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元騎士団のおっさん伝説のピンクビキニアーマーになる ~魅力を添えて~  作者: トリミング中の噛み犬


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第93話 赤いペガサス

 天馬騎士の騎乗するペガサスは自然界にも数多く生息しているが、人が騎乗ができるペガサスとなるとアセノヴグ大陸でも、リンティス魔導公国が運営するペガサス牧場にしか存在しない。


 そしてペガサスは神経質な性格で、人に慣れるまでに非常に長い時間がかかる。そんな特徴もあって天馬騎士(ペガサスライダー)になる女は、小さい時からペガサスと接して信頼を得て行く訓練を行っている。


 ここまでは竜騎士とほとんど訓練内容は同じなのだが、飛竜とペガサスには最大の違いがある。それが積載能力と滞空能力である。


 その原因は体の構造の問題で生物的に飛竜の祖先は竜、ペガサスの祖先は馬とされるからだ。元々馬なので足は強靭だが、ペガサスの翼は後天的に出現したものとされているので、積載能力と滞空能力に差が出るのは自然の成り行きであった。


 そしてペガサスは男を嫌い女にしか懐かないという特徴がある。その結果、天馬騎士は厳しい体重管理を行えた女のみがなれる特殊な職業となっていた。


 バルドニア王国の国王カイネルが戦力増強を理由に、天馬騎士団の廃止を決断した理由でもある。


 大陸で唯一のペガサス牧場は、山の中腹のなだらかな丘の草原が広がる場所に建造されている。空上都市ナクラティスから歩いて数時間の場所だが、山岳地帯特有の下り坂や上り坂の道が続いている。


 そのような街道を重装鎧を着た天馬騎士の姉妹、通称【シザーシスターズ】のマーシャとイリーナが汗だくになりながら走っていた。


「ぜえぜえぜえ……」


「はあはあはあ……」


 2人の顔からは冬にも関わらず滝のような汗を流していた。表情は今にも倒れそうなほどに苦しい顔をしているが、歯を食いしばって耐えていた。


 その後ろからはピンクのビキニアーマーを着たコスモがケツビンタを思わせるような素振りを見せながら迫っていた。


「おらーどうした!走り出してまだ30分だぞ!」


「ぜえぜえ……ぐ、ぐぞお……なんでわだじだぢだげぇ……ぜえぜえ」


「はあはあ……ご、ごんなざがみじ……はじらぜるなんでびどい……はあはあ」


 マーシャとイリーナが走っている道は、急な上り坂で普通に歩いても息が切れるくらいの勾配があった。だがそれでも2人は文句を言いながらも走れている。


 コスモは少しずつだが、マーシャとイリーナの成長率が他の者に比べて高い事に気付き始めていた。


 最初は走るだけでも息を切らせて、すぐに歩いていたが、今は勾配のある坂を重装鎧を着て走れている。成長率だけで言うとリフィス達と同じかそれ以上とも言えたが、まだまだ弱い事には変わりはない。


 その先では同じく重装鎧を着たリフィスとガリオンが走りながら話をしていた。2人は年齢が近い事もあって、すぐに打ち解け友達のような関係になっていた。リフィスはリンティス魔導公国に訪れた理由をガリオンに説明をしていた。


「……コスモ姉さまがペガサスを求めていたのは、自分が乗るためだったんだ……」


「バルドニア王国は空の戦力が充実しているからね、問題はコスモに見合うペガサスが居るかどうかなんだけど……」


「それは大丈夫だよリフィス、牧場には色々な性格のペガサスが育てられているからね、きっとコスモ姉さまに合うペガサスが居るはずさ」


 コスモが騎乗するペガサス探しの会話を楽しそうにしているリフィスとガリオンだが、リフィスは元々、コスモの騎士団式の訓練を受けて【体力】はある。


 ガリオンは姉のマーシャとイリーナと違い、幼少の時から騎士達に混じって真面目に訓練を行っていたので、基礎的な能力値は上級を超えつつあった。

 そのお陰でコスモの訓練も淡々とこなしていた。


 空上都市ナクラティスから走り続けること1時間ほどでペガサス牧場に到着する。街道を走る途中から木でできた柵が見え始め、広大な草原地帯にはペガサスが何頭も放牧され、幻想的な景色が見えていた。


