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元騎士団のおっさん伝説のピンクビキニアーマーになる ~魅力を添えて~  作者: トリミング中の噛み犬


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第92話 名将ハイボルトアクス

 伝説の三姉妹を目指す【ペガサスライダー】のマーシャとイリーナの姉妹によって、引き起こされた騒動は、リンティス魔導公国全体に影響を与えていた。


 そして騒動の解決を、公王のヴィレオンから依頼されたコスモとリフィスが、姉妹の弟であるガリオンを説得するため、ガリオンの住む屋敷を目指していた。


 一方ガリオンの屋敷では、ガリオンの要請を受けて訪れていた、バルドニア王国西方戦線の指揮官、グレメンス将軍が滞在していた。


 領主の間でガリオンと向かい合い、今後の方針について話し合いを行っていた。


「ガリオン殿の申す事は、よぉーく分かった。私も貴殿の立場ならそうするであろう」


「グレメンス将軍、そう言ってくれるだけで僕の気持ちが楽なります……」


 グレメンス将軍の年齢は中年で、長い金髪に骨太な戦士と言った体格、顔も歴戦の猛者である事を象徴するように逞しい。

 バルドニア王国の軍団色、青色の貴族服の上に一般兵とは違う、装飾の凝った重装鎧を着込み、背中には雷を模した刃をもった魔斧【ハイボルトアクス】を携えていた。


 ガリオンは年齢は10代で、桃色の髪を顎のラインまで伸ばし、カチューシャで前髪を抑え、男とは思えない華奢な体に、姉のマーシャとイリーナ似た美しい顔を持っている。


 魔導服の上に軽装鎧を着込み、風の中級魔法書【ウィンディーカッター】を腰に携えていた。見た目は女と言っても間違う容姿だ。


 しかし、かなり思い悩んでいるのか、沈んだ表情を浮かべていた。


「同じ【ドラゴンライダー】として気持ちは分かるが、これ以上この場に居てもいずれは、ヴィレオンの反乱軍に突破されるのは時間の問題。私と共に、バルドニア王国へ来て欲しいガリオン殿」


「お気持ちは嬉しいですが、僕もここに居る領民を残しては行けないのです……」


「やはり、決意は固いか……私も陛下に援軍を求めたのだが、冬の時期もあって即座に援軍は送れぬと言われてな……無理を押して来た手前、戦力がこころもとないのだ……」


「申し訳ありません将軍、指揮官である貴方が直接訪れた事で、バルドニア王国には誠意は感じています。元々この冬の季節に祖国を裏切った僕が悪いのです……」


 困った顔のグレメンスに、悪気を感じたのかガリオンが更に落ち込んでいた。


 グレメンスの援軍の要望が通らなかったのは、雪解けの時期に合わせて国内で軍の編制を行っていたからである。それに今援軍を送ったところで意味が無かった、なぜなら国王カイネルの目的は、北方連合国の統一だからである。


 つまりガリオンの領地が、バルドニア王国に組み込まれるのが、早いか遅いかだけの話であった。落ち込むガリオンを見たグレメンスが、屈託のない笑顔になると元気づけようとする。


「……仕方ありませんな!ともかく時間を稼ぐ方向で考えましょう。我が隊には優秀な投石部隊も居る。たまーに岩を私にぶつけてくる事もあるが、落石攻撃の技術は王国でも定評がある。すでに領地の唯一の入口に布陣させているので、今頃は反乱軍を足止めしているでしょう」


「えっ?ぶつけ?……いえ、僕の我がままに付き合ってもらい、感謝します将軍」


 戦力の少なさを懸念していたグレメンスが、僅かな時間でも稼げればと、待ち伏せと罠を仕掛ける事を事前に決めていた。それに元々リンティス魔導公国は、バルドニア王国の領地でもある。


