第8話 ピンクのビキニソードアーマー誕生
・コスモ(女)=モウガス(男)
元騎士団の39歳のおっさん冒険者、職業は【ソードアーマー】
領主騎士団時代に負傷した右膝を治す為に飲んだ森の魔女の秘薬、万能薬の効果により39歳のおっさんモウガス(男)から見た目が20歳前後のコスモ(女)となる
諸事情によりモウガスの姪という事になる
巨躯な体を持った男だったモウガスが万能薬の影響で女となり、モウガスの姪という体でコスモとして再出発をした。
そんなコスモに桃色の鎧を半ば強制的に装備させようと企む、製作者のミリットによって鍛冶場の奥に連れられてから1時間は経過していた。鍛冶屋【覇者の剣】の主人ドノバンが、娘のミリットの代わりに店番をしていた。
ドノバンが勘定台の椅子に座り貧乏揺すりをして落ち着きが無い、飲み友達である同年代の友人モウガスの姪(本人)が心配だからだ。
「ミリットの奴、無茶させてなきゃいいんだが……」
娘のミリットの性格は良く理解している。手先が器用で自分より鍛冶の才能に溢れ、鍛冶師として有能なのだが、何かに没頭すると周りが見えず無我夢中になる悪い癖がある。自分の世界に没頭し過ぎて止まる事を知らないのだ。
心配をしていると、漸く鍛冶場の奥から二人が出てくる。
「遅かったじゃねーか、どうな……った……」
奥から出て来たコスモを見てドノバンが言葉を失う。それもそうである、全身を桃色の鎧で包まれたコスモが現れたのだ。だが理由はそれだけでは無い。
兜は前後に開閉する鉄仮面に鳥の羽を形をした装飾が耳元にあり、肩には大きめの曲線を描いた肩当、腕には肘まである黒のオペラグローブ、その上から装着した小手。
胴体は胸元が開けた丈の短い黒のビスチェ、その上に二つに分かれた胸当て、腹部は開かれ見事な腹筋の割れ目が露出、腰には革紐が巻き付けてあり、そこから丸みを帯びた金属板が下腹部を隠す形で取り付けてある。
下腹部には黒のローレッグの下着のみ、膝上まである長めの密着性のある薄手の皮靴下にその上から脛当て、脚甲には靴の性能を兼ねた蛇腹状の金属板が施されている。
桃色が目立ち過ぎるが、良く見ると妙に艶があり色っぽい。先ほどの埃まみれだったコスモの薄紫の髪も綺麗に梳かれ、ミリットととは同年代とは思えない色気があった。
小汚い姿だった反動もあるが、予想以上に似合っているコスモの姿をドノバンが口を空けて見つめていた。父のその姿を見てミリットが自慢げにする。
「どう?オヤジ!コスモの鎧すっごい綺麗でしょう!やっぱり私ってば天才だね」
「あ、ああ、正直言ってこんなに化けるとは思わなかった……」
桃色の鎧の製作者として胸を張って自慢をするミリットに、想像以上の出来栄えに驚愕するドノバン。普段は誰にも買われず、店の隅っこに売れ残っていたマニアックな鎧を作り続けたミリットにとって、この上ない満足感なのだろう。
しかし当の本人コスモの心境は只事では無い。顔を笑顔で恥ずかしさを誤魔化し取り繕うとするが、ぎこちない顔で頬を真っ赤に染めていた。耐え切れなくなったコスモが声を上げる。
「くっ……ころせっ!!!」
女騎士の定番の言葉を吐くと四つん這いになり周りに介錯を頼む始末だ。
右膝が治って、ようやく【ソードアーマー】としての復帰の目途が立ったのにこんな痴女の様な鎧を着せられ、人前へと出される恥辱は想像に絶する。
凹むコスモを気にせず、ミリットが桃色の防具一式の説明を始める。
「良く聞いてねコスモ、その鎧はコスモの体に合わせた世界で唯一の鎧だから、どんなに動いてもばっちりフィット!しかもグローブや下着、靴下なんかは特殊な魔法を布に施した素材を使用!さらに通気性、速乾性、摩擦に強い性能があって耐久性も抜群だからね!」
ミリットの説明通り見た目以上に性能は良い。鎧の見た目で気付き難いが、一度着ると動きを阻害しない構造で手足の可動範囲が前の鎧より遥かに広い。しかも1人でも簡単に着用できる構造になっているし、何の金属を使っているか分からないが物凄く軽い、布の部分は手入れもしやすく肌ざわりも良い。
だがどう見ても形は水着のビキニの様な鎧、ビキニアーマーなのである。
そんな見た目を度外視しても鎧の性能はアーマー職のコスモを唸らせる一品だった。四つん這いから立ち上がると素直に鎧の性能について称賛する。