 牧場の奥には三角屋根をした横長い厩舎が見える、恐らくそこがペガサスの馬房になっているのだろう。


 広大な草原地帯を囲う木の柵と、柵の間には厩舎まで舗装された道が続き、厩舎の近くにはペガサスの世話をする人が住む、2階建ての寄宿舎が建てられていた。


 その寄宿舎にコスモ達が向かうと中から、中年の黒い眼鏡をかけた女が現れる。茶色のショートヘアに眉間に皺を寄せるようなしかめっ面、半袖の綿の白いシャツの上に羽毛を詰めた紺色ベストを着て、下は綿の紺色の長いズボンに革製の長いブーツをはいている。


 黒い眼鏡をかけた女がマーシャとイリーナの姿を見ると、手に持っていたバケツと厩舎用フォークを壁に置いてコスモ達の下へ近付いて来る。


「へー珍しいじゃないか!噂の【シザーシスターズ】が2人揃うなんてさ!一体どうしたんだい?」


「「エイダ先生!お久しぶりです」」


 マーシャとイリーナが珍しくエイダという女に頭を下げている。このエイダこそがリンティス魔導公国が誇るペガサス育成の名伯楽と言われたペガサス牧場の主であり、調教師でもある。天馬騎士なら誰もが知る有名人で頭の上がらない人間の1人だ。


「元気そうで何よりだね!若い内は元気が大事さ!……それで後ろに居るでかいピンクのビキニアーマーの女と茶色の髪の男は一体誰だい?」


「エイダ先生、この2人は僕が紹介します」


「あら?ガリオンじゃないか!……という事は姉達を許したのかい?」


「いえ、許してません!」


「そ、そうなのかい……」


 姉達を許したのかという問いに対してガリオンが毅然とした顔で許してないと答える。そのようすを見る限り、ガリオンの恨みは相当、根深いものだと分かる。


 そのような返答を受けて事情が飲み込めないエイダが、ガリオンから牧場を訪れた説明を受ける。


 自分達がなぜこの場に居るのか、そしてコスモとリフィスがジョストン領の帝国の人間である事、最後にペガサスが必要になった事を伝える。


 説明を受けたエイダが納得するような顔になると、コスモの体をじっくりと観察する。


「理由は分かったよガリオン、だけどコスモに合うペガサスとなるとかなり難しいねえ」


「そ、そこをエイダ先生の力でどうにかできないでしょうか?」


「リフィスって言ったかい坊や、ペガサスは普通の馬と違って神経質で繊細な生き物なんだ。それにコスモは天馬騎士の定めている規定体重を大幅に超過している」


「た、確かに普通の女よりは重いけど!それは身長があるからだぞ!!」


 意外にも体重を気にしていたコスモが、慌てて自分が重くない事を強調するが実際はリフィスよりも重かった。それを一目見ただけでエイダは見抜いていた。何人もの天馬騎士の女達を見て来たので体重を見抜く事はエイダにとって朝飯前である。


 しかしガリオンを説得してリンティス魔導公国を救った恩人であるコスモに、どうにか騎乗できるペガサスを探してやろうと思案を始める。


 しばらく考えると壁に置いたバケツと厩舎用フォークを手に取り、放牧しているペガサスの所へ案内する。


「付いて来な!比較的体格の大きいペガサスを見せるから、一度試してみると良い!」


「そりゃ、ありがたい!頼むぜエイダ先生!」


 コスモが嬉しそうな顔になるとエイダの後を追って行く。全員で厩舎の横を通って柵に囲まれた牧場まで移動すると、エイダが手に持っていたバケツと厩舎用フォークを柵に立てかけ、木で出来た両開きの大きな扉を開けて柵の中に入る。


 慣れた手付きで指笛を吹くと放牧されていたペガサスが一斉にエイダの下へ駆けたり飛んだりして集まって来る。

 集まってきたペガサスの頭を撫でると、木の柵に引っ掛けていたあぶみを手に取りペガサスの背中へ載せていく。


「じゃあコスモ、この子に乗って見な。ここに居る子達はみんな優しい子ばかりだから、あんたを乗せてくれるだろうよ」


「そ、そうなのか、いいのか!」


 コスモが少し興奮気味になってペガサスへ寄って行く。白い翼の生えたペガサスを間近に見てコスモは子供のように感動していた。


 それを緊張した面持ちでリフィス達が見守っている。見守られながらコスモがペガサスの背中に跨ると、ここにやっと念願の【ペガサスソードアーマー】が誕生する。


 がしかし現実とはそれほど甘くは無い、その直後ペガサスが口から泡を吹き苦しそうな声でいななき始める。


「ヒッ、ヒヒィーーーーン!!」


「えっ!なんだなんだ?ペガサスのようすが変だぞ!!」


「ちょ、ちょっとコスモ、すぐに降りな!この子が苦しんでる!!」


 慌ててコスモがペガサスから飛び降りると、ペガサスが脚を震わせてその場にへたり込む。それを見ていたマーシャとイリーナがよせばいいのに、笑いを我慢できずに声を上げてしまう。