 元公王のクリマとも貴族だった頃からの顔見知りで、その慎重な性格を良く知っていた。


 そこを突いた布陣であれば、何とか時間を稼げると計算していたのだが、その希望もコスモによって破られた事に、気付いていなかった。


 直後に、伝令兵が慌てたようすで部屋に入って来る。


「しょ、将軍!我が軍は、クリマ率いる捻嵐魔導団に敗北いたしました!罠は全て破られ兵は全て捕虜となりました!」


「な、なんだと!あの罠の中に攻め入ったのか!それで敵の被害状況は!」


 報告を受けたグレメンスが、信じられない顔で椅子から立ち上がる。即座に、敵の被害状況を確認するが、伝令兵が顔を俯かせる。


「そ、それが……敵は無傷です……」


「あ、ありえん!どんなに統率の取れた部隊だとしても、十分に痛手を負わせる罠を仕掛けたのだ!」


「その罠を破ったのは捻嵐魔導団では無く、冒険者のコスモです。急に敵の援軍として現れて、単騎で罠を突破されたのです……」


「冒険者のコスモだと?……ああ確か聞いた事がある。海上都市ハヌイアムで開催された、水着大会で優勝した元祖ビキニ……」


「将軍!ガリオン様!時間がありません、もうすでにそこまでコスモ達が迫っております!すぐに退却を!」


「……分かった、屋敷に居る我が隊は全員退却せよ。私はこの場に残り、捕虜の返還を求める交渉を行う」


 よほどあせっていたのか、グレメンスがコスモについて語ろうとするところを、さえぎるように伝令兵が退却を進言する。

 グレメンスもコスモの噂は聞いた事があるが、まさかリンティス魔導公国に居るとは夢にも思っていなかった。


 しかし現実に、仕掛けた待ち伏せと罠が突破されて、ガリオンの屋敷へ接近している。すぐに勝ち目が無いと悟ると、部下の伝令兵に退却を指示して、捕虜の返還交渉で自身は残る事を決める。


「ガリオン殿、申し訳ない……貴殿との約束は果たせそうにない……」


「いえ、気になさらず……将軍のような誠実な方に会えただけでも、僕は嬉しかったです」


 苦笑いをしながらガリオンが、悔しそうな顔をしているグレメンスを慰める。


 グレメンスは律儀で部下想いの男で、ガリオンの要請をカイネルの許可を得ずに応じていた。困った者や助けを求める者を見捨てられない性格なのだ。


 そのお陰で、バルドニア王国内の将軍の中では、最も人望の厚い男として有名だった。ある欠点を除けば……の話である。


「だが私も名将と称えられた、ひとかどの将軍、せめてガリオン殿の為に良いところを見せなくてはな……」


「あ、あまり無理をしないで下さい……」


「何、コスモという者がどれほどの者か試すだけだ」


 グレメンスが背中にしまっていた魔斧【ハイボルトアクス】を取り出すと、屋敷の外へ出て部下をまとめると、先に退却させて行く。そして自身は屋敷の門の前に立って、攻め入って来るコスモを待ち受けていた。





 その頃、後もう少しでガリオンの屋敷に到着するところで、最後のコスモの訓練が行われていた。本当ならもっと急ぐべきなのだが、コスモが到着のぎりぎりまで、マーシャとイリーナを鍛えたかった。


 そして雪が浅く積もった街道の横で、マーシャとイリーナが足腰を震わせて、最後の屈伸運動20回を行っていた。


「じゅうーはちぃー……じゅうぅ……きゅうぅう!……んぐぐ!に、にじゅぅ……ぅうううううう!!」


 最後の20回をやり切ったマーシャとイリーナが、溶けた雪と土が混ざった泥だまりに、倒れ込む。汚い場所だと分かっていても、体の疲労が限界に達していて言う事を聞かない。


 リフィスの屋敷で行っていた同じ訓練を、ここまで来る間、マーシャとイリーナは続けていたのだ。この過酷な訓練が泥で汚れていた原因である。


 その2人を見ていたコスモが、さらに容赦の無い一言で追い打ちをかけて行く。


「ほら立て!後少しで屋敷に着くんだ。そんなところで寝てるんじゃねえ!」


「ぜえぜえ……こ、この鬼の化身め……」


「ぜえぜえ……人の心は無いのか……」


 激しい訓練で体温が上がり、全身から湯気が立つ泥まみれのマーシャとイリーナが、うつ伏せの状態から、コスモの事を恨めしそうに見上げていた。そこに鍛錬を先に終えた、リフィスが川で汲んで来た水筒を、2人に差し出す。