「……確かにミリットの言う通り、良い鎧だよ。軽いし着用しやすい、風通しも良くて蒸れないしな」
「でしょう!でしょう!じゃあ気に入って貰えた所で、早速お値段なんだけど……」
手を揉み込みながらミリットが笑みを浮かべると、商人の顔付きになって代金の話へと移って行く。当たり前だが世の中タダで済む物は無い、あるとしたら家族の善意か悪党の悪巧みと相場が決まっている。
コスモとドノバンが緊張した面持ちでミリットを見つめて値段の発表を待つと、ミリットが両手を上げ発表する。
「ぱんぱかぱーん!今なら特別価格、全部含めてなんと!金貨10,000枚になりまーす!」
「「ブッーーーーーー!!!」」
値段を聞いたコスモとドノバンが噴き出して後ろに倒れる。
いくら何でも高過ぎる、特別価格の特別は高い価格で使用する言葉じゃない。参考にだがモウガスの退職金は金貨100枚出ていた、それを使い切ってやっと作れたのが前の重装鎧一式だ。
騎士団一人の年収ともなると金貨50枚程度、冒険者ともなると平均で金貨20枚位だ。流石のドノバンも娘のミリットが常識外れの値段に設定していたのに衝撃を受けた様だ。どう考えても売る気が無い値段だからだ。
コスモがふらふらと立ち上がると値引き交渉に入る。恥ずかしい鎧を着せられた上に法外な代金に納得出来ないからだ。
「た、高いぞミリット……も、もうちょっと安くならないのか?」
値引きを迫るとミリットが少し考える。だが残念ながら値引きとはまた違った提案をしてくる。
「高過ぎるかな?じゃあ一括じゃなくて分割で良いし、期限も無くていいよ!」
「いや、支払方法や期限じゃなくて、値引きをだな……」
値引き交渉は無視され支払いの方法を提案される。しつこく食い下がるコスモを見てミリットがあっけらかんとした顔で思った事を話す。
「でも、こんな金額でもコスモならすぐにでも稼げそうな気がするけどなあ、鎧の調整でコスモの体に触って見たけどさ、並の騎士や冒険者じゃない力を感じだけど……」
優れた鍛冶師は触れた時に、その者の持つ力を推し量る事が出来る。ミリットの鍛冶師としての直感がそう告げたのだろうか。ミリットの真剣な表情を見て冗談では無い事と分かるとコスモはこれ以上の値引き交渉が出来なくなる。
言われてみれば森の魔女の小屋からカルラナの町まで走り続けていたのだ。ミリットの推察はこの点では合っていた。
高額な値段だがコスモの力を信じているミリットに折れる形となった。一括での支払いでは無い分割の支払いと期限が無いのは貧乏なコスモにとって非常に助かる。腐っても元騎士団員のコスモ、人の期待には応えてやるのが騎士としての務め、と捉え前向きに考える。
「……解った、とりあえず今度から依頼の報酬を受取ったら、その都度、送金するようにするよ」
「はーい!毎度ありー!」
(まあ他に良い鎧があったら、これは返品して着替えるつもりだけど……)
心の中でコスモがそう呟く。性能が良いからと言って恥ずかしさが消える事は無い、代替えの良い鎧が見つかったら返品しようと考えていた。
仕方なく桃色の鎧を着て鍛冶屋【覇者の剣】を出て行くと扉の外まで出て来たミリットが笑顔でコスモを見送る。
女になった体に合った鎧を手に入れたと同時にコスモは莫大な借金を背負い、桃色の鎧ビキニアーマーを装備して新しい人生の門出を、厳しい形で始めるのであった。
~
森の魔女アンナの依頼の報酬を受取ろうとコスモが仕事斡旋所へ歩いて向かっているのだが、すれ違う道行く人々の視線が刺さる。もう恥ずかしくてたまらないので兜のバイザーを下げて顔だけを隠している。
すると正面から小さい女の子と母親が手を繋いでこちらに向かって来る。
「おかーさん!あの人ピンク色でかわいいねー!」
「こらっ、見るんじゃありません」
通りすがりの小さい女の子に指をさされると、それをまた必死な顔で止める母親を見るとコスモが物凄くいたたまれない気持ちになる。その場から足早に逃げる様に立ち去る。
しかしそれだけでは無い、別に今度は男からの視線を妙に感じる。特に尻や胸元、太腿を中心にだ。
モウガスだった頃は特に見られる事もなく、向けられる視線は一部を除き畏怖を感じ恐れる様な視線だけだった。だが今は、どの男もだらしのない顔でこちらを見て来る、酷い奴は涎まで垂らしている。その様子を見ながらコスモが女の体について女達に同情をする。