「「ぶふぅー!!ペガサスが潰れるの初めて見たんですけどーどんだけ重いんだっての!!」」


「くっ!マーシャ!イリーナ!腕立て30回!!」


「「ぐ、ぐぐぬぅ!!」」


 ペガサスが苦しそうにその場にへたり込むと息を荒くしていた。それを見て笑ったマーシャとイリーナに顔を赤くしたコスモが八つ当たりの腕立てを命じる。


 エイダが慌ててへたり込むペガサスのようすを確認する。大きな怪我は無いがかなり体力を消耗している事に気付くと、すぐにコスモの姿を見回して険しい顔で問い詰める。


「……コスモ、あんた何か重い物を持ってやしないかい?」


「え?えっともしかすると……この魔剣が重いかもしれないな……」


「ちょっと貸して見な……」


「少し待ってくれ、おい!リフィス、ガリオン、エイダ先生と一緒にこの魔剣を持ってやってくれ!」


「ああ、分かったコスモ!」


「分かりましたコスモ姉さま!」


「いいか?全力を出して持てよ、これは冗談じゃねえからな!」


 コスモが魔剣【ナインロータス】を手に取ると、エイダがその魔剣の重さを計ろうとするが、1人では危険だと思ったコスモがリフィスとガリオンに手伝うように指示を出す。


 3人がそれぞれ魔剣の両端と真ん中を手に持って準備するとコスモがそっと手を放す。すると魔剣を支えていた3人の手に、想像を超えた重量が圧しかかり始める。


「な、なんだいこの重さは!!まるで大男2人分の重さはあるじゃないか!!」


「うんぐぐ……こ、こんなに重かったのかこの剣!」


「むぅう……こ、これじゃあペガサスも持たないよ!」


 エイダ、リフィス、ガリオンが腕を振るわせて何とか魔剣を持っていたが、それでも全力を尽くさないとすぐに落としそうになっていた。そこにコスモが魔剣の柄を掴み3人から取り上げると、手首を使ってクイッと刀身を上に持ち上げて悲しそうな顔をする。


「はあ……やっぱりこいつが重すぎたか……」


(コスモはこんな重装鎧よりも重い剣を持って……あの速さで走っていたのか……)


 魔剣【ナインロータス】の重さは鍛冶師のミリットとドノバンの2人でようやく持ち上がる代物である。それを木刀のように持って移動するコスモを見ていたリフィスが、改めてコスモの異常な力を再認識させられていた。


 がっかりとしたコスモが魔剣を背中にしまうと、集まっていたペガサス達の方を諦めきれない目で見つめる。視線に気付いたペガサス達がビクッと反応するとゆっくりと後ずさりをして一斉に牧場の端っこへ逃げ出してしまう。


 それを見ていた腕立て中のマーシャとイリーナが噴き出してしまう。


「「ぶっふー!!」」


「……あと30回追加な!」


「ええーーー!!笑わせにきたのはコスモではないか!……はあはあ」


「そうだそうだ!横暴だぞ!暴力はんたーい!……ぜえぜえ」


「うるせえ!俺はなペガサスに乗れるのを楽しみにしてたんだ!そのペガサスに逃げられた今の俺の気持ちが分かるか!!」


(や、やっぱり、使命とかそういうのじゃなくて、本当に楽しみにしてたんだねコスモ……)


 コスモの熱いお気持ちの表明にリフィスが苦笑いをして呆れていた。ジョストン領やリフィスのためでは無く純粋にペガサスに騎乗できる事をコスモは楽しみにしていた。


 だが目の前でさーっと逃げて行くペガサスに相当な衝撃を受けて凹んでいた。


 そんなやり取りをしている横で、ペガサス調教師のエイダが顔に汗をにじませ悩んでいた。それに気付いたガリオンが心配になって声をかける。


「エイダ先生、どうしたんですか難しい顔をして、気分でも悪いのですか?」


「う、うん、実はコスモに合うペガサスなんだけどね……心当たりが無くはないんだ」


「ほ、本当なのですか先生!」


「だけど問題のあるペガサスでね……ここだけの話、そのペガサスには何人も職員が怪我を負わされているんだよ」


 ただのペガサスでは魔剣【ナインロータス】を持つコスモを支えきれないと感じたエイダが、とあるペガサスの存在を思い出していた。


「そんなペガサス、昔は居なかったですよね……姉達に連れられて来た時は大人しいペガサスばかりでしたし」


「……少し前になるかね、牧場の近くで瀕死になっていた野生のペガサスを助けてね。性格は荒っぽいんだけど、他のペガサスの面倒を見たり、魔獣の襲撃から守ってくれたり、本当は優しい子なんだけどちょっと癖が強いのさ」