 リフィスはこの訓練にも慣れていたので、当然衣服は綺麗な状態で、余裕の笑みを浮かべていた。


「マーシャ、イリーナ大丈夫か?」


「「ぜえぜえ……リフィス様マジ天使……」」


「こら!リフィス!2人を甘やかすんじゃねえ!!」


 もうマーシャとイリーナの生き甲斐は、このリフィスの甘やかしだけであった。


 これが無ければとっくに逃げ出していただろう。しかもこの姉妹、この状況に及んでお互いにリフィスを狙って敵対しているのだ。

 それもあって訓練を耐える事でリフィスの気を惹こうと、よこしまな気持ちで頑張っていた。


 渡された水筒の水を一気に飲み干すと、足元をふらふらとさせながら立ち上がり、コスモとリフィスの後を必死に付いて行く。


 そしてやっとガリオンの屋敷に到着すると、屋敷の門の前にグレメンス将軍が仁王立ちで、待ち構えているのが見える。


 それに気付いたコスモが足を止めて、リフィス達にその場で待つように指示を出すと、1人だけでグレメンスの下へ歩いて行く。


 コスモとグレメンスが、向かい合うように立つと、グレメンスがコスモの目をじっと見つめる。


「……噂とは当てにならぬものだな、貴公のような実力者が誰にも仕えず在野しているとは、まだまだ世の中は広い」


「それが一目で分かるあんたも相当なもんだよ、グレメンス将軍」


 一目見ただけで、コスモの実力を理解したグレメンスに、コスモが称賛を送る。そしてコスモも一目見て、この男が戦場でも名高い名将グレメンスである事を理解する。一言交わした後は、無言の間が続く。


 しばらくして、グレメンスがゆっくりと口を開き始める。


「我らはガリオンの領地から立ち去る。その前に、そちらで捕虜になっている我が兵を返していただきたい!」


「……了解した!こちらの目的もガリオンの領地の奪還、抵抗しない事を条件に、捕虜は1人残らず引き渡す事を約束しよう」


 本当であれば捕虜の引き換えに、賠償金やそれに代わる品物を求めるのが戦場の習いであったが、今となってはじっくりと交渉する時間が無い。


 それに無条件で敵が去るなら、こちらの目的と合致する内容だ。コスモがすぐに申し出を受け入れる。


「私の要望を受けていただき感謝する……それとは別にもう1つ!」


「なんだ?」


「この私と一騎打ちをして欲しい、何、陛下への手土産が1つでもないと寂しいのでな!」


「……言っておくが、俺は強いぞ。飛竜に乗らなくてもいいのか?」


「ははははっ!見た目の美しさと違って豪胆な女だ!飛竜は寒さが苦手でな、国に置いて来た、気にする事は無い!」


 コスモの正直な言葉に、グレメンスが笑い声を上げていた。女として馬鹿にしている訳では無く、自身の強さを嫌味も無く言い切るコスモが気に入ったのだ。

 そして正々堂々と勝負を挑むために、グレメンスが自身の特技や技能を説明する。


「私は正々堂々とした戦いが好みでな、私の持つ力を説明したいのだが……良いかな?」


「……お願いしよう」


「ありがとう、私の武器はこの魔斧【ハイボルトアクス】、これは【魔力】によって威力が上がる魔法武器だ。そして私の技能は【猛将】、私の【体力】が半分になると【力】【技】【速さ】が1.5倍になる。どうだ?それでも一騎打ちを受けるか?」


「もちろん受けて立つ!……けど、何かちょっと変な事を言っているような気がするんだが……」


「その意気や良し!ではゆくぞ!!」


 グレメンスの説明に、何か違和感を感じたコスモがまごまごしていると、グレメンスが魔斧【ハイボルトアクス】を大きく振り上げて間合いを詰めて来る。


 そしてコスモの肩に目掛けて一気に振り下ろすと同時に、魔斧から発せられる稲光が辺りに放たれる。


ギィィィン!!バリバリバリッ!!!


 無防備に立っていたコスモの肩に、魔斧が命中すると体全体を電撃が走って行く。


 それを見たグレメンスが一歩後ろに下がり、魔斧を構える。


「どうだ!我が魔斧【ハイボルトアクス】の威力は!」


 派手な光と音を立てた雷撃が、コスモの体を抜けて地面に広がり逃げて行くと、コスモが顔に汗を流し、無表情で立ち尽くしていた。すると一騎打ちの途中でコスモがグレメンスに問い掛ける。


「グレメンス、あんた【魔力】はどのくらいあるんだ……」


「ほう!あの一撃を食らっても喋れるのか、その頑強さに免じて教えてやろう!私の【魔力】は10だ!【ドラゴンライダー】の中でもこの魔力を持つ者は居ないのだ!」


「た、たった10なのか……」


 ちなみに能力値の数値によって等級が定められている。初級は20以上、中級は30以上、上級は40以上、英雄級は50以上といった形だ。


 下級は10以上の能力値で、一般人とそう変わらない能力値なのだが【ドラゴンライダー】は強力な兵種として、位置づけされている代償として【魔力】が0である事も珍しくない兵種である。


