ようやく邪神竜の戦いで荒れ果てた土地をよみがえらせたのに、再び灰燼となれば領民も絶望して去って行くだろう。


 静かになる貴族達の中でエシェラントだけは動揺する素振りを見せずに、席に座ったままリフィスの後押しをする。


「私はリフィス様の考えに賛同する。あのカイネル王の事だ、ジョストン領を得たら自国と同じように徴兵や重税を課して北方連合国の統一を始めるのは間違いないだろう。そうなったら一番に犠牲になるのは領民だ!」


「……エシェラント卿、ありがとう」


 エシェラントの言葉に礼を言うと、横にいたグストが貴族達に籠城の意味ついて触れる。


「籠城と聞いて不安に思う者も居るでしょう。しかし籠城して時間を稼ぐ事で、スーノプ聖国とリンティス魔導公国が戦闘を優位に進められます。そうなれば戦況はバルドニア王国に不利に働くでしょう」


「確かにバルドニア王国の国民は重税に苦しんでいると聞く……そうなると長期に戦う事は視野に入れていない筈……」


 貴族達もリフィスの独立という提案が無謀では無く、良く考えられている事に納得をする。


 何よりリフィスの変わり様に年配の貴族達は驚いていた。中には不甲斐ないリフィスを殴り付けた者も居る。その者達の目に映る今のリフィスは初代キリアンのように見えていた。


「ここに居ない者は仕方ないとして、今ここで僕に付き従うか決めて欲しい。そしてこの戦いはジョストン領のためでは無く、ジョストン家の悲願である北方連合国から争いを無くすためである事を忘れないで欲しい」


 その場に居た貴族達が無言になる。バンディカ帝国を捨ててまで初代キリアンから目指していた争いの無い北方連合国を、リフィスが受け継いで目指していると知ったのだ。


 年配の貴族達の身体が震え始めると、席から立ち上がりリフィスの近くに寄って跪く。


「若様……いえリフィス様、過去に無礼な働きをした事は後で必ず清算致します。この年寄りで良ければ、是非とも戦列に加えて下され!」


「……ありがとう、だけど清算する必要は無いよ。昔の僕は確かに【無能のリフィス】だったからね。でも今は違う、例え神器が扱えなくても出来る事があるって分かったからね」


「や、やはりリフィス様はフィアン様の子!我々の命を捧げます!」


 年配の貴族達が一斉に頭を下げると、エシェラントが立ち上がり、その後ろに若い貴族が数人付いて来ると同じようにリフィスに近寄り跪く。


「我らもリフィス様のお力になります」


「よろしくねエシェラント卿」


 こうして集まった貴族のほぼ全員が、リフィスの独立に賛成して協力を申し出る。それを見たグストが協力を申し出ない貴族に向かってわざとらしく言い放つ。


「すでに籠城の支度は整いつつあります。よって各人は領地に戻り、雪解け前に兵を連れてウキレアに参陣するようにお願いします。この事は機密事項に当たりますので内密に、特にバルドニア王国に話す事がないようにお願いします!」


「そ、そうですな、では早速戻って準備を整えてきましょう!」


 席に座っていた貴族が焦るように反応をすると急いで会議室を出て行く。


 グストは会議室に入る前に、リフィスに独立と籠城の話だけをするように申し付けていた。すでに地区領主の中に裏切り者が居ることが分かっていたからだ。


 だからコスモや軍師のエーシンの存在、後はスーノプ聖国とリンティス魔導公国からの物資の融通を黙っていた。


 すでにグストは長期戦を視野にエーシンと共に動いていたのだ。それが商人達の荷入れや慌ただしさの原因であった。


 そして協力を申し出てくれた貴族達も続々と会議室を出て行くと、自分達の領地へ戻って行く。あれほど騒がしかった会議室がリフィスとグストだけとなる。


「リフィス様、見事な演説でした」


「グスト、君は優秀な軍師だよ。僕の一手先二手先を読んで根回しをしてくれてるのだからね」


「それが軍師の務めでございます、リフィス様」


「ふうー……でもここまで来てしまったからには、何としても独立をやり遂げないとね……」


「ご安心下さいリフィス様、我らには頼もしい味方が付いております。しかも2人もです」


「はははは、確かに言えてる。コスモとエーシン先生、あの2人が味方なら鬼に金棒……いや神器だね」


 ジョストン領の独立に多くの貴族達が賛同すると、バルドニア王国に対抗するスーノプ聖国とリンティス魔導公国との同盟が成立する。後は如何にしてバルドニア王国の猛攻を凌ぎ、戦況を有利に運ぶかが勝負所となる。

 

 ここまで来れたのも、コスモとエーシンの働きが大きい事をリフィスとグストは身を以って分かっていた。そしてその2人が自分達の味方であることを非常に頼もしく感じていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