 話しに出て来たペガサスは野生のペガサスで牧場の近くで瀕死になっていたところをエイダが助けたという経緯があった。


 懸命な治療を受けて立ちあがるまで回復するのだが、人を嫌っていてエイダ以外の人間が近付こうとすると体当たりや後ろ脚で蹴り飛ばしたりと暴れていた。


 通常の個体に比べて体格がとても大きく、黒に近い赤い翼と毛並みに覆われ体の至る所に傷跡が残っていた。このような個体は初めてだったエイダは扱いに非常に困っていた。


 そして完全に傷が癒えても牧場から離れようとせず、稀に襲って来る魔獣などを蹴散らしては自分の寝床に戻ってくる生活を送っていた。


 気性の激しさがあるものの、命の恩人であるエイダには感謝しているのか恩を返そうと、牧場の用心棒のようになっていたのだ。


「もしかしたら、その子ならコスモを支えられるかもしれない……けど、命懸けだよ!」


「エイダ先生、コスモ姉さまならきっと大丈夫ですよ。なんてたってあの問題児の姉達を難なく扱っているのですから!」


「ガリオン……あんた本当に姉で苦労したんだねえ……」


 ガリオンがにっこりと笑うと、エイダの心配を姉達の存在を例えにして払拭しようとしていた。その例えで如何にしてガリオンが姉達に苦労をしてきたのかエイダが理解をする。


 そしてリフィスに慰められているコスモに、ガリオンが寄って行くと『もしかしたら騎乗できるペガサスが居るかもしれない』と伝える。それを聞いたコスモが見る見るうちに機嫌を直していくと小さくガッツポーズをする。


 笑顔で上機嫌となるとマーシャとイリーナの腕立てを切り上げさせて、エイダに問題のペガサスの下へ案内するようにお願いする。


 問題のペガサスは厩舎の大きな馬房に居るという事なので、柵の両扉の門をエイダが閉めるとその後にコスモ達が続く。


 厩舎の中はかなり広く馬房の数だけでも50以上はある。通路では職員の女性達がエイダと同じ格好で忙しく働いていた。馬房の藁の交換や汚れの掃除、バケツに汲んだ水を撒いては木製のブラシで床を磨いている。


 その通路をさらに奥へ進むと一際大きい馬房が見えて来る。元々は分娩用の馬房で大きく作られた馬房である。その前までコスモ達が進むと問題のペガサスが姿を現す。


「この子が例のペガサスさ、言っておくけど不用意に近寄るんじゃないよ!厩舎の反対側まで蹴り飛ばされるからね!」


「こ、こいつが……お、俺のペガサス……」


「落ち着いてコスモ、まだ君のものになった訳じゃないからね……」


「でもエイダ先生の言う通り、凄く大きいペガサスですね……体も凄く真っ赤だし……」


 そのペガサスは藁の敷き詰められた上に堂々と横たわっていた。通常のペガサスの2倍近い体格に特徴的な黒に近い赤色の毛並みをしている。脚は徹底的に鍛え上げられたように筋骨隆々で太い血管が浮き出している。


 背中に生えた赤い翼も通常のペガサスと比べてもとても大きい。体温も高いのか近寄るだけでも生物としての暖かさを感じ取れる。

 そして大きな体格に似合わないつぶらな瞳をしていてコスモ達に怯える事なくじっと見つめていた。


 そこへペガサスの扱いには自信を持っていたマーシャとイリーナがしゃしゃり出ると赤いペガサスへ寄って行く。


「エイダ先生、私にはペガサスをこの世で誰よりも扱う自信があります。この赤いペガサスだって私にかかれば……」


「こらマーシャ姉、良い所を見せようたってそうはいかんぞ!私こそがペガサスの扱いというものを見せてやる」


 この期に及んで、マーシャとイリーナはコスモに対しては天馬騎士として先輩面、リフィスに対してはアピール、ガリオンに対しては姉の威厳を見せようとしていた。どこまで行っても自惚れの強い姉妹である。