(男の時には気付かなかったが、女ってのは難儀なもんだな……)
男に見られる事に同情をしているが、コスモは大きな勘違いをしていた。普通の女性ならここまで見られはしない。コスモ自身が気付かない間に取得した【新しい技能】でこうなっているのだ。例えその技能が無くてもビキニアーマーのせいで余計に多くの男に見られているのは明らかだった。
そんな事を考えている内に目的の仕事斡旋所へと到着する。仕事斡旋所では朝の忙しい時間帯が過ぎ、昼の時間になろうとしていた。
仕事斡旋所の朝はとにかく忙しい、多くの冒険者が訪れては受付嬢が依頼を処理する。新人の受付嬢も増えて幾分か楽にはなったがそれでも忙しいのに変わりはなかった。
朝の依頼の受付が一段落した後もサラとシグネが手を休める事無く、書類の整理や報酬の準備をしている。シグネが受付窓口で依頼書の内容を確認していると、仕事斡旋所の扉から変な者が顔を出している事に気付く。
シグネが慌ててサラに声を掛ける。
「あ、あのサラさん」
「シグネちゃん、どうしたの?」
「入口の扉に……ピンクの兜を被った変な人が……」
「ピンクの兜?何かの見間違いじゃ……はっ!」
サラが冗談だと思い、シグネに言われて入口の扉を見ると、確かに桃色の兜を被った頭が扉の隙間から見える。桃色の兜がこちらを覗くように凝視しているのだ。
((な、何かピンクの兜がいるっ!!))
そこに居たのは、いつもの様に仕事斡旋所に入るかどうか悩み、中の様子を覗くコスモの姿であった。この姿でサラやシグネに会うのが恥ずかしかった、どうしても踏ん切りが付かないでいた。
桃色の兜コスモが恐る恐る仕事斡旋所へ入って来る。そこで全身が露わになると、それを見たサラとシグネが更に慌てる。手足と頭はしっかり防具で守っているのに、胸から腹部、太腿まで肌が剥き出しなのだ。まるで周りに見せ付けるかの装備にサラとシグネが率直な感想を心の中で思う。
((へ、変態だ……本物の変態だ!!))
これが普通の人としての当然の反応だろう。しかも兜のバイザーが下げてあるので変態度は増している。
その変態が徐々に受付窓口へと迫って来る。サラとシグネが顔から汗を出し緊張した面持ちで迫るコスモを見つめる。長く受付をしているサラも桃色の鎧を着た冒険者は初めてで、どうしたらいいのか分からない。シグネはたまらずサラの背中へと隠れてしまう。
そしてとうとう変態が窓口へとやってくる。
「な、なななんの御用でございましょーか!」
緊張と恐怖で声がサラの声が裏返っている。そんな緊張とは反対に良く通る優しい声でコスモが話し掛ける。
「ええと……モウガスの姪でコスモって言います、叔父に代わって報酬を受け取る様にと言われて来ました」
「モ、モウガスさんの姪??」
モウガスの姪という設定で自己紹介をした後にコスモが兜を外し素顔を見せる。薄紫の髪がさらりと肩にかかる。格好とは裏腹に美しい仕草である。
((うっわー……綺麗な人……モウガスさんのモの字にも似てないよ))
失礼な物言いを心の中で呟くサラとシグネだが、もしモウガスに似ていたら恐怖の使者であろう。
綺麗なコスモをサラとシグネが、しばらく呆然と見つめてくると間が空く。反応の無い2人を見てコスモが再び声を掛ける。
「あ、あの……受け取れるかな報酬?」
コスモが再び尋ねると我に返ったサラが応対を始める。
「は、はい!ではモウガスさんの姪である事の証とモウガスさんの冒険者証の提示をお願いします」
「証は無いけど、鍛冶屋【覇者の剣】のドノバンが証人になるよ、冒険者証はこれで頼む」
話を聞くと早速サラがシグネに鍛冶屋【覇者の剣】へと向かって確認する様に指示を出すと、シグネが受付窓口を出て仕事斡旋所の扉から外へと出て行く。
そしてコスモがモウガスの冒険者証を提示すると、サラが受取り真剣な顔でモウガスの状態について聞いてくる。
「モウガスさんは、無事に治りましたか?」
実はこの質問なのだがコスモを試していた。治りましたかと聞いただけでどこの怪我という話をしていない。本当にモウガスの姪であれば、体のどこが悪いのか知っている筈なのだ。
冒険者の中には高額な報酬を狙って、冒険者証を悪用したり、偽造したりして報酬を掠め取る事は稀にある事なのだ。特にモウガスについてはサラ自身が強く推した事もあって、かなり警戒心を持っていた。