 その事を誇らしげにグレメンスが話してはいるが、所詮10は10、上級魔法書の攻撃を防ぐコスモの【魔防】に遠く及ばない。


 そこでコスモは一騎打ちの途中ではあるが、右手を正面に突き出し、戦いを止めると動揺した顔で、グレメンスに自分の能力を説明しようとする。


「い、一騎打ちの途中ですまないが、俺の能力についても説明したい良いだろうか!」


「むっ……確かに貴公の説明がまだだったな、それでは不公平、遠慮なく説明をして欲しい」


「ありがとう、まず俺の武器は魔剣【ナインロータス】、相手の【守備】【魔防】を無視する。武器特性で特殊技能【看破】もあって、あんたの技能【猛将】を無効にする力がある。それと俺が持っている技能だが、特殊技能を除いたほとんどの技能を持っている。その上で能力値は【運】を除いて50以上はある……どうだ、それでも一騎打ちを続けるか?」


「ま、まさか……そんな……いや英雄級の能力値を誇るという噂は聞いていたが、技能も多く持つだと……」


 グレメンスも、コスモの能力値については英雄級である事を知っていたが、技能をほとんど持つという事は初耳であった。

 技能は人1人に対して1つが鉄則で、2つ以上ある者は稀で、そのほとんどが、貴族や王族などの血筋の影響を受けている。


 それともう1つコスモが自分の力を説明する理由があった。


「それとグレメンス、あんたの技能【猛将】は【力】【技】【速さ】が上がるだけで、肝心の【魔力】が上がってねえじゃねえか!魔斧【ハイボルトアクス】は【魔力】で威力が上がるんだろ?それだと一生俺を倒せねえぞ!」


「はっ!そう言われれば、確かに!!」


 まさかの事実にグレメンスに電流が走る。


 先ほどグレメンスという男は、部下からの信望が厚い男と説明したが、実は同僚である他の将軍達からは蔑称のあだ名で呼ばれていた。


 それが【名将ハイボルトアクス】である。自分の技能に合っていない武具を、気付かないまま愛用している事で、馬鹿にされていたのだ。


 バルドニア王国には優秀な能力値、技能、武力を持った合理的な将軍が数多く仕えている。


 その中でもグレメンスが将軍であったのは、非合理的ながらも忠誠心は高く、将軍とは思えない人間味があって平民でも貴族でも平等に扱う、不思議な魅力があったからだ。


 そんな所をカイネルは気に入って、西部戦線の指揮官に抜擢していた。


 コスモの本質をついた忠告に、グレメンスが動揺していたが、【魔力】が上がらない事が分かっていてもグレメンスという男に『諦め』の二文字は無い、無謀と分かっていてもコスモに挑む姿勢は変えなかった。


「【魔力】が上がらない事を教えてくれた事には礼を言う……だが、それで背を見せていては、私を信じて付いて来た兵達に示しがつかん!」


「やっぱり……あんたは噂通りの名将だな!」


「最早、語る言葉は無い!ゆくぞコスモ!!」


 魔斧【ハイボルトアクス】の柄を両手にしっかりと握り込み、驚異的な脚力で一気に間合いを詰めて全力の横薙ぎを放って来る。


 その鋭い横薙ぎをコスモが屈むように避けると、地面を強く蹴り出し、引き絞った右拳をグレメンスの懐に目がけて深く突き刺す。


ドゴォッ!!ズゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!


「ぐふっ!!」


 必殺の一撃音が鳴り響き、コスモの右拳がグレメンスの懐に突き刺さると、着ていた重装鎧の腹部が大きく凹み、大きく後方へと吹き飛ばされる。ちょうどガリオンの屋敷の門の中まで吹き飛ばされるとそのまま仰向けで倒れ込む。


 強烈な一撃で勝負が着いてしまい、技能【猛将】が発動した状態でグレメンスの【体力】が底をついてしまった。だが勝ったコスモは嬉しそうな顔をしていなかった。


 そのまま倒れたグレメンスに寄って行くと、側で屈み怪我の具合を確かめる。ダメージは深刻そうだが、意識ははっきりとしていた。


「くっ……盾も、剣も使わずに拳だけでこの威力とは……わ、私の完敗だ……」


「本当なら、飛竜に乗った本気のあんたと勝負したかったぜ」


「た、たとえ私が飛竜に騎乗してもコスモ、貴公には勝てなかっただろう」


 万全の状態でないグレメンスに、コスモは魔剣【ナインロータス】を使って戦う事はしなかった。【ソードアーマー】としての矜持なのか、全力の攻撃を受けてこそ、本当の勝負と考えていたからだ。


 そして一撃を受けたグレメンスは、万全であってもコスモに勝てないと素直に悟っていた。これは『諦め』では無く『認める』事を意味していた。


 コスモが敬意を持って、グレメンスに肩を貸して立ち上がると、屋敷からガリオンが現れる。コスモとグレメンスの一騎打ちを屋敷から見ていたのか、グレメンスを心配する表情をしていた。