 そして不用意に赤いペガサスへ近付くとエイダが大きな声で止めようとする。


「マーシャ、イリーナ!それ以上は近寄るんじゃ……」


 そう言いかけた瞬間、赤いペガサスが目にも止まらぬ速さで立ち上がると、頭を大きく横に振ってマーシャとイリーナの腹部に目がけて頭を払うように勢い良くぶつけてくる。


「うげぇ!」


「ぎゃっ!」


 潰されたカエルのような声でマーシャとイリーナが吹き飛ばされると、廊下に沿って厩舎の中央部まで飛んで行く。立ち上がった赤いペガサスは頭を含めると大人2人分と同じ高さがある。


 高さだけで言えばリフィスの倒した超獣(ベヒモス)化した白嶺大熊(シルバビッグベア)と同じくらいだ。


 その立派な体躯に艶やかな赤い毛並みの立ち姿に、ペガサスの王のような風格を漂わせていた。


 吹き飛ばされたマーシャとイリーナが体を震わせながら少しずつ体を起こし始める。そのようすからこの赤いペガサスは手加減をしたのだろうとコスモは感じていた。


 もしあの体で本気で攻撃をしたら、あの弱いマーシャとイリーナが五体満足でいれる訳がないからだ。


 頭を抑えたエイダがマーシャ達に目を向けると困った顔をする。


「だから言わんこっちゃない、私以外はそうやって攻撃されるのさ」


「確かにエイダ先生の言う通り、一筋縄じゃあいかないみたいだな……」


 エイダの話の通りの暴れん坊振りを見せられると、コスモが体の大きな赤いペガサスを見上げてたじろぐ。どうしたら良いか、コスモが頭を悩ませていると荒っぽい言葉使いの声が聞えて来る。


(こん砂利が!わしの体に触れようなんて100年早いんじゃ!ぼけぇ!)


「えっ?……今、誰か砂利とかぼけぇとか言ったかリフィス?」


「砂利?ぼけぇ?僕は言ってないけど……ガリオンはどう?」


「僕も言ってないけど、どうしたのコスモ姉さま?」


「誰も言ってない……となると、これはまさか……」


 コスモがまさかと思いながら、そっと鼻息の荒い赤いペガサスを見つめる。そしてある技能を使おうとするが、久しぶりに使う技能なので少し緊張していたコスモが普段と違う、慎重で丁寧な口調で語りかける。


(あのー今の声ってもしかして赤いペガサスさんですか?)


(ん?わし以外に誰がおるんじゃ!ああん?……って、おどりゃわしの声が聞こえてるんかい!)


(は、はい、バッチリと……)


(なんか派手な格好をしとる変わった女じゃのう、やっとまともにわしと会話できるもんが来たか!)


(俺が変わった格好だって事はペガサスでも分かるんだ……)


 コスモの予想通り赤いペガサスは技能【意思疎通】を持っていた。その技能はコスモも当然持っていて、最後に使用したのはスーテイン領で【火竜の腕輪】を壊されて火竜になったままの竜人ビトーネ以来で、コスモも久しぶりであった。


 だが見た目よりも言葉使いが荒い上に、変に常識を持っている赤いペガサスにコスモは少しげんなりとしていた。赤いペガサスもコスモに話が通じる事が分かると、一気に口が軽くなって行く。


(わしの名はサジー、瀕死になっていた所をそこのエイダという女に救われてな、行く宛てもないからこの牧場の用心棒をしちょるんじゃ!)


(俺はコスモって言います。サジーさんは、その、行く宛てが無いんですか……)


(積もり積もった話なんだがのう、ここからもっと西にあるわしの縄張りの(シマ)で静かに過ごしてたんじゃが、クソ飛竜どもに襲撃(カチコミ)されてのう……)


(そ、そうなのか……)


(シマ荒らしは法度じゃあ、自然界でもそう決められちょる!そらあもう、わしはブチぎれてしもうてのう!そこらじゅうで暴れ回っていたら、いつの間にか瀕死になっててのう!仲間の気配を頼りに飛んでいたらここに辿り着いたという訳じゃ)