だがコスモからサラの予想を超える答えが返ってきた。
「ああ、バッチリと右膝の怪我が治って、今は故郷で静養してるよ、それと今回の依頼で長旅の準備をしてくれたサラには、しっかりとお礼を言えって言われている」
「そ、そんな私はただ依頼をお願いしただけで……」
「これだけは言わせて欲しいサラ、君のお陰で俺は助かった、本当にありがとう」
コスモが頭を下げてモウガスの伝言という体で感謝の言葉を伝える。そう言われた瞬間に、サラの目に涙が浮かぶ。警戒していたサラの顔は一気に綻び嬉しそうな笑顔になる。
「……本当に良かった」
(サラ、お前が居なかったら、俺はとっくに終わっていたよ)
コスモが優しい顔をしながら心の中でサラに感謝の言葉を述べる。そしてサラが涙を指で払うと森の魔女の依頼の結果について教えてくれた。サラの話だとアンナが直接、仕事斡旋所へやって来て報酬を置いて行ったのだと言う。
「昨日の朝に森の魔女さんが来て、上乗せの報酬を頂いたんです、それがこの金貨なんですけど……なんと100枚も入ってます」
「ひゃ、100枚っ?」
コスモがアンナの上乗せ報酬額を聞いて驚く。貴重な素材で万能薬を作って貰い右膝を治してくれた、本来であればこちらが払うべき立場なのだ。しかし、報酬額からしてアンナが書置きに書いていた通り、モウガスとの生活はとても充実していたのだろう。
サラが預かっていた金貨100枚の入った袋を窓口へと出すと、コスモが神妙な面持ちで受取る。
コスモが数枚の金貨を抜き取ると、すぐに受付窓口へと金貨の入った袋を置く。残りの金貨は全ては鍛冶屋【覇者の剣】のミリットへ振り込むつもりだ。
「サラ、この金貨を鍛冶屋【覇者の剣】のミリット宛で送金して貰えないか?」
「はい、ではこちらで振り込みしておきますね」
サラに振り込みの手続きをお願いすると、金貨の入った袋を受取り枚数を数え始める。そのまま振り込みの処理をしながら昨日に訪れたのアンナの様子をサラが話してくれた。
「森の魔女さんの事ですけど、凄く嬉しそうな表情をされてましたよ、モウガスさん、よっぽど気に入られたみたいですね」
その話を聞いたコスモふと考え込む。昨日の朝と言えばコスモが万能薬を飲んだ時だ。森の魔女アンナの小屋から地方都市カルラナまで普通の足で4日から5日は掛かる距離だ。それをコスモよりも早い速度で辿り着いていたのだ。
(アンナは一体、何者なんだ……)
アンナの正体を考えていると、振り込み処理を終えたサラからある提案を受ける。
「コスモさんって冒険者登録されてます?もし良かったら、モウガスさんの代わりになってくれると……嬉しいかな、同じ【ソードアーマー】?みたいですし……」
コスモの腰に携えた鉄の剣と胸、腹部、下腹部以外は重装鎧の防具で固めていた所を見て、サラが疑問形でアーマー職だと判断する。確かに自分でも【ソードーアーマー】と名乗るのも困る位の格好だ。
冒険者登録と言えば能力値の鑑定義務がある。しかし技能は任意で鑑定するので、モウガスの時にはある技能が恥ずかしくて断りを入れていた。だがそれは男のモウガスの時の話、今は女だ、技能の鑑定して貰っても何も問題ないだろう。それにある技能は自分でも何となくでしか理解出来ていない、知るのに良い機会だ。
サラの提案をコスモが快く受ける。
「ああ、登録を頼むよ」
「では、奥の登録部屋へどうぞ」
サラが受付窓口から出るとすぐ横にある登録部屋の扉を開けてコスモを案内する。ちょうど同じ時に息を切らせた、シグネが仕事斡旋所へと戻ってくる。
「はぁはぁ……サラさん、証言確認しました!コスモさんは間違いなくモウガスさんの姪です」
「シグネちゃんありがとね、これからコスモさんの冒険者登録をするから、戻って早々で悪いのだけど受付対応をよろしく頼むね」
「はい!分かりました!」
どうやらシグネが鍛冶屋【覇者の剣】まで走っていった様だ。新人らしい一生懸命な行動にコスモが感心している。シグネが受付窓口に戻ると椅子に座って、残りの書類整理を始める。
コスモにとって冒険者登録は2度目だ。どういった流れで進むかは良く分かっている、だが今度は万能薬の影響でモウガスの時よりも能力値は大分落ちている筈とコスモは思っていた。しかし、その予想は良い意味で裏切る事となる。
何も知らないコスモとサラが一緒に登録部屋へと入って行く。