「グレメンス将軍、体は大丈夫ですか?」


「見ての通り、コスモ殿に手心を加えてもらったので、ぴんぴんしてるぞガリオン殿……いたたっ」


「あんたがガリオンか……」


「はい、ここの領主を任されているガリオンです。コスモ殿のご活躍は耳にしております」


 やっとガリオンと出会えたコスモが、その姿をまじまじと見つめていた。


 声色も妙に女っぽいし、男の割に女のような色気がある、それもあってコスモが本当に男か?と、確かめるように全身を隈なく見回す。


 そうしていると後ろから、リフィスとマーシャとイリーナが追いかけて来る。


「コスモ、その人がガリオン殿だって、マーシャとイリーナが教えてくれたよ」


「ああ、それは本人から聞いた。とりあえず怪我をしたグレメンスを休ませたい」


「では僕が屋敷を案内しましょう」


 ガリオンが案内役を買ってでると、コスモ達を引き連れて屋敷の中へ入って行く。寝室のベッドにグレメンスを寝かせると、看病と見張りをリフィスに任せて、コスモとマーシャ、イリーナ、ガリオンが応接室へ向かって行く。


 コスモとガリオンが、向かい合うように長椅子に座ると、マーシャとイリーナをコスモの後ろに立たせる。ガリオンが、マーシャとイリーナの泥まみれの格好を見て少し驚いていたが、すぐに真剣な顔になると、コスモの説得に耳を傾ける。


「ヴィレオン大公とフリーニア様からは話を聞いている。後ろの2人に襲われたんだってな」


「ええ、何度も止めるように言ったのですが、止めなかったので仕方なく、今回の手段に出ました……」


「ふん、男の癖に軟弱な奴だ!本当に私達の弟か?」


「あの程度の事で、祖国を裏切るとはな!姉として情けないぞ!」


「マーシャ!イリーナ!腕立て20回!!」


「「く、くそっ!いーちぃ!にぃー!さぁーん!……」」


 コスモの怒号が応接室に響き渡ると、マーシャとイリーナが体をビクッとさせて、うつ伏せになって腕立てを始めて行く。

 2人には、言葉よりも肉体的な躾が最適解である事を、コスモはとっくに理解をしていた。


 その為の刷り込みも全て計算した上で、道中で厳しい訓練を行っていたのだ。コスモの言葉に素直に従う姉達を見て、ガリオンが信じられないような顔をしていた。


「す、凄い……あの姉達に言う事を聞かせるなんて!」


「あの2人に一度襲われてな、余りにも弱いもんで俺が鍛え直してるのよ」


「ほ、本当に凄い……何か僕、凄く感動してます……」


 両手の拳を握り、感動するガリオンの目から涙がこぼれて行く。それを見たコスモが大袈裟なという、驚いた顔になるが、ガリオンの口からマーシャとイリーナの悪行が、次々と語られて行く。


「僕が騎士達と訓練をしていてもさぼるし、食事の時もおかずを一品ずつ取って行くし、トイレに行く時も、お風呂に入ってる時も、あそこを切り落とそうと狙って来るし、女物の服を無理矢理着せようとしてくるし……」


「へえーそうかそうか……ならそんな事が二度とできないように、マーシャとイリーナには俺からもっと厳しい訓練を与えてあげないとなあー」


 マーシャとイリーナの悪行を聞いたコスモが、顔を笑顔のまま青筋を立て、どんどんと引きつって行く。まるで笑う鬼の形相だ。

 腕立てをしながら聞いていた、マーシャとイリーナが命の危険を感じて、慌てた声でガリオンに止めるように説得をする。


「ガ、ガリオン!それ以上は言うな!私達を亡き者にしたいのかー!」


「そ、そうだぞ!私達は仲の良い姉弟だ!だから、と、止めてくれ!頼む!!」


「何だ、元気が有り余ってるな、もう20回追加しておくか?」


「「ひ、ひぃーー!!」」


 マーシャとイリーナは、腕立ての蟻地獄にはまっていた。何を言おうとコスモには逆らえない、もし逆らったらリフィスにも失望されるし、コスモの丸太を粉砕するケツビンタが待ち構えている。その事を考えると、生き伸びるために腕立てを行うしかなかった。


 その圧倒的なコスモの支配力に、ガリオンは目を輝かせ尊敬の眼差しを送っていた。


「で、領地について何だが……」


「リンティス魔導公国にお返しします!もちろん僕も罰を受けた上で、コスモ姉さまに協力します!」


「ね、姉さま?!」


「はい!僕の理想としている姉がコスモ姉さまなんです!姉さまと呼ばせて下さい!!」


「お……おう……」


 コスモが姉さまと呼ばれ戸惑っているが、予想を裏切る形で、あっさりとガリオンの説得が成功する。その反応で、普段からマーシャとイリーナに、過酷な虐待を受けていたのが容易に想像できる。