 赤いペガサスの名はサジーと言い、西にある棲み処を飛竜に追われて孤軍奮闘していたらいつの間にかペガサス牧場に辿り着いたと語っていた。


 話して見るとなんとも戦闘意欲の高いペガサスで、神経質で繊細な面影はどこにもなかった。


 その事をエイダやリフィス達に伝えると、当たり前だが驚き戸惑っていた。するとリフィスが思い出したようにコスモにある事を伝える。


「確か超獣化した魔獣は技能を持つってパフィが言っていたけど、もしかしてこのサジーは超獣化したペガサスの個体なんじゃないかな?」


「そうかもしれないな……それとリフィス、サジーさんが【さん】を付けろこの茶色頭の小僧が!と言っているぞ……」


「ちょっと怖すぎでしょ……サジーさん……」


 リフィスの推察通り、サジーは超獣化したペガサスで技能【意思疎通】を会得していた。しかも知能も高く若輩のリフィスが自分の事を呼び捨てにしているのが気に入らないので、コスモを介して注意をするくらいだ。


 だが言葉が通じるとなると騎乗する交渉も行いやすい。その事に気付いたエイダがコスモに交渉をするように勧める。


「言葉が通じるなら話は早い、コスモ、あんたの技能でサジーに騎乗できるか交渉してみな。もし助けられた恩を感じてるなら、言う事を聞きなってね!」


「そう言ってもらえると助かる。サジーさんと交渉してみる」


 そういうと技能【意思疎通】を使って早速コスモがサジーと交渉を始める。


(聞いてたと思うが、俺をサジーさんに騎乗させて欲しい。あんたが居れば国を救う事が出来るんだ)


(お断りじゃ!わしはな人が飛竜並みに大嫌いなんじゃ!弱いくせにせっこい方法で襲ってきたりしてのう、1人じゃ何も出来んくせに人数が集まれば強気になるのも気に入らんのじゃ!)


(サジーさんの言う通り、そんな人間も居るさ。だけどエイダみたいな瀕死のサジーさんを救う人間も居る。少しでも自分を助けてくれた事を恩に感じているなら俺に協力してくれ頼む!この通りだ!)


 コスモがサジーに向かって拝むように手を合わせて頭を下げる。それをサジーが見下ろしながら考え込んでいた。


 今まで出会った人間は恐れるだけで、誰もが自分の言葉を理解できなかった。だが変わった姿をしたコスモはすぐに言葉を理解し、こちらの意図を汲んでくれる。


 それにコスモから感じる異常な闘気と力は間違いなく普通の人間では無いものだ。その力を使ってねじ伏せる事無く、ペガサスの自分に対等の立場として交渉をする筋の通った姿勢に、サジーはコスモの言葉に偽りがない事を理解していた。


 だが最後に唯一、人間に譲れないものがあった。


(エイダはええ女じゃ、こんなどぐされペガサスなわしを救ってくれたからのう……そこまで言われたらコスモに協力せにゃいけんのう)


(そうか!そりゃー助かる!)


(……だがな、わしは自分より弱いもんを乗せる気は無い!表にでろやコスモ!そんでわしに見合う神輿(みこし)かどうか、その力を見せてみろや!)


(へっ!上等だよ!後悔するなよサジーさん)


 コスモとサジーが見つめ合い同時に外に向かって廊下を歩き始める。周りで見ていた者達は2人の間に何が起こったのか理解できずにいた。


 リフィスとガリオン、エイダが慌てて廊下を進んで行くコスモの後を追う。そして廊下の馬房に寄りかかっていた休んでいたマーシャとイリーナの前を通ると外に出る。


 周りにいた職員達も何事かと騒ぎ始めると仕事の手を止め、コスモとサジーのようすを厩舎なの中から覗いていた。外に出たコスモとサジーが向かい合って立つと勝負の方法を決める。


(いいか、わしの前の2本脚と、コスモ、おのれの両手とで手四つの力比べじゃ!いいな!)


(いいねえ!そういう分かりやすい勝負は大好きだぜ!)


(どっちかが相手をねじ伏せたら決着じゃ!)


(分かったサジーさん!あんたから先に仕掛けてくれ、それを俺が受け止めたら開始で良い)


(いいかコスモ!もし手を抜くようなつまらんことしたらぶち回すど!全力で来いや!)


(おう!)


 会話を終えたらすぐにサジーが後ろ脚だけで大きく立ち上がると、コスモに向かって叩き付けるように前の2本脚を振り下ろす。


 それをコスモが両手を広げて受け止めるように手の平にサジーの蹄を掴まえると力比べの勝負が始まる。


 もちろん体重はペガサスであるサジーの方が圧倒的に重い。その体重と鍛え抜かれた前脚の押し込む力は尋常では無い。

 

 ミスルン鉱石で打った盾ならば凹ませるくらいの圧力があり、白嶺大熊の通常個体であれば2本脚だけで蹴り倒す事も可能である。


 受け止めたコスモの両腕が震え始めると、徐々に上体ごと後ろへと押し込まれコスモの背が曲がっていく。


 いきなり始まった勝負をリフィスとガリオン、エイダ、他の職員達が厩舎の入口から心配そうに観戦をしていた。


 全員が大きな体躯のペガサス、サジーの体をコスモが両手で支えている事に驚いていた。普通のペガサスでもかなり重量があって、並の人間には支え切れる重さではない。


「あのコスモという娘、魔剣の重さ以上あるサジーがのしかかっても耐えているというのかい……信じられないね……」


「まるで男同士の真剣勝負みたいで、見ている僕も体が震えてくる!」


「頑張れコスモ姉さま!姉さまならやれる!」


 コスモとサジーの力比べだが、人と馬が手四つで組み合うという絵面的にはなんとも異様な光景となっている。だが当事者は本気である、そんなコスモが徐々に押し込まれて行くとサジーが檄を飛ばしてくる。


(なんじゃあ!おどりゃ口だけか!もっと根性いれんかい!)


(なかなかやるじゃねえかサジーさん、俺は一度、相手の全力を受けてから反撃するのがモットーでな……)


(余裕ぶっこいてると、このまま踏みつぶすぞ!それでもいいんか!)


(……こっからが……俺の反撃だ!ぐおぉおおおおおおお!!)


 押されていたコスモの腕と体が徐々にだがサジーの前脚を押し返して行く。人とは思えないその力にサジーも更に鼻息を荒くして押し込もうとする。


 しかしそれでもコスモを押し返せない、全身を震わせて力を込めるサジーに焦りの色が見えてくる。


 サジーは今まで自分を狙ってきた魔獣や人間などの多くを相手にしてきたが、その中でも群を抜いてコスモが強いと実感し始めていた。


(ぐぐっ……こんなことが……わしは力じゃあ負けた事はないんじゃ……それもたかが人間如きに……)


(じゃあその第一号は俺って訳だな……受け身をしっかりとれよサジーさん!)


(なっ、何!?)


 そういうとコスモがサジーの前脚を引っ張るようにその場に屈むと、足の伸びに合わせて腕を一気に正面へ突き出すように、全身を使ってサジーを思いっ切り前へ押し返す。


 すると後ろ脚だけで立っていたサジーが体勢を崩し、後ろへと背中から地面に倒されて行く。


 周りで見ていた者達も口を開けて呆然としていた。そして倒されたサジーもひっくり返ったまま微動だにしない。全員がコスモの持つ力に唖然としていたのだ。


「力比べは俺の勝ちだ!さあサジーさん!約束は守ってもらおうか!」


 静けさが漂う中で勝利宣言をするコスモの声に倒れていたサジーが反応する。脚を伸ばしたままひっくり返っていた身体を跳ね返すように起こすと、サジーがコスモの正面へゆっくり歩いて近付く。


 そして近くで立ち止まると堂々とした立ち姿でコスモを見下ろす。


(見事じゃコスモ、まさかわしに青空を見させるとはのう、大したタマじゃ……約束じゃ、わしの背中に乗れや!)


(ありがとうよサジーさん、あんた言葉使いは荒いけど真っ当なペガサスだよ!)


(……コスモ、おのれだけはサジーと呼び捨てでええ、これからはわしと対等な関係じゃけえのう!兄弟(キョウダイ)!)


(こっちからも頼む兄弟!)


 リフィス達に見守られる中、コスモがサジーの横から背中に飛び乗る。そしてサジーが翼を大きく広げ、一気に空に向かって上昇を始めて行く。


 その速度も並のペガサス、いや飛竜よりも遥かに速い。


 コスモの重さをものともしない圧倒的な力、下から見ていたリフィス達が驚いた顔で見上げていた。 あっという間に上空に達すると、サジーが自分の飛行能力をコスモに知ってもらおうとする。


(おいコスモ、わしの速度を体で覚えるんじゃ……そうじゃのう、あっちの方に確か人間の住む大きな町があったけえ、そこまで全速力で行くぞ、ええか!)


(おう、いつでも来いってんだ!)