 だが最後に1つだけガリオンから条件を出される。


「裏切った立場から言うのも何ですが、グレメンス将軍の部下の人達を解放をしていただきたいのです。彼らはカイネル王の許可も取らず、僕を救おうと来ただけなのです。それが僕からの最後の条件です」


「その事なんだが、グレメンスと一騎打ちをする前に俺と約束をしている。クリマ様には俺からしっかりと話を通すから安心してくれガリオン」


「さ、さすがコスモ姉さまです!!」


「お、おう……」


 ガリオンから姉さまと呼ばれると、弟と言うよりは妹ができたみたいで、コスモが小恥ずかしく感じていた。それもかなり可愛い妹なのだ、さすがのコスモも動揺する。


 その後ろでは腕立てを終えたマーシャとイリーナが、汗だくになって倒れ込んでいた。


 ともかく過程がどうであれ、目標であるガリオンの説得と領地の奪還に、コスモ達は成功する。その後はグレメンスの容態を見つつ、ガリオンの屋敷で一夜を明かす事を決める。


 屋敷で過ごす間、マーシャとイリーナはコスモの仕置きを恐れ、ガリオンに手を出す事は無かった。その事でガリオンは益々コスモを義姉として、惚れ込んで行くのであった。


 翌朝、屋敷のメイドや従者達に見送られたコスモ達が、クリマの本陣に向かって出発する。もちろん戻りの道中でも、コスモの訓練が実施されるのだが、そのようすがおかしい事になって行く。


 街道の横に外れて、マーシャとイリーナが腕立てを行っている最中の事で、その異変に最初に気付いたのは、同じく腕立てをしていたリフィスであった。


「「じゅういちぃー……じゅうにぃー……」」


「19……20っと……ふぅー……えーとコスモ、君に聞くのもなんだけどさ、何でこうなってるの?」


「俺も分からないけど……本人がやりたいと言うから、仕方なくやらせてるんだが……」


「こ、これがコスモ姉さまの訓練なんだ!楽しいなあ!」


「ふむ……一兵卒だった若い頃を思い出す。腕立ては基本中の基本、これは良い訓練だ!」


 マーシャとイリーナが必死に腕立てをしている横で、弟のガリオンと回復した敵将であるグレメンスが腕立てを行っていた。

 それを同じく腕立てをしていたリフィスが、状況が分からずコスモに問いかけていた。


 コスモはマーシャとイリーナ、リフィスにしか指示を出していないのだが、ガリオンとグレメンスが触発されて自主的に参加していたのだ。


 しかもガリオンとグレメンスは、かなり乗り気でマーシャとイリーナに比べて、和気あいあいと楽しそうな表情で訓練を行っていた。

 2人は普段からしっかりとした訓練をしているのか、リフィスと同様に難なく訓練をこなして行く。


 そして訓練を終えるとマーシャとイリーナが泥の中に倒れ込み、せっかく屋敷で着替えた服を汚していた。


 その横ではリフィスとガリオン、グレメンスが楽しそうに会話をしている。それを見たマーシャとイリーナは自分達の能力値の低さを、嫌というほどに実感する。

 そして珍しく自力で立ち上がると、ふらふらとしながらコスモに寄って行く。


「はあはあ……コ、コスモ……先を急ごう……はあはあ」


「はあはあ……姉より優れた弟など……認められない……はあはあ」


「そうか……じゃあ先を急ぐとするか、おいリフィス、ガリオン、将軍、また走り込みだ!」


 少しずつではあるが【シザーシスターズ】と呼ばれ、ガリオンに横暴な働きをしていたマーシャとイリーナにも変化が見え始めていた。それをコスモが優しい顔で見守っていた。


 そして訓練を行いつつ、小さな村でクリマが待つ本陣へ到着する。


 村の入口に立って居た、見張りの兵の案内でクリマの居る大きな天幕へ歩いて行く。その途中で捕虜となったグレメンスの兵達が、グレメンスの姿を見て歓声を上げると、グレメンスが手を上げそれに応える。


 敵将ながら噂通りの人望があるのだと、コスモは感心しつつも、クリマの待つ天幕へ入って行く。天幕の中ではクリマが携帯用の折り畳み椅子に座り、コスモ達の戻りを歓迎する。