 コスモが両脚をサジーの横腹を挟むようにしっかり締め込むと、サジーが大きく翼をはためかせ前進を始めて行く。ともかくサジーの翼の瞬発力が半端ではない。


 あっという間に速度に乗ると飛竜以上の加速を見せ、そして空の彼方へと消え去って行く。


 ペガサス牧場の上空からコスモとサジーが消えて行くと、下で見ていたリフィス達が騒ぎ始めていた。


「コスモとサジーさんがどこかに行ったぞ!大丈夫かな……」


「大丈夫だよリフィス、どうやらコスモはサジーに騎乗する事が許されたようだね」


「……それにしても早過ぎるよ。コスモ姉さまを乗せてあの速度が出せるなんて、とてもペガサスとは思えない」


「く、くそぉ……イリーナ、私達は良い所無しではないか……」


「マーシャ姉、こ、これからは真面目に訓練を受けよう……」


 リフィス達が空を見上げている後ろで、這いずる様に外に出て来たマーシャとイリーナが居た。力不足は薄々と感じていた2人だったが、今回の出来事でさらにその意識を強め、コスモの訓練を真剣に受けようと覚悟を決めていた。


 コスモが去ってから30分ほどが経過し、ペガサス牧場ではリフィスの介護を受けているマーシャとイリーナがにこにことしていた。この2人は唯一甘えられるリフィスに、鬼の居ぬ間に洗濯とばかりに思いっ切り甘えていた。


 調教師のエイダも自分の仕事に戻り、ガリオンだけが心配そうに空を見上げていた。


 すると上空の彼方からコスモがサジーに乗って戻って来る姿が見えてくる。それに気付いたガリオンが慌てたようすでリフィスに伝える。


「リフィス!コスモ姉さまが帰って来たよ!」


「何?やっと戻ってきたか!」


「あーんリフィス様ぁーもっと治療して欲しいなー」


「こっちもちょっと痛みますーリフィス様ぁー」


「すまない2人とも、少し待っててくれ」


 ガリオンの報告を受けたリフィスが空を見上げると、上空からゆっくりとコスモとサジーが降下してくる。厩舎の前にふわっとサジーが着陸すると、乗っていたコスモの表情が見えてくる。


 無邪気な笑顔で喜んでいるようすだ。リフィスがどこまで行っていたのか聞こうとコスモの方へ駆け寄って行く。


「コスモ!一体どこまで行ってたんだ。戻りが遅いから心配したよ」


「リフィス……サジーは本当にすげえぞ!」


 そう言ってコスモが胸から短剣を取り出してリフィスへ見せ付ける。その短剣をリフィスが見つめると、すぐに何かを思い出したかのような顔になる。


「そ、それはフリーニア様の短剣!という事は空上都市ナクラティスまで行ったのかコスモ!」


「ああ、その通りだ!偶然、ヴィレオン大公の屋敷の外にフリーニア様が居たんでな、ちょっと証拠として短剣を拝借したって訳よ!」


「し、信じられない……僕の飛竜だってそこまで早くは飛行できないんだ。もしかするとコスモ姉さまは今、大陸一早いペガサス……いや生物に騎乗しているのかもしれない……」


 ガリオンの言う通り、大陸でもっとも早いとされる生物である飛竜を差し置いて、サジーはその飛行能力を遺憾なく見せ付けていた。


 ここにようやく最速の【ペガサスソードアーマー】が誕生した。


 コスモの戻りに気付いたエイダが寄って行くと、寂しそうな顔で声をかける。


「どうやらサジーとは上手くやっていけそうだね……短い間だったけど、その子を頼むよコスモ……」


(エイダ……われにゃあ世話になった!この恩はわしが生きている限り絶対に忘れん!)


「エイダ先生、サジーも感謝してるって言ってるぜ」


「うんうん……ありがとうありがとう……」


 エイダの目から涙がこぼれている。短い付き合いとは言え我が子のように世話をしたペガサスなのだ。その思い入れは人一倍あったのだろう。


 ガリオンがエイダを慰めリフィスも少し悲し気な顔になる。旅立つ我が子との別れに生物の垣根は無い、どんな生物であれ悲しく寂しい、そして前向きな別れであれば嬉しいものである。


 これでリンティス魔導公国での目的が全て達成される事になった。コスモとリフィスはペガサスのサジーとオルコン鉱石を入手し、軍師のエーシンが語っていた天地人の条件を満たした事になる。


 後はジョストン領へ戻り、帝国からの独立を目指して麾下の貴族達を取りまとめるだけである。

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