「よくぞ戻って来てくれたコスモ、そのようすだと成功したようだな」


「はい、クリマ様、ガリオンの領地は無事に取り戻しました。ですが1つだけお願いがございます」


「コスモ殿それは分かっている……」


 椅子から立ち上がったクリマが、懐かしむ顔でグレメンスの下へ寄って行く。


「グレメンス卿、大きくなられたな……」


「クリマ卿も歳を召されたが、変わらず健在のようですな」


 リンティス魔導公国は元はバルドニア王国の領地、クリマは貴族であった時に幼い頃のグレメンスと面識があった。


「先代の父上と似て兵からの信望が厚いようだな……」


「クリマ卿、今は貴公とは敵同士、お世辞はいらぬ。私の要望はただ1つ、捕虜となった兵の返還だ」


「……本来ならば捕虜の返還の条件に、金銭を求めるところだが……そんな口約束、カイネル王が守る訳が無いか。……よかろう!幸い我が隊も無傷なのでな、グレメンス卿の兵達は即刻解放しよう」


「かたじけないクリマ卿、この恩は忘れない……」


 グレメンスがその場で跪くと、クリマの決断に感謝の意を示す。そのようすを見ていたコスモとリフィスが、安心したかのように息を付く。


 そしてクリマが次にガリオンの方に目を向ける。


「ガリオン、国の裏切りは極刑に値する罪だが……ヴィレオン大公は貴公の事情を汲んでおられる。しかし何も無いとなると、他の貴族に示しがつかんのでな、領地の召し上げ、その上でフリーニアの下で監視対象として姉2人と共に過ごす事を命ずる」


「クリマ様、寛大な処置に感謝致します。二度とこのような事が起こらぬように精進して参ります」


「うむ、期待しておるガリオンよ」


 こうしてクリマの差配によって、次々と処理されて行くと、最後にコスモとリフィスに顔を向ける。


「コスモ殿、リフィス殿、我が国の窮地を救ってもらい感謝する。早速だが空上都市ナクラティスに戻ってヴィレオン大公から褒美を受け取ると良い」


「はっ!感謝致しますクリマ様!」


「それと、私はこのままガリオンの代わりとして、しばらく代理の領主として過ごす予定でな。申し訳ないが、引き続きマーシャとイリーナの事を頼む」


「ちょ……クリマ様……で、でしたら私達もお供を……」


「そ、そうです!クリマ様の身をお守り致します!」


 コスモの厳しい訓練から逃げたいのか、マーシャとイリーナが食い気味に、クリマにすり寄って行くが、クリマが髭を撫でながら困ったような反応を見せる。


「2人の事は孫娘のように思っている……だが、可愛い我が子を千尋の谷に落とすとも言う、私も辛いのだ……という事でコスモ殿、フリーニアに引き渡すまでとは言わず、その後もビシバシと頼む!」


「お任せ下さいクリマ様、依頼じゃなくても鍛えがいのある2人です。とことんやってやりますよ……フフフッ」


「イリーナ……わ、私達はど、どうなるのだ……」


「マーシャ姉、ま、間違いなく……あの世に一歩踏み入れる事は確実だ……」


 最後の希望クリマからあっさりと突き放されると、コスモが体を震わせているマーシャとイリーナの肩を掴み、笑顔でクリマの要望に応える。


 それを見ていたガリオンは頬を赤く染めて、コスモを頼もしい救世主として見つめていた。


 その後はグレメンスに捕虜達が引き渡されると、クリマの率いる捻嵐魔導団の監視の下で、バルドニア王国の国境まで見送られる事になる。


 そして空位となったガリオンの領地には、元大公のクリマが臨時の領主として着任し、混乱を抑えていった。


 バルドニア王国から派遣されたのが、統率の取れたグレメンスの部隊だけだった事もあり、領地も荒らされる事は無く、いつもの生活がすぐに戻って行った。





 そして空上都市ナクラティスに戻ったコスモ、リフィス、マーシャ、イリーナ、ガリオンの5人が公王ヴィレオンの居城、大公の間に入るとヴィレオンに報告を始める。


 しかし領地を取り戻したのに関わらず、ヴィレオンは報告を受けても喜ぶような顔を見せずに、ただ微笑するだけであった。


「ガリオンの説得ご苦労だったコスモ、やはり君に頼んで正解だったよ」


「期待に添えられて、私も安心しておりますヴィレオン様」


「ガリオン、クリマから沙汰は下っているな?今回の件は、こちらにも落ち度がある、二度と姉達から虐待させない事を、私が約束する」


「あ、ありがたきお言葉、裏切り者の汚名を晴らす活躍をしたいと思っています!」


「それとな、その……フリーニアも何か言いたいようだから、話を聞いてやってくれ」


 椅子に座ったヴィレオンの後ろでは、年甲斐も無くそわそわしているフリーニアが居た。ガリオンが裏切ったのは天馬騎士団の【シザーシスターズ】マーシャとイリーナの執拗な虐待が原因である。


 長のフリーニアは事態を重く見て、責任を取ろうと切腹までしようとしていた。その大問題が僅かな期間で解決したら、嬉しさもひとしおである。


 それを察した子であるヴィレオンが、フリーニアに気持ちを伝えさせる役目を譲ったのだ。フリーニアが嬉しそうな顔でコスモに寄ると、コスモの両手を握り締めて礼を述べる。


「コスモ殿……本当にありがとう!元はと言えば私の監督不行き届きが原因、それなのにこんな短期間で解決するとは……もう、もう私は嬉しくて……うっ、うっ……」


「な、泣かないで下さいフリーニア様……」


「そこまで追い詰めてらっしゃったのか……」


 3姉弟が目の前に居るにも関わらず、フリーニアがコスモの前で涙を流す。それを見ていたリフィスも思い詰めた表情で、フリーニアの気持ちに共感していた。

 そしてガリオンがフリーニアに、そっと近付き跪くと謝罪を始める。


「フリーニア様、幼い頃から面倒を見ていただいたのに、裏切ってしまい申し訳ございません」


「……ガリオン立つのだ。そこまで追い詰められたお前を救えなかったのは、長である私の責任、戻ってくれただけで私は満足だ」


「ありがとうございますフリーニア様……」


 これでリンティス魔導公国で起こっていた騒動も一旦終息し、平和が戻ったと思いきや、気まずそうな顔をしている姉妹が居た。マーシャとイリーナである。


 大公の間では和やかな雰囲気に包まれ、自分達のしでかした事がどれほど国に影響を与えたのか再認識していた。それと同時に自分達の行いも許され、コスモの訓練も終わったと考えていた。


 するとヴィレオンが褒美の話題を出す。


「コスモの求める褒美は確か、ペガサスとオルコン鉱石だったな?」


「はい、その通りですヴィレオン様」


「オルコン鉱石については、内務の者にすでに伝えてあるので、ジョストン領へ戻る時に持って行くと良い、それとペガサスの方だが、牧場が少し離れた場所にある。そこで好きなペガサスを選ぶと良いだろう」


「恐れ入ります」


「そうだな、そこまでの案内を……」


 ヴィレオンがマーシャとイリーナに視線を向けると、大袈裟に視線を合わせないようにする。マーシャは頬を膨らませタコのようになり、イリーナは髪をいじりながら気付かない振りをしていた。


 ヴィレオンが、それを見て呆れた顔になると、跪いていたガリオンが勢い良く立ち上がり名乗りを上げる。


「それでしたら僕ら姉弟が案内を致します!ヴィレオン様!」


「「ブフゥーーーーーーーー!!」」


 元気いっぱいにガリオンが答えると、マーシャとイリーナが一気に噴き出す。


「そうか、ならばガリオン、姉達と共にコスモに良いペガサスを選んでやってくれ」


「お任せ下さい!リンティス魔導公国の名に恥じぬ名馬を選んで差し上げます!」


 目をきらきらとさせて応えるガリオンに、慌てたようすで姉のマーシャとイリーナが詰め寄って行く。ガリオンの肩に腕を回すと小声で脅しを始めて行く。


「おいガリオン、お姉ちゃん達をあの鬼のコスモに、いつまで付き合わせる気なのだ。もう身が持たないぞ」


「そ、そうだぞガリオン、あそこを切り落とそうとした事は謝るから、辞退するんだ!」


「姉さん、コスモ姉さまの訓練は、とても理にかなってる良いものだよ。一緒に訓練すれば伝説の三姉妹……いや三姉弟だって夢じゃない」


「ペガサスに乗る前に、こっちの命が無くなるっての!」


「そうだ!あの狂った訓練を受けていては、ペガサスよりも先に人生から落馬してしまう!」


 マーシャとイリーナがガリオンを必死に説得していると、後ろからコスモが笑顔で現れる。そしてマーシャとイリーナの肩を掴むと、死の宣告とも呼べる言葉を告げる。


「良いペガサスが見付かるまでは訓練だからな!よろしくな!」


「はい!コスモ姉さま!」


「「そんなーーーーーーーーーーーー!!」」


 リンティス魔導公国の騒動も一段落すると、次はコスモの騎乗するペガサス探しとなる。マーシャとイリーナはコスモの訓練を受け始めて、そろそろ1週間になろうとしていたが、まだ慣れずにいた。


 そんな事はお構いなしに、ペガサスの牧場を目指す間は訓練が続けられ、マーシャ、イリーナ、ガリオンが訓練を受けて行く。

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